召喚されたのは猫でした
ほどほどの国の、まあまあの広さの王都には、ぼちぼちのお城がありました。
お城では、沢山の人が働いています。マッスルな兵隊さん、偉そうなお貴族様、事務のおじさん、メイドのおばさん。
みんな真面目に仕事している・・・かもしれません。
一番偉い国王様は、背が低くて小太りなおじさんなので、あまり偉そうには見えません。なので、ちょび髭を生やしてみましたけど、なんとなくユーモラスです。
えらそうに、ちょっとだけ仕事をして、今日もおやつの時間です。ぽっこりお腹がつっかえるテーブルに、お茶と一緒に運ばれて来たのは、今日も"くわんかもち"でした。
昔からの伝統的なお菓子なのですが、あまり好きでありません。たまには他のお菓子が食べたいのです。
王様が、ちょっと溜息ついたところで、どたばたと兵隊さんたちがやってきました。
「王様!大変です。魔王軍が!!」
王様も兵隊さんもみんな一緒に大慌てです。
「ど ど ど どうする?」
王様は、宰相さんに言いました。
「ううむ、そうですな。いかがいたす?」
宰相さんは、大臣の人に言いました。
「あ・あ・あ、あれです。こんな時はどうする?」
大臣の人は、将軍に言いました。
「え?え〜と、規定ではどうなっている?」
将軍は、騎士団長に言いいました。
「ど・ど・どうであるか?」
騎士団長は、お供の少年に言いました。
「え?え?」
そんな事を聞かれても、少年には答えようがありません。
仕方がないので、少年はメイド長のおばさんに聞きました。
「どうしましょう?」
メイド長のおばさんは、肩をすくめて呆れ顔です。
「いつまでも、情けないガキ共だね・・・」
メイド長のおばさんは、王様が生まれる前からお城で働いています。
ちょび髭の王様も、お偉い人達も、子供の頃におばさんに叱られて育ったので、今でも怖い存在です。
おばさんに睨まれた王様もちょっと震えています。
「さっさと戦の準備しな!!」
「アイ・アイ・マム!」
おばさんの号令で兵隊さん達が走り出しました。
王様はびっくりして、おもちを喉に詰まらせました。
「し、しかしですな。魔王軍に勝てますかな・・・」
みんな黙ってしまいました。誰もがわかっているのです。魔王軍には勝てないって。
そしたら、またメイド長のおばさんが言いました。
「魔法だけ得意な悪ガキが居ただろう?アイツを呼んできな」
魔法使いはお城にやってきて言いました。
「魔王が現れたなら、勇者を呼び出せばいいんじゃないかな〜たぶん。しらんけど」
こうして、勇者召喚の儀式が行われることになりました。
国中の魔法使い達は大興奮です。伝説の勇者召喚に、自分たちが挑戦するのですから。
昔の魔導書を調べたり、いろんな伝承を集めたりして、勇者召喚の魔法陣を考え出しました。
出来上がった魔法陣は、とても大きくて複雑でした。魔法陣を描くには、広い場所が必要だったので、
お城の倉庫からガラクタを運び出して、その床に描く事になりました。
何日もかけてやっと完成した魔法陣が、魔法使い達の魔力を注そそがれて光り出します。
演歌のような詠唱を聞きいて王様は思いました。一人だけ音程ずれてるような気がする。
魔法陣の真ん中に、おもわず目を瞑るような強い光が輝きました。
しばらくして、みんなが目を開けてみると、魔法陣の真ん中に、一匹の猫が座っていました。
「「成功だ!」」
魔法使い達は、勇者召喚の儀式が成功したことで大喜びしました。
お互いの検討をたたえて、ローブの交換を行う魔法使いもいます。
「猫だね」
「白ネコだな」
「白い猫は幸運を招くと言うぞ」
召喚されてしまった白ネコは、突然知らない場所に来てしまったので、パニックになって逃げ出しました。
召喚された倉庫を飛び出して階段を駆け上がり、廊下を全力疾走して、壁の隙間をくぐり抜けて、
みんなで追いかけますが、追いかけたら逃げるのが猫なのです。
追いついてきた兵隊さんの顔をひっかいて、家宝の壺をひっくり返し、
有名な画家の意味不明な絵画をガリガリと爪を立てて登って天井の梁の上。
見物にきた王様の頭の上に飛び降りて、かつらを落とし、唖然とする王様と微妙な雰囲気の家来たちの足元を走り抜けて。
そして、お城で一番豪華な謁見の間。一番高い場所にある王様の椅子の上で、「シャァァァァァァ」とみんなを威嚇していました。
お城の人達も、疲れ果てて、椅子の下の床に座り込んでしまいました。
冷静になって考えてみると、勇者召喚でやってきたのが猫なんて変じゃないかと言い出す人もいました。
でも、魔法使い達は、あの猫が勇者様であると主張します。
そうでないと、魔法使い達が失敗したことになりますからね。
まずは、何かエサを与えて落ち着かせようと言う事になりましたので、干し肉を置いてみました。
白猫は、ふんふんと匂いを嗅いだ後で、フン!と鼻をならして、そっぽを向きました。
気に入らないみたいです。古くて捨てる干し肉だったので、変な匂いがしたのでしょう。
魔法使い達の「勇者様にふさわしい食事を!」という主張に押されて、お城の料理長がステーキを焼きました。
白いお皿に乗せられた小さめのステーキを置いてみると、白猫は、すんすんと匂いを嗅いで、かぷりとステーキにかじり付きました。
でも、ちょっと熱かったのでしょう。びっくりして、ステーキに猫ぱんちを叩き込みました。
「にゃぁあ」と不満そうな鳴き声で、王様の椅子で毛づくろいを始めました。