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その聖女、ゴリラにつき  作者: 時任雪緒
第2章 少女期-未成年―

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2-21 初出仕



 季節は秋口に入って、残暑はあるけれど朝夕は過ごしやすくなった頃。制服も行き届いて初出仕の日となった。先日のオリエンテーションで建物や簡単な仕事内容などは聞いていた。


 今回の合格者は12名。3人一組のグループを組んで、各グループはバランスを考えて編成される。試験の際得点の高かった者が暫定リーダーとなる。それぞれグループ毎に決まった騎士付きになり、その騎士の世話をし、教育や訓練を受ける。

 誰かがミスをすればグループの連帯責任。メンバーの評価は担当騎士が行い、その評価によってグループ内で序列が変わる。教育の時間は決まっていて、他のグループも一緒に講堂で授業を受けるが、訓練はその騎士の都合によって時間帯や内容はまちまち。場合によっては忙しいと別の騎士に任される時もあるが、グループメンバーの成長度合いは騎士の評価にも関わるので、新人を適当にほったらかす騎士はまずいないそう。

 そして今日、そのグループが発表される予定で、今日からそのグループで行動することになるので、私はとてもドキドキしていた。



 白いキュロットパンツに灰色の皮のブーツ。白いフリルシャツの上から、踝まである白のサーコート。新品の制服を着た新人騎士小姓が詰め所の一室に集められていた。数えると全員揃っている。席は適当で良さそうだったので、例によって隅に座ろうとしたら、ウサギの獣人さんから「上座へ」と言われた。


「辺境伯閣下のご令嬢だろう?」

「ですが、騎士団内では身分など些末な事ですわ」

「俺達の気持ちも汲んでくれないか。君のような高位貴族に末席に座られると、俺達が落ち着かないんだ」


 ドスの利いた低い声だったけれど、その声色は怒っているでもなくむしろ困ったような顔をしていた。確かに仰る通りだ。私は素直にウサギの獣人さんの弁に従った。そしてウサギの獣人さんは私の隣に座った。私の隣ということは、この人も貴族なのだろう。

 それよりも気になるのは、ウサギの獣人さんだけ制服の色が若草色なことだ。


「あの、お尋ねしてもよろしいでしょうか?」

「なんだろうか?」

「あなた様は、なぜ従騎士の制服ですの? 過去に騎士経験がおありですの?」

「あぁ、そうだ」


 会話終了。不躾だったかな。一応軽く謝ると、相手も短く返事をした。あんまり言いたくない事情でもあるのかもしれないから、これ以上は黙っておこう。

 確かに騎士経験がある人まで、一々小姓から再スタートさせるのは時間の無駄よね。元々騎士だったなら試験の点数も高かっただろうし、私とは別グループのリーダーになるんだろうな。いや、もしかしたら新人グループにも入らないかも。


 そんなことを考えていると、正騎士の深緑色のサーコートを着たバレンタイン団長が入室してきた。私達は一斉に立ち上がって敬礼をする。ちょっとだけ慣れないらしい平民メンバーが遅れたけれど、そこには団長は言及しなかった。団長からの合図で、団長も私達も着席した。


「まずは挨拶だ。私が第3騎士団団長のバーナード・バレンタインだ。このホワイト辺境伯領の第3騎士団は、アズメラ帝国内においても最も過酷と言われる騎士団だ。討伐数は国内最大であり、また殉職者も同様だ。北部領域はほぼ魔の森に接し、南部半島はバルト湾に接している。森と海から発生する魔物を駆逐し、民の平和を守る義務がある。よって、私は時にお前達に死ねと命令する。従騎士になるまでに、その覚悟を決められるよう、日々の訓練に励め」


 

 団長の言葉を受けて、ゴクリと生唾を飲み込む音が聞こえる。この地方は帝国最南端にあって、北部全域が魔の森に接して海を擁している。この地方に領土を持つ貴族家一家だけでは騎士団を十分に編成することは出来ないから、貴族家の私兵をのぞいて、騎士団は一括して辺境伯が編成し、必要に応じて派遣する。

 勿論緊急対応できるように、要所にある砦には常に駐屯の騎士がいて、例えばユオヅ村などの辺境村に時々偵察に来て報告するのだ。


 最も過酷なのはその駐屯部隊で、領都からの本隊が来るまで魔物の侵攻を抑えなければならない。本隊は定期的に間引きもするけれど、常に最前線で戦う駐屯部隊が最も過酷なのは事実だ。

 そして、状況によっては大多数を生かすために、誰かが囮や殿を務めることもあるだろう。団長の「死ねと命令する」というのは、そういうことだ。


 海の魔物とは戦ったことはないけれど、魔の森での戦いには慣れている。死と隣り合わせの経験もある。団長がそういう判断を下す可能性があることも十分に理解できるので、私は神妙に頷いた。


「お待ちください」


 近くにいた少年が声を上げた。


「僕は貴族です。貴族にもそのような命令を?」


 私の近くにいるのだから、貴族なのだろうとは思ったけれど、私にしてみれば貴族だからなんだという話だ。団長も同様に思っているのか、もしくはこの質問は恒例なのか、とくに表情も変えず回答した。


