4-44 最後のお茶会
(だってアンタはヒロインなんだから、仕方がないのよ。ヒロインは脳みそお花畑って、相場が決まってんだから)
お花畑。樹里が身も蓋もない事を言って追い討ちをかける。
(つっても、アタシの倫理観でもアンタ寄りだけどね。でも、そのせいでゴリ子が死ぬのは絶対に嫌。だから、打てるだけ手を打っておいて)
樹里のアドバイスを受けて、家族にもサポートして貰って、その内にバカンスシーズンは終わり、学園の後期が始まった。
クインシー殿下の輿入れは知らされていたようで、学園は奇妙な雰囲気だ。シルケ殿下はいない。あれから城の自室に篭ってしまったそうだ。
というか私達も準備でバタバタしてて、学園には始業式以降出席してない。いよいよとなり、ニコール様護衛の任も解かれた。
この間に、アズメラ帝国から花の国へも使者が送られた。花の国からの返答は、残念だけど仕方がないって感じの内容だったらしい。
でも、元宗主国に強く言えないだけで、内心腸が煮えくり返る思いなのではと思う。
シルケ殿下も時々手紙を書いてたはずだし、シルケ殿下の思いを知ってるなら、悔しい思いをしたはずだ。
それもあって、花の国からの関税は、向こう5年間無税とされ、花の国と国境を接するホワイト辺境伯領には、帝国から補償することになっている。
これで花の国との関係性は、表面上落ち着いたけど、シルケ殿下のお気持ちが晴れる事はないだろう。
それに時期を同じくして、北部貴族のキンバリー様とディラン様が休みなのも気になる。
北部貴族は開戦派だ。その北部貴族の2大貴族の子女が、揃って休んでいる。
きな臭いよぉ……。
「僕なら、輿入れの身柄交換のタイミングで襲撃して、戦争を起こす口実を作るかな。僕が死んでも、あっちの皇子が死んでも、仮にどっちも生き残っても、火種は生まれるね。僕には君がいるけど、もしかしたら、あっちにこちらの間者がいて、あっちが殺されてアズメラ帝国の襲撃って事になるかな?その線もあるね」
と、クインシー殿下は呑気に言ってるけど、貴方当事者ですよ。なんで笑ってんの……。
とはいえ、ドルストフ帝国も皇子の警護は手厚くするはずで、この位のことは読めてるはずだ。
下手に人員を増やして間者の付け入る隙を作るよりは、少数精鋭プラス徴兵の方が良い。
おそらくドルストフ帝国にも開戦派はいるし、何か仕掛けて来ると思う。
私はクインシー殿下やパーシバル、騎士団の団長達や皇帝陛下達とも散々に話し合った。
内心ではそちらの対応に気が気ではなかったけど、この国にいられるのは残り2週間だった。
だから、くっそ忙しかったけど、最後の英雄達の茶会を開いた。強行したので1週間で開いてやったよ。
実は英雄達の茶会、ものすごく評判が良かったのだ。
前回のお茶会の後、お礼状が沢山届いた。大体が楽しかったと言う内容で、概ね好評だったみたい。いくつかアドバイス的なものもあったから、これは参考に取っておく。
本当にこの茶会自体の評価は良くて、また来たいと言う言葉が多かった。これは多分、私のおもてなしと言うよりも、参加者の面子が良かったのだと思う。
スタンピードと言う一大事に、率先して動けるほどに意識が高い人の集まりなのだから、同じレベルで国を思ってる人達にとっては、有意義な茶会だったらしい。
通常、高位貴族と低位貴族が茶会なんかしない。夜会でも大規模なものでないと中々交流しないし、同じ場所にいても低位貴族と高位貴族が話すのは、縁故がないと無理だ。特に地方領主には縁遠いこと。
その慣例が英雄の茶会では覆されて、様々な意見交換が出来た。
こんなに喜んでもらえたのなら、今後も定期的に英雄の茶会は開いた方がいいだろう。この茶会を通して、発展の足がかりになるなら私も嬉しいしね。と、思っていたのに、これが最後になる。
「皆様、本日もお集まり頂きまして、誠にありがとうございます。お聞き及びの通り、クインシー殿下と、私とパーシバル・ビリジア侯爵令息は、ドルストフ帝国へ参ります。今後、英雄達の茶会は、私の母ステラが、主導させていただきます」
母が、ちょっと強ばった顔で頭を下げた。母は社交を頑張っていたので、既に剣鬼の娘と言うのは知られている。主催としてはうってつけだし、家の為にもなる。
「私はこの茶会が、アズメラ帝国の大いなる利になると考えております。身分に拘らず活発に意見交換出来る、皆様の有り様は、間違いなくこの国の支えとなるでしょう。私はこの国を離れますが、母も、志を同じくしております。私の最高の理解者である母が、きっと皆様を盛り立てて下さいます」
若い貴族をきっかけにして、わあっと拍手と歓声が漏れて、大きな拍手になった。
母には、私ほどの武名もないけど、母は、きっとカリスマを発揮してくれる。
母は剣鬼と大女優の娘なんだから、度胸ならワールドクラスよ。
母は父の妻になったのだから、この位出来なければいけないと、大奥様から言われたのもあるけどさ。
最後に美容整形に宣伝をして、最後のお茶会も、大好評の内に終えたのだった。
が、その数日後。
パーシバルの元実家であるアーモンド伯爵家が、違法奴隷売買の容疑で、一家全員が処刑された。