債務者専門カウンセラー
なぜ男は「債務者専門カウンセラー」になったのか、その謎に包まれた能力と経緯が今明らかになる。
「また負けた!」
みすぼらしい恰好功をした男が鳴門競艇場で吼えた。
破り捨てた舟券を見てみると、2連複を1を頭に100円で流したしょっぱいものだったが、外れも外れ、結局4-2-1だった。
これを惜しいと取るかは人それぞれだが、最初のターンで1がないことは明白だった。
頼むから2着に入ってくれと祈るように舟券を握りしめていたが、願いは届かずであった。
そんな様子を見ている赤いパーカーに黒のハーフパンツでサングラスをかけた怪しい男が、膝を着いている男に声を掛けた。
「中島さん、ツイてないですね!」
とても明るい声色で話しかけられた中島という男は振り返り青ざめる。
「岡崎さん・・・。」
なぜここが分かったのか?っと言いたげな表情である。
「中島さんが競艇好きなのは知ってますし、携帯止められてたらネット投票もできないし、PC持ってないの知ってるので、競艇場にいると思いまして、更に自宅からだと尼崎か鳴門が近いですよね?両方回ったらたまたま鳴門にいらっしゃったので・・・。」
と朗らかに聞かれてもいないことを話してきた。
「返す金なんかもってない。」
中島は勿論手持ちがないのでそう答えるしかない。
「分かってますよ。だから私が来たんじゃないですか。」
「どういうことだ?」
中島はけげんな表情を浮かべて、尋ねる。
「私は取り立て屋ではなくて、債務者専門のカウンセラーです。この前自己紹介しましたよね?」
(債務者専門カウンセラー・・・。どうせ債権者とグルなんだろ)
と中島は心の中でぼやいた。
「そうですね・・・。少し惜しいですけど、中島さんが想像しているような関係ではないですよ?」
岡崎の一言に、中島の心臓が跳ねた。
(なぜ分かったんだ!)
「経験ですかね。これでもカウンセリングの経験は豊富なので・・・。」
と言い岡崎は笑顔を崩さない。
取り敢えずお茶でもしようと二人で喫茶スペースに入った。