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王国の彼是  作者: 紗華
20/197

20:義兄

加筆修正しました。

オレリアが療養する部屋を居住区に整えさせている間に、その後の街の様子を、騎士団の詰所へ確認しに行ったところ、銀粉は程なくして止んだ為、大きな騒ぎもなく落ち着いていると報告されて安堵の息を吐く。


「殿下、お部屋の準備が整いましたが、いかがなさいますか?」


「リアは?」


「……まだ、お目覚めになりません」


戻った自室でエイラと侍女達の手を借りて、仰々しい軍服を着替えているところに、カレンが部屋の準備が整った事を伝えに来たが、オレリアはまだ眠ったままだと、顔を曇らせた。


「直ぐに移動させる。ネイト、一緒に来てくれ」


「御意」


目が覚めるまで待った方がいいのかもしれない。だが、腕の中のオレリアを思い出すと不安が込み上げる。

足早に向かった客間で、オレリアに付き添っているドナに部屋の移動を伝え、ネイトには扉の中で待機を指示し、1人で奥の寝室へ向かう。

ノックした扉を開いたのは、真っ赤な目をしたエルデ。その奥のベッドに腰掛けていたのは、オレリアの髪を梳くアレン殿だった。


「…アレン殿」


「殿下…この度は、ご迷惑をおかけしました」


疲れた表情で立ち上がったアレン殿の、伯父の宰相を宥めてから此方に来たと言う言葉に、2人で苦笑いを零した。


「…アレン殿…オレリア嬢を王家の居住区に移動させる許可を、陛下とデュバル公爵から頂きました」


「王家の、居住区にですか?」


「オレリア嬢の安全の為です。暫くの間、オレリア嬢と会う事が出来なくなりますが、ご理解願います」


部屋の移動を聞いたアレン殿は、オレリアをじっと見つめ、頬を一撫ですると、意を決した様に此方へ目を向けた。


「……殿下、少しお時間を頂けますか?」


王太子になったとは言え、つい最近まで平騎士だった自分から見たアレン殿は、デュバル公爵と共に、雲の上存在だった人。

会話自体が初めてと言っても過言ではない未来の義兄については、気さくで朗らかな策士だと、兎に角見た目とは正反対だと、アレン殿と仲の良い兄は評しているが、紺青の軍服に身を包むアレン殿の、威風堂々とした佇まいからは、欠片も感じられない。


伯父上や父と共にいる時のデュバル公爵は、少々面倒くさいお人だが、未来の義兄はどうなのか…


「それなら、ソファに移動しましょう。エルデ、オレリア嬢を頼む」


「…かしこまりました」


ドナにお茶を出す様指示し、アレン殿にソファを勧める。向い側に座ったアレン殿が、俺の背後に立ったネイトに気付き、小さく頷きながら口角を上げた。


「アレン殿とネイトは同級生でしたね」


「ええ。中等学園の頃、一度屋敷に来てもらいまして、妹に本を読み聞かせてもらいました」


「その話はオレリア嬢からも聞いています。オレリア嬢がネイトに庭園を案内したとも…」


「案内と言うより、引き連れていたと言った方が正しいですね」


「アレン、そこはオレリア様の名誉の為に案内と言っておけ」


「ハハッ…そうだな。あの時は随分と我儘を聞いてもらった」


「夫人が亡くなったばかりで寂しかったんだろ。あの程度、我儘の内に入らないよ」


「あの話は、公爵夫人が亡くなった頃の話しだったんですね…」


面会の日の、オレリア嬢とネイトの和やかな雰囲気に、どこにでもある思い出話しの一つと思っていたが…


「……私達の母は10年前に鬼籍に入りました。父は仕事に没頭し、中等学園に通っていた私も、母を亡くした寂しさを、友人達や勉学で埋める事に必死でした。伯父が、忙しい合間を縫って妹を慰めてくれてはおりましたが、7歳だった妹には、寂しい思いをさせてしまった……甘えん坊の我儘で、明るく表情豊かだった大切な妹は、母の死で遠慮と我慢を覚え、ナシェル殿の婚約者となってからは、歩み寄れない関係に自身を責めてもいました。どれだけ努力しても受け入れてはもらえず、結局、あの日を迎える事に……殿下の噂は信じておりませんが、女性を忌避されている事はコーエンから聞いております。無礼を承知でお聞きします。殿下は、妹を…オレリアを、受け入れて下さいますか?」


オレリアと同じ、アイスブルーの冷光()に射抜かれる。


「アレン殿、私はーー」


「執務の合間に、お見舞いに贈る花言葉を調べて、カードに添える一言に頭を抱えて、城下町のデートでは未来の嫁自慢。極めつけは、広場のキーー」


「~~ッネイトッ!!!お前は何でいつもいつも余計な事をベラベラベラベラと…お前のその口っ!やはり、あの時に斬り落とすべきだったな。今からでも遅くはない。剣を寄越せ!そしてそこに直れっ!」


決意表明する重要な瞬間に、何故、お前がしゃしゃり出る?空気を読め、いっそのこと空気になれ。


「~~ックハッ……失礼…ック…しました…ック…クク…殿下、妹を、宜しくッお願い、致します…ック…」


背中を丸め、肩を震わせ、漏れ出る笑いを堪えながら言葉を紡ぐ。頭が揺れるのに合わせて銀の髪もサラサラ揺れる。


「アレン…そんなに笑ったら不敬だろ」


「ネイト…そう言うお前が一番不敬だろ」


「何度も言うが、それ(不敬)は、()()()()に対して使う言葉だ」


「…プハッ…もう駄目だ…殿下、私はこれで失礼します」


初めての義兄弟の時間は、ネイトのおかげで台無し。

妹を案じるアレン殿を、安心させてやりたかったのだが、仕切り直すのは不可能だろう。


「…アレン殿、落ち着くまで居てくださって構いません」


「殿下のお気遣いはありがたいのですが、今の私には逆効果ですね…ック……それから、私に敬語は不要ですよ」


オレリアと同じ色をした未来の義兄は、妹の額にキスを落として帰って行った。

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