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その聖女、ゴリラにつき  作者: 時任雪緒
第4章 学園生時代
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4-34 婚約破棄3

「ところで、なんだっけ?愛するシャーロット嬢をいじめたローラ嬢とは結婚できないから、婚約破棄してシャーロット嬢と婚約する、だったかな?」


クインシー殿下がギャリーに本題を確認する。


「そうです」

「でもいじめはなかったし、それはシャーロット嬢も認めたね。ローラ嬢は冤罪が晴れたわけだ。ローラ嬢有責にはならない」

「それは……でも」

「それでも君はシャーロット嬢を愛しているから、ローラ嬢と別れてシャーロット嬢と結婚したいわけだ」

「そうです」

「それなら君達の家族を交えて話し合えば済むことだ。なんでこのタイミング、この場所で婚約破棄なんかしたんだい?」

「証人がいた方がいいと思って……」

「なるほど。確かに死ぬほど証人はいるね。でもそれって、何のための証人?婚約破棄の証人は、自分より高位貴族の保証が必要なのは知ってるかな?確かにここには僕らもいるけど、君より下位の貴族もいるよね。彼らは保証人にはなり得ない。そもそも婚約破棄の保証人というのはね、婚約破棄の話し合いは感情的になってもつれやすいから、1日2日では終わらない。揉めることも多々あるから、なるべく話をスムーズにまとめるための上位の仲介者、それが保証人なんだよね。ここで宣言すること自体、あんまり意味が無いよ。それに、これだけの衆人環視の中で、冤罪吹っかけて婚約破棄なんかしたんだ。ローラ嬢はかなり傷ついただろう。僕がローラ嬢の立場だったら、名誉毀損と侮辱罪で訴えるところだよ。まぁローラ嬢がどうするかはわからないけれど、そのリスクは考えなかったのかい?」

「考えてませんでした……」

「それは失敗したねぇ。人前で宣言する事に頭がいっぱいだったのかな。あ、ちなみに不貞による君の有責になるから、アーモンド伯爵家とジョンブリア辺境伯家に慰謝料の請求が行くからね。君達にとっては真実の愛かもしれないけれど、法的には有責事由なんだよね。知ってた?」

「し、知りませんでした」

「そうか、知らなかったのなら仕方がないね。でもね、婚約破棄の手続きはかなり煩雑なんだよね。婚約には大体は事業が絡んでいるから、その事業の引き継ぎとか、事業資金のこととかね。場合によっては賠償とかもあるだろうし、もちろん慰謝料の問題もある。手続きも話し合うことも多いから、無計画に婚約破棄をするのは、結構リスキーだよ。それは知っていた?」

「知らなかったです……」

「そう、それは不味いね。これから大変だろうけど、頑張ってね!」

「えっ」


ビビらすだけビビらせて見捨てたー!クインシー殿下の鬼ー!


「だって、俺もう」

「言っちゃったもんね。出た言葉は取り消せない。何しろこんなに証人がいる。さっきも言った通り、後は家族で話し合ってね。僕は関係ないし」

「そんな!」


ギャリーは真っ青になって茫然自失としているが、クインシー殿下はくるりと踵を返した。


「はい、みんなもありがとうね。もう解散していいよ。お疲れ様。また学園で会おう」


クインシー殿下の合図で、学園生は三々五々散って行き、それぞれ帰宅の馬車が出ていく。

とんでもない、思い出に残る終業式になった。




家族は領地に帰ったけど、私はニコール様の護衛なので、皇都に残っていた。


パーシバルが心配していたからか、ローラの方の保証人にはビリジア侯爵が着いてくれていた。なんの用意もしていないアーモンド伯爵家には保証人がいない。普通は婚約破棄や解消を言い出す側が、保証人をつけるものなんだけどね。


アンガス子爵とローラは、婚約解消に向けて準備していたから、割とスムーズに手続きは終わったそうだ。

ただ、一々アーモンド伯爵がキレ散らかすので、ビリジア侯爵の機嫌を損ねないかハラハラしたらしい。

ちゃんとギャリー有責で婚約破棄出来たし、アーモンド伯爵家とジョンブリア辺境伯家からも慰謝料を貰える事になった。

事業はアンガス子爵が引き継いで、残りの事業資金の半分をアーモンド伯爵が支払うことになった。最初アンガス子爵は事業資金のことは諦めていたそうなので、ちゃんと払われることになって良かったよ。


