異変の兆候
「地平線が広い……」
先頭を歩くギューの一言は、象徴的だった。
全てが規格外の広さ。人工建造物や、それに類似するものは、ファルガたちの知るそれらと、そう縮尺は変わらない。だが、大きい物体は、とてつもなく大きかった。
例えば山。
平均的な標高は、ゆうに二万メートルを超え、飛翔術≪天空翔≫を用いて高速で越えようにも、相応の防寒具を始めとする登山装備を準備して挑戦しない限りは、無事に越えるのはほぼ不可能だろう。装備品の準備と術の習得時間を考えると、迂回した方が早いという結論に至る。従って、山を越える形での交易はほぼ存在しない。また、山岳部に特有の生物も多数生息しており、そのサイズも規格外のようである。風をはらんで上空を舞う何十羽もの猛禽も、翼長十数メートルあり、重量もあるはずなのだが、滑空に問題ないところをみると、それだけ上空には突風が渦巻いていると言うことなのか。
例えば海。
無形のものこそ、その規模はスケールアップするようで、高さ百メートル越えの波など日常茶飯事。とてもではないが、海岸線に人工建造物を作ることは難しい。それ故、港町が重要な文化の伝播機能を果たさず、大陸が違うと言語から文化、文明に至るまでが全く異なり、相互の交流もほぼない状態。しかし、土地が広大であるためそれぞれの文化文明が閉じた状態でも自給自足ができてしまう状態である。また、海洋生物も巨大だ。小さいものは小さいが、クジラなどは百メートル越えは珍しくなく、おとぎ話に出てきそうな、背中の甲羅が島となっている巨大な海亀も目撃されている
例えば森。
一本一本の樹木も巨大だが、その森林の広さがドイム界元やタント界元でいうところの惑星一つ分の広さを保持していたり、とすべてが規格外である。したがって、相応の準備を行うことをせずに進入してしまうと、生きての脱出はほぼ不可能となる。中には多様な生態系が幾つも存在し、森林の中には独自の文明を持つ森林国家も存在するという情報もある。また、樹木の巨大さゆえ、そこに住まう生物も巨大化が可能になる。数十から、数百メートルの体躯を持つ巨大な生物も確認されているらしい。
例えば砂漠。
砂漠そのものも広いが、砂の粒も大小さまざまであり、大きい砂の粒が流砂を引き起こすと、それはもはや火山活動と比較しても遜色のないものとなる。岩石同士の摩擦が巨大な熱量を発生させ、いつの間にかそこは天然のマグマの池となり、自然界の生物を近づけない。当然そこを越えていく旅人など存在せず、いまだ人間たちの調査も進んでいないのが現状。そこに住まう生物に至っては、ほぼ調査がされておらず、何が存在するのか、すらもわかっていない。
界元神皇の身体でもあるユークリッド界元。
とてつもなく広大なエリアを誇る、超界元である。
ファルガのいたドイム界元を基準に考えても、示す単位にゼロが幾つ付いてもその正確な数値は示しきれず、また、もしその単位でゼロの数を数えたところで、数字上のものにすぎず、そのデータは実体感を伴うものでは到底ない。所詮は人間の扱う単位ということなのだろうか。
自身の身体でもある超界元ユークリッドの神皇エリクシールが、各界元の神勇者を召喚したのは、その異常なほどに広大なその界元内において、収集する必要がある物が点在しているからなのだった。そしてそこにはマラディの指示を受けた神闘者も向かっているはずであり、恐らく、そこでは大規模な戦闘も予想される。その為、自界元の『精霊神大戦争』に勝利することのできた、力のある神勇者のみを送り込み、収集すべきものを確保し、エリクシール管理下に置くこと。
それこそがファルガたちの使命だった。
ギューは一人、上空に一気に駆け上った。
その姿が点にしか見えなくなったところで、少年神勇者が何か上空で喚いているのが聞こえる。ギューに言わせると、呆気にとられるような光景が眼下に広がっているということなのか。
だが、ファルガたちはそれにいちいち反応する気になれなかった。
それもそのはず。
