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第2滴 たどり着いた先はお城でした

 ゆらゆらと揺れる感覚で目が覚めて、目を開けるとそこは何故か真っ暗だった。よくよく見たら黒い高そうな生地に包まれていただけだった。さっきの下草も柔らかくて心地よかったけど、この生地もまた柔らかくてあったかい。


「目が覚めたか?」


 低い大人の男の人の声がして、顔を上げるとさっきの黒くてもじゃもじゃした塊みたいに見えたのは人間だったのだと気付いた。もしゃもしゃしている髭に、ぼさぼさの髪。うん、これは普通の幼女だったら泣くな。私は見た目通りの幼女などではないから大丈夫だけども。


「……だぁれ?」


 我ながらあざといとは思ったが、かわいらしく子どもらしく名を問うてみた。手を動かしてみると金属の何かに手が当たるし、多分これは鎧ではなかろうか。


「む。名を名乗り忘れていたか。俺はレオンハルトだ」


「れおんー、れおん?」


「うむ。レオンでいい」


 ふ、と口の端をあげてレオンハルトと名乗った偉丈夫が笑う。ひぃーイケメン。イケメンじゃないの、これ? もしゃもしゃした髭もぼさぼさの髪も彼の顔が整っているのを隠しきれていないぞ。


「どこ、いくの?」


「俺の城だ。悪いがしばらく隠れていてくれ、街の中を突っ切るからな」


 ? 何か私が見えると都合の悪いことがあるらしい。私はこくんと頷いて、もそもそと黒い生地の中に深く潜り込んだ。暗くなってふんわりと揺れていると眠くなる。私はその揺れと、しっかりと支えてくれている腕の確かさに、何も分からないのだけどとても安心して、うとうとと眠ってしまったのだった。さっき悲鳴を上げたことなんて忘れて。




「領主様!! よくぞ、ご無事で」


 次に目が覚めたのは、ざわざわと彼を囲む気配を感じたからだ。人がたくさん居る気がする。


「時間がかかってしまった。すまない」


「よろしいのです。そちらは」


「うむ」


 そっと揺らされて私はもそもそと生地の中から顔を出す。


「おお!」


「これはまさしく!!」


 周りにいたのは鎧を着ていない文官みたいな人たちが数人と、その後ろに何人かメイドさんたちが控えているのが見えた。皆、とても嬉しそうにしている。


「りょーちゅ?」


 ちゅだって。いや、噛んだだけよ。うん。


「ああ。俺のことだ」


 レオンと呼ぶことを許してくれた男はにっと笑う。ちょっと悪戯に成功した子どもみたいに。ちょっときゅんとした。うん。幼女だけども。


「三日もお戻りになられなかったのです。湯あみの準備を。それから姫君にも同じように」


 一番年かさに見える男性がそう支持を出す。うん。偉い人かな、この人は。

 ここに来る前に読んでいた異世界転生ものの漫画を思い出すなぁ。そうそう、こんな感じでね。異世界にやってきた子は優遇されたりするわけよ。

 でも実際自分がそんな立場になると変な感じ。二十代も後半に差し掛かるかどうかって年齢で、読書と一人旅が何より好きで、毎日適当に暮らしていたのになぁ。なんで、ここにいるんだろう。


「では、こちらへ」


 メイドさんの一人に抱きかかえられてレオンハルト様から引き離されると、何故だか無性に寂しくなった。あたたかい気配が遠ざかってしまったせいだろうか。さっきまでかけてくれていた黒い生地は今更マントであったのだと気付く。ぐるぐるに巻いてくれていたみたい。


「すぐお会いになれますよ」


 私の不安を掬い取るようにしてメイドさんが声をかけてくれる。私はむぎゅっと顔の半分をマントの中に隠して頷くことで答えた。




「かようにお小さい方とは思いませんでした」


 お風呂と言うよりはかけ湯みたいなものだった。お湯であつあつにした布で体を拭ってもらい、新品の衣服に袖を通すとちょっとばかりほっとした気持ちになる。全裸はいかんよ、全裸は。


「髪は一度結っておきましょうね」


 さささっと髪を三つ編みに結ってくれて顔にかかることもなくなって快適。


「さあ、では領主様のところへ戻りましょう」


 そして抱きかかえられた私は領主様の元へと戻ることになった。城というよりは館に近いような作りのその場所は、石造りでしんとしている。引いてあるじゅうたんが無かったらきっと足音がうるさいだろう。


「お待たせいたしました」


「入れ」


 扉が開くと、そこには髭も髪も整えられた美青年がいた。え、誰?


「れおん?」


「ああ。そうだ」


 床に下ろしてもらうと、ためらうことなくレオンハルト様が床に膝をついて私の手を取った。止める間もなく柔らかい幼女のぷにぷにの手の甲に、彼の唇が押し付けられる。


「永らくお待ちしておりました、我らの乙女。ここに忠誠を」


 顔を上げた彼がそう告げても、あまりのことに口がはくはくとして何かを続けることが出来ない。


「こりゃ、レオンハルト」


 ぽこんと音がしたのと同時に手を離されて、私は心臓がうるさいくらいにドキドキしていることに気付いた。浮いた噂のひとつもなかった私には、この状況はあんまりにも刺激が強すぎる。


「おぬしは性急すぎる」


 レオンハルト様の後ろ、おとぎ話に出てくる樫の木で出来た魔法使いが使うような大きな杖を振り回す誰かが見えて、私はそっと体を横に倒してその姿を見る。


「ばばさま、ですが」


「ですがも何もない。わしがまずは話すと言っておいたじゃろうが」


 白髪の小柄な老婆がぷんすこしながらレオンハルト様に怒っている。うん? 誰だろう?


「わしは引退した水の乙女じゃが、導き役としてここに来ておるのを忘れるでないわ」


 知らない言葉がぽんぽんぽーんと沢山出てきて私の頭は疑問符だらけだ。導き役と言っていたから、説明してもらえるのかな? きょとんとする私の目の前ではまだおばば様の説教が続いている。

 私、これからどうなるんだろう?

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