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16‐6 ジバの栄光は我らの手に!

 地面を蹴り出し、背を屈めて全速力で突っ込んでいく。奴らとの距離があっという間に縮まって、サーベルを両手に持ち替える。


「手始めに、テメエらからだ!」


 一番前を進む人体骨のマントに刃を振り下ろす。奴の伸ばした手の平とサーベルが火花を散らし、押し合いの末に両脇からガヤが水を差してくる。


 舌打ちをしながら、急いで身を引いて構えなおす。邪魔してきたのは、馬人間の半獣とコウモリもどきだった。半獣は手に持った槍を、コウモリは足に引いた鎌の刃を俺に見せつけてくる。


「邪魔すんじゃねえよ」


 サーベルを頭上に構え、反った刃先を地表に向ける。そして、迫り来る二体に対してタイミングを見計らう。


蛇捻流撃じゃねんりゅうげき 天邪鬼あまのじゃく!」


 三連撃を叩き込み、最後の振りの時にしゃがんで奴らの攻撃をかわす。通り過ぎたそいつらはちゃんと、半獣の腕とコウモリの足が切り捨てられている。彼らの武器が地面に落っこちると、それに構わず俺はまた骨マントに跳びかかっていった。


「おらあ!」


 今度は頭上から勢いよくサーベルを振り下ろす。完全無防備なそいつの頭を砕いてやろうとする。だが、骨マントは頭上に右腕を挙げてきて、またもや攻撃を防がれてしまう。


「チッ! 骨のくせに!」


 腕を払われ、俺は地面に転がされる。さっきの二体に比べて、骨マントは段違いで強い。化け物にも強さの階級があるということか。


 辺りに化け物が増えてくる。そんな中で、骨マントは左手を肩に回して、自分の右腕をポキッと軽く取り外した。それをまるで、剣のように見立てて構えてくる。


「それがてめえの武器か。上等!」


 俺はまたすぐに切りかかろうとしたが、周りのちっちゃい雑魚たちが俺を睨んでいた。すかさず横から一体の狼が飛び出してくる。開いたそいつの口を軽く切り払ってやると、別の奴らが数体、全方向から一斉に跳びかかってきた。


「こいつらっ! ――蛇捻流撃!」


 前だけを見て駆け出し、目の前の蜂五体を切り刻んでそこから脱出する。標的だったさっきの骨マントが、いつの間に群れの中に紛れるように下がっていて、カッカッカと骨音を出して笑っていた。いら立つような目でそいつを睨むと、ちっこいのが襲ってくるのを気にも留めずに、俺は強く地面を蹴り出した。


 斜め前からまた狼が走ってくる。また同じように口の中を切ってやると、逆から牙を向けてきたムカデもどきも切り捨て、その背後から飛び込んできた、スライムみたいな液状の魔物も綺麗に両断する。


 依然目標は変わらない。目の前から吐かれた糸には姿勢を屈めてよけてから、生意気にも攻撃した蜘蛛を地面ごと突き刺し、俺の隣を追ってくる蚊のような奴には、逆から飛び込んできた小さい人体骨を避けつつ、一緒になった所を仲良く切り裂いてやる。


 俺の足はまだ止まらない。横からワニが、だらしなく垂らした舌を横に払うと、緑色の唾液を飛ばしてきた。それをジャンプでかわしつつ、たまたま着地点にいた包帯ぐるぐるのミイラの首を貫く。そのままミイラの体を蹴り倒し、ワニの動きを封じてさっさと走り続ける。


 骨マントまであともう少し。奴の前に、大小さまざまな骨たちが飛び込んできて、何十もの数で列をなしてくる。


「邪魔だどけえっ!」


 俺はサーベルを振り回して、正面からそれを突破していく。切り離した人体骨を宙に舞い散らせ、最後尾の骨の首を切り捨てる。それでも邪魔がまだ入ってくると、頭上から一匹の、耳が羽に化けたトカゲがその小さな牙を向けて飛んできた。俺は空いてる左手をさっと伸ばし、そいつの頭を鷲掴みにする。そしてそのまま、そいつを球に見立てて投手の真似事をしてみる。


「どりゃあ!」


 右足を大きく踏み出し、全力ストレートを骨マントめがけて投げつける。豪速球のトカゲが一直線に飛んでいくと、骨マントは握っていた右腕で、特大ホームランをかました。


 空の彼方かなたに消えていくのを見ていると、背後から気配を感じた。目線を落とすと、さっきのワニが意外な速さで追ってきていた。大きな図体を必死に運ぶようにして来るそいつに、俺は腰を落としてサーベルを構える。だが次の瞬間、大げさに地面が揺れ動く感じがすると、俺たちの足元から、巨大な何かが飛び出してきた。


