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その聖女、ゴリラにつき  作者: 時任雪緒
第2章 少女期-未成年―

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2-22 小姓のお仕事 午前の部


 騎士小姓の仕事は、朝6時から15時まで。これが貴族の小姓だったら朝から晩までなのだけれど、貴族の小姓と違って騎士小姓は年齢的にも子どもなので、夕方には終わるのだそう。

 最初は装備の点検だ。次は馬の世話。それから騎士の担当する分野のサポート。ザック様は厨房管理担当のようで、兵糧管理担当と相談しながら、限られた食材を使って、この詰め所にいる騎士全員の食事を用意する。

 昼食の準備と昼食、片付けが終わったら、また馬の世話。午後からは講義。講義の後は担当騎士による訓練だ。


 お仕事に入る前に、ザック様付きの従騎士を二人紹介された。一人は細マッチョ体形のイケメン男性で、もう一人はなんと女性だった。女性にしてはやや大柄で、黄色い癖毛のボンバーヘア。あとおっぱいがすごく大きい。インパクト強い羨ましい。


「ランディ・バレットだ。気軽にランディと呼んでくれ」

「あたいはニーナ・キャベンディッシュ。あたいもニーナでいい」


 二人は快活に笑ってそう言ってくれた。私達も各自自己紹介してあいさつした。お二人は現在16歳で、今年従騎士になったばかりなのだそう。お二人が従騎士になったので、枠のあいたザック様が新人教育に名乗り出たらしい。


「ザック様は面倒見がいいんだよ」


 そう教えてくれたランディ先輩は実に嬉しそうに笑っている。ランディ先輩はザック様の事が大好きみたいだ。

 そのザック様は団長に呼ばれているとかで、後のことを先輩二人に任せると走って団長室に向かっていた。用事は本当にあるのだろうけれど、褒められて照れて逃げるのは、ちょっと可愛かった。




 まずは最初のお仕事、装備の点検。連れてこられたのは、武器庫の中のザック様のロッカーだ。ザック様の武器や装備に、刃こぼれやほつれがないか確認する。入口に近い所はいかにも武器庫といった感じで、大量の武器が置いてある。ロッカーがあるのは武器庫の奥の部屋で、壁沿いに並べられたロッカーに囲まれるように、机が沢山並んでいる。その机で装備の点検をしている小姓が何人かいる。私はぐるりと見回して、ザック様に質問した。


「あの、あちらの大量の武器の点検も含まれるのですか?」


 武器庫には騎士専用のロッカーとは別に、訓練用の刃を潰した武器や木剣、実戦での配給なのか予備の武器と思しき武器が大量においてある。むしろロッカーよりそう言った武器の方が多かった。私の質問に、ニーナ先輩が答えてくれた。


「あぁ、あっちはいいのさ。あれの管理は武器庫係の仕事だよ」

「そうなのですね」


 騎士になると自分のロッカーがもらえるので、その代わりに騎士は自分たちで自分の武器の管理をするのだそうだ。それを面倒くさがる騎士もいるそうだけれど、大半の騎士は自分の武器や装備を他人に触らせたくないそうで、自分の小姓に徹底的に指導して管理させるのだそう。ちょっとわかるかも。私も私の剣に触れる人は、祖父とロブソンさん以外の人だとちょっと嫌だ。


 というわけで、私達は早速ロッカーから装備を取り出す。予備のサーコート、鎧下にチェーンメイル、頭巾、ヘルメット、盾、剣、弓、槍、ハンマー、短剣、馬の飾りなどがあって、私達は物珍しさもあってまじまじと見ながら取り出していた。


「ほら、ちんたらしてると他の仕事が押すぞ」

「あっ」

「すみません」


 のんびり見ていて怒られたので、慌てて引っ張り出して机の上に並べた。先輩二人に指導してもらいながら、装備の傷や汚れをチェックする。ザック様も毎日訓練するので、細かい傷は毎日増える。目止めの鉄粉を布につけて刷り込んだり、鎧下のほつれを直す。最後に鎧下なんかの布製品を、洗濯場で洗濯して干せば終わり。



 次は馬の世話。基本的には厩舎管理担当の騎士さんと、その小姓と従騎士が面倒を見てくれているけれど、騎士にとって馬は単なる乗り物でなく相棒だ。だから自分の馬に自ら餌をやったり、ブラッシングしたりする騎士は少なくなく、当然小姓も騎士の馬のお世話をするわけだ。

 意外にもデリックは馬の世話に慣れているようで、ザック様の赤毛の馬をすぐに懐かせて撫で始めた。


「僕の両親は行商人なんです。家には二頭立ての馬車があって、僕も小さい時から馬の世話はしていたんです」


 みんなから褒められて、照れながら語ったデリックの言葉に納得する。小さい頃から慣れているなら、きっと馬の扱いはデリックが一番上手だろう。先輩二人とデリックにアドバイスをもらいながら、ちょっとおっかなびっくりしつつ馬に触ってみた。

