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11‐5 分かってくれるかな?

 あれからダンジョンの奥へと進み続け、およそ三十分が経過したころ。


「魔物だー。最強君、頼むね~」


 アマラユをこき使うラフィットを中心に俺たちは進んでいくと、道中の魔物たちを難なく倒しながらこれまで来れていた。アマラユは命令されるごとに嫌そうな顔をして魔法を発動し、一応の場面では俺とセレナも魔物を相手し、ラフィットも弓矢による援護射撃をしてくれたりした。


 それを続けて進んでいく道中、ラフィットがアマラユに「ねえねえ」と話しかけた。アマラユは「今度はなんだ」とうんざりするように返したが、すぐにラフィットは抑えるよう両手で制す。


「いやいや別の話し。君、祭りの時は所在も何も明かされてなかったでしょ? 祭り運営のアガーさんって、色んなところから情報を高速でかき集めてるそうだけど、君だけ見つからなかったなんて不思議でしょ?」


「つまり、私のことについて知りたいと?」


「そーゆーこと」


「あ、それは俺も気になる」


 自分の口から、ついその一言が出ていた。というのも彼には謎な部分が多すぎる。アストラル旅団のフォードを超える魔法使いであり、そう数はないだろう魔剣を携えて祭りに参戦してきた。おまけにその決勝戦は地形を荒らしたりと、表に出ている情報が濃密過ぎて素顔という素顔がどこにも見当たらないのだ。


「あまり話したくはないかな」


 そう呟く彼を、俺とラフィット、セレナも混じって三人でじいーっと見つめる。ここまで来て何も言わずに帰れると思うのか? そう無言で圧をかけ続けていくと、アマラユはため息をついて折れるのだった。


「膨大な魔力は生まれながらの才能だ。使い方もとある者に教えてもらって、おかげでここまで伸ばせた。魔剣を手にしたのだって、たまたまダンジョンで手にいれたまで。これでいいか?」


 最後にはねのけるようにそう言うと、俺はある部分につい共感していた。


「お前にも師匠みたいな人いたんだな。どんな人なんだ?」


「頭の狂った人だよ。今はもう亡くなっているがな」


 平然と言ってきたことに俺は慌てて頭を下げようとする。


「あ、そうなのか。すまん、気軽に聞きすぎた」


「いいや、死んで当然のやつだったよ彼は。気にすることはない」


 酷い言いようだが、どうやらアマラユのその言葉は本心のようで、その師匠を蔑むような薄ら笑みすら浮かべていた。どんな人かは分からないが、一応は魔法を教えてもらった恩とかはないのだろうか。弟子の心構えについツッコみたくなったが、ラフィットが口を挟んできた。


「それはそうとして、生まれはどこなの? あと、どうしてここに来たの? 僕の立場的に、怪しいままでいるのはよくないと思うよ」


「ッフ。ここに来て身分を利用するとは。意地汚い王子様だ。だけど――」


 言葉を区切るといきなり、アマラユは黒い魔法陣を浮かべた手をラフィットの顔に突きつけた。その顔に、うっすらと浮かべていた笑みは消えてなくなり、まるで一歩でも動いたら、と抑圧するような目を向けている。


「それ以上の踏み込みは、王子だろうと許さない。分かってくれるかな?」


 空気を一瞬でピリッとしたものに変え、アマラユは威圧するようにそう言った。ラフィットは動じず、眠そうな顔のままそれを眺めていると一言「どうしても?」と聞いた。アマラユは魔法陣の光を強めてそれに反応する。


「怖いよー。分かったよ聞かない。怪しいのが国にいてほしくないのは本音だけど、今回のダンジョンを制圧してくれたら、帳消しにしてあげる」


 アマラユは手を閉じて魔法陣をパッと消す。


「本当なら制圧するのも心外なのだけどね。まあ、寛大な心に感謝するとしよう。ピトラの王子」


 殺伐とした空気感を残して、二人は先へと進みだしていく。俺もその後に続いていこうと足を踏み出した時、丁度横からセレナが、何か小声で呟いた気がした。


「ん? 何か言ったか?」


 自分の手からハッと目を離し、驚くような顔からすぐに作り笑顔を浮かべられる。


「い、いえ、別に何も。先に行きましょう」


 駆け足になってラフィットたちの背中に追いつくセレナ。さっき呟いていた言葉。微かにしか聞こえず確信はできないけど、もしかして


 ――私にもお母さんがいたはずなのに。


 なぜ急に母親のアンヌさん? アマラユの話しは、師匠がいたことと魔剣をたまたま手にしたこと。そして自分の身を明かそうとするなと忠告されたことだ。特別接点がないような気がするが、かろうじて言えば母親が師匠代わりに教わってたってところか?


