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その聖女、ゴリラにつき  作者: 時任雪緒
第4章 学園生時代
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4-20 英雄達の茶会3

卑しいネズミを追い払って、またホールへ戻った。挨拶回りが途中だったから、また再開だ。もうオッサンテーブルには近づきたくない。


次は癒しのご令嬢テーブルだ。こちらのご令嬢達は素晴らしい事に、低位貴族でありながら、ご両親は率先してサポートに回り、彼女達自身も様々なサポートに奔走したのだ。なんて素晴らしい心意気。


「今日は来てくれて、本当にありがとう」

「そ、そんな!」

「本当に私なんかが、良かったんですか?」

「私なんか、なんて。そんな風に言わないでちょうだい。あなた方やご両親が、どれほどあの時頑張ったか。こんなに素晴らしいことはないわ。あなた方のサポートがなければ、私も安心して戦えなかった。あなた方のおかげよ。あの戦いの勝利は、私達みんなで勝ち取ったの」

「……ぐすっ」

「シャモア男爵……」

「本当に感謝しているの。今日は、剣聖と共に戦った英雄のお茶会よ。一緒に戦ってくれて、ありがとう」

「はいっ!」


あーん、もう。やっぱり女の子可愛いわー!

感激して泣いちゃった令嬢達に萌えていたら、近くに誰かが寄ってきた。


「もう。シヴィル様ったら、ご令嬢にもモテモテですのね?」

「剣聖殿は、実は結婚する気がないのでは?」


そんな事を言いながらやってきたのは、キンバリー・ジョンブリア辺境伯令嬢と、ディラン・コバルト侯爵令息だ。そういえば2人は婚約してたな。


「結婚する気はあるのよ?でも、私より強い殿方は、中々いらっしゃらなくて……」

「……それもそうですわね」

「……その、なんだ。こう……ホワイト第3にはいなかったのですか」

「いなかったわ」

「終わった……」

「勝手に終わらせないでちょうだい」


私より強い男と結婚したいというのは、ものすごいハードルになってしまった。

話が聞こえていたオッサン達も、賭けにならんと諦めた。


当然近くにいたご令嬢方にも聞こえていた。その内、モップ片手に着いてきてくれた男爵令嬢モニカが、おずおずと口を開く。


「えっと、グレイ伯爵よりも、お強いのですか?」


その言葉に、事情を知っている人は硬直し、知らない人は沸き立った。


「あらまぁ!」

「お似合いではなくって?」

「実際どっちが強いんだ?」

「それは流石にグレイ伯爵では?」

「いや、剣聖殿のスピードをもってすれば、魔術を発動する前に切り捨てることも出来るのでは」

「そういえばグレイ伯爵は、武闘会には出場していなかったが……」


視線がグレイ伯爵に集まる。そしていつもの如く、彼はガン無視した。


「……まぁ、グレイ伯爵は、このような話題に興味はないか」

「そうだな……」


何故か自然に沈静化した。私は大慌てさせられたと言うのに、グレイ伯爵はガン無視で落ち着くなんて。解せぬ。



しばらく挨拶回りをして、それが終わって自分の席に戻った。挨拶回りだけで結構疲れた。私の席は周りを家族で固めているので、ちょっと気を抜くことが出来る。

ようやく私もお茶と軽食に手をつけた。今日のお茶は3種類用意した。クインシー殿下がお好きな古花茶、ジョナサン殿下がお好きなローギョク茶、私が好きなサンピン茶。

まずはローギョク茶を貰う。緑色が目に優しい。ほっこりするねぇ。


お茶を飲みながら話をして、それとなく会場の様子を伺うと、それなりに盛り上がっているみたい。

女の子達は恋バナ、ご夫人方は子育ての悩み、オッサン達は仕事の話、男の子達は誰が1番可愛いか話してる。私やニコール様なんかは高嶺の花過ぎて論外らしい。聞こえてるよダンスィー!そこは論外じゃなくて、殿堂入りみたいな扱いにしてよね。


でも、のんびりお茶しながらおしゃべりするのって楽しいな。ホストは大変だけど、お茶会は好きかも。

このサンドイッチのレバーパテも、頬が落ちる程美味しいし。


「ゴールディ公爵閣下の茶々入れには参ったと、思っていませんか?」


トーマスに言われて、私は首を傾げた。


「思ったわ。違うの?」

「悪戯心もあったかもしれませんが、あれは姉様の求婚者を減らそうとしたのでしょう」

「ええ?」

「考えても見てください。彼は公爵です」


言われて考える。ゴールディ公爵が求婚していると知った他の貴族はどう思うだろうか。

もしも自分が選ばれたら、公爵を敵に回すと恐れるのではないか?


