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その聖女、ゴリラにつき  作者: 時任雪緒
第2章 少女期-未成年―

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2-23 小姓のお仕事 午後の部

 大量の皿を洗って自分達も賄いを食べた後は、もう一度馬の世話をして、その後講義。一旦先輩達とはお別れだ。従騎士になったら講義の時間はなくなり、訓練や騎士の身の回りのお世話がメインになるそうだ。

 先輩達に礼を告げて3人で講堂に向かう。その道すがら、軽く雑談しながら進む。



「お二人はどうでしたの?」

「大変でした」

「キツかった……です。延々と豆を乾燥させられていました」


 二人は二人で、生活魔法を使ってひたすら芋洗い、豆の乾燥を手伝っていたそうだ。普段、生活魔法を使う分には起こさない魔力切れを起こしかけたらしい。


「それはまた……」


 同情的な視線を向けると、二人とも苦笑してみせる。私はどうだったのかと、ティモシーから水を向けられた。


「私はひたすら芋の皮むきをしていたわ」

「芋の皮むき」

「皮むきですか」


 それは貴族令嬢の仕事じゃないだろうと言いたげに、二人は私に怪訝そうな目を向ける。でも騎士団で少なくとも小姓の内は身分など関係ない。騎士団内では身分以上に騎士団内での序列の方が強いのだ。


「集中していたらあっという間よ」


 最初は芋の量にゲンナリしたけれど、みるみる芋の山が減っていくのはちょっと達成感があった。案外あの作業は好きかもしれない。

 そんな話をしていると講堂に着いたので、空いている席を探して3人横並びで腰かけた。

 失礼かとは思ったが、二人に筆記試験の点数を聞いてみた。二人は特に嫌がるそぶりもなく、デリックは15点、ティモシーは10点だったと答えた。


「読み書きはできるけど、俺はあんまりやったことがないから計算が苦手で……」

「そうなの。でも計算は慣れたらすぐに出来るわ」

「頑張ります」

「デリックは優秀なのね」

「そんなことは……」

「デリックはどこを間違えたんだ?」


 謙遜していたデリックだったが、ティモシーからの質問には途端に俯いてしまった。そんなに恥ずかしいミスだったのかと思っていたら、名前を書き忘れたらしく、せっかく全問正解したのに減点されたそうだ。名前を書いていないのはデリックだけだったようで、すぐにデリックの答案だと分かったのは不幸中の幸いだろう。


「あれがなければ満点だったのに……!」

「ふふふ」

「あはは。意外におっちょこちょいだな」


 悔しがるデリックが可笑しくて、私とティモシーはつい笑ってしまった。


 そうこうしていると講師の騎士がやってきて、講義が始まった。講義の内容は在庫管理だ。騎士団内では武器や食料、備品などの在庫管理も小姓や従騎士の仕事だ。騎士になると予算編成や経理など金銭の運用も仕事になる。

 私達は厨房管理の部門に就くことになるけれど、食糧庫係と連携して在庫管理しなければならないし、それぞれ武器庫係や消耗品や制服の管理をする庶務係、厩舎係なんかに部門が分かれていて、各部門で在庫管理の仕事は必ず発生する。だから、実務の次は在庫管理できるようにならなければ、お仕事にならないそうだ。


 樹里は小さな食品会社にいたこともあって、一人で倉庫の在庫管理をしていた。棚卸とか大変そうだったなぁ。あぁ、騎士団も棚卸をするのね。わぁ……。

 ちょっと遠い目をしつつ講義を聴く私の隣では、疲労と満腹で寝てしまったデリックを、ティモシーがつついて起こしていた。


 1時間ほどで講義が終わると、ついに訓練の時間だ。


「やっと体を動かせるわ!」

「シヴィルさんはイキイキしてますね……」

「俺はついていけるかなぁ……心配だ……です」

「僕も……」


 そういえば二人は体力と実戦がダメだったといっていた。訓練が一番不安なのだろう。今がダメでも、鍛えていれば誰だってそれなりにはなるはずなので、大丈夫だと思うけれど。

 でも、それ以上に私が気になっていたのは、二人の朝からの態度だ。私は思い切って立ち止まり、二人に振り向いた。


「ねぇ、二人にお願いがあるの」

「はい?」

「なんでしょう?」

「あのね、私のことはシヴィルと呼んで欲しいの。敬称なんていらないし、敬語も使わないで頂きたいの」


 でも……と、二人は顔を見合わせる。


「私達、同期で同じ班でしょう? ずっとこの3人でやっていくのよ。いつかは互いに背中を守りあって戦うのよ。遠慮なんてしていたら、命を預けることなんかできないわ」


 そうでしょう? と視線を向けると、二人も「そうかも?」という顔をしている。デリックはずっと下手に出ているし、ティモシーに至っては使い慣れない敬語を頑張って使っているのが気になっていたのだ。こんなことを気にしていたら、他の事が散漫になる。貴族に迷惑をかけて目を付けられると困ると思っているのだろうけれど、そんなことを気にしていたら二人がストレスを抱え込むだけだ。

