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8‐7 戦うための組み合わせ(トーナメント表)

 エキシビションマッチで盛り上がるベルディアコロシアム。その控室では、予選を勝ち残った十六人の戦士たちが集められていた。陰の人間としての力を存分に発揮した俺も、予選突破した戦士として、石作りの固いベンチに座っていた。隣からはグルマンの刺すような睨みがずっと飛んできていて、横目に見ながら冷や汗が止まらなかった。殺気に満ちた眼差しからは、どうやって俺を殺すかじっくり考えてるようにしか見えない。部屋で待機命令を出していた係の獣人が、果たしていつ帰ってくるのやら。


 俺とグルマン以外に部屋の中にいるのは、豪快に暴れていたミスラさんは当然として、ラシュウにユリア。三英雄のラグルスにカルーラ。臣下のアミナも残っていれば、アストラル旅団のロナとベルガや、俺に三尖刀を突き付けた兜の男。しまいにはチャルスもこの場にいた。この面子の中で一番浮いている存在は、間違いなく俺か彼だろう。


 それにしても、見知った顔が多いのは気のせいだろうか。俺の知らない人を数えたらたったの四人だけで、狐の獣人とパンダの獣人、黒豹の獣人に関しては、女性用のしっかりとした鎧を着ていて、その目をギラギラと輝かせていた。そして、残りの一人は意外なことに、魔法使いトーナメントで優勝したあの男。黒装束赤メッシュのアマラユだった。魔法だけでなく武術の才能もあるというのだろうか。経歴も不明なあたり、なんとも胡散臭い人間にも見えてしまう。


「お待たせしました、皆さん」


 やっと係である犬の獣人が部屋に現れると、一つの箱とトーナメント表が書かれた紙と羽ペンを持ってきた。それらを真ん中にあった机に置くと、彼は俺たちに説明を始めた。


「これから皆さんには、本選トーナメントで戦うための組み合わせを作ってもらいます。決める方法としては、この箱の中にクジが入ってますので、皆さんにはこのクジを引いてもらって、出た数字をこのトーナメント表に当てはめたいと思います」


 俺たちはそれぞれ顔をうなずかせると、係の獣人は「順番は自由ですが、誰から引きましょうか?」と聞き、最初にベルガが立ちあがった。


「おし。先に引かせてもらうぜ」


 ベルガの手が、箱に作られた穴に入っていく。その中でもぞもぞと手探りをして一枚を見つけると、それを取り出して書かれているものを見た。


「なんだこれ。なんも書いてないぞ?」


 開いた紙を見ながらそう言うと、係の獣人が口を開いた。


「早速引きましたね。それは選択枠です」


「選択枠?」


「トーナメント表の空いてる枠がありますよね?」


 言われた通りトーナメント表を見てみると、十六人分の空きが作られた中に、それぞれ数字らしき簡易的な文字(当然読めない)が書かれていたが、そのうちの四隅よすみだけは何も書かれていない空欄だった。


「選択枠を引いた方には、数字が空いている四つの中から、ご自分でどこにするかを最後に選ぶことができるんです」


「ふーん。ってことは、自分とやりてえ奴がいたらそいつを選べるってことか。面白いことするじゃねえか。よっしゃ。次はロナ、お前が引けよ」


「私? ……まあいいけど」


 周りの俺たちの様子を伺ってから、ロナが立ちあがってクジを引く。


「……十五ね」


 取り出した紙を確かめながら、係の獣人がトーナメント表の空きに名前を書いていく。その下に数字のない空欄、つまり選択枠があるとベルガが「うお? こいつはいいなあ」と呟いていた。


「十五番はロナさんと。では次、お願いします」


 係の獣人の進行に、ベルガが俺を見てくる。


「メンマ。次はお前が引けよ」


「……もしかして、俺のことか?」


「他に誰がいるんだ?」


 どこにもそんな奴いねえよ。心の中でそう思いながら立ち上がる。机の上に置かれた箱にさっさと腕を伸ばし、何枚かある紙きれの群れをまさぐっていく。そうしてこれだと思ったものを引き出し、紙に書いてある数字に目を通した。


