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界遊記  作者: かえで
カタラットでの出来事

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セレモニーの準備

 遊覧船カタリティの引退セレモニーの準備は始まっていた。

 宰相ゴウ=ツクリーバのみが『戦艦』と呼ぶ巨大な木造船。

 動力部は持たず、巨大な帆のみで推進力を得、進行方向は舵で制御する。この旧式の帆船の技術は、古代帝国が失われた後の世界に生き残った漁師たちが、過去の伝承とわずかに残された文献を参考にし、カタラット独自の技術として確立させた。

 動力が、風を孕んだ帆であるが故、操舵は動力を積んだラン=サイディールの軍艦よりよほど難しい。ましてや姿勢の維持しながらの砲撃は、尚更の事だ。しかし、それを補って余りある巨体は、他の軍艦を睥睨するのに十分な迫力はあった。

 その巨体は優雅な曲線を描いており、その巨体に勝るとも劣らぬ帆の圧倒的な存在感は、まるで大空を舞う大鷲の双翼だ。

 カタラット国の民は皆、カタリティを誇りにし、大切にしてきた。

 今でこそ年老いてしまったが、かつては世界を救った賢者の女性に、全ての国民が敬意を払い慈しみの心を持っているように、この船はカタラットの民にとって心の拠り所だった。

 遊覧船となったカタリティの甲板上で愛を語ったカップルは数知れない。

 闇夜に山のように聳えるカタリティは、子供たちに夜の恐ろしさを教え、父と母の待つ家庭の温かさを教えた。

 少年はカタリティの操舵手を目指し、少女はカタリティ甲板で人々にカタラットの魅力を伝える観光案内人となる事を夢見た。

 人生の岐路に立った若者が、その巨体を五感の全てで捉えることで、内なる自分と対面し、自ら結論を導き出し、そこに向かって歩みだしたこともある。それがカタラット国でも稀代の名君として後世に名を轟かせるワーヘ=カタラットだった。その偉大な功績は、彼の名を首都に冠し、語り継がれている。

 老若男女が何らかの形でカタリティとの拘わりを持ちたかった。

 ほとんどの国民が、それぞれカタリティとのエピソードを持っていた。

 カタリティは常にカタラット国民と共にあった。

 そのカタリティもいよいよ老朽化が進む。メンテナンスする速度より、朽ちていく速度の方が速くなってしまった。

 そして、決定的な事件が起きた。去年カタラットを直撃した台風に晒されたカタリティの竜骨に、細かいひびが入ってきていると、メンテナンスした工員が告げた。その台風だけが原因ではあるまい。何百年もの間カタラットを護り続けた巨大な船は、客観的に見ても年を取りすぎていた。

 航海に出る予定はない。動いても、湾内だけのクルージングだ。しかし、季節に必ず訪れる大嵐に持ちこたえられる保証はなかった。

 カタリティが壊れれば、その巨体故、大きな被害をもたらすだろう。そして、壊れる事がカタリティの永遠性を否定されてしまう気がして、どうしても修繕が不可能、となった時、国王ビリンノ=カタラットはカタリティの崩壊を待つのではなく、解体を決めた。

