初対面で良い人
ここで、岡崎は中島に語り掛ける。
「中島さんは現在債務整理ではなく自己破産を検討中と先ほどおっしゃられていましたよね?」
「はい、利息だけでも厳しいのに元本が減らない状況は心が折れてしまいそうで・・・。」
「なるほど・・・。そうですよね・・・。せめて元本が減っている実感は欲しいですよね。」
岡崎はそう言いながら、中島の目を盗みスマホを弄っている。
そして、ニヤリと笑ったのを中島は見逃してしまった。
「中島さん!2000万円の方はお母様の死亡保険金で完済できていて、自身のギャンブルで作った300万円、正確には利息が積みあがった450万円で全てで間違いございませんね?」
「はい」
中島は答えた。
「それでは私が山西興業と交渉しまして、今現在の450万円のみの返済にしてもらい、以降の利息はなしということで手を打ちますので、いかがですか?」
「この話乗りますか?」
「いくら何でも話がうますぎるような・・・。」
「元本が減ってる実感が欲しいのですよね?人は進んでいるという実感があれば耐えられるものです。今日から450万円が元本だと思い、コツコツ返済していきましょう。」
最初に親身に話を聞いてくれたことで、中島は岡崎に少なからず信頼を寄せていた。
「今日最後に大勝負をしてギャンブルは止めましょう!この話に乗っていただけるなら、最後の軍資金10万円をお渡ししますよ。」
裏があると思ってもこの誘惑を振り切れるギャンブル依存症はいない。
「お願いします。」
そう言った中島は、契約書にサインし、10万円を受け取った。
そして、舟券を買いに行く中島を見ながら岡崎は電話をした。
「はい、山西興業です。」
「岡崎です。山西社長お願いします。」
「はい、山西です。」
「社長、メールの通りもう少しで自己破産案件でしたよ・・・。」
「よくやってくれた。」
「メールで最後に言ったように、成功報酬に20万円足しといてくださいね。」
そういうと電話を切って、
「初対面から良い人は警戒しないとね・・・。」
と呟き、鳴門競艇場を後にした。