(読めねえ……)


 どうすることもできなかった俺は、係に「これです」と紙を見せる。


「はい。二番ですね。二番はここになりますね。ハ、ヤ、マと」


 トーナメント表の左上の枠に、俺の名前らしき文字が書かれる。その隣の枠は空欄で、選択枠を引いた誰かから選ばれる側となったようだ。


 ――もしもグルマンが引いてしまえば。


 不穏な思惑が頭をよぎったが、この時点で確率は十三分の三。そんな都合よく当たるわけがないと謎の自信を持つと、係はまた「次の方、お願いします」と言って催促してきた。俺と入れ替わりに見知らぬ獣人、上半身の筋肉を晒した狐の男が立ちあがると、さっさと一枚のクジを引いた。


「五番だ」


「はい。五番はラーユさん」


 今度はパンダの獣人が同じようにクジを引く。


「僕は十番です」


「はい。十番にポチさん。次、お願いします」


 残り十一人の中「そしたら」とアミナが切り出す。


「次は私たちが引きましょう。ミスラさん」


 その誘い、隣にいたミスラさんが一緒に前に出てくる。そして、アミナが先にクジを引くと、白紙の紙が出てきた。


「あ、選択枠だ」


 すぐにミスラも一枚取り出す。


「……六だ」


 そう言った瞬間、先に五番を引いていたパンダの獣人が、後ろで「ヒッ!?」と小さく震えあがった気がした。予選で暴れていたミスラさんだ。きっと当たりたくなかったのだろうと、心の中で同情する。


「次はアタイだ」


 そう言って立ち上がったのはカルーラで、おもむろに入れた手ですぐにクジを引き出す。


「十一番だ」


 数字を聞いて係の獣人が手を進めると、ラグルスも立ちあがる。


「ほう十一番か。そしたら俺は、なんとしてでも十番を引かないとな」


 カルーラの横に立ち、箱に手を入れて一枚のクジを引く。


「ん、選択枠か。って、カルーラのところ選べねえじゃねえか」


 愚痴をこぼすラグルス。カルーラの枠の相手は数字があり、選択枠では選べない場所であった。


 気が付けば、トーナメントの組み合わせも残り半分を切っていた。今のところ、選択枠を引いたのはベルガとアミナとラグルス。この三人ともう一人が、俺の対戦相手の候補になるわけだ。


「師匠がいったならオイラもだ」


 軽く跳ぶように立ち上がるチャルス。気合だけは誰にも負けない様子でいると、さっとクジから一枚取り出した。


「十番だ」


「はい。チャルスさんが十番。次の方」


 係の獣人が顔を上げた時、既に顔を兜で隠したテオヤがクジを引いていた。


「十四番。テオヤだ」


「あ、はい。テオヤさんですね。十四番と」


 用を済ましてさっさと元の位置に戻っていくテオヤ。次に出てきたのは、魔法大会の優勝者、アマラユだった。


「……三番だな」


「はい。アマラユさんが三番」


 せっせと羽ペンを進める係の獣人。その間に黒豹の獣人が立ちあがった。


「……十二番、ネイブ」


「はい、十二番にネイブさんですね……あれ? そう言えばネイブって、どこかで聞いたことあった気が?」


 係の獣人がゆっくりと顔を上げる。それにネイブは「人違いでは?」と吐き捨てると、さっさとベンチに下がっていった。その裏で、彼女が座るまでの行動を、なんとなくラグルスがキツイ目つきを向けていたように見えたのは気のせいだろうか。


「す、すみませんでした。次の方」


 すぐさま係がそう進める。残っているのはあと三人。グルマンとラシュウとユリアのみだった。俺も引いたというのに、意外にグルマンが動かないものだと思っていると、グルマンがその口を動かした。


「俺は最後に引くと決めている。お前たち二人が先に引いてくれ」


 その言葉にラシュウが黙って立ちあがると、先にクジを手を伸ばした。


「……七番」


 彼がそう呟いた瞬間、アミナの体が反射的にビクッと揺れた気がした、七番と数字の隣が、空白の選択枠だと気づくと、すぐにユリアもクジを引き、その紙を係の獣人に見せていた。


