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王国の彼是  作者: 紗華
105/197

104:中休日の庭園で

「鱗に傷を着けないで下さいよ」


「分かってるよ!集中してるんだから声をかけるなっ!…それにしても本当に硬いな…刃こぼれしてきたぞ…」


「ちょっ、肉っ、肉が焦げてる!」

「肉より骨です。これだけ頑丈なら良い杖が作れそうですね」


「杖より、今夜の夕飯だろ…」


サラマンダーの屍の周りには、二日酔いから復活した魔術師と騎士達が集まり、鱗を剥いで、肉を捌き、骨を取り出している。


肉は今夜の夕飯に、鱗と骨は王都に持ち帰り防具や魔道具の素材に使われる為、皆真剣。


叔父上とセシル嬢は、伯爵夫妻と共に結婚式へ、レインはラヴェル騎士団長とフェリクス、エルデと共に蜂の様子を見に畑へ行き、俺とネイトは夜間訓練の疲れで未だ立ち上がれず、庭園に植えられた木の下に転がって、酷使した身体を労わっている…ウィルの視線が冷たい。



「まるで屍ですね…レインは?」

「オレンジ畑だ…」

「熱心ですね…で?お二方は叔父上に?」

「「………」」


憎たらしい程に爽やかな空気を纏ったカインは、顔を顰めながらレモン水を手渡してきた。


「まあ、今日は休みですし、ゆっくりして下さい。それと、昨日、エレノアから手紙が届いたんですが、ヨランダ嬢が婚約破棄されたそうです」


「……婚約破棄?」


「ええ、エリック殿が、()()()()とやらに目覚めたらしいですよ」


「どこかで聞いた台詞だな…」

「台詞だけでなく、相手も()()()()()です」

「…まさか、元オット男爵令嬢?」

「そのまさかです」


ボーエン辺境伯領へ移送された、元オット男爵令嬢。久しぶりに聞いた名前と、辺境伯領でもやらかしたという話に、呆れを超えて感心さえする。


「逞しいな…」

「感心している場合か!セイド公爵家の危機だぞ!…っ痛…」

「耳元で叫ぶな…」

「その心配はいりませんよ、ネイト殿」

「え?」


「ヨランダ嬢も()()()()を見つけたそうですから」

「「?!誰?」」


こちらも逞しい…ネイトの絵姿をこよなく愛する、エレノアの好敵手のヨランダ嬢だが、最近はオレリアも混えた3人で過ごしているらしく、イアン団長から聞いたお茶会の話からも、その中の良さが窺えた。


そのヨランダ嬢が、真実の愛とは…相手は一体誰なんだ?


「ユーリです」

「「「はあっ?!」」」


「ウィル殿、おめでとうございます」


「ちょ、ちょっと待って下さい!…本当に……うちのユーリが…?一体どこで?」

「近衛騎士団本部で、お茶を共にする機会があったそうです」


ウィルが驚くのも無理はない。

ユーリ・ファン・ゼクトル。俺と同齢の21歳。ウィルの弟で金髪に榛の瞳。ウィルと違って人懐こく、物怖じせずによく話す。


学園時代からの悪友は、俺と背丈も変わらない上に同じ髪色な為、よく間違われた…

ユーリの代わりに先生に叱られ、俺の代わりに令嬢に追いかけられる…

キリングの屋敷にも一緒に行く事が多かった為、カインともよく知り合う仲。

そんな学園生活を助け?合った悪友は、近衛では主にイアン団長の補佐に付き、書類仕事が増えて眼鏡をかける様になり、今は似非な知的さが加わっている。


因みに()()という役はないが、忙しい叔父上に代わって、書類仕事をサボるイアン団長のお目付け役をしているユーリを、イアン団長自身も補佐と認識している。


叔父上の後を継ぐのは、ユーリで間違いないだろうと言われている若手の有望株だが、セイド公爵家に婿入りか…


「大出世だな…」

「で?エリック殿は?どうなるんです?」


「これまでも、セイドの名を語って恐喝紛いな事をしたり、授業もサボりがちで、学園の成績も著しくなかったそうです。なので学園は退学。勘当の上、ボーエン辺境騎士団の厩舎番です」


「自業自得とはいえ、厩舎番とは…屈辱だろうな…」


確実であった次期セイド公爵の地位は、平民にまで落ち、騎士の道は剣を持つ事も許されない厩舎番に取って代わった…


元令嬢もナシェルには利用されて終わったが、男2人の人生を狂わせた事には変わりない。

また新たな罰を科せられるだろう。


「それよりも、ユーリだろ」

「ネイト…面白がるな」

「面白がっては…面白いな」

「セイド公爵は何と?」


「アリーシャ様とヨランダ嬢が扇で黙らせたと…」


夜会の日に、娘2人には敵わないと言っていたセイド公爵。

話の中の冗談ではあったのだろうが、可愛い娘に嫌われたくないという意味でも敵わないという事か。


「カイン殿、セイド公爵家からゼクトルに打診はされているのでしょうか?」

「いえ、ヨランダ嬢はご自身を見てもらいからと、公爵には家からの打診は断ったそうです」


「本気なのか…あの眼鏡は伊達だというのに…」

「…眼鏡は関係ないですよね?」


「えっ?違うのか?ユーリは女性を落とす小道具だと言っていたんだが…」


()()で落とせる筈がないだろ…」


ウィルは何を言っているんだ。

馬鹿も賢く見せるという意味では効果もあるだろうが、女性にも好みがある。

眼鏡で落ちるのであれば、世の男は苦労しない。

しかも、知的の欠片もない不純な動機。


「書類仕事が増えて視力が落ちたのだと思ってましたよ…」

「ハハッ…確かに書類仕事もしているが、視力が落ちる程ではない。殆ど団長に回しているよ」

「少しだけ、ほんの少しだけ見直してたんですが、あの眼鏡は下心の現れだったんですね…」


有望株でも何でもない、ただの破廉恥似非眼鏡野郎だった。


「ユーリがどうしたって?」


「叔父上、セシル嬢、式から戻られたのですね。この度はご結婚おめでとうございます」

「「「おめでとうございます」」」


「ウィルの言葉だけ受け取っておこう」


「ジーク…何を言ってるのよ。殿下、皆さん、ありがとうございます。改めまして、セシル・ファン・クローゼル=アズールです。今後とも宜しくお願い致します」


「そうか、セシル嬢ではなく、クローゼル夫人か…」


「感慨深いですね…これで叔父上も少しは大人しくなるでしょう」

「そうだな…真っ黒な腹も浄化されるだろう」


ーーゴツッーガツッー


「殿下?!カイン?!返事がない…ジークッ!」

「「………」」


「これがキリングの拳骨…見てるこっちまで痛みが伝わってくる…」

「…お2人共、そろそろ学習したらいかがです?」


「これで馬鹿が浄化されたな」






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