彼らがエリクシールの城の大広間で聞いた話は、彼らが今まで自分の町、国、星。大きい括りでいえば、界元を守るために命を懸けて戦ってきたあの戦闘すら、凄まじく小規模なものでしかなかった、という衝撃の事実を痛感せざるを得ない内容だったからだ。
だが彼らが、その気が遠くなるような規模の話を聞いてなお、それに参加しようと思えたのは、この計画が『妖』と『魔』の脈々と受け継がれてきた、悲しき戦いに終止符を打つためのものだったからだ。
やはり、勧善懲悪ではない活動は、誰かの苦痛や苦悩、果ては死や消滅の上に成り立っているという側面は必ず存在し、それを活動者は自覚体験しつつ、歩んでいかなければならない。
一抹のむなしさを、どの神勇者も感じていたからなのだろう。
上空のギューの様子がおかしい。
最初にそれに気づいたのは、ディグダインだった。
彼のヘルメットには、彼の界元デイガの数多くの国家のうちの一つ、ファミス国のハイエンドコンピューターを遥かに凌駕した超高性能マシンが積んである。そこに、更にデイガ界元屈指の処理能力を持つドォンキの頭脳が格納されているのだから、文字通りデイガ界元でも最高のコンピューターの一つであると言える。
そのコンピューターがアラートを発したのだ。
上空のギューも確実に捉えていたディグダインのコンピューター。
ヘルメットのバイザー部分に大量の情報を表示することも可能だが、そのバイザー部に、不思議な文字の羅列が映し出された。
その表示を見て、明らかにディグダインの表情が曇った。
「ディグダイン、どうしたの?」
ディグダインの背後を歩いていた、一見すると普通の人間と変わらない女性。
長い髪を後ろで縛り、ディグダインと同じパイロットスーツに身を包む。ヘルメットこそ身に着けていないが、一見して二人は同じ界元出身者であることがわかる。そして、彼女もディグダインと同じ『融合人』である。
ディグダインとは違い、その体はライブメタルで形作られている。肌の質感や色合い等、一見して人間のものとしか思えないそれも、マイクロレベルでの融合を果たしたライブメタルの技術の賜物であり、彼女の性格に始まり、戦闘能力に至るまでの全てが、ライブメタルで構成されている。
だが、彼女の人間としての気持ちは、ライブメタルの技術とは関係なく、ネスクという強い人格の上に成り立っているものだろうと信じたい、というのがファルガの本音だった。そして、彼女との交流を通じて、それは確信へと変わっていた。『魔』になる可能性のあった彼女が、自分の意思で『妖』であることを選んだということも。
「……上空のギューのデータがおかしい。あれ程元気なのに、体から染み出す生命エネルギー反応が著しく低い。低いというより、ギューの身体から迸っている『氣』がここまで届いていないのか。まるで、途中で何者かに搾取されているようだ」
その言葉を聞き、前方を歩いていたファルガとカインシーザは立ち止まり、上空のギューを見上げた。
確かにおかしい。
ギューは大跳躍をして上空へ駆け上っていったはずだ。だが、上空に留まるのは、飛翔術≪天空翔≫を使わなければならないはずだ。しかしながら、徐々に高度が落ちてきている。
バランスを崩して落下し始めるギュー。
必死にもがくが、浮遊力は戻らない。というより、そもそもその浮遊力が提供されていなかったのではないか。そんな風に感じられた。
「な……、なんだ? 体内にあるギューの『氣』は何ともないのに、オーラ=メイルとして奴の体を覆っている『氣』の力が、どんどん失われている。いったい何が起きている??」
墜落を開始したギューに向かって、走り出すファルガたち。
このままギューが浮遊力を得られぬまま墜落を続ければ、自由落下で徐々に加速していく状態で地面に激突することになる。死にはしないだろうが、頭から落ちれば、やはりそれなりのダメージにはなってしまうだろう。
