4-21 ドアマットヒーロー1
私達は学園の掲示板の前に立っていた。今日は前期中間試験の結果発表だ。飛び級した特待生の扱いなので、勉強頑張ったけど、結果を見るのが怖い!どうか上位でありますように!
祈りながら、そろそろと掲示板を見た。
1位 パーシバル・アーモンド
2位 クインシー・ローシェンナ・アズメラ
3位 シルケ・ヘルブランディ・アルテナ
4位 コンラッド・ブロンザー
5位 ガブリエル・シルバリー
6位 ジョナサン・スカーレット・アズメラ
7位 ニコール・シルバリー
8位 ミカエル・スカーレット
9位 シヴィル・ホワイト
あ、危なかった!ギリギリだった!ちなみに上位はほぼ両殿下の取り巻きが席巻している。ちょっと優秀すぎない?
「今回もアーモンド伯爵令息が1位かぁ。どう頑張っても勝てないなぁ」
そんなふうにボヤいたのは、第1皇子のクインシー殿下である。クインシー殿下の仰りようを聞く限り、毎回負けているようだ。
確かアーモンド伯爵令息は、下位貴族クラスの上位クラスだったはず。クインシー殿下を悔しがらせる位だから、伯爵にしとくのは勿体なさそうな人材ね。
「ねぇ、シヴィル様。シルケのお願い聞いてくれる?」
そんな事を言って、可愛らしく首を傾げるのは、クインシー殿下の婚約者である、花の国の王女殿下シルケ・ヘルブランディ・アルテナ様だ。ちなみに隙あらばクインシー殿下の腕にぶら下がっている。
「どのようなお願いでしょうか」
「1位のお方と結婚して?」
「……」
予想外過ぎて絶句した。いや、わかる。陣営に取り込みたいんだよね。わかる。でもちょっと待って。唐突過ぎてビックリしてるから。
「……クインシー殿下は、お声掛けなさっていないのですか?」
「してるよ。彼も文官希望らしくてね。でも断られたんだよ」
「殿下直々の勧誘をですか?」
「そう。少し込み入った事情があってね。詳しくは後で話すよ」
「はぁ……わかりました」
放課後にサロンで聞いた話はこうだった。
アーモンド伯爵令息は長男で、下に弟と妹がいる。アーモンド伯爵令息は前妻の子で、弟妹は後妻の子だ。
この弟妹、弟は同い年で、妹は2歳下。しかも弟と妹は連れ子ではなく、伯爵と後妻の子ども。これもまぁなくはない。私やルサルカお姉様なんかまさにそれだ。アーモンド伯爵も、愛人を後妻にしたようだ。
しかし問題なのはここからだ。本来アーモンド伯爵家は、長男の彼が継承する。だと言うのに、アーモンド伯爵も後妻も次男に継がせる気でおり、次男もそのつもりらしい。
「あれほど優秀な方を差し置いてですか?」
「前妻の子よりも後妻の子どもの方が可愛いんだろうね」
そんなことってある?仮に次男の方が優秀だからと言うなら理解できるけど、次男は別に優秀ではないらしい。実際下位貴族の最下位クラスにいる。なにそれ。
しかも、元々長男の婚約者だった人は、相手を次男にスライドさせられており、更に長男の彼が次男の補佐をするように指示されているとの事。
なので、長男は家督を継げなくても、せめて文官になって家から出たいと願っていても、願書を捨てられたり家に閉じ込められたりして、妨害される可能性が高い。
それって絶対彼に働かせるだけ働かせる気だよね。
「信じられないことですわね。婚約者の方やその家は反対なさらなかったのですか?」
「婚約者の方から次男がいいと婚約破棄したらしい」
「酷い話ですわね」
「全くだ」
アーモンド伯爵家は、総出で長男から略奪搾取する気らしい。そりゃシルケ殿下が結婚しろと言うわけだ。彼を救い出すために、私ほど格好の人材はいない。腕力はなさそうだけど、学力は私より上だから、反則っぽいけどある意味条件も満たしている。
でも、会ったこともない相手と、可哀想だから結婚しようとはならない。一応私はシャモア男爵だけど、実家との兼ね合いもあるし。
「確かアーモンド伯爵家は、東部貴族でしたわね?」
「そう。ビリジア侯爵の寄り子。ビリジア侯爵夫人は、君の叔母だよね」
「ええ」
ビリジア侯爵には義父の妹が嫁いでいる。そこからアーモンド伯爵家に圧力をかけられないかな?
考え込んでいると、ニコール様のお兄様であるシルバリー公爵令息が言った。
「ひとまず本人と話してみては?」
「そうね!彼の意思も聞いた方がいいわっ」
シルケ殿下も同意する。確かに本人の意思を無視して話を進めるのは良くないかも。
「わかりました」
「では僕がセッティングしよう。また連絡するよ」
「はい」
思わぬところから結婚話が出たなぁ。でも、結婚云々は置いといて、さすがにアーモンド伯爵令息の境遇は不遇すぎる。どうにか出来るならしてあげたい。
彼を側近にしたいクインシー殿下の事もある。彼ほど優秀な人を埋没させておくのは国の損失だ。
これはみんなにも協力を仰ぐべきね、と思ったら、後は私の返事待ちで、みんな知ってるらしい。
まずは私がアーモンド伯爵令息と面談して、それからクインシー殿下が作戦を立てるとのこと。
何気に責任重大だわ。さて、アーモンド伯爵令息は、どんな人だろうか?