表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
王国の彼是  作者: 紗華
107/197

106:満身創痍な2人

「全員帰還だっ!」


「帰還て…団長っ!正気ですかっ?!」

「このまま殿下方を置いて帰るのですか?!」

「お2人は怪我を負っていらっしゃるのにーー」


「…王太子命令だ……帰るぞ…」


ラヴェル騎士団長の帰還の声に、当たり前だが、騎士達は口々に反論の声を上げる。

心配してくれるのはありがたいが、今は一刻も早くレインを安全な場所へ移動させて、俺も落ち着きたい。

再び帰還の命令をと、顔を上へ向け口を開いたが、それより前に叔父上の低い声が騎士達を黙らせた。


これまでに聞いた事のない、低く、力のない叔父上の声には、無念と、心配…そして帰還命令を出した俺への怒りも窺える。


俺達を置いて帰る事を、ここに居る誰よりも納得していないのは叔父上だろう。

この地位に着いた俺を心配して、カインをそばに置く事を、頭を下げて頼んでいた叔父上。

自身の幸せをだけを考えればいいのに、俺はまだ、叔父上の中では幼いままなのだろうか…などと感傷に浸ってみるが、帰ったら十中八九拳骨を落とされるのだろう…


今回は甘んじて受けよう…だが、その為にも、ここでくたばるわけにはいかない。


「レイン…起こすぞ…っ」


遠ざかる魔術師の灯す灯りと、皆んなの足音に安堵の息を吐き、背中の傷に触れない様にしてレインを抱き起こすと、痛みに顔を歪めたレインが、責める口調で俺の判断に異を唱えた。


「何故……救助を拒んだのですか?動ける殿下だけであれば…っ多少の危険は伴っても…救助は不可能では…なかった筈ですっ…っ」


「お前を置いて行ける訳ないだろ!!」


「この選択は…っ…悪手です。貴方はもう、騎士ではない…っ……こんな所で、怪我の治療も…っせずに、夜を明かすなど……っ…唯一と自覚をして……っ下さい…今からでも遅くはない、皆んなを呼び戻しましょう…っ…」


痛みを堪え、懸命に俺に言い聞かせるレインは中々に頑固で、思わず苦笑いが零れる…


「…残念だが、俺も…肋と足をっ…やられてる…」

「……は?」


俺の支えを片手で押しやり、這いつくばって斜面へと向かっていたレインは、俺の言葉に動きを止めて間の抜けた声を上げた。

暗闇でしっかり確認出来ないのが残念だが、その顔も相当に間抜けなものになっているだろう。


「斜面を滑り落ちた時にな…熊に気付けないとは…油断した…」


「……私を置いて()()()()のではなく…お一人で()()()()という事ですね…っ…」


これまでの緊張感と、仲間を見捨てないという、俺の身を賭した熱い思いが、レインの呆れた声によって台無しになってしまった。


「身も蓋もない言い方はやめろっ……っ兎に角、安全な場所に移動するぞ…近くに洞窟があったのは…っ地図で確認出来ている…そこまで…歩けるか?」


「殿下こそ…足は大丈夫なんですか…?」

「ああ…折れてはないから大丈夫だ」


瘴気に当てられた蜂に刺された毒が身体に回らない様、マナで抑えているから多少は歩ける。だが、痛い上に腫れてきて、息を吸うのもしんどい…正直動きたくはない。


「背負って移動したいのは山々ですが…私も背中をやられてるんで……抱き上げまーー」


「意地でも歩く」

「そんな前のめりに否定しなくても…」


「俺より小さい上に、怪我まで負ってるお前に運ばれるなど…俺の名誉に関わる」


「……成長期なんです。直ぐに殿下より大きくなります」


成長期だと拗ねた様に言うが、俺より頭一つ小さいレインに、抱き上げられて運ばれるなど…誰も見ていなくても、俺の矜持が許さない。


心と身体は繋がっていると言うが、正にその通りで、レインの一言で痛みも引いた。


木々の隙間から漏れる月明かりを頼りに、頭の中で地図を広げて洞窟へと歩を進める。

この辺りはアズール騎士団の受け持ちだった為、しっかり把握はしていなかったが、記憶通り洞窟らしき穴が見えてきた。


「…ここが、洞窟…?」

「思ったより洞長が短いな…」


地図には洞窟の地図記号で記してあったが、その洞長は成人男性が膝を曲げて寝転べる程度。横幅はあるから、2人並んで座る事は可能とは言え、それらしい洞窟を想像していた分、落胆は大きい。


「……仕方ないですね。今夜はここで夜を明かして、朝になったら元の場所へ戻りしましょう…っ殿下は奥で休んで下さい」


念の為、魔物避けを目的として洞窟の入り口で火を起こし、地べたに座ってブーツを脱ぎ、ズボンを捲り上げると、脛の辺りが赤黒く変色していた。

蜂の毒針が残っていない事を確認して、水筒の水をかけると冷んやりして気持ちがいい。


「お前も背中をやられてるだろ…っ…俺の方が軽症だ…っ…」

「…っその変色の仕方、毒ですよね?…マナでっ…抑えているのでしょう?」

「……奥に行く」

「…足をこちらに、毒を抜きます…っ…」


少し落ち着くと、今度はどちらが洞窟の手前に座るかで、怪我人同士の怪我自慢の様な問答となったが、何かあってもこの足では直ぐに態勢を立てられない。

ここは年上の意地を通すより、レインの言う事を聞いた方が2人の身の危険度は低く済む。

レインの指示に従い、洞窟の奥側に腰を下ろして、膝を立てると、レインが脛に手を当て毒を抜き始めた。


「ある程度の毒は抜きましたが…あくまでも取り敢えずの応急処置ですっ…動かせば…残った毒が回ります。肋は治せません…なので…っくれぐれも、大人しくしていて下さい…」

「…マナの操作が上手いな」


「…平民は学園や軍の訓練で、マナの操作を学ぶ時間を多く取って、応急処置も習うんですよ…っ量では貴族に勝てませんが、操作に関しては貴族より長けている者が多いかもしれません…」


「そうか…レインの背中は大丈夫なのか?」

「着込みのおかげで擦り傷程度です。まあ…背中に傷なんて騎士としては恥ですがね…」


背中の傷は敵に背を向け、逃げた証と言われ、騎士や軍人にとっては不名誉な傷の最たるもの。

だが、今回は俺を庇って作った傷であって、不名誉などと揶揄する者はいない。

それにレインは…


「…お前は文官だろ」

「ハハッ…っ確かに…兎に角、殿下は奥、私は手前…いいですね?」

「…分かった…楽になった、ありがとう…」


剣も扱えて、文官としても優秀、加えてマナを操作して応急処置までとは…レインの潜在能力には驚くばかりだが、他にもまだ、隠した能力を持っているのかもしれない。


立てた膝の上に頭を乗せたレインは、余程疲れていたのだろう。静かな寝息が聞こえてきたのを確認して、マナでレインの背中の出血を止める。


かくいう俺も、医官達から応急処置の術を習っていた為、マナで毒を抑えられたのも医官達の指導の賜物なのだが、こんな機会はないに越した事がないとつくづく思う。

肋はどうにもならないと言われた通り、息をするのも辛い。


野営では交代で仮眠を取るものだが、痛みで眠れそうにもない。

今夜は長い夜になると覚悟して外に目を向けた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