 カタリティを愛してやまない者が、カタリティの最期を決め、全ての人間がそれに同意した。

 解体に着手する前に、カタリティの引退セレモニーを誰もが望んだ。

 誰しもが、国の英雄であり心の支えであった老船への感謝と別れを惜しみたかったのだろう。この国の生きとし生けるすべての人間が生れ落ちるのを見守っていた船なのだ。

 その中には、カタラット国王ビリンノ=カタラットも、カタラット国宰相ゴウ=ツクリーバもいた。


 接岸された巨大木造帆船カタリティを見上げるように佇む幾つもの人影。

 その中の一つが、護衛を伴ったゴウだった。

 世界のバランスを最重要視しているビリンノですら、渋々ではあるが、出土品である大陸砲をカタリティに設置する事を認めた。

 老いていくカタリティにかつての古代帝国最高峰の技術を乗せる事で、誰しもが想像しえる最高の戦闘力を、一時とはいえ入れさせることが出来る。

 威力こそ誰も目の当たりにしたことはないものの、史実でも口伝でも史上最強の兵器と言われる大陸砲すら積むことのできる至高の船。

 史上最強の帆船軍艦。

 カタリティは、カタラットの人々の夢の体現。

 長い間カタラット国属の旗艦を務めたカタリティが、世界一の船となる瞬間。

 大陸砲の搭載は、カタリティの最期の晴れ舞台だった。

 最後の晴れ着が、そのまま人々の夢を体現した死に装束となる。

 人々は、そのセレモニーを心待ちにしていた。

「セレモニーでは、陛下が大陸砲をカタリティに設置する段取りをしたい」

 ゴウは側近にそう呟いた。

「それであれば、スピリットトップセイル(注:帆船の先端の斜めに伸びた棒)の先端に装備するのがよろしいかと。

 船に乗る者は勿論、船を外部から見る者にとっても、非常に見やすい位置になり、記憶にも残るかと。ただ、陛下が設置なさるのはいささか危険な部位ではありますので、カタリティの周囲に足場を組み、解体直前の状況にしたうえでのセレモニーになるかとは思いますが」

「しかし、それでは大陸砲を設置した上での最後の航行が不可能ではないか」

「陛下の設置後に、足場を外せばよろしい。

 カタリティをどのように解体するか、という問題は残りますが」

 ゴウは、短く刈り上げられた頭を掻きながら考え込む。

 カタリティは巨大だ。

 通常大型と呼ばれる帆船でも、三本マストがほとんどだが、この船は五本のマストを持ち、弱い風であろうと強い風であろうとうまく孕ませ、海上を自由自在に駆けることのできる帆を持ったカタリティは、他の船との戦闘を優位に進められる風上を奪うことを得意とした。また、他の船に船首をぶつけ、破壊する装備も持ち、接近戦でも他の船を圧倒した。船の形状上、通常は艦側砲を何門か持ち、並走またはすれ違いざまに砲撃しあって勝敗を決する帆船同士の戦闘が主流の中、その巨体を誇るカタリティは艦首、艦尾にも二門の砲を持つことで、前後左右全ての方角に対し優位さを維持した。

 それゆえ、圧倒的な戦闘力を確保できたのだが、実際にその能力を遺憾なく発揮したのは、カタラット国成立後、十数年間程度で、他の侵略国もそこまで航海術に優れていなかったため、長距離を航海した後に、カタリティとの戦闘を行うほどの余力もなく、出航してすぐのカタリティに悉く撃沈された。

 カタリティの高い能力は勿論の事だが、時代背景もまた、カタリティを当時の最強の木造軍艦たらしめた。

 その最強の木造軍艦が、『史上』最強になる。

 引退は悲しいが、引退の花道を史上最強のまま作ってやることができる。

 それこそが、カタリティにとっての最大の手向けとなる。

 そして、カタリティの名は語り継がれ、伝説となる。

 ゴウをはじめとする、セレモニーの企画者、運営者たちはそう考え、血沸き肉踊らせた。

「セレモニーのプログラムはまだ変更できるな?」

「はい。まだ国民に告知はしておりませんので」

「では、最後の湾内クルージングの前に、カタリティの甲板で、陛下に大陸砲を設置していただこう。陛下御自身の手でカタリティを最強にしていただくのだ」

 側近の男は、更に背後に控えていた数名の男たちに目配せをする。男たちは周囲にいる何人もの同行者が気づかぬうちにその姿を消した。




 ヒータックの駆る飛天龍が、カタラット国首都ワーヘに到着したのは日付が変わってからだ。

 もともとSMGの戦闘艇の飛天龍が人目に触れることを好ましくないことだと考えていたヒータックは、到着時間をちょうど深夜帯の人目に触れぬ時期に設定していた。移動時間を出来るだけ短く、かつ着時間を設定し、その予定どおりに運行するヒータックは、操縦の技術だけではなく、運行管理にもその類稀な才能を遺憾なく発揮したということなのだろう。

