御披露目 10
投稿いたします。
アヒム殿下の剣先が、レンの鼻先に届こうとした瞬間、それまで全く動かなかったレンが瞬時に反応する。
剣の進む軌道に合わせてのけ反るように後ろに倒れ剣をやり過ごす。
しかしアヒムの剣はそのまま下になったレンの顔、目掛けて無理矢理下に叩きつけるように振り下ろされる。
それをのけ反ったまま半身に体を捻りかわすとそのまま回転をつけたまま剣を鞘から貫きアヒムに向かって切り付ける。
しかし、それを判っていたように振り下ろしたはずの剣を途中で止め向きを変えると左手一本で振り上げる。
「キーンン!!」
剣が打ち合う金属音が中庭に響き渡る。
弾かれた双方の剣に合わせ、レンとアヒムが弾かれるように後方に下がり、そのまま向き合って止まった。
「「「おおおおーーー!!!」」」
二人の初手の打ち合いに観客となっている貴族達から歓声があがった。
「凄い! さすがアヒム殿下! スバイメル帝国でも5本指と言われる剣士だけの事はある!」
「あのスピード! さすがですな!」
「でも、システィーヌ様のご子息もどうして! なかなかやりますな!」
「少し押され気味ではあるがちゃんとついて行っておる。」
貴族達はそれぞれ二人の戦いの感想をのべ合う。
噂通りの強さを見せるアヒム殿下に予想以上に善戦するレンの二人を讃える者が多かったが、中にはアヒム殿下が手加減していると見る者も多かった。
どちらにしてもこの目にも止まらぬ早い展開の応酬にざわめきたっていた。
そんな中で、リーシェンとカーナは険しい顔つきで自分の主人であるレンを見ていた。
「カーナ、どう思う?」
リーシェンの問いにカーナは小さく頷いた。
「リーシェン先輩と同じだと思います。」
二人は互いに見合ってもう一度頷く。
「「遅すぎる。」」
言葉を重ね二人は今の攻防に違和感を覚えていた。
「普段のレン様の動きじゃない。完全に相手のスピードに合わせているよ。」
カーナは、剣を構えるレンを見つめた後、リーシェンへ向き直り返事を待った。
リーシェンはカーナの言葉にすぐには返答しなかった。
(確かにいつものレン様とは程遠い、スピードだし剣技も稚拙。明らかにいつもと違う。)
リーシェンとカーナの目の前ので起こってる状況が嫌な事を考えさせれるだけの光景を写していた。
「「でも、」」
「リーシェンさん、レン様は大丈夫でしょうか?」
リーシェンやカーナの雰囲気に不安を感じたのかファルシアが尋ねてきた。
「姫様。申し訳ありません。不安にさせてしまいましたか?」
「はい、私には凄すぎて解りませんが何か問題でもあるのですか?」
リーシェンは姫様に心配させた事を反省するが、レンを心配してくださる事が嬉しかった。
「大丈夫ですよ。レン様の顔を見てください。」
リーシェンに言われてシアは中央で立つレンの顔をよく見ようと目を凝らす。
「笑って? おられる?」
「はい、あの表情の時のレン様は、何か企んでる顔ですよ。」
今度はカーナがシアに話しかける。
「そうなんですか?」
「はい、ですから大丈夫です。姫様はレン様を信じて待っていてあげて下さい。」
カーナの断言する言葉に安心するシアだったが一方でそこまでレンを信じきれるリーシェンとカーナが羨ましかった。
「私も、お二人の様になれますでしょうか?」
「それは私共では解りません。シア様次第です。」
「そうよ、姫様のそうなりたいと思う気持ちが一番大事ですよ。」
二人の言葉を真剣に聞きいるシア姫。
「解りました!私、レン様を信じます! お二人に負けません!」
三人は微笑み頷くともう一度レンの方を向き直る。
読んでいただき有り難うございます。