 それに、私だけ敬称で呼ばれて敬語を使われているのが、仲間外れみたいで拗ねていた。


「私に迷惑をかけると思って恐れているのかもしれないけれど、その必要はないわ。私だってあなた達に迷惑をかける事はきっとあるもの。私達は新人なのだし、きっとそれは当たり前のことだと思うの。だから、遠慮しあうよりも、互いに支えられるような関係でいたいわ……というのは建前で、単純に距離を置かれるのが、ちょっと寂しいのよ……」


 最後に本音をぶっちゃけると、二人は少し目を丸くした後、ぷっと噴き出してケラケラと笑い出した。


「あはは。うん、わかった」

「そういうことならお安い御用だ」

「ありがとう!」


 散々並べた御託よりも、最後の一言で納得してくれるあたり、この2人はいい人だ。二人と同じ班でよかったよ。



 訓練場にはすでに訓練に入っていたザック様と、ランディ先輩とニーナ先輩が待ち構えていた。それを見つけると、3人の所に私達は駆け足で集まる。ザック様はそれを満足そうに見て、「よし、外周10周してこい」と、いきなり言い放った。


「えっ」

「じゅ、10周」

「ぼさっとすんな! 走れ走れ!」

「痛い!」

「いたっ!」


 いきなりのランニング命令にぽかんとしていたら、木剣で突かれて追い立てられる新人3人組。私達は逃げるようにランニングを開始した。

 最初はスローペースで愚痴を言っていたけれど、「遅い!」と怒られたので少しペースを上げる。しかし1周もする頃にはデリックもティモシーも息が上がっていた。


「はぁ、はぁ」

「2人とも、頑張って!」


 応援しながら走るけれど、2周目になるころには、2人ともヘロヘロだ。この分では10周走り切るのはまず無理だ。私は少し考えて、走りながら後ろから二人の肩に手を置いた。


「え?」

「シヴィル?」

「気にしないで、そのまま走ってちょうだい」


 2周でこれほど疲労するくらいだ。彼らにはいきなり10周なんて無理だし、無理してそんなに走ったら、筋肉痛どころじゃない筋肉の損傷が起きる。心臓にも悪い。なので、少しだけ筋繊維を修復。疲労によって低下した心肺機能も回復する。ついでに脂肪も分解してエネルギーも補給しておく。


「あれ?」

「少し、楽になった」

「少しだけ回復しておいたわ。また疲労してきたら回復するわ」

「ありがとう」


 結局私の小回復を何度か繰り返して、時間はかかったけど3人とも10周走り切ってザック様の元に戻った。私が何かしていたのは気づいていたらしく、ザック様はちょっと不機嫌そうだ。


「何をした? お前はともかく、こいつらが10周走り切れるわけがない」


 おや、わかっていて走らせたらしい。


「無理をして長距離を走ると、心負荷もかかりますし、肉離れを起こす可能性がありますので、損傷しない程度まで回復を……」

「体にムチ打たにゃ、体力なんてつかんぞ」

「勿論、筋肉が再生する時、筋力量が増強する程度の損傷は残しています。二人とも明日は筋肉痛で起き上がるのも大変だと思います!」


 私の宣言に二人は「えっ」と私を見たけれど気にしない。ザック様は呆れたような視線を私に向けていた。


「お前それ、普通に走らせてリタイアするより、余程スパルタじゃないか?」

「私はそのように訓練を受けました」

「……なるほど」


 祖父の事に思い当たったようで、ザック様はすんなり納得した。ザック様はこめかみを揉みながらしばらくウンウン唸っていたけれど、「まぁいいか」と何かを諦めた。


「本当はお前がガッツリ回復かけようもんなら、ズルしたってんで連帯責任でまた走らせようと思ったんだが……」

「ズルどころか余計ムチ打っちゃってますから」

「しかもされた本人はそれに気付けないってのがまた、えげつないね」


 ザック様は苦い顔をして、ランディ先輩もニーナ先輩も困った顔だ。


「申し訳ありません……」

「いや、そっちのが効率良さそうだ。今後もそうしろ」

「よろしいのですか?」

「おう」


 信じられないという顔をして、ティモシーとデリックが、私とザック様を交互に見ているが気にしない。

 二人はランディ先輩とニーナ先輩に、優しく肩を叩かれていた。スパルタランニングが定番になってしまった。なんかごめん。





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― 新着の感想 ―
[一言] 高貴なる者は下々を食べさせるのも務め、芋の皮むきもノブレス・オブリージュと言えなくもない気がします?
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