24:従兄弟 カイン
おいおい、いつまで走るんだ?
元騎士の体力は無尽蔵なのか?
近衛隊が早朝訓練を終える時間に合わせて、訓練場にフランを迎えに行く事から一日の仕事が始まる。
いつもなら、この時間は両陛下と王女と共に朝食を摂っているのだが、引き上げる様子は全くない。
イアン団長から、陛下に朝食をお断りすることを言付けに行く代わりに、思う存分走らせてやってくれと言われたが、脳筋の思考は理解し難い。
昨日の事が原因なのだろうが、このまま放っておいたら一日中走り続けそうだ。
「ハハッ、本当に走ってる」
「ネイト殿、ウィル殿と交代ですか?」
「ええ、これから休みます。フランが走らされてるってウィルさんに聞いたんで、戻るついでに笑いに来ました」
「早朝訓練に、夜勤に、騎士の体力には関心します」
「俺は、カイン殿の仕事を覚える早さに関心しますけどね」
フランの退っ引きならない状況に同情したのが間違いだった。
所属する官庁の仕事だけに従事すればよかった文官時代とは違い、全ての官庁を統括する王族の仕事の補佐は困難を極めた。各官庁の仕事を覚え、従事する人を覚え、更に王太子の日常の管理もする。
文官だった頃は屋敷から通っていたが、馬車に揺られる時間も惜しく、王城内の官舎に居を移した。
「仕事だけに集中したいんですけどね」
「同意ですね。“ジュノー“については、大聖堂と情報を共有しながら調査を進めるそうです」
「共同調査とはいきませんか」
「緘口令が敷かれてるんで接触は最低限に抑えないと、国と大聖堂が一緒に動けば目立ちますからね」
「男色疑惑に、奇妙な声、当の本人は迷走中…面倒事ばかりです」
「ハハッ…迷走中か。女性が苦手で、結婚を避ける為に騎士になるなんて、身を立てる為に騎士になった俺からしたら理解し難い動機ですが、貴族の義務を果たせない事が、人生を左右する程の悩みになるというのは高位貴族故なんでしょうね。王太子になり、結婚を強いられる皮肉な結果になりましたが、あいつはオレリア様に惹かれてます。…オレリア様のお気持ちを勝手に伝えてしまったのは申し訳なかったですけど、義務に縛られたままじゃ何も見えないし、気付かない。フランには幸せになってほしい。フランが幸せになる事が、最終的に俺の身の潔白の証明になるんでね」
打算的なんですと笑って帰って行ったネイト殿は従兄弟と叔父の一番の被害者。
せめてもの償いに、叔父の隠しているワインを贈ろう。従兄弟だからと甘やかすのはもう止めだ。
オレリア様の気持ちに気付かないばかりか、己のことも解っていないとは。
城下町では、オレリア様に見惚れる男達の視線を遮断し、広場ではまんまと手を出した。
儀式のドレスとアクセサリーは独占欲丸出しのデザインで、参列者達を威嚇していた。
それでもまだ、女性が苦手と宣うか。
気付かないなら教えてやろう。とことん悩め。
だが、走ることは許さない、書類を捌け。
ーーー
オレリア様が目覚められ、陛下に報告に行くとはしゃぐフランを見送り、近衛騎士団本部の副団長室へ向かう。
「おいっ、カイン!?そのワインをどうする気だ?」
「滞ってる支払いを済ませませんと」
「…支払い?」
「利子を付けたら、これでも足りないくらいですが、先方にはこれで手を打って頂ける様お願いしてみます」
「まさか、その支払い先ってーー」
「このワイン、私も飲みたかったんですよね。オレリア様もお目覚めになりましたし、お祝いと称して、ネイト殿のご相判に与ろうと思います」