そしてキンバリー様もまだ皇都に残ってる。シャーロットがやらかしてくれたので、帰るに帰れない。

結局ギャリーは婚約解消されたので、責任を取る形でシャーロットと婚約する事になった。

ギャリーの話をキンバリー様から聞いて、本当にそんな男と結婚してもいいのかと、ご両親はシャーロットを説得したけれど、シャーロットは、


「私の話をちゃんと聞いてくれたのは、ギャリー様だけだったから」


と、頑なにギャリーとの婚約を望んだので、結局折れてしまったようだ。

ジョンブリア辺境伯はアンガス子爵とローラには平謝りだったそうで、こちらの話し合いは、1時間もせずに片付いたらしい。



キンバリー様とニコール様とお茶しながら、婚約破棄事件の顛末がどうなったのかを聞いていた。

キンバリー様は完全に流れ弾が当たった感じなので、見るからにゲッソリしていた。少しかさついた唇が、でも、と震えた。


「クインシー殿下とシャーロットの話を聞いて、反省しましたわ。私達の、シャーロットへの付き合い方が、間違っていたのだって……」


あのやり取りは、なかなかクるものがあった。あの会話を聞いて、自分を顧みた人は多かっただろう。退学になればいいのにと言ってたトーマスも、めちゃくちゃ落ち込んでたし。

あのやり取りを見ていて、ちょっと引っかかった事があった。会えるうちに伝えておこう。


「キンバリー様、失礼な事を言うかもしれないけれど、聖女としての見解なので許して欲しいわ。もしかしたらシャーロット様は、精神疾患かもしれないの」

「心を病んでいるということ?でも、あの子は物心ついた時から、あんな風でしたわ」

「心を病むのは、酷い出来事に遭遇した時だけとは限らないの。生まれつき精神疾患を抱えて生まれる方もおられるわ」

「そうなのですね。シャーロットはどんな病気なのですか?」

「申し訳ないことに、精神疾患は診断が難しいし、私は専門ではないので、確実な事は言えませんが。恐らく軽度の知的障害あるいは、境界性人格障害なんかの精神障害をお持ちなのではと」

「……一度、専門の聖者に診てもらいますわ」

「それがよろしいと思うわ」


私は外科が専門なんだよ、ごめんよ。でも、一度ちゃんと診てもらって、関わり方のアドバイスをもらったら、キンバリー様もシャーロットも、楽になるんじゃないかなと思う。

それをあのギャリーが、ナチュラルにやってのけていたのは驚きだけど。愛のなせる技なのか……。


あ、ちなみにアーモンド伯爵家に傷害未遂の訴訟なんか起こさないよ。めんどくさいし。

パーシバルも虐待についての裁判を起こす気はないみたい。ビリジア侯爵や叔母様は、裁判した方がいいと、説得したらしいんだけどね。

裁判は100%勝てるから、そうなるとアーモンド伯爵家は多額の慰謝料を払うことになり、加えて刑事事件なので、逮捕されアーモンド伯爵家は確実に取り潰しになる。

現時点でも婚約破棄の慰謝料や、事業資金の支払いなんかで、多額の出費を迫られたアーモンド伯爵家は、首が回らない状態なのだ。

ギャリー達はともかく、シャーロットを巻き添えにするのは可哀想って。優しいねぇ。


でもせめて謝罪くらいしてくれてもいいと思わない?

アーモンド伯爵家の連中は、まだ誰にも謝っていない。シャーロットだって、ローラに謝ったと言うのに。

そこに不満は残るけど、この件は一応決着が着いた。


「キンバリー様は、いつ領地にお戻りに?」

「私は2日後に。ニコール様は?」

「私は明日ですわ」

「シヴィル様もご一緒なさいますの?」

「ええ」


そうなのだ。私はニコール様の護衛なので、基本ニコール様の傍にいなきゃならない。近衛になった時点で、ニコール様がホワイト辺境伯領に行く用事がない限り、私は領地には帰れないのだ。なんならバカンス中は、私はシルバリー公爵家に駐在だ。そう思うと故郷が恋しい。


でも、シルバリー公爵領に行くのも楽しみだ。シルバリー公爵領は平地と山岳地が程よく存在する、皇都から北の比較的近い所で、高地は避暑地として貴族から人気のリゾート地なんだって。

温泉もあって、冬は猿が温泉に入りに来る事もあるらしい。なにそれ見てみたい。


そうしてお茶会の翌日、準備を整えた公爵御一行と共に、私はシルバリー公爵領へと旅立った。


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