 ワーヘの位置を確認したヒータックは、そのまま一度シュト大瀑布の滝上の大森林内に設置された、SMGの飛天龍の離発着ポートへと向かう。ポートといっても、ルイテウ上部に設置された発着ポートのような整備されたものではなく、うっそうと茂る大森林の中に、一区画だけ木が切り倒され、均された地面が準備されているところだ。

 そこに着陸した飛天龍は、そのまま放置されることはなく、そばに準備された森林を模した柄を施されたシートを被せられる。今でこそ飛天龍の上空を飛ぶ物はおらず、敵襲を加味する必要はないが、風雨に晒される事なく、上空から敵に発見されることもないという点では、飛天龍を隠すのにはもってこいの場所だ。ただ、現地に到着したのが深夜であるため、低空を飛行し、目視でポートを探さざるを得ないのだが。

 微かに光のある夜空よりも漆黒の闇となる大森林。その黒一色の大地の中から、発着ポートを探すヒータック。当然肉眼で探すことは不可能で、ある程度の位置まで飛天龍を移動させたヒータックは、足元の荷物入れからゴーグルを取り出し、装着する。

 ゴーグルを通して見た大森林は、変わらずの漆黒の大地だったが、一部だけ黄緑色に浮き上がって見えた。切り倒して均した部分に特殊な塗料で印をつける事で、人間の目には映らない波長の光が、発着ポートを鮮やかに形作り、パイロットにその場所を示す。

 飛天龍を長い間同じ場所に待機させるのは、SMG的には悪手ではあるのだが、深夜であることに加え、シュト大瀑布の莫大な量の水が流れ落ちる際の、恒常的に耳を覆う程の爆音によってかき消されているため、飛天龍のローター回転音が周囲の人間に気づかれることは心配せずゆっくりと探すことができた。

 無事にポートを発見したヒータックは、そこにうまく機体を嵌め込み、そこで待機するSMGの特派員とともにシートをかけ、ポートの傍に建築された小屋で、夜明けを待つことにした。

 ファルガとレーテは到着してもまだ目を覚まさず、レベセスに起こされて小屋まで移動したが、寝床にたどり着くとそのまま寝袋を被ることもせず、再び深い眠りに落ちてしまった。

 恐らく、深夜に起こされて夜道を歩いた事も覚えていないだろう。

「あの二人があれだけ疲労困憊で目を覚まさぬとは、飛天龍上でどのようなトレーニングを課したんだ?」

 呆れながら呻くヒータックに、レベセスは笑みを返すだけだった。


 朝日の強い日差しが瞼を貫き、少年と少女は目を覚ます。

 体を動かしたわけではないが、酷く体中が痛む。

 氣のコントロールの訓練は、実際には体を動かしていなくともそれと同じ負荷を体に掛け、疲労を感じさせる。

 全身の筋肉痛に思わず呻き声を上げた二人は、ファルガとレーテの声を聞きつけて入ってきたレベセスは、二人に顔を洗って外に出るように告げた。

 小屋から出て、雨水を濾過して溜めてある手桶で顔を洗い、渡された手拭いで顔を拭ったファルガとレーテは、次の瞬間歓声を上げた。

 背後にあるのは、深い森林の狭間にある飛天龍の発着ポート。そして、正面の木々の間から見えるのは、巨大な河川がそのまま流れ落ちていく大瀑布の姿だった。先程から彼等の耳にずっと離れず続いていた耳鳴りは、実はこの川幅の見えぬ巨大河川が崖から大量の水を海面に叩き付ける轟音だった。

 思わず駆け出すファルガとレーテ。

「おーい、落ちるなよ! 落ちたら流石に誰も助けられんぞー!」

 遠くでレベセスが叫ぶ声が聞こえたが、その意味は直ぐに理解できた。

 海だ。

 眼前には海が広がる。

 しかし……。

 これは、本当に海なのか?

