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王国の彼是  作者: 紗華
119/197

117:3人の過去 フラン&ネイト

「マリーは弟夫婦の子供なんですよ」

「?!ギール騎士団長…」


苦笑いを浮かべて立っていたのは、アズール騎士団長のギール子爵。

マリーと同じテラコッタ色の髪と翠緑の瞳のだが、その関係は親子ではなく伯父と姪だと言う。


「殿下方が外出出来るまでに回復されと聞き、参じました。殿下、レイン殿共に回復された事、お慶び申し上げます」


「ギール騎士団長、忙しい合間に何度も見舞いに来てくれてありがとう。レイン共々世話になった事、感謝している」

「私まで気にかけて頂き、ありがとうございました」


屋敷で療養の間にも見舞いに訪れてくれたが、今日も伯爵辺りから話を聞いて、ここまで足を運んでくれたのだろう。

伯爵家の人達や、ギール子爵の看病と労りのおかげで、ナシェルと共に治療に専念出来て、早く回復出来た事には感謝しかない。


「過分なお言葉、痛み入ります。殿下、今し方の話ですが、ソアデン卿の誤解を私の口から解く事をお許し頂けますでしょうか」


「あ、ああ…構わない」


騎士団長という身分で忙しいにも関わらず、ネイトの誤解を解く為に話をしたいという律義さに、朝から何度目の困惑になるだろうかと考えながら返事をすると、こちらも困惑の表情を浮かべるネイトに緩く微笑み、大丈夫と言う様に頷いたギール子爵が話を始める。


「私事で恐縮ですが…17年前、馬車の事故で命を落とした弟夫婦に代わり、遺されたマリーを娘として育ててきました。2人が兄妹ではなく、従兄妹同士という事はアズールでは衆知の事実であり、私としても、ネイトとマリーにギールを継いでもらいたいと思っておりましたので、高等学園への進学を機に、2人に真実を話しました…まあ、口さがない大人達の噂話を聞いて知っていた様で、2人の落ち着き様に、此方が驚いたくらいでしたが…王立学園を卒業したらアズールへ戻って結婚をと話しを進めていたのですが…マリーはそれを拒み、在学中にラスター侯爵家へ侍女として入ったのです…」


「マリー嬢は何故…拒んだのだ?」


ギール子爵の話を聞く限りでは本人同士は想い合ってて、周りも結婚を望んでいる。障害もないのに、マリーは何故、ラスター家の侍女になってまで結婚を拒んだのか。

他に好きな男が出来た、王都の生活が気に入った、又はエルデの様に自立したかったとか…?数度の挨拶を交わした程度の俺には、ありきたりな心変わりの理由しか思い浮かばない。


「ネイト殿には遠く及びませんが、うちのネイトもそれなりでしてね…学園時代に、エルデ様と共に嫌がらせを受けたんです…」


「?!エルデ…嬢も…?」


「未来の王太子妃の専属侍女を務めるエルデ様は、その美しさも相まって、とても人気でしてね…マリーとは違う理由で嫌がらせを受けていましたが、ご自分よりもマリーを守る事に心を砕かれて…実家へ帰る事も避ける程に、ネイトとの結婚に及び腰になってしまったマリーの為に、私達にはマリーに時間を上げて欲しいと頭を下げられ、オレリア様には、マリーにエレノア様を紹介して下さる様に頼んで下さったのです」


ネイトと近い存在だったマリー嬢が、令嬢達の標的にされて好きな人との未来を諦める程に傷付けられていたという話に、フランが話していたリディア嬢の事が頭を過ぎった。


羨望が妬みや嫉みに変わり、刃となって向けられたエルデに至っては、リディア嬢やマリー嬢の比ではなかっただろう。それでも、自分よりも友の為に、自分よりも仕える主の為に、エルデは寄り添い続けていた…俺はそんなエルデを遠くから見てきたのに…勝手に嫉妬して、不安になって、エルデ嬢なんて呼んで八つ当たりまでしている。


「2人とは同じ頃に学園に在籍していたが…そんな過去があったなんて…知らなかったな…」


「そもそも令嬢を避けていらっしゃったフラン様には、知る由もないでしょうよ…」


不甲斐ない己に拳を握る俺の横で、フランとカイン殿が交わす会話に、俺が同じ頃に在籍してたらなどと馬鹿な考えが浮かんだが、エルデもマリー嬢も卒業して2年が経ち、それぞれ専属侍女という立場も確立して立派に務めている。それに、昨日のエルデとネイトの会話からもマリー嬢とは疎遠になっていない事が窺えたが、結婚の話はその後どうなったのだろうか。


「ネイト殿とマリー殿は手紙のやり取りをされていると…エルデ…とネイト殿が話しているのを聞きました」


立ち入った話を聞くのは失礼かもしれないが、誤解を解く為に話をしたいと言うギール子爵も、それなりにの覚悟してをしてこの場に来た筈…とは言え、女性の結婚話はやはり聞きづらい。直接聞くのも憚かれ、昨日の2人の間で交わされていた手紙の話で探りを入れる。


「エルデ様と3人で手紙のやり取りをする事で、ネイトとマリーも疎遠にならずに済みました。その甲斐あって、マリーもアズールに戻る事が決まって…ギール家も安泰です」


「…安、泰……お、おめでとうございます…ギール騎士団長」


え?何?その落ち…満面の笑みで安泰などと言われても、こっちは後退してしまっているんだが?


「それは良かった…おめでとう、ギール騎士団長」


「エレノアは淋しいでしょうけど、同時に喜んでもいるでしょう。おめでとうございます」


「おめでとうございます、ギール騎士団長。まあ、ネイト殿がエルデ殿の初恋相手という事に変わりはありませんが」


「レインッ!お前は…人が気にしてることを…お前の代わりに、俺がどれだけ畑仕事を頑張ったと思ってるんだっ?!」


なんて憎たらしい小僧だ…感謝どころか、人の傷に塩を塗り込みやがって…お前の代わりに、朝から晩まで土いじりをしていたんだぞ!


「その事なんですが…うちのネイトが初恋だと言うのも…その…」


「「「「と言うのも?」」」」


「…その当時に読まれていた小説の影響なのではと……奥様が仰っていました…」

「また小説?!」


小説のせいで苦行を強いられている俺が、叫んでしまったのは仕方ないだろう。それにしても、エルデよ…恋に恋する乙女なお前を俺はどう攻略すればいい…


「王都と違って田舎の娯楽など限られていますからね。エルデ様もマリーも小説ばかり読んでいました」


「?マリーはそこまでではない様ですが?」


「ハハッ…エルデ様には、過保護な()()()()()()が沢山の小説を与えていらっしゃったそうですよ」

「…くっ…また、宰相閣下が…」


最早、俺にとっての鬼門と言っていい存在の宰相閣下だが、閨教育に医学書と恋愛小説を用いていただけでなく、刷り込みまでしていたとは…


「ネイト殿、うちのネイトの誤解は解けましたでしょうか?」


「解けました…解けましたが…俺は…これからどうすればいいんだ…」


「もう一度、片想いからやり直すしかないだろ、ソアデン卿?」


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