錯視の超界元
ディグダインたちと別れて、高台から臨むことのできた町へ向かって歩き出した二人の神勇者。
特に何事もなく一日が経過し、いよいよ町の入り口に差し掛かろうとしていた。
「大きさのせいで、見え方が違ったんですかね?
ネスクさんが、徒歩で一日かかると言っていた町まで、僕にはそんなに時間がかかるようには思えなかったのですが、本当に一日かかりましたね……」
緑色の髪の少年は大きくため息をつく。
身体的には疲れていないギューだったが、精神的なものだったのだろうか。
もう着くだろう。まだ着かないのか。
その期待と失望の繰り返しは、地味に少年神勇者のメンタルを蝕んでいたらしかった。
「ネスクの場合、コンピューターで演算して距離を求めているからな。
我々は見た印象の距離感で捉えているが、そもそも全体の寸法が違う。基準にしているものが基準になっていないだろう。
比率的にも全てが大きいとなると、我々の目測による距離感は、単純に縮尺違いになるだろうな。
……しかし、見た目と実際がこれほど異なる景色も珍しい。目に入る景色が全て錯視なんだからな」
カインシーザは、ギューの重く沈んだ言葉を、受け止めすぎず、しかし流しすぎずに応じた。今のギューは、否定をしても肯定をしてもすんなりとは受け入れられそうになかったからだ。
確かに、数日の飛行後にネスク機から降りた彼らは、現在位置と町との距離について、無意識のうちに道の太さと草木の寸法を、自分たちの知る縮尺に当てはめて推測していた。そして、その得られた推測結果について、彼らは何の疑いも持っていなかった。
だが、あることを完全に忘れていた。
この界元のものは、全てにおいて巨大なのだ。
雑草と呼ばれる名もない植物たちは、見上げるほどの背丈になり、その茎周りは一抱えもあるような大木のようだ。
目撃こそしていないが、この界元の蟻が通りかかろうものなら、そのサイズはと言えば、中型犬以上となるのではないだろうか。そして、雀が知りうる最大級の猛禽サイズとなり、イワシは全てクジラサイズとなるに違いない。
誇張もあるのかもしれないが、彼らが抱いた解釈はまさにそんな印象だった。
当然生い茂る草原を構成する植物は、雑草などという甘いものではない。かき分けて進む事すら困難な、密集した森林だ。その草むらが天然の防御柵になっていると言っても過言ではない。
遠くに臨める山脈は、ひどく霞がかかって見えるが、実際の距離は彼らのイメージより遥かに遠く、遥かに高い。
霞んでいる山脈は天気が悪いのではなく、やはり絶対的に距離が遠いのだ。それ故空気の層が分厚く、結果的に遠くの景色は霞んで見えてしまう。
頭ではわかっているつもりだった。
だが、痛感させられるのは、見た目はさわやかな風の抜ける草原然としたものは、近くに行くと背丈も高く、茎も太い植物の生え揃うジャングル然とした空間であった事実。
それらの植物は、草という分類で正しいのだろうが、寸法だけ見ればどう見ても木だ。もうここは、草と木の定義は無視して、植物として括ってしまう方が分類的にも楽なのではないか。そして、それらの草をざわめかせることができるのは、もはや暴風レベルの強風だ。
運よく二人の移動中には、何者かの襲撃はなかったが、これだけ背が高く茎のがっちりしている草原で戦いを進めるのは難しい。そして、その防護柵然としている草原を突き進んでくる何物かがいたら、『氣』が使えない二人の神勇者では、対抗するのも容易ではない。
潜在的な危険を孕みつつ、順調に歩みを進める二人。
周囲を草に囲まれた小道……といっても、ほぼ街道サイズだ……が続き、二人を確実に町に導いてくれている。
その実感はある。
つづら折りの道を進むと、ついに町の入り口に到達した。
「遠かったですね……」
ギューは、ほどけかけた靴ひもを縛りなおしながらカインシーザに話しかける。
そうだな、と同意の言葉を口にしかけて、カインシーザは足を止めた。ギューもそれに追随して止まる。
改めて見ると、不思議な光景だった。