「なるほど……ある意味助かったのかもしれないわね」

「でも、いつまでもこのままにもしておけませんよ?」

「そうなのよねぇ」


今現在、釣り書を送ってきた人の大半が、私の容姿を気に入っただけだ。でもその後にスタンピードが起きて、私の価値が変化した。ゴールディ公爵の茶々入れもある。

だから、容姿を気に入っただけの人達の殆どは、現在の私は手に余ると辞退するだろう。


問題はゴールディ公爵のように、政略100%で申し込んできた人だ。彼らにとっては、私の価値が多少上昇したにすぎない。

むしろ下位貴族の次男三男にとっては、男爵当主の夫になれるのだから、その点でも狙い目だろう。


「そろそろ真剣に考えた方がいいでしょうね」

「面倒くさい……」



私が頭を抱えていた頃の男子テーブル。



「はぁ……やっぱり剣聖殿は綺麗だなぁ」

「癒されるな……」

「でも辺境伯令嬢で男爵で称号持ちの騎士だよ?俺達なんか相手にされないって」


武力も家格も財力も低めの彼らにとっては、シヴィルは正しく高嶺の花であった。

花は眺めるものだと痛感した所で、通りかかった少年達が話に加わった。


「そうだぞ、やめとけやめとけ」

「彼女を制御するのは並大抵ではないよ」

「悪い事は言わない。やめておけ」


そんな風に言って恋路を邪魔しに来たのは、ディラン・コバルト、ザカライア・セラドン、バーソロミュー・スレートである。


「あの、その、もちろん身の程は弁えて……」

「いや、そうじゃない。君達にはなんの問題もない」

「えっと?」

「問題なのは、彼女と彼女の周辺だ」

「どういう事ですか?」

「いや、誤解させたかな。彼女自身の人柄にも何も問題はないんだが……」

「そうだな。彼女は面倒見もいいし、親切だし善良な淑女だと思う。でもなぁ……」


要領を得ない言葉に、低位貴族の少年達は首を傾げる。上手く言葉に出来ないザカライアとディランに代わり、バーソロミューが言うことには。


「彼女が領地にいた頃から、現在でもそうですが、彼女は剣に関しては全く妥協しません。恐らく騎士限定でしょうが、それを他者にも強要します。騎士は命を懸けて民を守る義務があるので、妥協は許されないと信じきっているようです」

「うわぁ……」

「あれ、そういえばサークルをしてましたよね」


サークルに所属しているディランとザカライアが、どことなくゲッソリしている。


「毎日が地獄だよ……」

「でも剣聖殿は真剣に、真心込めて、善意でやってるんだぜ……」

「うわぁ……」


疲れ果てた様子の2人に、少年達も憐れみの視線を向ける。


「また、彼女を決して怒らせてはなりません。彼女は騎士以下の若手からは、非常に恐れられています。新人はまずシャモア男爵に逆らってはならない事を教えこまれたそうです」

「そんなに怖い人には見えませんが?」

「確かに。剣聖殿が怒った所なんか見た事がないぞ?」

「サークルでも、怒鳴ったりした事など一度もないが」


これはザカライアもディランも知らなかったようだ。2人の言う通り、普段シヴィルが怒ることはない。と言うより、怒る原因を作るような人間が周りにいない。


「領地にいた頃、仕事をサボる小姓がいたそうで、それをシャモア男爵が窘めたそうです。それでも小姓は聞き入れず、挙句逆上して彼女を殴り飛ばした」

「は?」

「ご令嬢を殴った?」

「有り得ない……」

「彼女が怒ったのは、流石にその有り得ない事態が最初で最後だったようですが」

「そりゃ怒るだろ」

「ええ。それで怒った彼女は、小姓を蹴り倒し骨折させ、即座に回復した後、小姓が勝手に転んだと言い張りました」

「うわぁ……」

「ちなみにこれは推測だそうです。その瞬間を見ていた人は数多くいましたが、その瞬間を認識できた人はいなかったようです」

「だろうな」


バーソロミュー、ザカライア、ディランでも目で追えないのだ。見えないだろうそれはと納得する。それでシヴィルの言い分が通ってしまったのだろう。


「それで他の若手達は、彼女に逆らえば実力行使が待っていると震え上がって、以降は誰も逆らわなかったそうです。騎士達からは頼もしいと可愛がられていたようですが」

「そりゃ、若手全員纏めてたら頼もしいだろうよ」


いつもニコニコしているシヴィル。キレた彼女が、笑顔で蹴りつけてくる。やりそう。


「怖……」

「12歳当時でそれですから、更に強くなったであろう現在、骨折では済まないかもしれません。絶対にシャモア男爵を怒らせてはいけませんよ。シャモア男爵の武威を鑑みるに、どれ程の高位貴族でも、権力を発動する前に、一族郎党皆殺しも不可能ではありません」

「ひえぇ」

「確かに……」

「気をつけるわ……」

「とはいえ、シャモア男爵は温厚な方ですから、本当に余程のことでもない限り、そんな事にはならないでしょう」

「そりゃまぁわかるけど」

「そんな話知りたくなかった。怖くて仕方ないんだけど、どうしてくれるんだ」


震え上がったザカライアに、バーソロミューはしれっと言った。


「ちなみに先程、茶会に乱入しようとしたご令嬢を、剣の錆にしてやると脅して追い払っていましたね」

「剣聖殿にそんな事言われたら、誰でも裸足で逃げ出すわ!」

「容赦ないな」

「シャモア男爵が怒って当然な出来事ですが、如何せん怖いですからね。怒らせない自信がないのなら、避けた方が無難かと」

「やめときます」

「見てるだけでいいです」


少年達は顔色を青くして、助言を有難く受け取った。

こうしてシヴィルの結婚は更に遠のいた。


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