旅、エルフの里へ 14
投稿いたします。
是非読んでやって下さい。
「ちょっと! どっから湧いて出たのよ!?」
フル姉が失礼な事を言ってる。
「だからゴメンって言ったでしょ? 恥ずかしい思いをさせたのは悪かったけど、人を虫かなんかみたいに言わないで欲しいんだけど?」
「だって! だって! 今、パッ! て現れたじゃない!」
「ああ、これね? 便利でしょ? 僕が作ったんだ。魔光学迷彩、かな? 認識疎外とかいろいろな術式を組み込んで作ったんだ。見えなかったでしょ?」
フル姉、ウン、ウンって頷こうとして、
「ゲホ! ゴホッゴホッ!!」
「ああ、首とか拘束されてるのに首振ろうとするから、ちょっと待っててね。それと君もちょっと横にいてくれる?」
僕が、フル姉の足にしがみついている女の子にそう言うと、小さく頷いてどいてくれた。
「じゃあ、じっとしててね。」
僕は腰を少し落として腰に挿してある刀の鞘に手を掛けると、息を小さく吸い込む。
何をするのか判ったフル姉が、体の力を抜き、無駄な動きが出ないようにしてくれた。
キーーン!
金属の甲高い音が部屋の中に響き渡る。
ゴト、ゴン!
それから直ぐに重たい物が石の上に落ちた鈍い音が響いた。
僕は、一瞬で抜いた刀を直ぐに鞘へ戻すと、小さく息を吸い込む。
「よし! これでフル姉の・!!」
グァッヴァ!!
僕が顔をあげ、フル姉の鎖が切れた事を言おうとした瞬間に、僕の目の前が真っ暗になり何か暖かい物に僕の顔が押し潰されそうになった。
「ウァッ!! グ! フ、ル、姉! 息が! く、苦しい!!」
どうも僕はフル姉に思いっ切りダイブされて、しがみつかれ? というよりフル姉の胸の中で抱きしめられてしまっている!
「ちょ、ちょっとフル姉、胸! 胸!?」
なんだ? やけに頬に肌の実感が伝わるんだけど? あれ目の前というか鼻にくっつきそうなところにフル姉のそれ程大きくないけど形の良い胸の先端が!?
「フル姉! み、見えてる!見えてるから!」
僕が何度も訴えるけど、フル姉はいっこうに力を弱めてくれなかった。
「グス、ウ、ウ、ウウ!」
フル姉が泣いていた。
「遅い! もう駄目かもって一瞬思っちゃったじゃない! 本当に! ほんとに、もう、会えないかと・・・」
初めて見たかもしれない、フル姉の涙なんて。
僕は、自分の腕をフル姉の背中に回して、強く抱き寄せてあげた。
僕がこんなことしてもフル姉が落ち着くわけないけど、それでも目の前で泣く女の子がいれば、つい抱きしめたくなるもんです。
いや! いや! そんな悠長な事をしてる場合では無かった。
ここの屋敷の住人というより従者ばかりで主は居なかったけど、認識疎外と結界を施して気付かれないようにしているのだけど、魔法石の魔力効果が簡易版なのでもうすぐ切れるからだ。
「フル姉、ゴメン! 落ち着くまでこうしていてあげたいんだけど、あまり余裕がないから。」
「あ、うん、グス、うん、大丈夫、だよ。ありがとうレンちゃん、優しいね。」
なんとか、落ち着いたみたいだ。
それともう一つ。
「フル姉、その胸がね、見えてるから、このタオルで隠して、ね。」
「!!!」
フル姉は、物凄い勢いで僕の手からタオルを奪うと、胸に巻つけていった。
あまり大きなタオルじゃなから色々ギリギリだけど、なんとか成ったみたいだ。
「その、あ、あんまり見てないからね!」
一応、フォローしておこう、
それが嘘でも、こういう時は必要な言葉だ。
「べ、別に、レンちゃんなら・・・」
「ん? フル姉何か言った?」
「べ、別に! それよりここを早く出よう! あいつらが戻って・・・ん? レンちゃん扉、鍵締まらなかった?」
「ああ、そういえばあの男、律儀に鍵締めていったね。」
「いったね! じゃないわよ! どうするのよ! これじゃ逃げられないじゃない!!」
急にフル姉が、大声をあげて僕の胸ぐらを掴んで振り回してくる!って苦しいです!
「ちょっ! ちょっと大丈夫だから、落ち着こう!」
「落ち着けって!言われても!!」
ガチャ
「レン様、大丈夫ですか?」
フル姉が騒いでいた扉がタイミング良く開かれて、ポカーンとされている。
そしてその扉を開き中に入って来たのは、カーナだった。
「お疲れ様、こっちも問題、?ん? まああまり無かったよ。カーナの方は?」
「はい、密偵と思われる男性3人を確保完了です!」
「さすがだね。じゃあちょと外で待ってて。僕はもう一つ確認する事があるからね。」
「はい、ですが後半時も無いくらいで、屋敷の簡易結界が切れますのでそれまでには?」
「了解だよ。」
僕が手を挙げて合図を送ると、優しい微笑みを僕に残して、カーナが外へと向かってくれた。
「さて、これで逃げれるでしょ?」
僕がどう? って扉の方を指差すと、ぷうっと頬を膨らますフル姉がいた。
「騒いだ私が馬鹿みたいじゃないの!」
膨れるフル姉をあまり刺激しないように、軽く笑うだけで何も言わないでおこう。
「それより、この女の子どうするの?」
見たところ、僕より小さいから、5才くらいの女の子だよね?
そしたら、フル姉が今までのいきさつを、手短に話してくれた。
「なるほどね。じゃあ、この首輪は強力な支配術が組み込まれている重度の犯罪奴隷専用のなのか、まったく酷い事をする。」
「そう、奴隷用は断罪の神、エリストレスティア神が作り出したものと言われていて、一度付けたら死ぬまで外せない代物なのよ。それをこんな小さな女の子にするなんて。」
フル姉が悔しそうなのを唇を噛んで我慢しているようだ。
でも、もしかしたら僕なら?
「君、名前はなんて言うのかな?」
僕が少女に尋ねると大きく首を横に振った。
「わたし、名前、無い。わからない。」
「「え?」」
僕とフル姉は同時に驚いていた。
けれど、そんな彼女は特に気にすることなく、僕にテクテクと可愛らしい歩き方で近づくと、手をそっと握りしめ、身長さの為に下から見上げられるような形で見つめられてしまった。
「ねえ? あなた、神様?」
その少女から思いがけない言葉を聞いて、少し慌ててしまった。
ありがとうございました。
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