 海としか思えない。だが、どこかで海とは違うと心が否定する。

 では、一体なんなのか?

 大海スロイを見た時と同じ光景。彼等が立つ場所は大地だが、前方は水平線の彼方まで何も確認することが出来ない。そのまま視界を左に移していくが、同様に水平線が広がるだけだ。そして、更に視線を移すと、彼等の立つ大陸と地続きの大地が左手に延々と伸びていき、地平線の向こうまで連なっている。

 大海スロイと違うのは、水の色。

 スロイは途轍もなく濃い青だった。だが、眼前の海は泥水だ。大雨が降り、河川の土砂が流れ込んだ海がまさにこんな色なのだろう。それが、抜けるような青空と、背後に延々と控える大森林の濃い緑との対比で、より海が濁っているように見えた。

 他にも海の傍にいるのだと言われて覚える違和感は、波だ。

 通常、海でなくとも巨大な湖は、水上を滑る風によって波が起き、その波が岸に向かって打ち寄せる。だが、ディカイドウ大河川はれっきとした河川だ。川上から川下に向かって水は流れる。視認できないほどのゆっくりとした速さであったとしても、水の大きな流れは決まっている。その結果、風が吹いても大波として岸に打ち付けることは殆どない。

 そして、決定的な違い。

 この偽海洋には、端がある。

 ファルガとレーテは、今まさにその海の端に立っているのだった。

 左方から視線をゆっくりと右方に移していくと、突然海が切れる。

 大陸や島があるのではなく、海の切れた先は虚空。

 海だと思っていた大量の水が、一気にその切れた虚空に向かって落ち込んでいく。

 これが夜だったら、完全に漆黒の闇に落ち込む大量の水を見て、無へと飲み込まれていく底なしの空間を想像し、正気を保てなくなる人間もいるだろう。その為、大瀑布の落ちた先には展望台があるが、落ちる直前のこの場所には展望台は作られていないのだと言われている。

 端はないのか?

 そんな思いに駆られて、ファルガとレーテは『泥の海』の端をのぞき込む。

 眼下に広がる、虚空と思われていた更に下の空間には、真の海がその巨体を横たえている。『泥の海』の端の遥か向こうには青い海の作り出す真の水平線が広がっていた。濁った海と、澄んだ海が二段になっているのだ。

 そして、『泥の海』の端は、巨大な滝になっている。あまりにその高低差があるために、莫大な水量が流れ込む際に発生する濃霧がファルガたちを包むことはない。ただ、直近の海の様子は伺い知ることができないだけだ。眼下の海がまるで雲の中にあるようにさえ見える。それほどに濃い霧が眼下の滝壺近辺で立ち込めていた。この霧こそシュトの大雲といわれるものであり、快晴であれば恒常的に虹を見ることができるという点で、『滝虹』という表現もカタラットの慣用表現で生まれた。ほぼいつでも見ることのできる世界的には異常なこの現象を、人々は『飽和超常』と呼んだ。そう呼ぶことで、観光客からすれば異常なこの景色に慣れたカタラット国民は、毎度毎度聞かれるこのマンネリ化した超常現象を、辟易することなく観光客に説明することが出来たのだろう。

 背後から声をかけられたファルガとレーテは、驚いて飛び跳ねる。

 いつの間にか、背後には服を着替えたレベセス。

 ルイテウを出発した際には、ヒータックの実妹の準備した正装、すなわち特派員としての正装、黒装束に金の帯という格好だった。出立時は金の帯だけ返却し、黒い帯を身に着け、闇に紛れても大丈夫な格好で飛天龍に乗り込んだ。無論、ファルガの少し色あせした紺色の装束はそのままだったが。

