『精霊神大戦争』
『精霊神大戦争』。
三百年ほど前に起こった、世界を一度滅ぼした戦争だと言われている。だが、実はこの戦争の事は何もわかっていないに等しい。全ては言い伝えのレベル。その記録も、口伝に限られており、文字による記録は皆無だ。
それでも、人々は何らかの方法でそれを知り、恐怖する。
精霊神大戦争について書かれた書物は幾つか存在するものの、それはあくまで口伝をまとめた物であり、当時の人たちが書き記したものだとは判別できない。どちらかというと、全て筆者自身が『大戦争』後の人間であり、書かれている内容も、名前こそ『精霊神大戦争』を冠しているが、ノンフィクションを謳ったフィクションであるにすぎない。
今、人々が目にできるのは、古代帝国の遺跡と称される廃墟から出土する、様々な道具のみ。しかし、それらが出る以上、その超国家の存在を否定することはできなかった。そして、現在の様々な技術の知識では説明のできない道具も数多く出土し、それ自体がまだ機能する物もある以上、超国家の技術力は現在よりはるか上だったことだけは証明される。
そして、魔法を使いこなすと言われた空想上の別人類ガイガロス人を精霊に喩え、魔王とも邪神とも呼ばれたフィアマーグと、人間の神とされるザムマーグとが激烈な戦いを繰り広げた戦争だという説が主流になった為、三百年前にあったとされる巨大な戦いは『精霊神大戦争』と呼称され、人々の間に浸透していった。
神対魔王、ガイガロス人対古代帝国人の対決構図だ。
当時を知るはずのガイガロス人は、すでに絶滅しているとされていた為、実質的な目撃者はおらず、そのため正確な記録も残っていないとされた。
三百年前に起きたというのも、単純にそれ以前の世界に関する記録がない為、その戦いで失われた、という推測の元に語られているに過ぎない。
学者によっては、『精霊神大戦争』そのものが存在しなかったという意見を持つ者もいる。世界崩壊レベルの天変地異を、魔王と神の戦いと解釈した過去の人間が、後世の人間に伝えたという説だ。寓話としての側面もあるだろう。だが、現在それを否定する根拠もない。
現在、古代帝国はない。そして、ガイガロス人もいない。神も魔王も存在するのか自体不明だ。
ただ漠然と、存在するかしないかもわからないガイガロス人に対する嫌悪感だけが、人々の心に刷り込まれているだけだ。
そして、『精霊神大戦争』を調べていくと必ず出てくるキーワードの一つが、『古代帝国』。
この古代帝国についてもわかっていることはほとんどない。
かつて栄華を極めた卓越国家だという事だけが、遺跡から出土する様々な物からわかる程度だ。その出土品も高値で取引され、一般の人間の目に触れることはほぼなかった事も、人々の想像を掻き立てた。
科学技術が非常に進んでいたようで、大陸すら浮かせたという説もある。不老不死や生物兵器、クローン製作や改造生命体など、その他禁忌を無数に犯したとされる古代帝国。その圧倒的な科学力を持ちながら、何故滅びたのか。
今も数多くの人間が、古代帝国のことを調べ続けている。
人々の想像が掻き立てられ、完全無欠の国家であると喧伝されればされるほど、その古代帝国がなぜ滅びたのかという問いが付きまとう。同時に、魔族ガイガロス人の存在も否定できない。
SMGという組織も、古代帝国の名残とされる。だが、SMGそのものも世間にはあまり知られていない為、存在そのものが伝説化している側面もある。
いずれにせよ、古代帝国と精霊神大戦争、そしてそれを取り巻く様々な出来事は、わかっていない事も多いが、なかった事を否定できる要素が何もない、という非常に曖昧な状態だった。




