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王国の彼是  作者: 紗華
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15:城下町 オレリア

フラン殿下との面会が、私のあり得ない失態で中止となってしまったにも関わらず、王宮の客間のベットの上で無様な姿を晒す私に、殿下は叱責ではなく、労りの言葉を何度もかけて下さった。


屋敷で療養している間も毎日お花を贈って下さった。添えられたカードは全て宝箱に仕舞ってある。


父から、婚約の儀のドレスは殿下が準備して下さると聞いた時は、驚きと嬉しさで何度も父に確認してしまい、呆れられてしまった。

快復後、直ぐに殿下へ謝罪と感謝の手紙を認め、翌日、殿下から届いた返事は…


「エルデ。殿下が私のためにお時間を作って下さるそうよ!」


―――


王城の馬車寄せで、殿下がお待ちになっていた事に驚いたが、このまま出かけると御者に行き先を告げ公爵家の馬車に乗り込んできた事に、更に驚いた。

呆然とする私を他所に、ネイト様がこれまた呆然と私の隣に座るエルデを後ろの馬車に連れて行く。


動き出した馬車の中、殿下が朝の挨拶と共に話し出す。


「オレリア嬢。急な誘いにも関わらず、時間を作って頂き感謝します。それから、先日の貴方への非礼の数々、改めて謝罪したい。お詫びに今日は城下を案内します。護衛も付いてますし、私も元騎士ですから安心して下さい」


「あ、あの、殿下…?」


一方的に話す殿下に挨拶する間も与えてもらえず、どう反応するのが正解なのか分からない。


「驚かせてしまいましたね。オレリア嬢にこれ以上恥を晒したくはないのですが…こういった(女性と出掛ける)事は初めてで、緊張してるんです」


殿下が緊張?(年下の令嬢)相手に…?


俄に信じがたい言葉に、これまで受けてきた王妃教育も忘れ、素で驚いてしまった。


「その表情。先日からオレリア嬢を驚かせてばかりで、紳士とは言い難いですね」


「も、申し訳ございませんっ。私が未熟なのです。決して、殿下のせいではございません。」


「貴女は立派な淑女です。ですが、私の前ではありのままで。未熟と言うならそれで構いません」


「殿下のお心遣いに感謝致します。ですが、これ以上失礼を重ねる事はーー」


「殿下は禁止です。今日はお忍びですから名前で呼んで下さい。私も()()と呼ばせてもらいます」


「禁止!?ですが、殿下を名前でお呼びするなどーー」


「リア。殿下ではなく()()()だ」


「~~っ、はい」


殿下の緊張しているという言葉は嘘なのでは?

愛称で呼ばれて頭が沸騰する。間違いなく赤くなってるであろう顔を両手で隠し、返事をするのが精一杯。


「着いた様だな。リア、行こうか」


「は、はい。で…フラン、様」


「重畳。リア、俺の手を離さないように」


これが、大人の余裕なのね…


殿下に案内して頂いた城下は、普段歩く貴族街ではなく、庶民が行き来する外側の城下町だった。

エルデが用意した軽装のワンピースに疑問を感じたのだが、殿下の指示だったのだろう。


白いシャツにズボン姿の軽装の殿下と手を繋ぎ、活気に満ちた町を歩く。図鑑でしか見た事のない調理される前の魚や、シルバーを使わなくても食べられる、長い串に刺して焼いた肉。林檎を丸かじりしながら歩く人、お店の手伝いをする子供。王妃教育にはなかったダリア王国の民達の生活。


時折声をかけてくる人達は殿下が騎士だった頃の知り合いだと教えて下さった。貴族の作った様な微笑みとは違う、自然な笑顔につられて、思わず笑みが漏れてしまう。そんな私を隠す様に殿下が歩き出す事が何度か続き、はしたない姿を晒してしまったと謝罪をしたら、苦笑いされてしまった。


「騎士だった頃に、ネイトと通った店が多くあるんだ。もう入れなくなってしまったけどね」


王太子となった殿下は、口にする物全てに毒見係の検査が必要となる。


殿下はとても優秀な騎士だったと父が仰っていた。

その騎士の道と誇りを奪ってしまった私に、殿下に案内してもらいながら町歩きを楽しむ資格はないのだと、忸怩たる思いが込み上げてくる。王妃教育のおかげで顔に出る事はないが、込み上げた思いは胸の中で燻り続けた。


城下町を通り過ぎた先にある広場に入ると、殿下が歩みを止める。


殿下の隣に立ち、子供達のはしゃぎ声や、屋台の売子の客寄せの声を聞きながら辺りを見回すと、少し離れた所にいるエルデと護衛達の姿が視認出来た。


「リア。悪いのはナシェルだ、王家の起こした問題に君が責任を感じる必要はない」


繋いだ手に力を込めてきた殿下は、真っ直ぐ前を見つめたまま歩みを再開した。


私の様子が変わった事に気づかれていたのだろうか。


「伯父上も伯母上も、リアの事を心配している。伯父上と父に至っては、婚約者を蔑ろにし続けた王太子の次は、男色の王太子を押し付ける事になったと嘆いていた」


「………え?」


殿下の話す唐突な内容に、思わず見上げてしまう。


「デュバル公爵には、リアが息子じゃなくて申し訳ないと謝罪されたな」


「父がっ!?その様な不敬を…大変、申し訳ございません」


お父様、一体どんな話を殿下となさったのですか?!


「…君にも男色を疑われてると思い込んでいたから、想い会う令嬢がいる事を気にしていると聞いた時は、嬉しくて我を忘れてしまった。あんな風に抱き締めて、怖い思いをさせてすまなかった」


「私こそっ!あの様な姿を晒し、申し訳ございませんでした。驚いてしまっただけで、…怖い思いはしておりません」


本当は、ナシェル様より上背のある殿下に、目の前で両手を広げられた時、これまでに感じた事のない恐怖を感じたとは、気にされてる殿下には言えない。


「それともう一つ。許可も得ず愛称で呼んだことも謝罪したい」


「…謝罪はいりません。この様な考えは…はしたないと思われてしまうかもしれませんが…私はとても嬉しく思いました」


「では、これからもリアと呼ぶことを許可してもらえるか?」


はいと答えていいのだろうか。

殿下の優しさに甘えていいのだろうか。

後悔を抱え、不安に怯えながら、隣りに立っているだけで……いてはいけない、いたくない。


「…フラン様は、本当に私でよろしいのですか?フラン様は王家の問題だと仰りましたが、私の、ナシェル様に添う努力が足らなかった事が原因なのです。今更ではありますが、フラン様の騎士としての道を絶ってしまった私で…よろしいのですか?」


「確かに、この地位(王太子)は望んだものではなかった。剣に未練もあるし、結婚する気もなかった。だが、今日一日、町の人達に接するリアを見て、共にこの国の民を護りたいとも思った。リア。協力してくれるか?」


「はい…フラン様」


人前で涙を流す事はあってはならないと教えられてきたのに…

殿下の言葉が嬉しくて、涙が止まらない。


困った様に微笑む殿下が、頬に伝う涙をぎこちなく指で拭う。

殿下が護衛達の方へ振り返る。何か合図を送ったのか、護衛達が後ろを向いた。その様子を訝しく思い、殿下に声をかける。


「あの…フランさ――」


最後の言葉は殿下の唇に飲み込まれた。






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