鳩の三郎くんのお仕事
伝書鳩の三郎くんは、鳩小屋の砂場で砂浴びをしていました。すると、いつもの兵隊さんがやってきました。
「大急ぎで手紙を届けてくれ」
三郎くんは、この街と王都の間で手紙を届ける仕事をしている伝書鳩なのです。
でも、砂浴びの途中に足に手紙を付けられて、ご機嫌ななめです。だから、兵隊さんの頭にフンを落としてから飛び立ちました。
翼を羽ばたいて時計塔よりも高く飛び上がると、王都まで一直線に飛んで行くのかと思ったら・・・
くるっと背面飛行から、商店街の野菜売りのオヤジさんの所に急降下です。
「くるっぽ!」
「よう!ハト三郎じゃねえか。今忙しいだよ。ドラゴンが来たからよ、大急ぎで逃げねえとな。エサはそこにあるから勝手に食ってくれ」
オヤジさんは忙しそうで今日は遊んでくれないみたいです。店先の野菜を勝手につまんで、テーブルの黒パンをつついて、腹ごしらえです。
兵隊さんの所では、粗末なエサしかもらえないので、他でエサをもらわないと王都まで飛ぶ体力がもたないのです。
エサを食べたら、やっと出発です。
街の城壁をこえて、逃げていく街の人を飛び越えて、丘を越えて、ずっと飛んでいくと、暗黒の森が見えてきました。
恐ろしい暗黒の森は、避けて飛ばないといけないのです。でも、今日は違います。森の上を、真っ黒なドラゴンが飛んでいたからです。
三郎くんは、おもいきり羽ばたいてドラゴンに追いつくと頭の上に降りました。
「ドラゴンさん、こんにちは!」
「三郎だったのか、ひさしぶりだな。また王都へ手紙を届けるのか?」
暗黒の森のドラゴンさんは、人を襲うこともある恐ろしいドラゴンです。でも、鳩みたいに小さい動物はご飯にもならないから襲わないのです。
三郎くんも、独りなら肉食の鳥や魔物に襲われるのですが、超強いドラゴンに乗っかっていたら安全です。
今日もドラゴンさんが、王都まで乗せていってくれることになりました。
でもでも、良いことばかりではありません。
いつも独りで居るドラゴンさんの話し相手にならないといけないからです。
だいたい、お年寄りのお話って、長い上に同じことを何度も繰り返したりして、聞いているだけで疲れてきます。ドラゴンさんも長いこと生きていますから同じなんです。
もう目の前に王都が見えているんですけど、ドラゴンさんのお話は終わりません。延々とお話を聞かされて、三郎くんが王都に到着したのは、3日後のことでした。
でも、恐ろしい敵から逃げ回って必死で飛ぶより、ドラゴンさんの背中で3日のほうが有り難いと、三郎くんは思ったのでした。