おまけ2 「次回予告」
続編「無関心の災厄 ――ワレモコウ」のプロローグです。
企画作品としては間に合わなかったので、次回予告としてあちこち切り取っておまけに投稿しておきます。
*********「無関心の災厄 ――ワレモコウ」 予告(?)
――この世で最も恐ろしいイキモノは人間だ
昔、漫画だかアニメだかで、こんな台詞を見た事がある。
この命題は真実で、虚偽だ。
ヒトほど卑屈で、卑怯で、卑下する卑劣なイキモノは他に存在しない。
ただその脆弱さゆえ、ヒトは思考し、学習し、周囲を貶める事を自覚した。長い歴史の中でヒトはその力に目覚め、使い方の試行錯誤を繰り返してきた。
だからこそ、ヒトは恐ろしい。
その武器は頑丈な牙ではなく、鋭利な爪ではなく、ましてや骨でも筋肉でも躰全体のどの部分でもなかった。
ヒトが武器として選んだのは、『言葉』という形無きモノだった。牙よりも頑丈にヒトを縛り、爪よりも鋭利にヒトを傷つけ、時に不可能と思われる治癒の力さえ持つ『言葉』。
それは、ヒトが持つ唯一最強の武器。
武器をいかに巧みに操るかが、どれだけ強いかという証となるのだ。
しかし最後に付け加えるならば、この命題には一つだけ条件がある。
それは、この命題を使用する本人もまたヒトである事――
長い枕詞になったが、要するに何が言いたいかって言うと、オレは今現在、目の前に出現した人物に恐怖している、というたった一文を導きたかっただけなのだ。
限界まで握りしめた拳は、とっくに感覚がなんぞ残っていない。
首筋がすぅっと冷えるのは、きっと汗が蒸発していく所為だ。
「キミは不思議やなあ」
コトバは魔法なのです――それは、見た目は最上級の可愛い女の子でも中身は『名付け親』であるオレの先輩が、いつだったか言っていた事だ。
オレはその言葉を疑っていた。未熟なオレにはまだ魔法が使えなかったために、魔法の存在自体を疑ったのだ。
でも、違う。
この世に魔法ってのは存在する。それは、時にヒトを縛り、戒め、殺し、傷つけ、癒し、嬲り、弄ぶ。ヒトが扱う最強の魔法だ。
現実にオレがここで硬直しているように。
「見た目も、能力も、経験も……なんもかんも全く一般人やいうんに、あり得んほどめちゃめちゃ強い極性を持ってはる」
オレのすぐ目の前に佇む細い眼鏡の男は、さも可笑しそうに目を細めた。
細く束ねた長い黒髪が風に靡き、風を巻き込んで翻る。
「キミは真実に不思議やわ」
もう一度同じ台詞を吐いた『災厄の伝道師』は、オレをその場所に釘付けにしたまま、口元を笑いの形に歪ませた。
*****
楽しそうに石畳を飛び降りていく隣の夙夜を見ながら考える。
そんな事は絶対にないと思うのだが、もし、コイツが本気で、一つの目的を持ってその能力を使い始めたらいったいどうなるんだろう、なんて考えて不安に思う事がある。
能力に無頓着であるがゆえ、ギリギリラインで保つ事の出来た人間性はけし飛び、おそらく夙夜は『野性のケモノ』の本性を現す。
それは果たして、いったい、ヒトなんだろうか。
オレは、あの伝道師からコトバの恐怖を受けることでヒトである事を実感した。
しかし夙夜はどうだろう。
果たしてコイツはヒトであり続ける事が可能なんだろうか――?
*****
「柊護さん、香城夙夜さん、そして、枝守スミレさん」
白根は、いつもと同じように淡々と、静々と粛々と、オレたちの名を呼んだ。
これは終わりなんかじゃなかった。
「以上3名に対する説明許可申請が受理されました」
もう逃げられない。
「本人の許可を求めます」
自分で望んだことなのに。
オレはこの世界に触れたいと。
「いいよ」
「いいですぅ」
どうしてこんなにも恐怖に喉が震えるのだろう?
「……いいぜ、白根」
虚偽かもしれない。
真実かもしれない。
もしかすると、そんなコタエは存在しないのかもしれない。
それでも、オレは。
「ちょうどお前が何者か知りたかったところだ」
誰か震えを止めてくれ――
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こんな最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございました!