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界遊記  作者: かえで
ラマでの出来事
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ジョーという男3

 ジョーであるのは間違いなかった。

 いつどの瞬間にこの人垣を越えて、営火の傍で幼子たちを守ろうとしていたレナを補足したのか、誰もわからない。

 だが、レナと思しき少女を小脇に抱え、一飛びで人垣を飛び越えたその驚くべき身体能力は、ジョー以外考えられなかった。人垣の外周の少し先に着地した人影は、明らかにファルガを見ていた。人垣でも最外部にいたわけではないファルガを、ジョーはあの一瞬で発見し、視線を叩きつけた。

 ナイルは激昂する。

 最愛のレナを奪われたこと。そして、ジョーという男は、レナを奪い去ったことをファルガにのみアピールし、自分をまるで無視していること。

 ナイルは腕に自信がある。少なくとも、格闘技経験でもファルガよりは数段上だ。その自覚があるからこそ、レナが連れ去られたのと同じ位に、まるで今現在そこにいないかのごとくに無視をされたことに対して、烈火の如く怒った。俺はファルガ未満ではない! 少なくとも、戦闘に関しては……!

 ナイルのそんな怒りを無視し、ジョーは闇の中に消えていった。

 ナイルは人垣を掻き分け、最外部に出ると、ジョーの消えた闇に向かって絶叫する。

 ナイルに、もはや打つ手はなかった。


 漆黒の闇の中、ジョーは走り続けた。

 狂った美神は、レナが欲しかったわけではない。聖剣の勇者としてなぜか認められた、戦歴も何もない少年ファルガが、彼の元に来ること。そして、彼の持つ聖剣を奪い、聖剣に己が聖剣の勇者たる事実を見せつけ、自分の所有と成すこと。

 とはいえ、どれ程の秀でた才能を持とうと、それは人間の能力の上限を極めたに過ぎない。人間の身体は闇を疾走する様にはできていなかった。

 細い枝が彼を打ち、森の根が彼に足止めを掛ける。だが、それも美しき神、聖剣以外の全ての物に愛される資格を持つこの青年の足を止めるには至らなかった。

 少女は、完全に気を失っていた。打つ小枝の痛みも、彼女の目を覚ますには至らない。

 逃走を続けるジョーは、再び鬼の巣の広場に戻ってきていた。

 ここで、少年を待つ。抜き放たれた聖剣を手に収め、ジョーと闘う為に滾りながら歩みを進める少年と向かい合うため。

 聖剣の権利を放棄させる。

 聖剣そのものに自分を認めさせる。

 その為に、もう一度ジョーはファルガと闘う必要があった。少年を屠り、聖剣が自身の所有者を失わせ、ジョーを選ぶように仕向けるために。

 彼は待った。聖剣の勇者が現れるのを。

 幼少期から容姿端麗。それは成長し青年になっても変わらない。

 勉学は無論のこと、運動も鍛錬をせずとも世界最高峰の実力を身に付けていた。技術に関しては、特段師事せずとも見様見真似でこなすことができた。一日の見学で、演舞を披露しに来た者を超えるなど日常茶飯事だった。加えて、祖父譲りの『人たらし』の覇気を持ち、即位する前に人々を魅了した。そんな、天才とも神の子とも言われた彼の、唯一の問題点はといえば、人肉しか食せないという特徴だった。アレルギーなどではないのだろう。ただ、その趣向だけだ。

 最初に味を知ったのは、幼少期に父に同伴した狩りの時だった。

 父親と側近の者数名で大森林に入ったが、突然の熊の襲撃により、小隊は散り散りになって逃げた。数名の兵と共に森の中を彷徨ったが、一人の兵の発狂により、残りの兵は惨殺、ジョー自身もその美しさ故犯されかけた。その時の恐怖と必死の攻防から生を勝ち取った興奮と、その後の勝ち取った命を繋ぐ作業となった食料の確保とが一つになり、三大欲の一つである食欲が人肉嗜食の性癖へと進化していく。

 彼は葛藤した。己が生きるために他者を屠る。その矛盾を彼は常に突き詰め続ける。命の価値は等しいのか。自分の一つの命の為に、日々幾つもの命が消える。自分の命は他の生物の命幾つ分なのか。それが許されるのか。いや、よい事なのか。仕方のない事なのか。

 そのうち、一つの結論にたどり着く。

『仕方ないではないか』。

 強い方が生き残る。優れた方が生き残る。例え、能力的に劣っていても、それを補う何かがあれば生き残れる。総合的に強い者が生き残るのだ。

 その時、人が人の糧になる場合もあるという法則を認めざるを得ない。但し、その命には全霊を以て答え、感謝する。自然と共に生きる者達が、自然に対して持つ感謝の念を、己の糧となる人間に対し持つことで、己の性癖を、己の存在の肯定をせざるを得なかった。

 その時から、ジョーは己の嗜好に対し、恥じることを拒絶した。

 ジョーの死を覚悟していた父は、単独のジョーの帰還を喜んだ。と同時に彼の心の中に形成された闇の部分に薄々と気づいていたようだ。

 ジョーが思春期となり、食欲と共に肥大していく性欲は、食欲と相交わり不思議な様相を呈していく。ジョーの己の衝動が、一般に言われる禁忌の方向に向き始めるのがわかった皇帝は、ジョーがこのまま生き続けていくことが彼にとって不幸であると結論、最も苦しまない方法での暗殺を画策する。

 だが、ジョーはその暗殺計画の決行の直前、ジョウノ=ソウ国から姿を消した。皇帝は直ぐに追跡部隊を組織したが、その追跡部隊からの、命令完遂報告は届く事はなかった。

 彼は、ジョウノ=ソウ国から姿を消すとき、一本の剣を持ち去った。それは、先代皇帝が皇帝職を辞した後、世界中を旅している時に、先代の聖剣の勇者から譲られたものだという。その剣の所有者として世にある事こそが、己の存在意義だと感じ、同時に今まで自分の糧となった者達への弔いになると考えた。そして、祖国からの逃亡劇は、そのまま聖剣の勇者になる為の試練へと位置付けを変えた。


「来い、聖剣の勇者の少年よ。私は君を倒し、君を私の一部にしようぞ。そして、共に世界を守ろうか」

少し短めですが、細かく更新したいので、ある程度のまとめでアップロードしていきたいです。大元の原稿は、少しだらだら感が漂ってます。二十年前に書いた原稿を今の目で推敲し、適切にまとめていきたい。そんな気がしてます。

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