深夜の住人
高校3年生の夏、両親が失踪した。ただ失踪したならまだ良かったんだが、置き土産で大量の借金まで残していった。
高校はなんとなく行っていただけだったし、やめることに未練はなかったが、その時住んでいたアパートを追い出されることになってしまったのには困り果てた。
途方に暮れて、当時アルバイトをしていたガソリンスタンドの店長に相談してみたところ、用途もなく休憩室兼物置にしていたガソリンスタンドの2階にしばらく住んでいいとのこと。
ガスがないのは不便だが、エアコンもあるし電子レンジもある。おまけに従業員用のトイレも2階にあるし、テレビまである。住むには困らない。ありがたく住まわせてもらうことにした。
「どうせ用途もなく遊ばせてるだけの部屋だから、自由に使ってもらってかまわないよ。ただ、深夜0時から日が昇るまでは、2階の鍵を掛けて外に出ないでほしい。」
「え?なんでですか?本社の人たちが見回りに来たりするんですか?」
「いや、そういう話じゃないし、電気もテレビも付けっ放しにしていていいんだけど、とにかく深夜は2階から出ないでほしい。鍵さえかけて、出なければ実害はないから。」
「実害はない」という言葉が引っかかったが、ここに住まなければ野宿。俺は黙って頷くしか無かった。
スタンド生活1日目の深夜0時過ぎ。店長の言っていた意味がなんとなく分かった。
店長の言いつけ通りに鍵を掛けて眠っていたが、
ドッ…ドッ…ドッ…
誰かが階段を上がってくる音で目が覚めた。
一瞬店長かと思ったが、ドアの隙間から光が漏れていない。こんな真夜中に電気も付けずに上がってくるのはおかしい。
暗闇の中、階段の方をジッと見つめていたが、しばらく階段を往復したあとに音の主は去っていった。
翌朝、店長に昨晩のことについて聞いてみたが、この場所は事故や殺人などもなく、何故あんなことが起こるのかは誰も分からないらしいが、階段の上下を繰り返すだけで、鍵さえ閉めておけば実害はないらしいので、放っているらしい。
事件はそれからしばらくして起きた。
その日はえらく天気の良い日で、洗車の客や、車の点検が多く、俺は仕事が終わった瞬間に疲れ果てて眠ってしまった。
ドッ…ドッ…
階段を上がってくる音で目を覚ました。
ああ、もうこんな時間か。
寝すぎちゃったな。
その頃には階段の主にも慣れてしまい、恐怖心は完全になくなっていた。
ん?
そういえば鍵閉め忘れてたな。
寝ぼけ眼で布団から起き上がった瞬間、いつもはゆっくり上がってくる足音が急に早くなった。
ドドドドドドドドドドドドッ
いつもと違う足音に完全にびびってしまった俺は慌てて扉に向かう。見てみるとドアノブは少し下がりかけている。パニックになりながらもドアノブを無理矢理戻し、鍵をかける。
危なかった。もうすこしでここまでくるところだった。マジで心臓が止まりそうだった。次から気をつけなきゃな。
ドンッ!!
向こう側からドアを思い切り叩く音で身体が跳ねる。
「次はないからな。」
ドアの向こうから野太い声がした。