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王国の彼是  作者: 紗華
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119:帰還の途

「伯爵、長い間世話になった。調査の結果によっては、また来る事になるかもしれないが、どうか身体に気を付けて。あの花が美味しいオレンジになるのを待っているよ」


「過分なお言葉、痛み入ります。殿下も、皆様も道中のご無事を祈っております」


「フェリクスも、畑や領地の案内をありがとう。引き続き調査への協力を頼む」

「承知致しました。道中お気を付けてお帰り下さい」

「皆も息災で。クローゼル夫人、エルデ、私達は馬車で待っているよ」

「「…はい」」


俺達が居ては別れの言葉も交わせないだろう。また暫く会えなくなる親子の時間を邪魔したくはないと、先に馬車へ乗り込んだのだが…


「……ですよね…」


「…なんだ?不満か?」

「いえ…不満など何もーー」

「不満しかないでしょう」


「?!レインッ!お前はなんて命知らずな…死にたいのか?!」


叔父上が居ては全く休まらない…などと言える度胸もなく、不満はないと答える俺の言葉を遮ったのは、背中に怪我を負って、乗り心地の良い俺の馬車に同乗する事になったナシェル。


熊の爪から辛うじて取り留めた命を、今、ここで散らす気か?叔父上の前にレナの#加護__頑健__#など通用しないんだぞ。


「確かに、その傷では凭れるのは辛いか…フラン、俺の隣に座れ。レインは辛くなったら横になっていいぞ」

「何、その扱いの差…」


「セシルとエルデから、労わってやってくれと頼まれている」


エルデの看病を受けながら、エルデが語る恋愛小説漬けの日々を耐え抜いたナシェルは、その甲斐あってか、セシルとも打ち解け、更にオレンジ好きが高じて伯爵家の皆とも仲良くなり、オレンジの苗木を更に2本贈られていた。


叔父上の隣りで手に汗握る俺とは対照的に、向かいに座るナシェルは、ブーツを脱いで座席に足を伸ばし、馬車の側面と背中の間ににクッションを挟んで、これまた伯爵が書いたという、アズールとオレンジの歴史なる本を読み始めている。


「寝るなよ、レイン」

「…本を読んでいるので寝ません」

「馬車の中で読んだら酔うだろ…」

「……慣れているので大丈夫です」

「レインーー」

「邪魔しないで下さい」


叔父上と2人でどうしろというんだ…ナシェルよ、空気を読め。


「レインが読んでいる本は義父上の書いた本か?」

「ええ、倉庫で埃をかぶってるからと、エルデ殿が譲ってくれたのです」


「エルデか…王都に戻ったらソアデンヘ挨拶に行くそうだな」


「ええ、結婚証明書に伯爵の署名を頂くまでは、家に連れて行かないとネイトが言ってましたからね」

「?何故です?普通は婚約したら挨拶に伺いますよね?」


「あいつは遊び人だったからな…伯爵夫妻にエルデと結婚すると報告したが、信じてもらえず、ラヴェルの口添えも効果がないどころか、オレンジの苗木が送られてきても自作自演なのではと疑われた程だ…苗木と共に送られてきた義父上の手紙で漸く信じてもらえたんだが、今度はネイトが意固地になってソアデン伯爵夫妻への挨拶が延びている」


「…下らないが過ぎますね」


「俺も詳しくは知らないが、近衛でも金に困る事はあっても、女には困る事は絶対にないと言われるくらいだったからな」


剣に邁進する優秀な騎士のネイトしか知らない俺は、叔父上や、近衛の皆んなのネイトの評価に首を傾げていたのだが、今思えば、俺が近衛に入団した時期と、ネイトがエルデを気にかける様になった時期が重なっていたからなのだろう。

とはいえ、仕事に言寄せてエルデに邁進していたネイトを知っていたなら、それはそれで引いていたが…


「最早ただの下衆ですね…伯爵家の皆さんが疑う気持ちも分かります」


「ハハッ…そうだったな。セシルの見舞いに来てるのに、ネイトの話ばかりだった…」

「伯爵が気の毒がってましたが、何を話したんですか?」

「毎日オレンジに話しかけていたと言っておいた」


「「ただの変態…」」


アズールにまで、その人気が轟いているネイトがエルデに求婚した事は、伯爵家を喜ばせるどころか、不安にさせていたと聞いた時は笑えたが、オレンジに話しかける変態など、どこに安心要素があるんだ…?

遊び人と変態…俺ならどちらもお断りだが、アズール伯爵家の皆んなは相当追い詰められていたのかもしれない…


「フェリクスに冗談で話しただけだ…で?その変態の誤解は解けたのか?」


「誤解はけましたが、エルデとの仲は拗れたままですよ」


事、女には困らないと言われていた程のネイトだが、今日もエルデにソアデン卿と呼ばれ、事情を知らない迎えの騎士達を大いに喜ばせていた。


「結婚証明書も要らなくなったな」

「嬉しそうですね…」


窓枠に肘をかけて、馬の胸懸を締め直しているネイトに視線を向けながらほくそ笑む叔父上も、この状況を喜んでいる1人。


『斯様な事はない、伴侶の小父のマナは荒ぶっておる』


「「「レナ?!(クジラ?!)」」」


毎度思うが、その登場の仕方はなんとかならないのか…そして叔父上のマナを読むな、読んでも口にするな。

荒ぶる事情を知るだけに隣りに顔を向けられない…レナよ、この微妙な空気をどうしてくれるんだ…


「…フッ…そういえば、ジーク副団長が落ち込んでいるのは、夫人がカイエンの要塞に囲われるからだと……()()()()…と、殿()()()()()()殿()がお話しされていましたよね…?」


「?!レインッ!」

「……ほぅ?因果応報か…そうか…()()()()()()


読書に集中したいのだろう…腹黒いナシェルが、黒い笑みを浮かべて俺とカインに鉾を向けた。

出発ギリギリになって馬車の移動を命じられたカインは、乗り心地の良い王族の馬車に乗っているにも関わらず、その表情はごっそり抜け落ち、視線を窓に向けたまま、帰城する迄一言も言葉を発する事はなかった。



































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