「――ぬわ!?」


 周りにいた俺たちが空高く打ち上げられていく。俺は空中で身を翻し、なんとか地面から出てきたそいつを見てみた。外敵から身を護るような殻がついたムカデもどき。大型トラックすら丸のみできそうな大口を開いて、気色悪いその中に俺を呑み込もうとしてくる。


「チッ! あの野郎!」


 奴の口の中に、他の魔物たちが吸い込まれていく。このままでは、俺も奴の餌となってしまう。何か方法を考えようとすると、俺の隣に、さっきのワニが降ってきた。


 ――ちょうどいい!


 俺は左腕を全力で伸ばし、先に落ちていこうとするワニの尻尾を掴んだ。不安定ながらもそいつを引っ張るようにして体を寄せていき、最後はワニの背中に両足をつけて、横に吹っ飛ぶように思い切り蹴飛ばした。


 ワニを使った反動で、だんだんとムカデの口からそれていく。ワニがまんまと口の中へ吸い込まれると、俺は間一髪でその範疇から外れた。


 落下の勢いを殺そうと、すかさずムカデのデカい体にサーベルを突き刺す。刀身が折れそうなのを気にする余裕もなく、ムカデにつけた足を引きずるようにして勢いを止めていく。


「クウゥゥ!」


 グッと渾身の力を込めた時、やっと落下の勢いが消えた。ふと真下を見て、魔物が餌を欲しがる動物のように群がってる光景を目にする。真下以外も、辺り一面地獄のような構図になっている。まだ戦いは始まったばかりだと、俺は心の中で唱える。


「まんまと喰われてたまるかよ」


 俺はサーベルを抜くと同時に、両足でムカデの体を強く蹴って飛んでいく。わずかに拓けている場所で着地して顔を上げると、目の前で群がっていた狼たちが俺を睨んでいた。全部でニ十匹程度。小さいのと、人と同じくらい大きいのがたくさんで、残りの一匹はそいつらより一回りデカい。


「かかってこいよ。まだまだ足りねえんだ!」


 前髪を手で払い、殺意のこもった目で奴らをしっかり睨む。狼たちは、笛の合図でもあったかのように一斉に走り出してくると、俺はサーベルを頭上に持ち、反ってる刃先を下に向けるようにして構えた。


「天邪鬼!」


 複数を雑多に切り裂く。黒い臓物の先に、あの骨マントをまた見つけた。



 ――――――



「す、すげえ……」「一人で、あれだけの数と戦ってるなんて……」「信じられねえ……」


 一人で敵陣に突っ込み、孤軍奮闘を続ける男の様子に、城門前から見ていた兵士たちが口々にそう呟いていた。かく言う彼らの前にも、とうとう魔物の牙が迫ってきた。


「近接隊、整列!」


 甲冑の兵士たちが列を作り、城門を守るように横に五列で並んでいく。その数、すべて合わせて三百人。彼らが各々刀を抜き取ると、その後ろに百人を超える黒装束の魔法使いも、それぞれ配置についた。


「射撃隊、構え!」


 城壁の上から指揮官がそう指示を出すと、二百人の弓兵たちが一斉に弓矢を空に向けて構えた。


 計八百人。彼ら全員の準備が整うと、城壁の指揮官は更なる大声で叫び出す。


「撃てぇ!」


 二百人の手から、一斉に鉄の矢が放たれる。魔法使い、近接隊の頭上を飛び越え、弧を描くようにして空を飛んでいく。やがて矢先が地面にへと向くと、先にいた数多のリトル級魔物の体に落ちていった。


 矢の雨が魔物たちと襲う。次の指示に従って、またも雨が降り注ぐ。しかし、魔物の軍勢は留まることを知らない。かろうじて生き残った一匹が城門に迫ってくると、後からどんどん駆け込んできた。その様子を見かねて、ほくろの兵士長が新たな指示を出す。


「ジバの栄光は我らの手に! 近接全分隊、突撃ぃ!」


「「「うおおおお!!」」」


 甲冑の兵士たちが、雄たけびを上げながら魔物に向かっていく。刀の一振りが、次々とリトル級魔物の体を切っていく。魔法使い、弓兵も自律的に動くと、ビッグ級魔物への援護射撃をしていった。


