4-33 婚約破棄2
「兄上!」
「くくく……。なんだい、ジョニー」
「笑っていないで、どうにかしてください」
「まさかの丸投げ」
「私の手には負えませんので」
「しょうがないなぁ」
という訳で、クインシー殿下に査問役をバトンタッチ。
「それで?」
「いじめられたのは本当なんです」
「それは大変だ。さぞ辛かったろう。可哀想にね」
「そうなんです!わかって頂けますか!」
「うんうん、わかるよ。いじめられるのは辛いよね」
「はい、辛かったです」
「それで?どんな風にいじめられたんだい?」
「えっと、悪口を言われたり、無視されたりしました」
クインシー殿下すごい、話が進んだ!
「例えばどんな事を言われたんだい?」
「婚約者のいる人にベタベタするなとか、勝手にお茶会に来ないでとか」
いやそれ普通!
「なるほどなるほど。他には?」
「教養が足りないとか、お姉様を見習えとか」
それはちょっと可哀想だけど、残念ながら私もそう思う。
「無視もされたんだっけ?」
「お茶会に、私だけ呼ばれなくて……」
「そのお茶会のメンバーとは、元々仲良しだったのかい?」
「私は仲良くしたいと思っていました。男子とも仲良くなりたかっただけなのに、近づくなと言われて、悲しかったです」
うーん、もしかしてシャーロットは、本当に仲良くなりたかっただけだけど、距離感バグってて誤解を産んでたのかな。
ちょっとシャーロットも可哀想だったのかなと思い始めた所で、ウンウン言ってたクインシー殿下が、にっこり笑った。
「それって、誰に言われたの?」
「えっと……」
「監視記録を見る限り、君とローラ嬢って、クラスも違うし全然接点ないよね。ちなみに、君に苦言を呈したのも、お茶会に呼ばなかったのも、君を袖にしたのもクラスメイトだ。あれ?おかしいな、ローラ嬢の出る幕がない。どういうことだろう?」
クインシー殿下容赦ないなー!確かにローラの発言じゃない事はわかってたけどさ!
「今は君が、ローラ嬢に何を言われ何をされたかって話を聞いたんだよ。一旦関係ない人の話は置いておこうか」
「……ぐずっ」
あららー。シャーロットマジ泣きしちゃったよ。これはもうお話にならないのでは。
「別に責めているわけではないよ。君の話もちゃんと聞かないと、公平性に欠けるからだ。わかるかい?」
「……ぐすっ。はい」
「それではローラ嬢に言われたことを教えてくれるかい?なるべく思い出して、言われた通りに話してもらいたい」
「えっと……ギャリー様は、私と婚約しているのをご存知ですかって」
「ふんふん、それで君はなんて言ったの?」
「知ってますって」
「そうしたらローラ嬢は?」
「もういいですって」
「なるほどなるほど」
「いきなり話を打ち切られて、悲しかったです。同じ人を好きになったんだから、仲良くなれると思ったのに………」
ぶっ飛んでるなぁ。普通仲良くなれないでしょ。でもシャーロットはローラとも仲良くする気だったのか。だとしたら可哀想だけど、無理だろうなぁ。
ローラを見ると、ローラも困惑していた。そんなローラに、クインシー殿下が確認すると、ローラは「仰る通りです」と肯定した。
「ほらやっぱり!ローラがいじめていたんじゃないか!」
いきなりギャリーが叫びだすのでビックリした。ギャリーは叫ばないと話が出来ないのかな?
今度はクインシー殿下がギャリーに向いた。
「君はローラ嬢の発言をいじめと受け止めたんだね」
「そうですよ!シャーロットが泣いていたんですよ!」
「確かにシャーロット嬢は悲しかったんだと思うよ。仲良くなりたい相手に嫌われたら、誰だって悲しい。ただね、ローラ嬢に関しては、いじめではないんだよ。これは単なる見解や価値観の相違だよ。お互いに考えていることが噛み合わなかった。求めたものや不快に思うことが違った。それだけの事だ。もしかしたら、シャーロット嬢が行動に移す前に、ちゃんと自分の気持ちを伝えられていたら、友達も出来たかもしれないよ」
クインシー殿下の話を聞いて、辺りは神妙な空気に包まれた。シャーロットの突飛な行動に周りは驚いて、腹を立てて拒絶してしまった。それにシャーロットも自分の気持ちを伝えずに行動していた。これは不幸な衝突だ。
シャーロットが気持ちを言葉にして、周りもシャーロットの話を聞く事が出来たら、受け入れる人もいたかもしれない。
それにしても、クインシー殿下が「ローラ嬢に関しては」と限定したものだから、シャーロットのクラスメイトは真っ青になっている。彼らのした事はいじめに該当すると、クインシー殿下が暗に言ってるようなものだからね。
あちゃー、トーマスも青い顔してる。トーマスは結構気が強いから、多分何か言ったんだろう。後で慰めてやるか。
「わかるかい?シャーロット嬢とローラ嬢は、ただ気が合わなかっただけだ。それはいじめとは呼ばないんだよ」
「……そうなんですね。知りませんでした」
「今日覚えたから良いじゃないか。また一つ賢くなれたね。ローラ嬢に謝って欲しいかい?」
「私と気が合わなかっただけなら、悪い事はされていないと思うので、いいです」
「じゃあ、いじめについては以上でいいかな?」
「はい」
クインシー殿下が上手くまとめてくれたので、ホッとした空気が流れた。だが、この話はまだ終わりではない。