第1話
ぎぎぃと重い音を立てて今日も扉は開く。
中から流れてくるのは古くさい紙の匂い。そして・・・・
ああ、今日もいるのか。
『図書室の君』
勝手にそう名付けた。いつの頃からか、図書室に来ると必ず奥の席に座ってもくもくと本を読んでいる人。そしてチャイムのなる5分前には図書室を出て行ってしまうあの人。
あの人が一体何をしているのか、何年何組の誰かすらも分からない。
ああ、分からないのは僕が人に興味を持たないせいでもあるのか。
今日もいることに半ばがっかりしながら、けれど少し嬉しくも感じながら古臭い棚の間をぬって歩く。
ここの図書館は古い上に、小さく、更に窓も少ないため今の季節が春とはいえど薄暗いし湿っぽい。
それに幽霊が出るという噂もあるためか、人もあまりこない。はっきり言って昼間から幽霊は出ないと思うけどその辺りの矛盾にも気づかないのだろうか。
まあ人が来ないほうが下手にうるさくされるよりかは落ち着いていて僕は好きなんだけど。
そんなことをぼんやりと思いながら今日借りる本を選んでいく。
一つ一つの本を手にとってぱらりとページをめくり、また戻す。その繰り返しだ。
図書室には僕が本を棚に戻す音、そして僕とあの人が本のページをめくる音しかしない。
カタッ
ペラリ
カタッ
ペラリ
バサッ
しまった。いくつか選んだ本のひとつを床に落としてしまった。
軽く舌打ちをしたいのをこらえそっとかがんで本を手に取る。棚の下に角が入ってしまったため
少しほこりがついてしまったけどそれ以外は特になんともない。
僕は貸し出しカードを持ってカウンターへと本を持っていく。
図書委員はいない。そもそもここに僕以外の人が座っているのを見たことがない。
図書委員である僕は勝手にカウンターからペンを取って紙に必要事項を記入していく。
ちょうど予鈴のなる音が聞こえた。
そっといつもの席を見てみるといつの間にか図書室の君はいなくなっていた。