4-32 婚約破棄1
ついに社交シーズンが終わりを迎える今日。学園の前期が終了するので、今日は終業式だ。
ちなみに期末テストも終わって、パーシバルはやっぱり1位だった。私はパーシバルに勉強を教えて貰えたので、順位が7位に上がった。いぇい!
終業式が終わって、学園は3ヶ月のバカンスシーズンになる。だから、学園生はほぼ全員領地や家に帰る。
寮から荷物を運び出している学園生や、しばしの別れを惜しむ学園生で、校門前の広場は人がひしめき合っていた。
私もニコール様と殿下を馬車までお送りしていたんだけど、その時人混みの中で、ギャリーの声が聞こえた。というか叫んでいた。
「ローラ・アンガス子爵令嬢!貴様は俺の愛するシャーロットをいじめたそうだな!お前みたいな性悪とは結婚出来ない!俺はお前との婚約を破棄し、シャーロットと婚約を結ぶ!」
あまりのことに、ニコール様とジョナサン殿下も、目を丸くしている。
様子を見に行きたいけど、人が混雑してる中でニコール様を置いていけない。どうしよう。と、オロオロしていたら、ニコール様もわかっていたのか、「行きましょう」と、歩き出した。
広場には沢山の人がいたので、なんだなんだと集まってきて人だかりが出来ている。
「道を開けなさい!ジョナサン殿下とニコール様のお通りよ!」
私が声を上げると、ジョナサン殿下を確認した学園生達が、ざざざーっと道を開いていく。
そして開けた先には、シャーロットを抱きしめたギャリーと、真っ青になって震えるローラがいた。
可哀想に、人前でこんな事するなんて、あんまりだ。
「ローラ様、こちらにおいでなさい」
「シヴィル様っ!」
小走りで駆けてきたローラは、私に縋りついて泣き出してしまった。
本当に酷いことするわ。ぶん殴ってもいいよね!腹立つ!
泣きつくローラの髪を撫でながらギャリーを睨みつけると、ギャリーはちょっと後ずさった。
「これはなんの騒ぎだ?」
ジョナサン殿下が問いかける。ギャリーもシャーロットも黙ったままだ。なんか言えよ。
すかさずバーソロミュー様がやってきて、かくかくしかじかと伝える。
「そちらのギャリー・アーモンド伯爵令息が、ローラ・アンガス子爵令嬢を呼び止め、いじめを理由にした婚約破棄と、そちらのシャーロット・ジョンブリア辺境伯令嬢との婚約を宣言しました」
「はぁ……耳を疑ったが、どうやら私の耳は正常だったようだな」
「残念ながら」
やれやれとジョナサン殿下は首を横に振って、扇を開いたニコール様は、ゴミを見るような目でギャリー達を睥睨した。
「シヴィル嬢、例の資料を」
「はい」
今日は私もニコール様を見送った後は直帰するつもりだったから、鞄を持っていて良かった。私は鞄から取り出した資料を、ジョナサン殿下に渡した。
かなり分厚い資料だが、ジョナサン殿下はパラパラとめくって読んでいく。
周りはしんと静まり返って、それを見守っている。
ぱらり、ぱらりと紙をめくる音だけが響く広場は異様な雰囲気だ。
しばらくすると、ジョナサン殿下は顔を上げた。
「この資料は、ギャリー・アーモンド伯爵令息、シャーロット・ジョンブリア辺境伯令嬢、ローラ・アンガス子爵令嬢の監視記録だ」
ジョナサン殿下の言葉に、ザワっと周囲が動揺した。
驚きで涙が止まったらしいローラが、顔を上げて私を見た。私は安心させるように微笑んで頷いた。ローラも戸惑いながら頷いた。
「ギャリー・アーモンド伯爵令息とシャーロット・ジョンブリア辺境伯令嬢は、問題行動が多いとの事で監視をつけていた。関係上、何らかの被害を被ることも懸念されたことから、ローラ・アンガス子爵令嬢にも監視をつけていた」
説明を聞いて、周りの学園生はホッとしていた。監視されるなんて嫌だもんね。でも、監視なんか余程の事がないとしないから大丈夫だよ。
「この監視記録によると、ローラ・アンガス子爵令嬢がいじめをした記録は一切ない」
「嘘です!シャーロットはいじめられたと言ってるんですよ!」
「では具体的な内容を聞かせてもらおうか」
噛み付いてきたギャリーに、ジョナサン殿下が問うと、代わりに口を開いたのはシャーロットだった。
「本当です!私はいじめられたんです!」
「その内容を聞いている」
「信じて下さい!私、本当に辛くて……」
「だから、内容を説明しろ」
「殿下まで私をいじめるんですかぁ……」
「だから……はぁ……」
あまりにも会話が成立しなくて、ジョナサン殿下が白旗を上げてしまった。どこかから「ぶはっ」と吹き出す声が小さく聞こえた。どうせまたクインシー殿下が笑ってるんだろう。全くあの人は……。