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王国の彼是  作者: 紗華
109/197

107.5:背負う者

あの日…俺は、()()()()()()()



『…ゔゔっ…ぐっ…かはっ…(にが)っ……え?…苦い……?…っ…うぇっ…』


『…苦そうじゃな…』

『ウィル…分量を間違たのか?』

『陛下の仰せの通り、一週間分です。一日分であれば苦味はありません』

『効能時間と苦味は比例するのか…知らなかったな』 


『色が変わるだけで別人じゃな』


『……陛下?…』

『ああ、すまんなナシェル。苦かったであろう?』

『いや…はい……ではなくてっーー』

『ウィル、鏡を』


『?!髪と瞳が…?…何故?』


『ナシェルよ、其方には今をもって()となる事を命ずる』


『……影…?』

『素性も経歴も全て整えある。ゼクトル家に養子に入り、侍従補佐としてフランに侍る様に』


『…毒杯の刑ではないのですか?』


『王皇族に科せられる()()()()とは、()()()()()を意味する隠語なのじゃよ。まあ、これまで毒杯を言い渡された王皇族は皆無じゃがな…皆、首を落とされておる』


『お前に科す刑については悩んだよ…女神の声を聞きながら、傾国の騒ぎを起こしたのだからな…だが、お前の聞いた声は女神ではなく眷属の声だった』


『眷属の…声…』


『お前を影にすると決め、教皇も許可された。ゼクトル子爵家は影を統轄する家門だ。文官、騎士、使用人、様々な役で影の仕事に就いている』


『では…ゼクトルと養子縁組している者は…皆、影だと?』


『そうだ。勿論、ゼクトル家以外の影もいる。学園にも、城下にも…国中いや、大陸中にな』


『何故…私を影に?これでは罰が甘いのではないでしょうか?』


『甘い…か。これがどれだけ重い罰かは直ぐに分かる。その時は父を恨むかもしれんな…』


『っ恨む事などーー』


『レイン。今から其方の名は、今よりレインだ』

『……レイン…』


()()()()()()か…父で在る事を捨て切るまでは出来なんだか…』

『リンデ様…それを言わないで下さい』


『ハハッ…それで良い。ナシェル…いや、レインよ。其方の願いは届いた。ダリアの為に生きて、レオンを支えよ』


『……御意に』



ーーー



石に刻まれた名前を撫でる、母の手が震えている。


姉が、妹が…泣いている。

人目を憚らず声を上げ、涙を流し、慟哭している…


俺はここに居るのに…母の手を温める事も、姉の涙を拭う事も、妹の頭を撫でてやる事も…もう、出来ない…してはならない…


フランは毎日ダリアを手向けに墓に来る。

エルデは俺が黒ダリアを好んでいた事を覚えていた。


空の棺に俺とオレリアの小説が納められたとウィルに聞いた。

オレリアも俺と同じ思いと後悔を持っていたのだと…初めて知った。


黒いドレスを纏ったオレリアが、俺の墓に手向けたのも()()()()

お前は、俺を恨んでいいのに…憎んで、罵って…そうしてくれたら楽なのに…


死んでいたなら、こんな光景を見る事も、俺に向けられる皆んなの思いも…知らずに済んだのに…


()()()だと言った父の言葉が過ぎる。


愛する人達の哀傷を目にしながら何も出来ず、目を逸らす事も許されず、積もる苦しみを抱えて生きろと言った父。


その父も俺と同じく苦しんでいると教えてくれたのは、フラン…


あの洞窟でバレたのは失態だったが、俺を抱き締め、共に背負うと言ってくれた従兄弟の言葉に、済まないと思う気持ちと同時に…救われた。



『ナシェルと名を呼べない淋しさを、生きているお前(ナシェル)を殺しながら共に過ごす苦しみを…俺も背負う』



そこに在ると知りながら、その存在を亡い者とするのも苦しいのだと言ったフランの目も、涙に…濡れていた。


だが、共に帰ろうと言ったフランの碧眼は、蒼炎如く、熱く、力強い…


()()()()()()()()だった。
















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