≪天空翔≫という術は、浮遊・飛行以外に、上空での姿勢制御としても機能している。人間の体の部位で一番重たいのは頭だ。落下する距離が長ければ長いほど、頭を下にして墜落していく可能性は格段に上がる。
だが、走り始めた彼らの先には、ゴンフォンがいた。
どうやら彼は、落下し始めたギューの落下点を予測し、そこで既にギューを受け止める準備をしていたらしかった。
果たして、ギューはゴンフォンに抱き留められることで、ダメージを受けることなく地上に戻って来ることはできた。
「珍しいな。お前が『氣』のコントロールを失ったまま落ちてくるとは。上空で何があった?」
カインシーザの質問に、ギューは顔面蒼白のまま答えた。
「いや、何もなかったんですよ。
でも、上空に留まろうとしても、止まらないんです。
僕も≪天空翔≫という術は、それなりに使いこなしているつもりでいます。でも、天空翔の下から支える力は、機能はするんですが、僕の身体をすり抜けて上に行ってしまうんです。発現させた力が散っていく時間が、すごく早い……。
こんなことは初めてです……」
ギューは、まるで幽霊でも見たかのように、顔面蒼白のまましゃがみ込む。生まれて三年で、歩いたり走ったりするのと同時に≪天空翔≫の術を使い始めたというギュー。彼にとっては、手足を使うのと同じように空を舞えたはずだ。その体の機能の一部とでもいうべき浮遊能力が突然失われた恐怖は、筆舌に尽くしがたい。
「某も、落下してくるギュー殿を受け止めるために、『氣』をコントロールして、ある程度の衝撃に備えておりました。
もちろん、それでギュー殿を受け止めることはできたのですが、身体能力のコントロールのために貯めたはずの『氣』が、体外に出た瞬間に消失するのです。
皆さんも試してみるとお分かりになると思いますぞ」
ゴンフォンの皮膚は赤い故、体色から顔色を判断することは難しかったが、それでも額に浮いた汗からは、彼の動揺が感じ取れる。
「エリクシール様の仰っていた事態、意外と早く起きるかもしれないですね」
エスタンシアは、懐から手ぬぐいを出して、脂汗を掻くギューの額を拭いながら言った。
このエスタンシアという少女、超神剣は『深耕鍬』という鍬なのだが、コバイン族に伝わる『手ぬぐい術』の使い手でもあり、それを通常生活時でも戦闘時でも巧みに使うことで、かなりファルガも助けられた。
アグリ界元での冒険の時には、エスタンシアは何かある度に懐から手ぬぐいを出し、それを包帯代わりに使ったり、失われた肌着の代わりに貸し出したりもしているのをファルガは幾度も目撃しているし、彼自身も施されている。
手ぬぐいを持ち歩くのは、一族の習わしのようではあるが、それを術と組み合わせることができるのは、エスタンシアを含めて少数のコバイン族のみだったようだ。
今回、彼女はギューの汗を拭う際、手ぬぐいに≪回癒≫の機能を持たせ、疲労と焦燥とを軽減する処置を施したようだった。
しかし、手ぬぐい術の用途はそれだけに留まらない。
『氣』を棒状に伸ばした手拭いに纏わせ、その周りに『真』を巻き付けることで、灼熱手ぬぐいや冷撃手ぬぐい、電撃手ぬぐいなど様々な技で敵に対抗したり、棒状にした手ぬぐいの硬度を上げて棍棒として使ったり、広げた状態で硬度を上げて盾として使ったり、薄くした面を使い、刃として使用したりもした。
武器防具という発想がないため、彼女をはじめとするコバイン族は、その服装の強度を上げたりできたというから、やはりアグリ界元最強の通り名は伊達ではないのかもしれない。
この手ぬぐい術。
基本的には、『氣』や『真』を使った『術剣』と同じ理屈なのだが、それを少女は見事に使いこなしていた。現在のレーテとは比較は難しいが、まだ聖剣を使って戦っていたころのレーテの『術剣』の才能と同じか、それ以上だろう、とファルガは踏んでいる。
「そうみたいだな。もう、氣功術そのものが使いづらくなっているのかもしれない。
エリクシール様が言っていた、この星に幾つも存在する『命光石アークリスタル』の吸引の力が強まっているということなのか」
