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8‐21 決勝戦! 今、開始します!!

「ついに……ついに、この時が来ました。コロシアム最後の戦い。その試合をするにふさわしい戦士が今……」


「……決勝か。まさか、赤目という存在がこれほどまでだったとは……」



 ――――――



「入場してきました! ミスラ対テオヤ! 赤目と赤目! 強者対強者! 彼らは間違いなく、この場に出てくるにふさわしい戦士でしょう!!」


「来ましたね、キョウヤさん!」と私は振り向くと、キョウヤさんは微笑を浮かべながら「楽しみですね」と返してきた。グレンさんたちが「おーい、ここだ!」と誰かを呼ぶように立ちあがると、ロナさんの手をしっかりつかんだレイシーさんが、彼を見つけてこちらに近づいてくる。


「仕事はちゃんとやったのかレイシー?」とフォードさん。


「ちゃんとやったに決まってるでしょ! 残りは他の人がやるから、決勝くらい見ておけばって言われたのよ」


 フォードさんには相変わらず大きな態度を取るレイシーさん。




「さすがミスラさん。決勝まで勝ち上がるなんて」


 俺の呟きにアミナも「きっと優勝までするはずよ」と身を乗り出し、ヴァルナ―が苦言する。


「けどテオヤの奴も、もう兜を被ってないからな。どうなるのか、俺も想像つかないや」


 試合場に出てきた二人に目をやる。大剣を背中に担ぎ、灰色の髪をポニーテールに縛ったミスラさんが、切り傷のついた顔で威圧感のある目を見せる。テオヤの方も三尖刀を手に、兜の裏に隠れていた狼の刺青いれずみと、ハリウッドに出てきそうな渋い顔から赤い目を見開く。


「長きに渡った決闘祭り。我々は、この時を待っていました。五百五十五人の中から、最強が生まれるその瞬間を。その頂きはすぐ目の前。果たして、どちらが勝利を手にするのでしょうか」


 いつになく静かな声で喋っていくアガー。会場に起こっていたざわめきも、ゆっくり浮かび上がった魔法陣によって、期待の沸き上がりと共に各自の胸の奥に収められていく。


「いよいよだな」と俺は呟く。



「いよいよですね」と私は呟く。




「最強とは何か? 最強にふさわしいのは誰か? 第五十五回決闘祭り。最強決定戦トーナメント、決勝戦! 今、開始します!!」


 司会の残響が空に消えていき、一つ、二つと、炎が消え始めた。テオヤが三尖刀を両手で掴んで三つ目。ミスラさんも両手で大剣を構えて四つ目が消える。そして、最後の一つと同時に、魔法陣は音もなくそこから消えた。


 力強く地面を蹴って飛び出すテオヤ。それをミスラさんがその場に留まったまま、堂々と三尖刀を受け止めた。二つの武器は金属音を鳴らし、睨み合うようなつばぜり合いで観客たちの興奮を誘った。


 ――その瞬間だった。


「なんだ? 地震か?」


 座っていながら揺れを感じる。それも、体が上下に動くような感覚。アミナやヴァルナ―もそれに気づいたような反応をしていて、俺の勘違いではないと理解する。すると試合場に、特大のフィールドすべてを埋め尽くすほどの魔法陣が現れ、それが茶色に淡く光だした。「なんだ!?」と身を乗り出した時、つばぜり合いを続けていた二人の足下の地面が、大きな音を立てて宙へと浮かび上がっていった。


「なんだなんだ!? 誰かの魔法か!?」


 二人のいる浮島のような足場が、観客席と同じ目線まで上がってくる。突然訪れた異常現象はそれだけにとどまらず、元あった試合場からどんどん同じような浮島が乱雑に浮き上がっていく。


「ワッツァッパアアァァッ!!? どういうことでしょう!? 試合場の足場が、どんどん浮き上がっていきます!! こんな予定!! わたくしアガーは聞いておりません!!」


 本来の試合場はもうごてごてのクレーターだらけで、空から見たら色合い的にも、レンコンのような形をしていそうだ。至るところに足場は浮き上がっており、それぞれ高さや大きさがまばらで、破片となって飛んだ小隕石くらいのものだって浮いている。まさに天変地異。まるでこの円の中だけ、無重力の世界に切り替わったかのようだ。


「これ、誰かがやってるってことか? 一体誰が?」


 俺の呟きにヴァルナ―が首を傾げて考え込む。


「この試合場全体に魔力が通っている。並みの魔法使いじゃないぞ!」


 試合場を見渡しても当然、ミスラさんとテオヤ以外には誰もいない。遠目からやっているのだろうと観客席をぐるりと見回すが、全員動揺のお祭り騒ぎで、目立ったことをしている魔法使いはどこにもいなかった。本当に、一体誰が……?