両方の道幅に生える背の高い草。彼らの頭から覆い被さるように生えていた、左右に無数に連なる草群は、まるで屹立する緑の壁だった。左右共に、直径数十センチの緑の丸太を並び立てたような模様の緑の壁のように見えるという、見たことのないというより想像をしたこともないような景色。
いや、ただの草のはずなのだが、その巨大さと全体的な緑のイメージ、そして、空を狭く見せるような印象から見て、密度の非常に高い竹林というイメージが妥当かもしれない。光の透過率がなぜかよいため、暗闇にはならないその道が、今まで延々と続いてきていた。
そして、そんな緑の障壁の向こう側に、ついに人工物が見え始めた。
緑の壁の連なる先に、ポツンと存在する灰色の石柱。それが二本、ゲートの役割を果たしているようだった。石柱も、今までの錯視的な距離感を考えると実際はもっと太いはずだ。
そこに向かって近づいていくと、町の入口と思われるところに一人の人間が立ちはだかっている。
草のジャングルや石柱と比較すると、小振りな気がするが、この距離感であの身長ならば、偉丈夫と呼んでよいだろう。
実際、表情が確認できるまで近づくと、側に立つと見上げるほどの体躯であることがはっきり分かる。
眉間に深く刻まれたシワが特徴的だった。後ろに撫で付けられた髪と蓄えられた口髭は、気難しそうな印象だ。睨みつけているわけではないのだが、切れ長の目が何とも言えない圧迫感を与える。
町のゲートなどと見比べても、決して巨軀ではない。しかしながら、筋肉の付き方はしなやかであり、見せる為に鍛えられたものではなく、実践で体を動かし続けた結果があるからこそのものといえた。
腰に剣を差しているが、カインシーザたちが持てば、大剣といえる太さと長さはあるだろう。簡易的な鎧を身に纏い、町の衛兵というよりは、フリーファイター然としている。
眼前に立ちはだかる一人の人間に対し、ただならぬ雰囲気を感じとったカインシーザとギューは立ち止まった。
一瞬の間があり、一見すると壮年の男性が口を開く。実年齢が見た目と一致するかどうかは、全く不明ではあるが。
「別界元の神勇者か……。どちらがライ=ブレイブだ?」
突然投げ掛けられた衝撃の言葉。
二人の神勇者に、緊張が走る。
超界元ユークリッドで出会った最初の人間。その人間が突然『神勇者』という単語を口にする状況。
これを異常と言わずして何と表現するのか。
カインシーザの界元であるタント。
今は無き、ギューの界元であるギラオ。
いずれの界元でも、『精霊神大戦争』後の人々は、多かれ少なかれ関わっていたとしても、事案終了後には、神勇者やそれにまつわる記憶を、神皇に全て消されている。それはユークリッドでも例外ではないはずだ。
だが。
眼前の偉丈夫は知っている。
神勇者という、永きに渡って繰り返されてきた『妖』と『魔』の戦いにおいて、代を紡いで力を繋ぎ、戦い続けてきた存在を。
何故なのか。
そして、もう一つ気になる言葉を口にしていた。
『ライ=ブレイブ』。
この名前は、デイガ界元の神皇ロセフィン=クラビットと、ユークリッド界元神皇エリクシールの会話の中で出たものだ。また、ディグダインの命名の時にも、一瞬だけ話題に上ったことがある。カインシーザ自身も気の遠くなるような昔に一度聞いたかどうかの記憶しかない。
その者がどういった人物なのか、誰も知らない。
それにも拘らず、皆何故か聞いたことがあるような気がする。それ程に鮮烈な名前だった。
一つ言えるのは、その名前の主は、伝説の神勇者と銘打たれているということ。そして、その人間が具体的に何をした存在なのかは、誰も知らない。神皇たちですら。
どちらかというと、神勇者より神皇の方がこの名前に対しては敏感である印象だ。
少なくとも、ドイムやタント、デイガの神皇は、自身の界元にはそのような存在がいたことなど聞いたことがない、と断言する。
言い伝えられているが、その実は誰も具体的には知らない。
都市伝説の界元版。界元伝説といってもいいかもしれない。
少しの間の後、カインシーザが応じる。
