4-51 主力が使い物にならない会議
パーシバルから話を聞いて、ザカライアも物憂げにした。
シヴィルが再度寝付いた深夜、ザカライアも心配して様子を見に来たので、部屋に戻って話していた。2人は警護のこともあって同室だ。
「剣聖殿も、そんなに心を痛めていたんだな」
「シヴィルは強いけど、中身は普通の女の子だよ」
「そうだよなぁ」
ザカライアもディランとは仲良くしていた。シヴィルがディランを討ったことに、複雑な気持ちはあるが、あれほどシヴィルが慟哭していたのを見ると、シヴィルを責める気にはなれないでいた。
「シヴィル、一人になると泣いてるみたいで」
「ゴリさんが言ってたのか?」
「うん」
ゴリさんとはシヴィルの執事としてついてきた男である。パーシバルやザカライアの世話係も勿論いる。
ちなみにゴリさんは、変身して容姿を誤魔化し潜入した祖父ドゥシャンである。前辺境伯エリックの葬儀の為、ドゥシャンを呼ぶも現れず、今になって失踪に気付いて、シヴィルを追いかけたと母ステラが察した現在、ホワイト家は大わらわ。相も変わらずはた迷惑な爺さんである。
「泣き暮らしーってか。やっと騎士に向いてないって気づいたのかねぇ」
両手を頭の後ろで組んで、椅子をギコギコ鳴らすザカライアに、ついパーシバルは眉をしかめた。
「シヴィルが騎士に向いてない?」
「向いてないな」
「そんなことないよ」
「向いてない。本業が人殺しで、副業が人助けって、どんな偽善者だよ」
「……騎士は、人殺しなんかじゃないよ」
「敵は躊躇わず殺せって言われて俺は育ってきた。騎士家系の人間は、みんな殺人を正当化出来るように教育されるんだ。でも剣聖殿は元々狩人で、第3出身だ。そんな教育受けてないだろ。人が人を殺すってのは、本来とてつもなく忌避感があるんだ」
それでも人を殺すなら、元々その忌避感を軽減出来る環境で育つか、余程命の危険にさらされるか、合理的な判断が出来るか、あるいは血の涙を流しながら覚悟を決めるか。
「一歩目は踏み出せたけど、そこで躓いている。ここで立ち直れなきゃ、彼女はもう二度と、騎士としてはやっていけない」
「シヴィルはきっと立ち直るよ」
「そうでなきゃ困る」
珍しく強い物言いをするザカライアを、パーシバルが恨めしげに見た。
「シヴィルのこと、恨んでるの?ディランを討ったから?」
「恨んでない……けど、ちょっと八つ当たりした自覚はある」
この状況だ。ザカライアだって、気が立ってしまうのは仕方がないだろう。
「……僕には言っていいけど、せめて今のシヴィルには、勘弁してあげて欲しい」
「わかってるさ。悪かった」
バツが悪そうにしながらも、さらりと謝られて、パーシバルも毒気を抜かれてしまう。基本気持ちのいい男なのだ、こいつは。
正直な話、ザカライアがいて良かったとパーシバルは思う。シヴィルは頑張っているが、あれ以来精彩を欠いていたのは確かだ。ザカライアが表の護衛、シヴィルが裏の護衛という役回りではあるが、シヴィルがぼんやりしている時は、ザカライアが普段以上に前に出ていた。なんだかんだ言いながら、フォローはしっかりしてくれている。
「ごめんね、シヴィルが迷惑かけて。僕もサポート頑張るから」
「そこの所、本当に頼むぞ。彼女が使い物にならなくなったら、俺達は大ピンチだ」
「だよね……」
話を終えると、やはりシヴィルが心配だったパーシバルは、シヴィルの様子を見に行った。シヴィルはスヤスヤ寝ている。その寝顔を見ながら、どうしたらシヴィルが元気になるのか、パーシバルは頭を悩ませるのだった。