ファルガはカインシーザの言葉を聞いて、この界元で今まさに起きている不思議な事象に思いを馳せるのだった。
ファルガ達が広大なユークリッドの地で旅に出る少し前。
ファルガたちが界元神皇エリクシールの元に召喚されてすぐ、彼らは神勇者仲間たちと合流する。
そのまま廊下を進むと、大広間に出た。
こんな広い空間がこの『城』と呼ばれる塔に存在したのか、と唖然とする八人。
彼らが入ってきた入り口以外にも、この大広間に繋がる入り口は無数にあるに違いない。でなければ、いくら途轍もない広さを持つこの大広間といえども、短い時間でこれほど神勇者で溢れかえることはあり得ないだろう。
彼らが大広間に進入した入り口は、大広間の中でも、かなり後方にあるものらしかった。前方には、舞台のような一段高い場所があるが、あまりに巨大であるため、彼らの位置からはその舞台が壁の模様の一部としてしか認識できなかったほどだ。
そして、そこに集まっている者たち。
その者たちが神勇者であろうことは、この大広間に集まっている趣旨からも、彼らが発する『氣』からもわかる。
しかし、その見た目が多種多様の存在ばかりだった。
人間などの人型であればまだわかる。ところが、そこに集まっていたのは、ほとんどの存在が異形の存在だった。
怪物という表現は失礼だろうという観点から、カインシーザも用いなかったが、人類が名前を付けた動植物系の神勇者はすべて存在した。
獅子や象などの獣はもちろん、大きさも色も形も多種多様な昆虫類。果たしてどうやって動くのだろうかという、ヤシの木からクヌギ、コナラ、針葉樹の植物もいた。
そして、強い力を感じるが、姿が見えない者も多数いた。いわゆるプランクトン系の存在なのだろうか。また、ファルガたちに比べても頭三つ分、或いはそれ以上に巨大な存在も見受けられる。
それどころか、岩や水、霧や炎、雷まで存在するようだ。
放電現象を伴った輝きや、光を反射して輝く霧や吹雪たちがそのまま人型を取っているようだが、別に人型でなくてもいいだろう、というのがファルガたちの感想だった。
彼らは、『氣』で構成される生命体。
原子や電子、素粒子の組み合わせで、形状こそそのような多岐にわたる姿をしているが、その体は生命エネルギーである『氣』でできているということだ。だから生命活動も営めるし、神勇者として活動することもできる。
物というよりは現象と呼ぶべき存在までが、生命体としてこの場にいる。
それは正直、ファルガたちの想定外のことであり、生活の前提条件はもちろんのこと、意思の疎通方法や、そもそも思考形態すら異なる相手と、共に行動、協力するのは、ほぼ不可能に近いのではないか。
そんな不安を持たざるを得ない。存在が違えば、協力という行為そのものが食い違う可能性も往々にしてあり得るだろうからだ。
だが。
エリクシールの言葉を借りれば、彼らは『精霊神大戦争』を勝ち抜き、今ここにいる屈強の神勇者たち。
エリクシールの姿は見えないが、この城そのものもエリクシール自身だと言えるだろう。界元そのものがエリクシールとマラディの身体だというのだから、城の中にいる存在など、認識把握はお手の物なのだろう。
頭脳にエリクシールの言葉が響く。
いや、言葉ではない。言葉に聞こえているだけで、他の存在には別のものとして認識されている可能性はある。
むしろファルガにとっては、一般にいわれる『動物』ではない神勇者達が、いかにして意思の疎通を図り、術を用い、『精霊神大戦争』を戦い抜いてきたのか、という事実の方が大層な関心事として感じられたものだった。
他の神勇者達はともかくとして。
少なくとも、ファルガやギュー、カインシーザなどの人型神勇者たちには、言葉として耳に届いたのだった。同時に、目を閉じると映像が浮かぶ。彼らが認識しているエリクシールの姿は赤ん坊。ベッドに腰掛けた赤ん坊だ。
その赤ん坊が、彼らに語り掛けてくる。
『精霊神大戦争』を勝ち抜いた神勇者たちに、今まで『見守り』を依頼してきた理由。