「我々のどちらも、『ライ=ブレイブ』ではない。……その名を口にする貴方はいったい何者なのか」
返事はない。
この者とは関わるのは危険だ。カインシーザの本能が、警鐘を鳴らす。
カインシーザはギューをつれて、そのままこの男の横をすり抜け、やり過ごそうとする。だが、それが許されるはずもなかった。
周囲の空気が一瞬ピリッと冷え込む。もちろん、実際の気温が下がったわけではない。人によっては肝を冷やすような強い冷気として感じ、首筋に冷たい刃を押し当てられたような感覚を覚えるはず。生命エネルギーとしての『氣』とは違う、何かの意思が具現化したようなプレッシャー。
殺気だ。
偉丈夫のまさに横を通過する瞬間、カインシーザは横に弾き飛ばされた。
「何するんだ!」
カインシーザの後ろに並び、偉丈夫の動向を気にしながら進んでいたギューは、弾き飛ばされたカインシーザに向かって放たれる追撃を阻止すべく、偉丈夫に向かって攻撃を仕掛けた。
ギューの徒手空拳は、それだけで凶器となる。それ故、ファルガとカインシーザは、超神剣以外の武器を持つことを彼に禁じていた。
ギューの強さは、無論才能によるところが大きい。だが、同時に幼さゆえのものでもある。そして、彼の視野の狭さも幼さゆえのものなので、それが本人にとって取り返しのつかぬ決定的な事態を招いてしまいかねないことも容易に想像がつく。
それを兄貴分であるファルガとカインシーザはなんとか防ぎたかった。これから続く長い彼の人生において、トラウマにならないようにするために。
だが、今はそれを止める人間はいない。
止めるべき人間だったカインシーザが倒されてしまっていたからだ。
ギューは、くるりと身体を回転させると、左足の踵で偉丈夫の顎を狙う。だが、少年の踵は男の顎に届くことはなく、男の左手がふくらはぎ部を受け止めることで、少年の回し蹴りは完全に防がれた。ふくらはぎは作用点にはならないため、威力が半減するからだ。
少年は、受け止められたふくらはぎを軸に、さらに回転を加えて右足の蹴りに繋ごうとする。
しかし、その前に男はそのままギューのふくらはぎを持った状態で振り回し、緑の壁に向かって投げつけた。
だが、カインシーザは体勢を立て直し終わっていた。
ギューの身体が壁のように密集した雑草に衝突する直前、カインシーザはギューを受け止めた。
カインシーザは、爆発的にはね飛ばされたように見えたが、実は咄嗟の回避動を、彼自身で行なっていたのだ。それがあまりに急激で大きな動作であったために、はね飛ばされたように見えたのだった。
そして、それを見たギューは反射的に、強く重い攻撃をカインシーザになされたと勘違いし、攻撃を仕掛けてしまったのだった。
男は、少し驚いた表情を浮かべていた。
「伝説の神勇者ではないのか。
だが、私の攻撃を察知して回避するとは大したものだな。
……エリクシールめ、いい戦士を揃えた……」
衝撃だった。
神勇者のことは愚か、界元神皇エリクシールまで知っている。最早ただの人間であるはずはない。
カインシーザは、継戦に臨もうとするギューを止め、戦闘継続の不要を改めて伝えた。
その『不要』という言葉に、ひどく抵抗感を覚えたギューだったが、自らが拙速に判断し攻撃を仕掛けてしまったことは自覚があったのか、不服そうな表情は浮かべるものの、特に口を開くことなく、カインシーザの言葉を受け止めた。
偉丈夫は、年の功もあるせいか、ギューから受けた攻撃には、あまり頓着していないようだった。
「少年。
『急いてはことを仕損じる』ぞ。
私は、君たちに恨みがあるわけではない。君の仲間は、私から何かを感じとったようだ。
どうしても手合わせを臨むなら継戦もありだが、今はあの青年の話を聞くべきだな」
「貴方は何故そこまでご存知なのですか? 貴方はやはりエリクシール様となにか関わりがあるのですか?」
先程のやり取り以後、壮年の男性から険しさが大分消えた。それでも、眉間に刻まれたシワは、彼を気難しい人間に見せている。