 ユオヅ村にいた時から、馬は毎日見ていたけれど、人の家の馬に勝手に触ってはいけないと言われていた。勝手に触って馬泥棒だと思われたらいけないし、馬は臆病な生き物なので、子どもが触って驚いた馬が暴れて、子どもが怪我をするといけないからだ。

 だから私も餌をやる程度はしたことがあるけど、触るのは初めてだった。馬を怖がらせないように、なるべく優しい手つきで馬の首を撫でてみる。馬は怖がった様子はなかったけれど、私がびくびくしていたからか、馬はちょっとだけ私から逃げた。悲しい。


「あはは! そんな顔しなさんな! その内慣れるよ」


 顔に出ていたらしく、ニーナ先輩に笑い飛ばされた。馬は大きい動物だけれど、目がキラキラ大きくて可愛いので、私もデリックみたいに懐かれたい。馬からスリスリされているデリックに、ちょっと嫉妬した。




「おい! 火入れ遅いぞ! 急げ!」

「イエッサー!」

「馬鹿野郎! 皮はもっと薄く剥け! 食うところが減るだろうが!」

「イエッサー!」


 私達が厨房に到着すると、仕事に慣れた先輩小姓や従騎士達は、既に仕事をしていた。野菜の皮を剝いたり、大型の魔物をさばく大勢の小姓や従騎士達に、ザック様同様の厨房管理担当騎士――つまりコックさん――が、大声で指示を飛ばしていた。

 まるで戦場のような厨房に、私達は目を丸くした。うちの厨房もいつも忙しそうにしていたみたいだけれど、ここはうちよりも遥かに雑然として殺伐としていた。

 出勤してくる騎士、従騎士、小姓の数、実に124名分だ。時間に遅れようものなら、腹をすかせた100名の益荒男から怒られるんだろう。

 こんなありさまなので、私達は午前中の大半を厨房で過ごすことになるようだ。ちなみに朝食と夕食の準備は、夜勤の騎士・従騎士のお仕事らしい。朝夕は基本寮で食べるそうで、寮での食事は自分で作るなり外食やテイクアウトが主流。騎士団詰め所で朝夕に必要なのは当直の騎士達の分だけだけど、昼は騎士団全員集合なので、人手がないと回らならしい。


「よし、じゃぁデリックとティモシーは生活魔法が使えたな? お前らは俺についてきて」

「はい」

「わかりました」


 デリックとティモシーはランディ先輩に連れて行かれた。


「シヴィルはあたいについてきな」

「はい」


 私はニーナ先輩に。女性同士ということで気を遣われたのかと思ったけれど、「あたいは全然なんだけど、ランディは生活魔法が得意でさ」とのこと。生活魔法を活用した雑用が山ほどあるんだと。

 かたや生活魔法ポンコツな私達は、山のように積まれた芋を目の前にしていた。


「これを剥くよ」

「全部ですか」

「そうさ」


 うへぇ。本当に山になってるんだよ、芋の山だよ。私が意識を飛ばしかけている間にも、ニーナ先輩は椅子を引きずってきてナイフも持ってきていた。


「椅子はあそこにあるから、あそこから取ってきて。ナイフはあっち」

「はい」


 私が椅子とナイフを取りに行って戻るころには、ニーナ先輩は芋を一個剥き終わって、白い実を晒した芋がバケツに放り込まれるところだった。早い。流石先輩。よし、私も母譲りの家事スキルを発揮して、この山を崩してやるのだ。

 鼻息荒く芋を手に取る。手のひらに載せた芋を指で回転させ刃を当てると、シュンという音の後に舞い上がった皮がペチャと右側に落ちる。


 シュンペチャゴロン、シュンペチャゴロン、シュンペチャゴロン……。


「お、おい、おい! シヴィル!」

「あ、はい?」


 いきなり呼ばれたので顔を上げると、ニーナ先輩は私を覗き込んでいた。


「なんでしょう?」

「なんでしょうじゃないよ! アンタ、お嬢様だよね?」

「そうですが……?」

「なのに、なんでそんな……なんで?」

「はい?」


 ニーナ先輩の質問が全く要領を得ないので、首を傾げる。私の様子を見てニーナ先輩は何故か溜息を吐いて、「いいや、なんでもない。ごめんな。続けて」と、また芋を剝き始めた。なんなんだ。

 ニーナ先輩がいいと言ったんだから、まぁいいか。さくっと諦めた私は再び芋を剥き始めた。

 集中していたので、「とんでもないのが後輩になった……」と、先輩がボソッと言っていたのは聞こえなかった。



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