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王国の彼是  作者: 紗華
106/197

105:油断

「そっちはどうだっ?ネイトッ!」

「…余裕っ」


「油断するなよ、雑魚ばかりだが、数が多い。それに…霧が濃くて視界も悪いから…なっ」


ーバシュッ


「ああ、昨晩の雨のせいだな、足下も悪い。フラン、お前も油断するなよっ」


ーーザシュッ


前日の夜に降った雨で霧が濃く、足下もぬかるんでいる上に、瘴気の発生源が近いのか空気は澱み、魔物の数も多い。大物は仕留めて雑魚ばかりではあるが、地味に体力が削られる…



「結局、殿下も剣を振る事になりましたね」

「そのつもりで来ているんだ。それにしてもレイン、付け焼き刃にしては剣筋がいいな」


「義兄とラヴェル騎士団長のおかげですっ!」


ーーグッサ ーシュッ


ラヴェル騎士団長と共に前で剣を振っていたレインは、ウィルの特訓と、ここ数日の討伐で腕が上がっており、確実に仕留めている。


とはいえ、明日からは魔物の残党処理と、畑の拡大作業に入る予定にも関わらず、資料に載っていたサラマンダーの討伐に手を焼き、受け持ちの討伐範囲の半分程しか終えていない。


アズール騎士団は、俺達の倍の討伐範囲を受け持ちながらも順調だと伯爵から聞き、後衛部隊の更に後方援護という形で、討伐最終日に討伐隊に加わり、俺も剣を振っている。


「庭園に並んでた鉢は、今日の討伐後に植える苗木だったな」


「ええ、なので今日の討伐最終日は気合いを入れないと…聖水を散布して土壌を浄めて、明日からは整地と植樹に、オレンジ畑の試験区画に開放した蜜蜂の、活動状況も確認しないと…」


「蜜蜂の集めた蜜か…あれだけの花の量だから相当じゃないっ…かっ?」


ーーグサッ


「全然ですね。蜜蜂の数が少ないですし、一匹の蜜蜂が一日で集められる蜜の量はほんの少しですから。ですが、受粉の手助けにもなりますし、もしかしたら、オレンジの収穫量にいい影響を与えられるかもしれませんっ」


ーーザシュッ


「瘴気の発生源!発見しました!大きな水溜まりですっ!!」

「瘴気の発生源発見ですっ!!」

「瘴気の発生源発見っ!足下に気を付けろ!」


前衛の騎士達が叫ぶ声が届いた。聖水を持っているのはラヴェル騎士団長と俺。

前衛部隊が発見したのであれば、ラヴェル騎士団長の持つ聖水で浄める事になるだろう。


「どうやら見つかった様だな」


「ああ、発生源さえ押さえれば、魔物が出ることもないだろう。明日からは残党処理をして、今後は、王宮騎士団が定期調査と討伐を続ける事になる」


「アズール騎士団に遅れを取らずに済んだな」

「ですが、伯爵の報告書の地図に載っていた場所と少しズレていませんか?」

「多少の誤差は付きものだろ」


レインが考え込む様に腕を組んで発した言葉に、ネイトが剣に着いた魔物の血を振るい落としながら答える。


天候不順による災害や、地形の変化によって人が住めなくなった土地、元から手入れが行き届かない森や山などに発生する瘴気の発生源は、領主からの報告書と地理学者の予想を基に調査されるが、常に正確ではない為、予想範囲より広く範囲を取って調査をする。


今回の誤差も想定範囲内という事でいい…のか?