「ハヤマさーん!」


 セレナに呼ばれると、考えても分からないなら、きっと聞き間違いだったのだろうと決めつけ、俺は急いで彼らを追っていった。


 そのまま道通りに坂を下っていく。するととうとう俺たちは、最終地点に到着しようとしていた。


「おっと。睨まれたかと思った」


 開けた階層の前でラフィットが足を止め、俺たちにゆっくり来るよう目配せしてくる。足音を立てないように近づき、そうっと顔を出してみる。


「あれ、もしかしてエンペラーウルフですか?」


 セレナがひそひそ声でラフィットにそう聞く。


「そうだね。ウルフ系の最上級魔物だ。あいつがここにいるってことは、ここはダンジョンの最下層みたいだね。今は眠ってるけど、多分中に入ったらすぐにバレるかも」


 ラフィットの言うエンペラーウルフとは、恐らく部屋の一番奥で眠っているやつのことらしい。猫のように安らかに眠っているが、その体格はかなりデカい。立ちあがれば多分、二階建ての家と変わらなさそうでまさに魔物モンスターという感じがしてくる。更にはその前に一回り小さいのが三体。恐らくキング級と思われる狼の魔物が一緒に眠っていた。


「他もいるじゃねえか。どうするラフィット王子? 俺とセレナはあまり役に立てなさそうだぞ」


 俺の言葉にラフィットは「そっか」とだけ呟くと、顎に手を当てて考える素振りを見せた。今までその場で適当に決めていた彼が、ここに来て時間をかけて作戦を頭の中で練り込んでいると、悩むようにアマラユの顔を見た。


「君、エンペラー級とタイマンで戦えたりしない? そうすればだいぶ楽ができるんだけど」


「むしろ一人の方がやりやすいかな」


 自信ありげな言い方にセレナがついボソッと「偉そうに……」と愚痴ると、ラフィットはうんうんとうなずいた。


「そしたらそっちは任せるとして、僕らでキングウルフを相手しよう。僕一人で三体相手できれば本当はいいんだろうけど、複数を相手するのは苦手なんだ」


「苦手っていうか、普通そうだろ」


「あ、そっか。んじゃとりあえず、僕が二体相手するから、二人は一体をお願いできるかな?」


 そう打診するラフィットにセレナが心配の目を向ける。


「大丈夫なんですか? キングウルフを二体同時に相手するなんて」


「まあ、エンペラーウルフ一体よりは楽だと思うよ。それに、魔法最強さんがさっさと片付けて、僕らをきっと手助けしてくれるだろうし」


 全員の目がアマラユに集まる。


「なぜそこまで私が」


「はい、作戦は最強君が頑張る、に決定~」


「言っておくが、私の魔力はもう半分も残っていないからな。過度な期待をしても勝手に死ぬだけだ」


「忠告どうも。僕は期待してるから、安心して~」


 お気楽なラフィットにアマラユは深いため息をはく。そこにセレナが割って入ると「アマラユさんの魔力がきれても、私が倒しますよ!」と意地を張ってみせた。それを聞いて思わずアマラユは鼻で笑ったが、ラフィットはもう歩き出していると、俺の心の準備が済む前にさっさと魔物たちを起こすのだった。俺は急いでバックパックをこの場に置いて、サーベルを抜き取りながら彼についていく。


 ドーム状に大きく広がったダンジョンの一室。柱などの障害物は一切ないその空間は、三体と一体がじゃれ合うにはいささか大きすぎるくらいだ。起き上がって不気味な目を向けてくる魔物たち。四体が同時に不気味な唸り声を上げる。


「「「ヴルルルゥ……」」」


 俺たちを鋭く睨んで威嚇してくる。一番のボスは本当に二階建て一軒家のような大きさ。キング級でさえ、大型車並みはある体の威圧感に、俺は心臓の鼓動が早まるのを感じた。


 今からこの魔物たちと戦う。命をかけた戦いだ。アマラユとラフィットがいるとはいえ、キング級を相手しなければならない。倒せなくとも死ぬわけにはいかないのだ。


 そうだ。絶対に死んではいけない。それさえ回避できれば、俺たちの勝利につながる。心に誓うように頭の中で復唱し、深い深呼吸を一つする。


「ピトラの王子よ。二体の誘導は任せてもいいだろうな?」


 アマラユが前に歩きながらそう聞く。


「もちろん。弓矢で階層の奥まで連れてくよ」


「なら、残りの一体は転移の魔法で退かすか」


 そう言い切ったアマラユが、さっさと手を出して灰色の魔法陣を浮かべる。それが光り出すのを見て、エンペラーウルフが室内だというのに大きく遠吠えした。


「ヴァアオオォォーウ!」


 至るところに声が跳ね返って、耳が痛くなりそうで思わず塞ぐ。生き物とは思えない重低音に鳥肌が立っていく。それでも顔をあげて前を見てみると、ラフィットは話し通り雷の矢で二体を誘い込み、アマラユは既に魔法陣を畳んでいた。同時に気配を感じて横を振り向くと、いつの間に転移させられていた一体のキングウルフが走りかかってきた。


