目覚め1
周囲がぼやけていた。必死に目を凝らし焦点を会わせようとするが、どうにもはっきりとしない。人が彼の周辺を動いているのは判る。声の様なものも聞こえては来るが、これもはっきりとは聞き取れない。
いったい此処は何処だ?
確か自分は、死んだはずじゃなかったのか。そして自分の葬式を見るという変な体験をして・・・・その後の事が思い出せない。なんとか思いだそうとするが突然、強烈な睡魔に襲われ、抗うことも出来ず闇の底へ落ちていった。
次に目覚めると、しっかりと周囲を見ることができた。そこは、日の光が注ぐ明るい大きな部屋だった。幾つもの調度品が置かれ、高級そうな壺や絵画が飾られており、どこかヨーロッパの城とか宮殿とかで見るような部屋に思えた。
どういう事だろう?
彼は何故この様な場所に自分がいるのかさっぱり判らず、もっと周辺を見ようと身体を動かそうとする。が、思うように動かない。体に鉛の塊でも付けられたかの様だ。それでもなんとか動こうとジタバタとしていると不意に目の前を覆う影が現れた。
「レンちゃん、どうしたのかな~? お腹空いたのかな~?」
甘ったるい声で話しかけて来たのは一人の女性だった。
緩やかなウエーブのかかった長いブロンドの髪に、コバルトブルーの瞳を持つ端正のとれた顔立ちの女性が青年に手を差しのべ軽々と持ち上げてしまう。
「?!!!」
彼は、自分を軽々持ち上げる女性に驚く。
仮にも21歳の男性を軽々と持ち上げるなんてどんだけの大女なんだ? いや、そもそも死んだ俺がなんでこんなとこで女性に抱き上げられているんだ??!
頭の中はパニックだった。
先程から自分の理解し難い事ばかり起こっている。彼は状況を確認しようと目の前にいる女性に話しかけようとする。
「あ!うー、あっあー、!!!」
言葉がでない?!
「あ、あ!あうー!」
彼は、必死に言葉を出そうとするが、呻き声の様なものしか出せなかった。
「レンちゃん良い子ね~、今オッパイあげますからね~。」
そう言うと彼女は胸の辺りのボタンをはずし、徐に自分の胸をさらけ出す。
!!!!なっ、
突然の事に驚いている暇もなく、彼女の胸は彼の口に押し当てられる。それを貪るように吸い付いている自分に気付くと何故だかとても心地よかった。そのまま吸い続けていると、また眠気に襲われそのまま意識を離してしまった。
次に目覚めると、目の前に5本の蝋燭が灯された大きなケーキと、その回りを沢山の料理が囲む様子が見えていた。彼はそのテーブルの一角につき座っている。その他にも先程見た女性がすぐ横に座り、テーブルを挟んだ真向かいには、短髪の赤毛色に同じ色の顎髭を蓄えた、男性が座っているのが見える。
・・・・・・・・
その光景は慣れ親しんだものであって、不思議な事では無いはず。なのに違和感を感じている。
あーそうか。これは僕の誕生日だ・・・
「僕?」
自分の発した声にビックリする。日本語では無い言葉を発し、しかも子供の様な可愛い声だったからだ。彼は、もう一度周りを見渡す。その光景は慣れ親しんだものだった。
横に座っているのは自分の母であり、向かいに座るのは父である。いつも食事をするテーブルに座り、いつもの部屋、なんら不思議なものは無い。だけど、違っていた。
今まで過ごして来た7年間の記憶と共に、日本人として21才の男性の記憶がハッキリと認識できていた。彼は頭のなかを整理するため一度大きく深呼吸をする。
「レンちゃん?どうしたの具合でも悪い?」
横に座っていた彼女がおどおどしながら彼を覗きこみ心配そうに見つめた来た。
「だ、大丈夫です。お母様。ちょっと考え事してました。」
可愛らしい声で答えると、彼女は安心したように微笑む。
うわ~、やっぱりこの声なんだ。
自分の発する声にまだ馴染めなかったが、とりあえず今の状況を確認することにした。自分は今日7歳の誕生日を迎える男の子で、名前をレンティエンス・ブロスフォードである事。
横に座る美しい女性が母である システィーヌ・ブロスフォード。
真向かいに座るのが父である、レイナード・ブロスフォード、この家の当主であり、子爵位を持つ貴族である事。つまりレンティエンスは,貴族の子供ということである。