4-27 クインシー・ローシェンナ・アズメラの暗躍
その頃の皇城。季節は春を過ぎつつある。暑さが増してきたので、日陰になっている四阿で、お茶を飲む2人の男女がいた。
四阿の傍には池があり、池には睡蓮が咲き誇っている。時々魚が跳ねる水音が涼やかで、清涼感のある景色だ。
「それにしても、こんなにも上手くいくとはねぇ」
「だから言っただろう?」
第1皇子クインシーと、婚約者のシルケが、お茶をしながら話すのは、パーシバルとシヴィルの事だ。
実の所、パーシバル救出からシヴィルの婚約まで、クインシーは計画していた。
「いくら釣り書を送り付けても、あのじゃじゃ馬が素直に婚約する訳がないんだから」
「それはそうだけどぉ、まさかパーシバル様が、あんなにメロメロになるとはねぇ」
「そりゃぁ、あれだけの美人さんに、あれだけ格好良く助けられたらね」
「確かにねぇ」
クインシーも当然、シヴィルを皇族側に引き込む気でいた。しかしシヴィルは、どんな相手が釣り書を送っても、首を縦には振らなかった。
そこでクインシーは考えた。ある種のハニートラップである。
パーシバルは最初から身内に引き入れる気だった。
だが、何度誘っても中々返事をしてくれなかった。何度目かで、ついに断られた。それから更に何度目かで、家庭の事情だと教えてくれたが、その内容までは教えてくれない。
第5を使って家の事情とやらを調べて、その内容には驚愕した。
パーシバルを自陣に引き込むために、可能な作戦を幾つも立てて、法務院に法律を確認したり、引き続き第5に虐待の証拠を集めてもらった。
そうやってある程度準備はしていたのだ。
そこでシヴィルの婚約問題が出てきた時、これは使えるのではと思いついた。
憐れなドアマットヒーロー、颯爽と救い出すヒロイン。これは恋に落ちるのでは?
そして実行してみたら、ビックリするくらい上手くいった。
「パーシバル、東部貴族、剣聖を一気に獲得できてラッキーだったよ」
「大勝利ねぇ……」
シルケはどこか呆れ顔だが、クインシーはご機嫌だ。
「それにしても、シヴィル嬢が自信満々に任せなさいって言った時は、危うく笑いそうだったよ。あの自信、どこから来るの?」
「あぁ、それがねぇ、殿下がどうにかなさいますわよね、とか言ってたわ」
「うわー、僕信用されてるなー」
「中々いい性格してるわよねぇ」
「人任せにするつもりで、あんなに自信満々になれるのか……ぶふっ」
シヴィル渾身のドヤ顔を思い出して、クインシーは思い出し笑いが止まらない。
とはいえ、目的は果たせた。シヴィルが間に入ってくれたお陰で、予想以上にビリジア侯爵が協力してくれたのも良かった。
「さて。パーシバルを失ったアーモンド伯爵家は、どうなるかな?」
「どうせ予測出来てるんでしょう?」
「まぁね」
「シルケにも教えてぇ」
「まだダメ」
「んもぅ、クインシーのケチ」
拗ねる婚約者を宥めながら、クインシーはニヤリと人の悪い笑みを浮かべるのだった。