「十三番ですね。お名前は確かユリアさんでしたっけ?」


 それにコクリとだけうなずくと、ユリアはラシュウを追ってベンチに下がっていった。この時、俺は隣でグルマンが不適な笑みを浮かべていた。


「フッフッフ。これはもはや運命かもしれんなぁ、小僧」


「う、運命?」


 気持ち悪い発言に俺は少し身を引いてしまう。だがすぐに何かを思い出すと、俺は「まさか」と呟きながら血の気が引いていった。


「気づいたか小僧? 箱のクジは残り一枚。それに対し、トーナメント表の残りは選択枠のみ。そして、クジを引いてはいないのはもうワシだけ」


 滲みよってくる悪寒に背筋が震えてくる。運命のイタズラというものだろうか。想定外の出来事に手汗まで出てくると、それにグルマンが顔を近づけ「覚悟はできてるよな、小僧?」とはっきり言ってきた。


「マジ……ですか……」


 箱から最後の一枚を引くグルマン。当然その紙に何も書かれていないと、係の獣人はこう言った。


「はい。全員引き終わりましたね。そしたら、選択枠を引いた四人の方には、どこにするかを選んでいただきます。まずは先に引いたベルガさんからどうぞ」


 それにベルガが待ってましたと言わんばかりに口を開く。


「もちろんロナのところだ。ついにこの時が来たぜ」


「十六番の枠ですね。そしたら次は、アミナさん」


 聞かれたアミナが緊張しているように見えると、ゆっくりと息をのんでいた。そして、覚悟を決めた時に口を開くと、彼女は「七の下、八番の位置で」と、ラシュウの隣の枠を選んだ。


「はい。八番アミナさん。次は、ラグルスさんどうぞ」


「そうだな……へっぽこがいるのが気に食わねえが、カルーラと近い九番で」


 へっぽこと口にした時に露骨にチャルスを睨んでいたが、チャルスは何も分かっていないようにそれを睨み返していた。


「九番ですね。最後はグルマンさん。残りは一番だけとなりますが、よろしいですね?」


 係の確認にグルマンがわざとらしい声で返す。


「構わん。一向に構わんぞ。なあ、小僧?」


 俺の顔を横目で見てほくそ笑むグルマン。唯一望んでいなかった結末が現実となり、俺は頭を抱え、「マジかよ……」と呟きながら、空欄の枠に名前が書かれていくのを眺めるしかなかった。


「これですべての組み合わせが決まりました。皆さん今一度、確認をお願いします」


 係の獣人が、完成したトーナメント表を俺たちに見せてくる。



 一番 グルマン          九番 ラグルス

 二番 ハヤマ           十番 チャルス



 三番 アマラユ          十一番 カルーラ

 四番 ラーユ           十二番 ネイブ



 五番 ポチ            十三番 ユリア

 六番 ミスラ           十四番 テオヤ



 七番 ラシュウ          十五番 ロナ

 八番 アミナ           十六番 ベルガ



 セレナへの勘違いが起こってから、予選でも互いに生き残り、そして本選の一回戦目でぶつかり合う。俺は今日ほど運命の神様を恨んだことはないだろう。死んだ魚のような目をしてしまうと、係の獣人はトーナメント表を回収し、俺たちに次の指示を出してきた。


「本選まで時間がありますので、皆さまを待機室に案内します。私についてきてください」


 それに俺たち全員が従って部屋を出ていき、長い通路の各地に点在する個室に、俺たちを一人ずつ案内していく。俺も途中の部屋で待機を命じられると、そこに置いてあったサーベルに目が止まった。グルマンから貰った俺の武器。あれからもう三、四ヶ月は経っているだろうか。なんの因果かここで再び出会い、果ては一体一で戦うことになるとは。


「まあ、やれるだけやるしかないよな……はあ……」


 深いため息をついた時、コロシアムでは観客たちの盛大な拍手が鳴り響いていた。

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