やはり、様々な経験を積んできたからなのだろうか。
もっとも、超界元ユークリッドの生命体が、果たして長寿なのか、短命なのか。容姿に関して年齢は伴うものなのか。寿命という観点ではどうなのか。そういった内容については、基準が存在しない以上、どのように考えるべきか、いかんともし難い。
「……関係があるといえば、関係はあるのかもしれんな。正確にはあった、ということだが。
私は、このユークリッド界元の神勇者だった」
カインシーザもギューも、驚きを隠せない。だが、どこかでその答えを予測していたところがあるのも否めない。それだけのことを知っていて、神勇者でないわけがない。
「しかし……、『だった』ということは、『元』ですか? それはどういう意味ですか?」
カインシーザは更に話を聞きたがったが、この男は話を打ち切った。
「ここで話すのもなんだ。うちに来るがいい」
そういうと、壮年の男性は身を翻し、町への入口の奥へと進んでいく。
そう声をかけられたカインシーザとギューは、思わず顔を見合わせるが、何かしら情報は得られるだろう。そう考えた彼らは、おとなしく壮年の自称・神勇者だった男について行くことにしたのだった。
ゲートを潜ったカインシーザとギューは、思わず目を見張った。
どこかで見たことがあるような街並みだ。
レンガを組み立てて作られた家屋が町の街道筋に並び、人々が往来を行きかう。広大な町の敷地だからだろうか。巡回馬車も街道を縫うように走り、人々の足になっているようだ。道端では子供たちが道路でボール投げをしたり、地面にチョークで落書きをしたり、鬼ごっこをしたりと、子供そのものを満喫しているように見えた。町にいる住人たちは、活発に動いていた。
やりたいことがあり、やるべきことがあり、そのための生活が成り立っている。これほど幸せなことはないだろう。
時代背景、文化レベルの差はあれど、活気のあるどこにでもある町。
そんな印象のまま、ユークリッド界元で最初に訪問した街。
ただ。
一つ一つの物や人が大きすぎるのだ。
カインシーザと向き合い、ギューと手合わせを行なった壮年の男。
カインシーザたちから見て偉丈夫に見えたこの男は、往来を行きかう町人と比較すると、まるで子供のように小さかった。
そして、町の外郭を包むように、緑の壁が広がり、町の空を一部縁取る景色。その様は、緑の屋根が街の一部にかかっているように見えた。
似ているようで、明らかに異なった景色と社会とがあった。
「どうした? さっきから押し黙っているようだが」
壮年の男性は二人に声をかけるが、別界元の神勇者達が呆気に取られているということも、彼は分かっているようだった。だが、それを指摘しても意味がないと思った壮年の男性は、それについての言及をやめ、何事もなかったかのようにそのまま町中をどんどん進んでいく。
それも違和感だった。
ギューたちよりも遥かに大きい男性が、その街の子供たちと同じか、少し小さいのだ。大の大人に至っては、身長だけで二倍近くの高さがある。身長で二倍なので、体躯の圧迫感としては単純計算で八倍近くあり、大人と子供の比率ですらない。
それゆえだろうか、行きかう町の人々は、壮年の男性については向けていない奇異の眼差しを、カインシーザとギューには向けるのだった。
やはり、この界元の縮尺は大きい。人間もかなり巨大だが、その縮尺と草原の縮尺も適切ではないような気がする。
身長が五メートル近い人々からすると、この背の異様に高い草原は、ちょうどサトウキビ畑の中を歩いているような縮尺になるのだろうか。
壮年の男性は、この町でも人徳があるのか、行きかう人々が声を掛けていく。彼は、それには愛想よく答えるが、話し込むことはなかった。
壮年の男性の家は、町はずれの小さな小屋だった。とはいえ、ボロ小屋ではなく、メンテナンスは行き届いているようだった。
家族は妻と幼子が一人。
彼は、この町の自警団のリーダーとして、町内のトラブルや、外敵の襲来に対して対応しているとのことだった。