レインの言葉が妙に引っかかる…


「殿下、お怪我はありませんか?」

「叔父上、大丈夫です」

「聖水の散布が始まった様ですね、空気の澱みが薄くなってきました」


俺達の反対側で討伐をしていた叔父とウィルも合流し、前衛部隊の元へ足を進める。


「予定していた討伐範囲も後少しか。一昨日は泥と焦げ、今日は返り血と泥…参ったな、またエルデに泣かれるな」


「その割には、嬉しそうだな」

「ネイト殿は変わった性癖をお持ちの様ですね」

「?!違うぞ!俺は正常だ!」


サラマンダー討伐で、エルデに泣きながら迎えられたネイトは、更に想いを増幅させ、妙な性癖を生むまでに拗らせてしまったらしい。


だが、ネイトの言う事も一理ある。


先日のオレリアの涙は、俺の心を抉りながらも満たしていった。

どんな涙であっても己の為に涙を流す姿は…って、オランドと同じ思考になってきたな…気を引き締めろ、俺。


「馬鹿を言ってないで、お前達、気を引き締めて殿下を守れ」


「「「「御意」」」」


「フラン、お前の返事はいらん」

「………」


ーーー


辺りを包んでいた濃い霧も午後には晴れ、昨日の中休日で体力もマナも戻った団員達の仕事も手際良く、日が暮れる頃には予定していた範囲全てが片付いた。


明日からは森側に面した斜面の土壌の整地と植樹、残りの魔物の残党処理。

再び土と、水属性の魔術師達が、活躍するだろう。

そんな事を考えながら森の入り口近くまで来た俺達の目の前に、養蜂箱を抱えた熊。

それも瘴気に当てられて、目が赤く光っている。


『グオーッー』


「熊?!」

「なんで、こんな森の浅い場所に?!」

「蜜を狙って来たのか!」

「それよりも、目が赤い!瘴気に当てられてるぞ!」

「発生源がこの辺りにもあるのかっ?!」

「熊を討伐!瘴気の発生源を探せっ!」


今回浄化予定をしていた瘴気の発生源は先程押さえた筈…新たな発生源なのか…?


熊は難なく倒せたが、不運な事に蜜蜂達も瘴気に当てられ、闇に包まれつつある森の中を、赤い目が飛び回る。


「視界が悪い!発生源はまだかっ!」

「蜂の毒に気を付けろ!」

「灯りをこっちに!」

「足下にも気を付けろっ!」


蜂に追われながら森の中へ戻り、瘴気の発生源を探す。


辺りはどんどん闇に包まれ、魔術師達が灯す灯りを頼りに声をかけ合い、蜂を避けながら発生源を探すが、なかなか見つからない。


「ラヴェル騎士団長、聖水は?」

「まだ手持ちはあります」

「ならば、ここは二手に別れて発生源を探そう」


「それはなりません。この暗がりで二手に分かれるのは悪手、これ以上、殿下の身を危険にーー」


「?!熊がまだ生きてるっ!!」

「向かって来るぞっ!」

「態勢を整えろっ!!」


「「?!何っ?!」」


ここは二手に別れて発生源を探す方がいいだろうと、ラヴェル騎士団長に声をかけたが、その会話を遮ったのは騎士の声と、倒した筈の熊。

しかも眼前にまで迫って来ている。


『グオオオーッ』


「?!っ殿下!!!」


ーードッ…ザシッー


「「フランッ!!!」」


「「「「「「「殿下っ?!!!」」」」」」」


「レインッ!!!」


倒れ込んだレインを抱えたところで、木の根っこに足が引っかかり、後ろに倒れた…だけでなく、身体が斜面を滑り落ちて行く。

地層のずれで出来た斜面の様だが、かなりの高低差があり、レインを抱えて上がるのは無理と判断。


己の油断が招いた結果に天を仰いだ。


『オオオーッグオッ…』


「今度こそ討伐完了ですっ!」

「発生源も見つけました!古木ですっ!」

「この聖水を散布しろっ!」

「蜂も殲滅しましたっ!!」


「魔術師は灯りをこっちにっ!!」

「殿下ーっ!!」

「フランッ!返事をしろっ!!」


「…だ、大丈夫だ…」

「?!フランッ!」

「レインはっ!無事か?」

「…っ痛…問題…ありません…」


「待ってろ!今ーー」


「動くなっ!!俺とレインは無事だ。今日は皆、屋敷へ戻れ!」


「?!殿下っ、一体何をっーー」


「これ以上動けば二次被害が出る!!全員、屋敷へ、帰還しろっ!」


闇の中での救出は困難を極める。

唯一であっても、己の失態のせいで、仲間を危険に晒す事だけはしたくない。


「なりませんっ!殿ーー」


「王太子命令だっっ!!ラヴェルッ!ジークッ!全員連れて戻れっ!」


「「………御意」」


「日の出と共に迎えに来ます!安全な場所があれば、そちらに避難して下さい!」


「分かった。行け」


肋骨が折れているのか、声を出す度に痛みが走る。加えて、ブーツの中に入り込んだのか、蜂に刺されたらしく痛みと痺れ。この痺れは毒だろう。


それよりも今は…


「レイン…大丈夫か?」























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