「これから、カタラット国に入ろうというのに、自らSMGの人間であると主張しながら入国してどうする。あっという間に不審者だぞ」

 レーテは、ファルガの恰好を頭のてっぺんから爪先までじっくりと何かを調べるように見つめたのち、一言発する。

「……確かに不審者だわ」

 その言われように頭に来たのはファルガだ。

 来ている装束の色こそ違えど、本質はレーテと同じだ。

 そのファルガを不審者呼ばわりするということは、巡り巡って自信を不審者扱いしているのと同義のはず。だが、何故かレーテは自分が蚊帳の外にいるような表現を用いる。

「な、なんだよ! レーテだって、俺と全く同じ格好じゃないか! なんで俺だけ不審者呼ばわりするんだよ!」

 一瞬しまった、という表情を浮かべたレーテ。自分の発した言葉が壮大なブーメランとなって彼女の元に戻ってきたはずだった。だが、少女はそれをうまくいなす。

「私は、この格好ではカタラット国への入国は難しいと思っていたのよ。そのために、これは持ってきたわよ」

 そういうと、少女はデイエンからドレーノで用いた麻の服を持ち出してきた。膝のリンゴのアップリケがいささか場違い感を与えるが、旅人としては十分言い切ってしまえる格好だった。

 ファルガは思わず絶句する。

 彼がラン=サイディールから持ってきたのは、薔薇城で逃走中に、城内で着せられた囚人服から着替えたメイド服だけだった。しかも、そのメイド服もボロボロで、サキに同情されて、SMGの装束をもらった経緯があるのだ。

 ふてくされるように考え込んでしまったファルガに対し、レベセスは乾いた笑いを浮かべながら助け舟を出す。

「まあ、ファルガ君が、着替えの服を持っていないのは仕方ないだろうな。その装束も少し加工すれば、作業服位には見えるだろう。

 ……しかし、メイド服……? どんな状況でそれを着る事になったんだ?」

 少年がメイド服を着てガガロと対峙した。

 その事実を聞き、レベセスは目を白黒させる。彼の中で、聖剣を持ち幾多の危機を潜り抜けてきた少年が、その状況に陥る背景が想像できなかったのだ。

 話を聞いて、同情的な視線を送りながらも、失笑は消せないレベセス。心の底からファルガに謝罪をしているのだが、どうしてもその誠意が伝わらない。

 半ば諦めた様にファルガはレベセスの謝罪を受け入れた。

「着たくて着たわけじゃないですからね!」

 との言葉を残して。

 結局、少年ファルガ=ノンは、当初のレベセスの提案を受け入れ、色あせた装束はそのままに、いろいろとダミーの道具を腰に括り付けることで、旅の職人を装うことにした。

 この時点では、まだカタラットを訪れた四人は、巨大遊覧船カタリティの引退セレモニーが催されることは知らない。

 ワーヘの街に出たファルガとレーテ、ヒータックとレベセスの四人が、街道沿いにたくさん並ぶ屋台を見て初めて、祭りのような何かがカタラット国で行われることを知った。

 ファルガとレーテは、レベセスから銅貨を数枚貰い、屋台で買い食いを始めた。特にファルガは予期せぬ祭りとの遭遇を喜んだ。

 彼は物心ついた時から、ラマ村がデイエンに農作物の販売に出る『お上り』という豊穣祭に出店者として参加はしていたが、ここの所は村の小さい子供の面倒を見る立場になっており、屋台での買い食いができる状態ではなかったからだ。彼は昔のように、遠慮することなく買い食いを楽しんだ。そんなファルガを見てレーテは微笑み、そんな二人を遠巻きに眺めていたレベセスも、どことなく嬉しそうだった。ただ、ヒータックだけは、このような所謂『陽の当たる』イベントに参加したこともなければ、子供の感性のまま訪れたこともなく、どこかもの寂しそうな表情を浮かべていた。

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