3-6 修羅な私とトーマスの交渉
話を聞いた当初は、どうしようアワワと逃げてしまったが、数日も経つと流石に落ち着いてきた。私は落ち着いている。そして落ち着いた気持ちで、現在暗殺計画を立てている。どうせならタウンハウスを出る時に放火でもしてくれば良かったわ。
私はお姉様が好きだし、お姉様も私を大事に思ってくれているのは、あの態度を見ればわかる。だからお姉様には情状酌量の余地がある。
イザイア様には正直未練があるし、私との婚約だと勘違いしてたので、こちらも情状酌量の余地がある。
でも、父は絶対許さん。情状酌量の余地なし。殺す。今なら殺せる。父を殺せるなら別に捕まってもいいもん。貴族の尊属殺人は死刑だけど、父を道連れに出来るなら全然オッケー。
と思って母に話したら、あんな男のために死なないでと泣かれたので、計画を変更して完全犯罪の手立てを考え中。
まぁでも、多分簡単。深夜に忍び込んで寝首を掻くことも出来るし、スキルを使えば指先一つで心停止させられる。
けど、今実行したら私が犯人ってバレそう。裁判になったら普通に召喚されそうだし、裁判では嘘をつけないから、裁判になった時点で完全犯罪は無理だ。
完全犯罪をするには、裁判にならないようにしなきゃいけない。裁判にならないようにって、どうしたらいいんだろう。
裁判が起きるのは、事件があって訴える人がいるからだ。じゃぁ原告になり得る人も始末すればいい? いや、原告は奥様だ、何の罪もない奥様殺すとか無理だ。それやるなら家族全員殺さなきゃいけなくなる。それは流石に無理。
んー、じゃぁどうすればいいかな。事件が起きなきゃ裁判もないよね。でも事件起こすんだし。あ、そうか、発覚しなきゃいいんだ。事件だと思われなければいい。
病死や事故死を装う、あるいは死体を完全に隠す。そっかー、謎の変死を遂げた人って、こういう思考回路で殺されたのね!
と、殺人犯に共感していたところで、客だと呼ばれた。私を案内してくれる後輩の小姓に連れられ応接室に向かう。お客様って誰かな。またギデオンお兄様かなと思って部屋に入ると、トーマスがいた。トーマスがここに来るのは初めてだ。私は奇妙な思いをしながらもソファに腰掛けた。
「突然家から出てしまうので驚きましたよ。お元気でしたか?」
普段あまり会話することがないトーマスの問いに、「ええ」と返す。積極的に私に関わってはこなかったのに、なぜトーマスが?
「ふふ、もしかして僕を警戒していますか?」
「そんなことないわ」
うわ、読まれてる。流石ギデオンお兄様の息子。
「警戒しているわけではないわ。トーマスが私に会いにきたことが不思議だっただけよ」
「確かにそうかもしれませんね。でも、家出娘を心配するのは、家族なら当然では?」
「なるほど、ギデオンお兄様に言われたのね」
「そういうことです」
そういうことならさもありなんだ。ギデオンお兄様には何も話してないし、お兄様は自分がダメならトーマスにと思ったのかも。
とは言ってもね、と思っていたら、トーマスは苦笑しながら言った。
「僕よりお父様がよかったですか?」
「そんなこと思ってないわ」
別にトーマスが嫌なわけじゃない。あの時点では誰にも話したくなかっただけ。しかも今は暗殺計画を練っているので、余計に話せないだけだ。
「トーマスやギデオンお兄様に迷惑をかけているのは申し訳ないけれど、今は家にいたくないの。もちろん、ギデオンお兄様やトーマスのせいじゃないわ」
「ではやはり、皇都で何かあったんですね」
やだー、頭の回転の速い子怖い。溜息を吐いていると、トーマスも溜息混じりに言った。
「先日、お父様は急遽皇都に赴かれました」
「えっ」
「事情は聞いていません。でも、シヴィル叔母様が家出した理由と関係あるのではありませんか? できれば僕は、シヴィル叔母様の口から事情をお聞きしたいのですが」
「ごめんなさい、話したくないわ。でも誤解しないで、あなただから話したくないわけではないの。今は、話したくないの。わかって?」
「無理に聞き出すつもりはありませんよ」
「ありがとう」
多分ギデオンお兄様は、婚約の事で皇都に行ったんだろうな。それをトーマスにも私にも言わずに行ったってことは、余程大慌てで出かけたんだろう。そりゃびっくりしますわな。
私だって驚いたもん。父は基本私に無関心だけど、別に悪意を持って接するようなことなんかなかった。だから、父の事を好きだとか信頼してるとか、そこまでは思ってなかったけど、別に嫌いじゃなかった。家の為に、政治的に私を利用することはあったとしても、道具として使い捨てられるほどじゃないと思ってた。それなりに人として扱ってくれてたと、私は思ってた。
だから今回、まるで悪意の塊みたいなことをされたから、驚いたし、裏切られたみたいで。
私が勝手に父に期待して、裏切られた気分になってるだけかもしれないけれど、どこか腑に落ちない部分は、確かにあった。けれど、それを踏まえても許せないので、暗殺計画は練らなければ。
「どうしました? 怖い顔をして」
「え、こ、怖い顔なんてしていたかしら」
「ええ。まるで政治犯のような顔でした」
どんな顔よ。政治犯の顔をトーマスは見たことがあるんだろうか……。あ、視察とかで普通にありそう。
「国家転覆なんて狙っていないわ」
「暗殺位は目論んでいそうですね」
君のような勘のいいガキは嫌いだよ!?
「何を言っているのよ……」
「あ、動揺しましたね。当たりだ」
うっかり目を泳がせたのがバレた。あーあー、トーマスが14歳でコレなら、ホワイト家の将来は安泰だね。ニヤニヤしちゃって。反して私は不貞腐れた。
「誰かに知られたら困りますね?」
「そうね、秘密にしてくれるかしら?」
「条件次第ですね」
「条件なんて飲まないわ。あなたが話したら、あなたとその相手を殺す手間が増えるけれど、なんてことないわ」
「怖いなぁ」
肩をすくめつつ、やはりニヤニヤしている。食えない子ねぇ。ていうか条件てなによ。ちょっと気になるので、聞いてみることにした。
「一応聞かせて。条件はなに?」
「一緒に食事をして欲しいんです」
「食事?」
「はい。トバイアス殿もシヴィル叔母様もお父様もいないので、僕は屋敷に一人きりです。一人ぼっちの食卓は、中々寂しく感じます」
「それは、ごめんなさい」
あの豪華で広い食堂でぼっち飯と言うのは、流石に寂しかろうな。
「たまにでいいので、食事だけでも一緒にいてもらえると、僕はとっても嬉しいのですが」
まぁ、トーマスにはなんの恨みもないし、それどころか訳もわからず迷惑かけちゃってるし。時々夕食食べに帰るくらいはしようかな。トーマスだけなら気が楽だし。
「わかったわ。その条件を飲むわ」
「ありがとうございます」
ずるいわ。その満面笑顔はずるいわ。交換条件なのに、条件飲んで良かったと思わされるスマイル。うわー、交渉上手。本当にトーマスの将来が楽しみだわ。
トーマスはやっぱり笑顔で、「では今夜お待ちしていますね」と言って帰っていった。さりげなく言われたのでOKしてしまった。やりおる。ていうか私がチョロい。
どうせ暗殺計画はすぐに実行に移せるわけじゃないし、今日くらいはいいか。屋敷のご飯に罪はない、美味しく頂こう。




