25:マナ
「どうなんだ、ポルタ医」
「ん~…」
昨晩は、目覚めばかりのオレリアに、負担にならない程度の診察した宮医は、今朝は朝食の前にオレリアの元を訪れ、時間をかけて診察している。
「ポルタ医」
「殿下…診察の邪魔をなさらないで下さい」
「申し訳ありません、ポルタ医師。フラン様は私が押さえておきます」
カインが羽交締めでフランを下げる。
「カイン、お前も雑になってきたな…」
「雑とは心外ですね。私は誠心誠意あつか…仕えております」
「今、扱うと言いかけたな?」
「…部屋から引き摺り出されたくなければ…黙れ」
カインの耳打ちに口を閉じる。昨日から俺への当たりが強い。
走り込みに付き合わせたことを根に持っているのか?
「オレリア様。身体が重かったり、頭痛はないですか?」
「はい。大丈夫です」
「本当に?」
「……はい」
「オレリア様、正直にお答え下さい」
「…少しだけ、身体が重たく感じます」
「よく出来ました。これからも、辛いなら辛いと仰って下さい。」
「はい、ポルタ医師。ありがとうございます」
「食事は胃の負担にならない物をにして下さい。マナの量も戻りつつありますが、日常生活を送るにはまだ足りません。身体が重く感じる間は安静にお過ごし下さい。頭の痛みがない様でしたら入浴は許可しましょう。但し、長湯はさせないように侍女殿は気を付けて下さい」
宮医の診察を終えたオレリアは、早速エルデとドナ、エイラの付添いで入浴に向かった。
オレリアを待つ間、宮医に詳しく話を聞く。
「マナの戻りが遅いのはどういうことだ?」
「一気に大量のマナを消費した事が原因でしょう」
通常はマナを使用すると、身体がマナが減ったことを感知し、使用した分のマナの回復補充を始めるが、今回は一気に減った為、身体がマナが減ったことを感知出来ず、戻りが遅いと宮医が説明する。
「外から吸い取られた今回のオレリア様と原因の違いはありますが、戦場で戦う騎士や軍人によく見られる症状ですね。大きな魔法を使用したにも関わらず、興奮状態の身体がマナの消費を感知出来ず枯渇状態になる。」
「オレリア様は吸い取られたより、抜き取られたと表現した方が正しいでしょうね」
「抜き取られた…確かに、それなら身体も感知出来ないでしょうね」
マナの話も気になるが、もう一つ、先程のオレリアの事で気になる事を聞いてみる。
「ポルタ医。先程リアに正直に答えろと言っていたが、何か前例があるのか?」
「何の脈絡もない話しを始めましたね」
「さっきから気になっていたんだ。いちいち突っ込むな」
「オレリア様は、ナシェル殿の叱責を恐れて体調不良を隠す事が多々あったんです。殿下、オレリア様を存分に甘やかして差し上げて下さい。心の傷には愛情が一番の薬なのです」
甘やかすのはやぶさかではないが、その甘やかし方が分からない…
「…カイン。甘やかすとはどうすればいい?」
「仕事以外の事にお答えする義務はありません」
「お前っ、底意地が悪いぞ!」
「私より、妻帯者のウィルさんに聞いてみてはいかがですか?」
「ウィル!奥方にする様に、俺を甘やかしてくれ」
「………は?」
「話を聞くより体験した方が早いだろう。ウィル、頼む」
「お断りします。殿下、その様な事を言ってると、またあらぬ誤解を生みますよ」
「それは、困るな…カレン、君はどの様にーー」
「殿下、今の言動は男色を疑われても仕方がありません。それから、女性にその様な質問をされるのは無粋です。殿下が女性を甘やかすなど、赤児を走らせることより難儀な事。殿下は先ず、男女間の機微から学ぶ必要がございます。オレリア様の表情をよく見て、話しをされて、隠された思いを読み取るのです」
報告書騒動のあったあの日、会議から戻った俺を待っていたのは、その報告書を手に満面の笑みを浮かべたカレン達だった。おそらくカインが用意したのであろう複写した報告書を目の前で読み上げられ、駄目出しをされ、女性とは何たるかを説かれた。男色の誤解は解けたが、同時に気遣いもなくなり今日に至る。
「殿下。オレリア様のお支度が整いました」