そして、現在超界元ユークリッドの置かれている現状。集めてほしいのは『命光石アークリスタル』。
エネルギーの中でも最小単位である生命エネルギー『氣』と存在エネルギー『真』。これはどの界元でも変わらない。超界元ユークリッドでも同様だ。
そのうちの片方である生命エネルギーが凝縮され、宝石化しているのが『命光石アークリスタル』だという。この存在は、無数にある界元の中でも、ユークリッドにしか存在しない。
命光石は、ユークリッドに存在する『氣』を吸引し、その結晶内に貯めこんでいく特性がある。その命光石を管理することにより、いずれ界元魔神皇軍となる神闘者隊との戦闘に入った時に、戦闘を優位に進められる、ということらしかった。
その話は、ファルガにもわからないでもなかった。
例え傷ついたとしても、体力も怪我も全快するようなエネルギーがストックとして保持できていれば、これほど安心なことはないだろう。
いつどのタイミングで、どのような状態で、どのような戦闘が始まるのか、ということについては、エリクシールにも想像がつかない。
いや、想像がつかないというより、現状では未来分岐は無数にあり、その分岐ごとに対策は講じているものの、全ての対策が終了しているわけではないために、実質的には行き当たりばったりだという状況は、『見守りの神勇者』システム運用時からほぼ変わっていないらしかった。
命光石の数や場所などの存在状況は、エリクシールですらすべてを把握しているわけではない。無論マラディも。
その把握状況に対し、自分の体の中なのだろう、という意見も神勇者たちからちらほら出たようだ。
しかしながら、例えば人間は、自分自身の背中の傷に対しては理解も認識も甘く、更に処置もしづらいのが現実だ。それと同様、いくら界元が全て神皇の身体であったとしても、まんべんなく認識するのは難しいはずだ。
やはり、意識の行き届きやすいところとそうでないところがあるということなのだろう。
ファルガたちは、星の大きさだけで一つの小さな界元ほどの大きさのあるような惑星の、一大陸の探索を言い渡された。
八人の神勇者は、手分けして探すことも視野に入れたが、一人でこの広さを探すことは諦めたのだった。
そこに加え、城から出て歩き始めたすぐに発生した、ギューの墜落事件。
これはファルガたちには衝撃だった。
彼らが今まで頼みにしてきた『氣功術』が使えないのだ。
まだ、体内にある『氣』までを搾取されるわけではないのは、救いではあるのだが、体内の『氣』も失われるようになってしまうと、実質神勇者たちでは、命光石探索活動は難しくなる。
しかし、その状態も状況としては視野に入れておかねばならず、仮にそうなった場合の対応策を考えておかねばいけないのだが、その対策がどのようなものであろうと、彼らはその状態になれば無力となり、命光石探しは事実上不可能となる。
とにかく、まずは命光石がどこにあるのか、という情報を収集しなければならなかった。
そして、更に問題がある。
それは、氣功術が使えないということは、間接的にマナ術も使えないということになる。なぜなら、マナ術の基本は、大気中に広がる『真』を『氣』のネットを広げて集め、それをコントロールするからだ。大気中の『真』を集められなければ、マナ術の現象を起こすことすら出来ない。
無論、『真』を集める道具があればまた話は違ってくるのだろうが、そういう道具をこの界元の人間が持っているかは全く未知数だ。
恐らく、攻撃や防御の際のオーラ=メイルも使えなくなっているだろう。『氣』の力を、体の外に出して使えば、すぐに命光石に吸収されてしまうだろう。
無理に使えば、相手に与えるダメージより、自分の受けるダメージの方が大きくなってしまう。
「戦い方を、根本から変えなければいけないかもしれないな……」
ファルガは、横になりエスタンシアの治療を受けるギューを横目に見ながら、同様の危機感を抱くカインシーザとゴンフォンと意識を共有するのだった。
 




