4.今にも死にそうなので水を求めて森を探索します
あれからどのくらいの時間が経ったのだろうか?
現在、俺たちはこの森に生息しているフォレストウルフと呼ばれる狂暴なモンスターの群れに囲まれていた。
何とか俺の〖絶対障壁〗でフォレストウルフからの波状攻撃に耐えてはいるものの、いつバリアが瓦解してもおかしくない状況にあった。
余談ではあるが、あれからプロフェッサーが教えてくれた内容によると、ゲザルたちと対峙した時にバリアが消滅したのは、俺の魔力切れが原因らしい。
〖絶対障壁〗とは、その名前の通りこの世界で使用できる人は誰もおらず、俺だけが扱える魔法みたいだ。
それゆえに魔力消費も絶対だった。
ちなみに俺が保有する魔力量は常人の百倍以上はあるらしい。
それでも一度〖絶対障壁〗を使えば、すぐに魔力が枯渇してしまうのだから、この魔法がどれほどの代物なのかは自ずと理解できるだろう。
話を元に戻すが、上述の理由から俺は何度でも〖絶対障壁〗を乱発できるわけではなかった。
そういうわけで、今展開しているバリアが最初で最後というわけだ。
それが消滅すれば、俺たちはフォレストウルフの餌として、奴らの腹の中へと収まる運命にあるだろう。
そうならないためにも、何かいい策を考えなければならないのだが・・・。
真横を見ると、ゲザルが恐怖でブルブルと体を上下左右に揺らしている。
それを見て、俺は深いため息を吐いた。
ゲザルよ───その強靭な肉体は一体何のためにあるんだ?その引き締まった体躯は見かけ倒しか?仮にも、お前はオークたちの親玉だろうに?
バリアが切れたらフォレストウルフ目掛けて突撃しろと命令するが、ゲザルはそれを頑なに拒んで言うことを聞かなかった。
はぁ、あの時の自分たちの同胞が殺された際の怒りは一体どこへ消えてしまったというのだろうか?
これほどビビりなのにもかかわらず、その時の怒りに任せて魔王の配下へ挑もうとしたのを鑑みるに、あの時是が非でも止めておいて正解だったと思う。
もうゲザルは当てにはできないので、何か他にこの絶望的な状況から抜け出せる策はないのかと必死に頭を働かせていると、最後の頼みの綱が俺たちに希望の光を灯してくれた。
〈推奨。〖固有スキル:統率者〗を使用して敵を主人の支配下に置くのが最善の策かと思われますが・・・〉
───そうか、その手があったか・・・。けど一体どうすればいいんだ?
〈〖固有スキル:統率者〗が効力を発揮するには、対象となる相手が恐怖を抱いていることが発動条件となります。すでに敵は主人が繰り出した不可視の壁に恐怖を覚えていると思われますので、対象者に触れるだけでスキルの効果が発動します〉
つまり、今が絶好の機会ってわけか。
しかし簡単に言ってくれるな、プロフェッサーよ!
触れるだけでいいって・・・それが一番難しいんだよ。
心の中で愚痴りながらも、俺は覚悟を決める。
バリアが解けた瞬間に、全力で走り抜けるぞ・・・後ろ方向へと。
ゲザルにざっと説明し終えたら、バリアが解けた瞬間に俺は全力で後退した。
案の定、フォレストウルフたちは逃げる俺を追って森の中へと入ってくる。
ゲザルは俺よりも逃げ足が早いので、すでに俺より遥か先を走っていた。
しかし、これも全て俺の思惑通りだった。
ゲザルを先に行かせたのにはある理由があったのだ。
───もうすぐだな
俺の逃げる先に、岩肌から飛び出た断崖絶壁の大きな崖が見えてきた。
一歩踏み外せば、遥か真下へと真っ逆さまに落ちる危険性があるため慎重に行動しなければならなかった。
崖の淵まで行くと、俺を追い詰めるようにしてフォレストウルフたちがジワリジワリとにじり寄ってくる。
───今だ!
その瞬間、俺はゲザルに合図を送った。
すると、俺とフォレストウルフたちを取り囲むようにして急遽炎の壁が出現したのだ。
実はこれを前もって仕掛けておくために、ゲザルを先へと行かせていた。
命令通りに上手く成功させたゲザルに、俺は労いのガッツポーズを送る。
すると、心なしかゲザルも笑顔で応えてくれた。
───それにしても熱いな・・・
勢いよく燃え盛る炎から生み出される熱波に晒されて、俺とフォレストウルフたちはすでに限界寸前だった。
地面へと仰向けになって身悶えるフォレストウルフたちを見て、俺は何とか最後の力を振り絞って彼らのもとへ近寄っていく。
そして一体のフォレストウルフの身体へと手を伸ばした。
その瞬間、脳裏に電気が走ったような感覚に陥ったのだ。
実は、以前にこれと似たような感覚を味わったことを俺は知っている。
これは、確か最初にオークたちを眷属とした時とよく似た現象だった。
言葉では上手く言い表せないが、オークたちと同じようにフォレストウルフたちとも見えない何かで繋がったような気がしたのだ。
こうしてフォレストウルフを自分の眷属とすることに成功したので、ゲザルに合図を送ってすぐに炎を消してもらう。
炎が消えると、フォレストウルフたちがオークたちの時と同じように俺の手前で平伏した。
「お前たちのボスはどいつだ?」
その言葉に反応するように、立派な鬣を生やした一体のフォレストウルフが
俺の前へと姿を現した。
「私がこの群れのリーダーを務めているベリシャです」
「そうか。俺の名前はコユキだ。お前たちはこれから俺のために必死に働くことを誓えるか?」
「仰せのままに、コユキ様!」
再びフォレストウルフたちが頭を垂れる。
これで俺はオークたちに続いてフォレストウルフたちを眷属とすることに成功したのだった。