「ルパート・ホッジか。ホッジ伯爵家の5男だな」

「はい」

「私も伯爵家の3男だが、長男以下は長男のスペアだ。スペアとしての役割しかない貴様が、民のために命を捧げられる栄誉を賜った。誇りに思え」

「っ! ですが!」

「親から学んでいないのか? ノブレスオブリージュ。民のために尽くせ。今すぐそうしろとは言っていない。従騎士になるまでに、覚悟を決めろと私は言ったのだ。それまでに覚悟が決まらず、不満であれば去るがいい」

「……」


 叱られたルパートは黙り込んでしまった。不満はあるけれど、ここを出たら身の置き所がなくて困るのは自分だとわかってはいるのだろう。見たところ私より年下ぽいので、10歳か11歳だろう。甘えがあっても仕方のない年齢だと言うのに、流石に騎士団は命のやり取りをするからか、団長も容赦がない。

 この辺は一朝一夕で決められることではないから、団長の言うように従騎士になるまでに決めればいいと思う。実戦に出るのは従騎士からだからね。


 異議を唱えたのはルパートだけだったので、早速団長はグループ分けを発表した。


「1班。シヴィル・ホワイト、デリック・サンプソン、ティモシー・キーン。リーダーはシヴィルだ」


 あぁ、やはりリーダーだ。ちょっと責任のある立場なのは重荷だけれど、これも経験だ。同グループのメンバーは誰だろうと思いつつも、次は担当騎士を紹介するとのこと。団長の合図で騎士が4名入室してきた。


「1班の担当騎士はザック・フロスト中隊長だ」

「いよっ!」


 軽妙に手を上げて挨拶したのは、祖父の傭兵時代からの仲間の、ドワーフの騎士さんだった。


「まぁ! 騎士ザック様、よろしくお願いいたします」 

「よろしくな」


 にかっと笑った時に見えた白い歯がまぶしいけれど、右側が一本折れたのかスキッ歯だった。

 担当騎士が祖父と仲のいい人というのは、多分団長が気をまわしてくれたんだろうな。出来れば女性騎士の方だともっとありがたかったんだけれど、贅沢は言うまい。

 後は担当騎士の指示に従うように言い残して、団長はさっさと退室した。それを見送って、改めてザック様に挨拶だ。


「改めまして、シヴィル・ホワイトでございます。ザック様にご指導いただけるとは光栄ですわ」

「俺の方こそ、ドゥシャンの秘蔵っ子に指導できるのは光栄だ」


 そんな風に挨拶をしていると、慌てた様子で二人の少年が傍に寄ってきた。


「あの、僕はデリック・サンプソンです。よろしくお願いします!」


 と挨拶したのは、生活魔法でトップだった茶髪の少年だ。


「俺はティモシー・キーンです。よろしくお願いします」


 と挨拶したのは、魔術でトップだった黒い尻尾の少年だった。挨拶を受けて、「よろしくな」と返したザック様は、私達に互いに自己紹介するよう促した。それを受けて、私は二人の少年に振り向いた。

 とはいえ、私から挨拶することは出来ない。高位の者は先に挨拶してはいけないのだ。それを知っていたようで、デリックが先に挨拶をした。


「僕はデリック・サンプソン。11歳です。生活魔法ではトップだったんだけど、体力と実戦がダメで……でも、足を引っ張らないように頑張ります。よろしくお願いします」


 ペコリと頭を下げるデリックに、にこりと微笑み返し「よろしくね」と返すと、デリックも恐縮しながら微笑み返した。


「俺は、ティモシー・キーン……です。13です。魔術はトップだったけど……デリックと同じだ。あ、です。多分俺は足を引っ張ることになると思う……すみません」


 挨拶から憮然としているティモシーには少し困ったけれど、こちらにもにこやかに挨拶しておいた。


「私はシヴィル・ホワイト。12歳でホワイト辺境伯家の4女よ。私は生活魔法も魔術も使えないから、お二人が羨ましいわ。どうぞよろしくね」


 笑顔で挨拶をすると、二人ともかしこまりつつ返してくれた。高位貴族の令嬢と同じグループだもんね。私も最近まで自由市民だったからわかるよ。絶対やりにくいわこれ。可哀想だけれど慣れて。

 それにしても、この2人か。私は魔法や魔術の類が一切ダメだけど、体力や実戦は満点だった。かたや二人はその逆。なるほど、ある意味バランスは取れている。

 ということは、ザック様の指導の下、私がリードして二人の体力や技術向上を目指さなきゃいけないということだろうね。2人とも11と13だ。今から鍛えれば無問題でしょう。


 挨拶が終わったとみて、ザック様が私達に声をかけた。


「よし、自己紹介は終わったな。それじゃぁまずは装備の点検からだ。サル、ゴリラ、一般人。俺についてこい」


 ティモシー、私、デリックの順で視線を移して、ザック様はそう言うと背を向けて歩き出した。私は慌ててそれに追いすがる。


「お待ちください。ゴリラというのは私ですの? 私ですの?」


 後方からも声が上がる。


「サル……」

「え、僕一般人ですか……」


 しょんぼりした様子のティモシーとデリック、憤慨する私に、かっかっかとザック様は愉快そうだ。


「いくら上官でも失礼ですわよ!」

「はっはっは!」

「笑ってごまかさないでくださいまし!」


 抗議してもザック様は笑うだけだった。祖父の友達だと思って安心していたけれど、これは大丈夫なのだろうか。甚だ不安だ。


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