《どうやら俺は男色らしい》 1:ダリア王国の騎士
気ままに書いてます
筆下ろしは13歳。
お相手は王宮が手配した教育係で、妙齢の子爵家の未亡人。
ダリア王国国王の王弟であり、スナイデル公爵当主であるフーガ・ファン・スナイデルと、公爵家後継の長男コーエンは既に王位継承権を破棄していたが、次男のフランは王族のスペアとして王位継承権を維持している為、閨教育は王宮から派遣した者のみと厳重に管理された。
大きな期待と緊張の中で始まった閨教育初日。
教育係のキツイ香水の匂いと、大きな喘ぎ声に…萎えた。
当然ながら萎えれば萎える程、手を替え品を変え、教育内容は加熱していく。
中等学園時代は、苦行となった閨教育をあの手この手で躱し続け、閨教育から逃げる事に専念。成績が落ちる事はなかったが、閨教育と、学園に通う貴族令嬢達の猛攻おかげで、女性に対する苦手意識がしっかり刷り込まれた。
15歳で高等学園へ進学後は、男だらけの騎士科を選択。高等学園の学則で定められている学園寮に入寮して以降は、実家に帰る事は殆どなかった。
父は俺が将来の道を定めたのを機に、公爵家後継は予てより決まっていた兄とすることを正式に発表したが、ローザ帝国から亡命してきた、異国の貴族出身の前妻が産んだ長男ではなく、キリング侯爵家から輿入れした後妻のディアンヌが産んだ次男が正統だと、血統主義の貴族達は異を唱えた。
血統主義の貴族とコーエン自身を評価する貴族の間で、様々な噂や議論が繰り広げられ、一時期は社交界も騒がしかったが、#スナイデル公爵家次男の男色疑惑__・__#の噂が立ち始めた事で、長男の後継者騒ぎは収束した。
噂の出所は不明だが、俺の貴族令嬢達を忌避する姿が、社交界で男色と映って見えたのだろう。
落ちた雫が波紋となって広がる様に、まことしやかに噂された。
令嬢と関わりの少ない騎士科の生活は快適で、心置きなく剣を振るい、マナを操り、学園の剣術大会で優勝するまでに成長した俺は、王宮騎士団への推薦を貰い、学園卒業後は王宮騎士団に入団。
学園で培った技術は騎士団の訓練で更に上達し、入団から2年後には騎士団長の推薦を得て近衛騎士団へ入団。
男色の噂も信憑性を増していき、隊舎で同室となった2歳年上の騎士ネイトが、俺の顔を見る度に後ろを押さえる姿に申し訳なさを感じつつ、ネイトの誤解や、磨きがかかる男色疑惑に負けじと、剣とマナの腕を磨き続け、短い期間だが、2歳下の従兄弟でもあるダリア王国第一王子のオランド殿下に仕える事も出来た。
ダリア王国の王子、王女は4人。正妃との間に産まれた第一王女は既に他国の王族に輿入れしており、第二王子が王太子となった。
母親が側妃の第一王子オランド殿下は、サルビア王国へ留学していた縁もあり、両国の友好条約更新の一環として、サルビア王国第一王女アリッサ殿下の未来の王配となる婚姻が決まった。
婚約期間もない完全な政略結婚だったが、同い年の2人はオランド殿下が留学していた頃から仲が良く、オランド殿下が婿入りする際には、結婚式に参加する伯父の国王と共に、頭がむず痒くなる様な新郎の惚気に耐えつつ、護衛として結婚式までを見届けた。
オランド殿下の惚気に当てられ続けた疲れと、一抹の寂しさを抱えながら帰路に着き、帰還後も休む間もなく、今は社交シーズン始まりの王宮夜会の警備に駆り出されている。
『フラン。護りたい者はいるか?』
『ダリア王家、ダリアの民達です』
『随分とざっくりだな。いや、そうではなくて…私が言いたいことは、護りたい思いが人を強くするということだ。』
『殿下も…ざっくりですね』
『お前の理解力の問題だろう…。愛する者を護る為に戦う人間は、簡単に死を諦めない。死んでしまったら護れないだろう?私は、愛する者の為に、身を投げ出すことはしない、共に生きる為、戦って生き延びる事を選ぶ。アリッサが涙を流すのは俺の為だけであって欲しいが、その涙は悲しみの涙ではなく、喜びの涙であって欲しい…いや、だが、アリッサが嫉妬した時の涙に酔いしれるのもまたーー』
『オランド…もうよい、余はお前の惚気に酔いそうだ』
陛下が止めていなければ朝まで続いていたであろう、オランド殿下の教訓とも、惚気とも言い難い話しを思い出し、頭がむず痒くなる。
頭を降って思考を切替え、庭園の見廻りを再開すると、会場の警備をしているはずのネイトが焦った様子で駆け寄って来た。
「フラン、ナシェル殿下がやらかしたぞっ!」