「――この盛り上がりはいかがでしょうか? ガネル国王」


「んん?! ――あ! アマラユ選手!? どうやってここに!?」


 アガーが突然そう叫び、声の出どころに目を凝らす。そこに小さく、石作りの玉座に鎮座するガネル国王の横で、茶色の魔法陣を浮かべているアマラユが見えたような気がした。


「あいつが犯人か!」




「誤解なさらず。彼らに直接危害は加えません。ただ、彼らがここまで勝ち上がっているのなら、これくらいしないと舞台としては地味だと思いませんか?」


 私は冷静にそう語りかける。実際、この場を荒らすだけで、勝敗を変えたいわけではない。その事実をはっきり述べていく。


「ただ見てみたいのですよ、私は。こんな劣悪な場所でも、彼らが戦うことができるのかを」


「ガ、ガネル様、いかがいたしましょうか?」


 赤きオウムがそう聞き、国王はじっと試合場を眺める。一体何を見ているのか私も目を追ってみると、激変した地形に構わず、武器をぶつけ合う二人の赤目が映ったのだった。


「戦いの場などどうでもいい。彼らは既に、戦っている!」


 それを聞いて私はほくそ笑み、もう片方の手から転移の魔法陣を灰色に光らせた。




「ぞ、続行です!! 試合は続行です!! 決勝戦は、変わらず続行となります!!」


 驚くように叫ぶアガーの声に、俺たちはもっと驚きを示してしまう。


「マジかよ!? こんな状況で戦うってのか!」


「無茶よ! こんな不安定な状態で、戦いに集中するなんて」


 アミナもそう言葉を加えてくる。だが、ヴァルナ―は試合場の二人を力強く見つめていた。


「どうだろうな。赤目の戦士にとっては、これくらいが丁度いいのかもしれないぞ」


 途端に場をしらけさせるほどの音が耳をつんざく。反射的に顔を動かすと、ミスラさんの大剣に押されたテオヤが、その足場から吹き飛ばされていた。落下しながら後ろを確認し、くるっと回転しては、そこに浮かんでいた地面に上手く着地する。


 八畳ほどの小さな足場。そこにミスラさんが飛び込んでいき、頭上に構えた大剣を豪快に振り下ろそうとする。パッと身を翻してテオヤが避けるが、拍子に大剣が地面を強く叩くと、一瞬でその足場にヒビが入り、パカッと真っ二つに切れてしまうのだった。


「オオォォ!? なんという怪力! 地形が一つ破壊されたああ!!」


 崩壊した足場が、謎の力を失ったかのようにゆっくりと落ちていく。すぐにその場を離れようと、トラックほどの岩を次々に踏んで移動していくテオヤ。ミスラさんも割った拍子に浮かび上がった破片に手をかけると、大柄な体からは想定できないほど高く飛んでいく。そうして二人が中央の一番大きい足場に戻ると、息つく暇もなく武器を振り合った。


「果敢に攻めていくテオヤ! それに対し、その場に留まり、山のように受けて立つミスラ! 両者とも一歩も譲りません! まさに猛烈な攻防戦!!」


 鳴り続ける金属音が、あまりの速さに何重にも重なって聞こえてくる。その一つ一つが重みのある強い音であると、宙に飛び上がったテオヤが、頭上からミスラさんを狙った。縦に切り裂こうとした三尖刀は大剣に阻まれる。その一瞬でミスラさんが眉を寄せると、腕の筋肉のふくらみが見えるくらい、全力で大剣を振り切った。


「うお!? たっか!」


 反動でテオヤが空高くまで飛んでいき、審判のウグーもすぐに通り抜け、まるで外野フライに飛んだ野球ボールのように俺たちは見上げてしまう。それでも、彼の瞳がしっかりと真下を向き、赤い目でミスラさんを捉えていた。次第に消えていく勢い。やがて落下し始めると、テオヤは顔くらいある小石たちを切り落としていき、ミスラさんに向かって一直線に落ちていった。そして最後に、三尖刀を心臓を刈り取る勢いで突き出した。


 大剣の面から、鉄が割れてしまいそうな音波が響き出す。鳴ってはいけないような、黒板を引っかくような嫌な音。途端に、ミスラさんの足元からズガッ! と地響きが鳴ると、なんと二メートルの体が地面を突き抜けるように吹き飛んでいった。


「ぬおおおぉぉ!!? 地形を突き抜けた!? 一体どこにそんな力が眠っているというのか! これは勝負あったかあ?」


 ドスンッ、と落下した音をバックに、アガーはそう叫ぶ。俺も大丈夫なのかと、一番下、本来の試合場に立ち昇った土煙を眺めたが、そんな心配はいらないと告げられるように、ミスラさんは大剣を振って煙を晴らした。


「うおお立ってる! マジかよミスラさん!」


 興奮のあまり大声を出す。腕や手の甲からは、地中のがれきにでき引っかかったのか、わずかに魔法の効果が発動しているが、本人は空高く見下ろすテオヤにガンを飛ばし、まだやる気だと顔で語っていた。


「まだ終わっていません! 強烈な一撃を受けた後でも、彼はまだ立っております!」


 テオヤのいる足場まで五メートルほどか。どうやって行くのか俺は気になったが、ふと、ヴァルナ―やアミナではない、全く別の声が聞こえてきた。


「まだ立っていられるのか! さすが魔剣レッドフリーズを打ち砕いた男だ!」


「ん?!」と俺は振り返り、二人も一緒に同じところに目を向けた。俺たちの目に映ったのは、ヴァルナ―の隣に足を組んで座り、右手の平から茶色の魔法陣を浮かばせているアマラユだった。


「お前!? どうしてここに!?」


 驚く二人から代表して俺はそう聞き、アマラユのツリ目が俺を見てくる。


「転移の魔法が使えるのでね。空いていたこの席にワープさせてもらっただけだよ」


「いつの間に!」とアミナ。ヴァルナ―も「気づかなかった」と冷や汗をかいていると、アマラユはまた試合場を見て、浮かんだ魔法陣の手をそっと軽く持ち上げた。


「戦う意志があるのなら、私も手伝ってやらないと」


 魔法が効果を発揮しようと光り輝く。すると、ミスラさんが立っていた場所が揺れ出し、一人分の足場が彼を連れてテオヤの前まで浮かんでいった。


「さあ、赤目の男よ。限界を超えた力を見せてくれ!」

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