生活費は、どうやら男性の妻が働きに出ているのと、自警団の維持費という名目で計上される町会費から出るお金で、この男性はやりくりをしているようだった。
男性がカインシーザとギューを家に招き入れた時、家の中にいた夫人と子供はあいさつをしてきたのだが、その様にも彼らは驚いていた。
何しろ、やっと歩き始めたと思しき子供が、既にギューの肩くらいまでの背丈があるのだ。そして、夫人に至っては、偉丈夫であるはずのこの男性の身長を優に五十センチは上回っていた。それでも、この町では女性としては小振りな方だという。
「超界元というだけあるが、普通の住民たちが全員規格外のサイズというのはなかなか表現に困るな」
「どうも、ピンときませんよ。僕は、学校に通っているときにはクラスの中でも一番大きかったんですから。
この界元では、みんな僕よりはるかに大きい。
身長について、星どころか界元も違うから、どうこう言ってもしかたないことではあるんですが、やっぱり調子が狂っちゃいますよ」
なぜか、ギューは苛立っていた。
戦闘能力や身長、体重など、全て同年代よりも遥かに優れ、神勇者としても優れているという自負をそこまで強く持っているつもりは毛頭なかったが、この巨人の町にいる限り、自分はひどく小さい存在だ。それが忌むべき事柄ではないはずなのだが、今までの自分の位置づけを暗黙に了解していたギューからすれば、自身が全てにおいて『小振り』であるという事実は、ひどく彼を不安にさせるのだった。
もちろん彼が悪いわけではないし、この界元の物体が全て大きいサイズだというのはわかる。ギューの怒りにも似た感情は、八つ当たりに近い。
物心ついてから自分より大きい子供はあまり見なかった彼だが、今回ばかりは仕方ない。そういう界元なのだから、とカインシーザに窘められ、ギューは憤然としたまま椅子に腰を下ろした。
椅子も大きいが、まあ、足が届かないほどではない。
それをなんとなく察したカインシーザは、思わず苦笑した。
「さて、どこから話せばいいものやら」
元神勇者の壮年男性も、いささかこの町の大きさには少し感じるところがあるようだった。
「おお、そうだ。
まだ私が名乗っていなかったな。私の名はジルゴ。オモリオ=オ=ジルゴだ。ジルゴでいい」
口髭を蓄えたジルゴは、そういって破顔した。
顔は相変わらずいかつく、無愛想な印象はぬぐえないが、先ほどまでの排他的な雰囲気は掻き消え、どちらかというと親和的になった。
だが、カインシーザにとって、それは逆に警戒しなければならないというサインのように思えてならなかった。
彼の言う『神勇者だった』という言葉が、単純に役目を終えて引退したという意味なのか、それともかつては界元神皇エリクシールの協力者であったにも拘らず、エリクシールに対し反旗を翻したからこそ、その地位を捨てたという意味なのか。その判断に苦しむ。
単純に先々代以前の神勇者であった彼が『元』を名乗るというなら、神勇者は更に別にいる。超界元だけに、ひょっとすると、無数に存在する神勇者のうちの一人だったのかもしれない。そんな一人以上存在する神勇者だった、と考えるべきなのか、協力者そのものを辞めたからこそ、神勇者という存在も辞めた、と考えるべきなのか。
そうなれば、エリクシールを介して、カインシーザやギューたちに対しても明らかな敵対勢力となるからだ。
おそらく、ギューやファルガ達ならば、そんな疑念を持つことなどなかっただろう。
デイガ界元の強制送還以降、エリクシールに対して不信感を持ち続けるカインシーザだからこそ、ある意味客観的過ぎるといっても過言ではないその視点で、ジルゴという男を観察するという選択肢を持ちえた。
いずれにせよ、命光石・アークリスタルを知りうる人物であることは間違いなさそうだ。
カインシーザはそう考えながら、ジルゴの話を聞くことにした。
先ほどの戦闘を中断させられたことに対して、若干の不平を持ちながらも、ギューは無邪気にこの界元の神勇者だったと主張する男の子供と遊びながら、カインシーザとジルゴの会話に耳を傾けていた。
 