「うおっ!?」


 噛みつこうとする牙を慌てて横っ飛びで避ける。間髪入れずにガブガブと、俺をボールのように噛みつこうとしてくるのをなんとか避け続けていく。


「セレナァ!」


「分かってます! サイクロン!」


 セレナが風魔法を放ち、キングウルフの首元に命中させる。その衝撃でやっと動きを止めてくれると、睨みを利かせた目と共に彼女にむくっと顔を向け、俺は急いでその前に立って注意を向けさせる。ギラリと光る眼差しに、少し体が震えてしまう。猫に襲われるネズミにでもなった気分だ。


「セレナの魔法じゃ倒れないか! なんとか時間を稼ぐぞ!」


「いえ! 私が倒し切ってみせます!」


「はあ?! まあなんでもいい! とにかく死ぬなよ!」


 キングウルフの目が俺を見ているのを確認して、俺は横に走り出す。そのまま魔物を誘ってセレナから離していくが、当然すぐに追いつかれてしまう。奴の足下で、屈強な牙と鋭利な爪がせわしなく襲い掛かってくるのを、いつも通りの緊張感でかわしていく。痛みを覚えた体が、死を予感する頭が一緒になって、俺に感覚を呼び起こしてくれる。


 そうして、本当に魔物のオモチャにされているような足下から出られずにいると、セレナの風魔法がまた頭を直撃した。キングウルフは唸りながら彼女を睨んだが、すかさず俺がサーベルの刃を前足の一本に突き刺した。


 最初の勢いはよかったが、鉄のような固さに刀身が半分までで止まってしまう。引っこ抜くのでさえ全力でやっていると、そこからまた全力で走り出し、再びキングウルフとの追いかけっこからやり直していく。



 ――――――



「ったくもう、面倒だな」


 魔物の爪を身軽に避けながらそう呟くラフィット。一体のキングウルフを軽くあしらった彼であっても、その数がもう一体増えるだけで、中々攻撃の手を出せずにいた。


「本来なら一人で倒す魔物じゃないからなぁキング級は。……だけど――」


 弓をしまって腰の剣を抜くラフィット。一体の魔物が口を開いて襲い掛かってくると、肩マントをひらひらとさせるように一回転し、キングウルフの口に逆手持ちの剣を咥えさせる。


「君たちがこの国の人を殺したっていうのなら……」


 手から雷が走り、キングウルフの体が蛍光灯のようにビカビカと光り出す。更なる電流を込めようと空いた片手を剣にかけるが、すぐに目の前からもう一体のキングウルフが頭を振って頭突きした。


「っく!?」


 小さな体は軽く吹き飛ばされ、奥の壁まで一直線に飛んでいく。大きく上がった土煙の中から、ラフィットは壁伝いに落ちてくると、しっかりと両足で着地し、すぐに二体の魔物に顔を上げる。


「ったく。やっぱり面倒だ。一体倒し損ねた」


 雷で毛先が立ったキングウルフがブルブルと体を振ってまた歩き出す。


「仕方ない」


 そう言って剣を収め、背中の弓に手を伸ばす。そして、弦だけをグッと強く、指先にも全力を込めるように強く引き絞る。


「面倒だけど、僕は王子だからね。才能もあるから、やることはやらないと……」


 静かに覚悟の言葉を連ねる。バチバチッと音が鳴り出すと、次第に空を構える指先から緑色の火花が走り出し、発射台の弓柄ゆづかへと三本、光が伸びていく。


雷鳴らいめいの弓、三連さんれん!!」


 高速の如く飛んだ雷の矢。息を飲む間もなく二体の魔物の額を焼き焦がし、もう一本は真ん中を抜けて奥の壁、エンペラーウルフのいる隣まで飛んでいった。大きな破裂音が部屋中に響き渡る。それを一番近くで聞いたアマラユがチラッと後ろを振り返る。


「急に何かと思えば、中々苦戦しているようだ。一国の王子と言えど、キング級二体に手こずるとは所詮はその程度か。さて……」


 黒く焼き焦げた跡を残す壁を尻目に、アマラユはエンペラーウルフへ余裕な笑みを浮かべた。


「エンペラー級が私とどこまでやれるか。今一度確かめるいい機会だ」

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