 魔物を前にした彼らは、誰もが同じ顔をしていた。王女から予言された災厄の日。その日のために、彼らは三年間、その腕を磨き続けてきたのだ。魔物を相手にする心得は、専門のギルドたちに引けを取らないほどだった。その証拠に、彼らの連携は完璧で、百を超える相手を前に列が崩されていない。


「第二分隊にビッグスパイダー確認! 我ら第三分隊! 目の前の敵を処理した者から、急いで援護に回れ!」


「第八分隊が押されてる! 俺たちの魔法で援護するぞ!」


「――っく! 後ろに行かせてたまるか!」


「前に出過ぎるな第十分隊! 列を意識しろ!」


「射撃第四分隊。 近接第五分隊を援護する!」「「了解!」」


 戦地で戦う彼らの判断と、指揮官の射撃の指示が重なり、鉄壁の防衛陣が出来上がっていた。ミスラの手によって積み上げられた特訓の成果。彼らの仕上がりは、三年間の月日からは想像もつかないほどの出来栄えだった。


「とりあえずはしのげているか。だが……」


 しかし、彼らの優勢は決して長くはない。指揮官が汗を流しながら、平原の奥を見渡した。新たに迫ってきているのは、キング級を含めた更に大量の魔物たち。七万規模の黒い大波だ。


「この数は危険すぎる」


 指揮官は右手を突き上げると、そこに黄色の魔法陣を作り出した。そして、空に向かって一閃の雷を飛ばすと、それをビリビリと継続させて発動する。


「近接隊、防衛ラインを下げろ!」


 指揮官の叫びは聞こえずとも、雷ののろしが甲冑の兵士たちの目に映っていく。


「撤退命令だ! 城門前まで下がれ!」


 一人が気づけば、また別の一人が気づく。その連鎖は全員に広まっていき、五千人の近接隊と、千人の魔法使いが城門まで下がり始めた。


「射撃隊、キング級は後回しだ! 今は数を減らせ!」


 魔法を出していた腕を下ろし、すぐに指揮官が命令を出す。弓兵の打つ弓矢が、リトル級を打ち抜いていくが、どれだけ打ち込んでもまるで進撃の波が収まらない。


 やがて、逃げ続ける近接隊にも、その波が届き始めてしまった。


「っく! このままでは、都に入り込まれてしまう」


 指揮官が頭を抱える。指揮官の命令が十分な距離で出されたに関わらず、後ろからついてくるキング級たちの波は、あっという間にその距離を詰めてしまったのだ。


 人の大きさを超えるほどのキング級が、うじゃうじゃとリトル級、ビッグ級の屍を踏んでいく。たとえ彼らが優れた兵士でも、八百と七万という圧倒的な数の差では、どう足掻いても勝てる数ではなかった。


 彼らを通り抜けてしまえば、都の入り口まではすぐそこだ。都内にいる兵士は、城付近に避難させた市民を守る兵士のみ。侵入を許してしまえば、彼らは本城まで突っ走っていくだろう。


「このままでは……城門を閉めるしか……」


 苦渋の決断を迫られる指揮官。人の上に立つ以上、彼らを見殺しにするのは仕方ない。そう割り切って、声を上げようとした、その瞬間だった。


「ダイヤモンドダスト!!」


 城門の下から、少年の声が響いた。それと同時に、雪に包まれたような純白な狐が、戦場に飛び出していく。


「あれは、最上級氷魔法!」


 狐が兵士たちに近づき、頭上を軽やかに飛び越していく。まるで空を飛ぶかのような優雅さ。そのまま魔物の群れの前で着地すると、同時にその辺りにいた魔物たちを一瞬で氷漬けにした。


 強い冷気を感じとった魔物から、向けていた目線を狐に変えていく。その隙に、近接兵たちが後ろへ下がると、狐は魔物たちに向かって、足音立てずに悠々と走り出していった。


 狐の走る跡に、氷の大地が出来上がっていく。リトル級やビッグ級はもちろんのこと、キング級までもが、その大地の上に氷像にされると、あっという間に百の魔物が凍結していた。


「こ、これほどとは……一体、誰が?」


 指揮官が城門の上から、狐が出てきた出入り口を見下ろす。そこには、綺麗な赤毛をした一人の少年がいた。彼の見た目は、成長途中の中学生ぐらいのものだった。そんな少年の元に、もう一人の女性が歩いてくる。


「あらあら。いきなり全力ね、アルト君」


 黄緑色の長い髪が目立つ彼女が、少年に話しかけた。


「当然ですキャリアン先生。セレナさんからの頼みとあれば、僕は容赦しません」

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