ファルガの選択、ディーの決意
暁の空が、赤く染め上げられた。大地が揺れ、炸裂音が耳を劈く。
先程までは酷く静かだったような気がする。だが、自分達の方の懸案が落ち着くと、途端に周囲の騒音が不快に思えるのはなぜだろうか。
ファルガにとって、初めての戦争の音だった。
ファルガの今まで経験した戦いは、個人対個人。多くとも数人対一人。
戦闘での破壊規模こそ惑星レベルではあるものの、爆薬が活躍する戦場はほとんど経験がない。
あくまでも剣と術の戦い。己の思想のため、あるいは己の命を守るため、大事な物や人を守るため、自らの体をぶつけ、自らの技を高めた。
無論、戦闘に付随する爆発を見聞きはしたが、これほどに焦げ臭く火薬臭い空気の戦場は初めてだった。
感じる不快感そのままの表情で、轟音のする方へ振り返るファルガ。
不思議とギューやディーは、そこまでの不快感を覚えているようには見えなかった。
後にファルガは知ることになるが、ドイム界元に比べて、いわゆる科学技術が進んでいるギューの界元ギラオや、この界元での戦闘や戦争では、より殺傷能力の高い武器や破壊力のある兵器を、より非力なはずの人間が使用できた。
しかしそれは、本来破壊すべき物や失くすべき物、いわゆる攻撃対象を、それ以外の様々なものを巻き込んで破壊してしまうということだ。威力が大きいうえに、ピンポイントで対象を破壊することが難しくなってきてしまっている。
裏を返せば、破壊してはいけないものや失われてはならないものまでもが、浅慮の末の兵器の使用で失われてしまうことに他ならない。
武器や術ならば、熟練度という尺度は存在する。しかしながら兵器となると、もはや具体的な鍛錬などの腕前を示す尺度が、その威力に対して抑えが効かなくなってしまう。
人が介在するのは、兵器を使う目標とタイミングまでであり、その後の威力はもちろんの事、相手に与える直接損害や間接損害には全く頓着していない。
使用してしまってから、その威力に驚愕し、直接損害の莫大な規模に頭を抱え、間接損害の悲劇に言葉を失う。
熟練度というものはそれを如何にうまく使いこなせるかの尺度を指すが、それは同時に、最大の効果を生みつつ被害を最小限に抑えるという技術にも繋がるということなのだ。
それに気付いたとき、ファルガは改めて自分の力を大幅に上回った武器や兵器を使用した結果と、それを躊躇なく使おうとする人間の心に戦慄することになるだろう。
ファルガが感じた静寂と騒音のコントラストは間違っていなかった。
ディーとネスクの戦闘中、金属塊は確かに動きを止めていた。
興味の対象が、明らかにディーとネスクに移っていたのだ。かの二人がどのようになっていくのか。それが金属塊についてのもっぱらの興味のようだった。
動きを止めた瞬間を逃さず、ドメラガの機鎧部隊は、金属塊に攻撃を仕掛けてみたものの、ほぼ効果は得られなかった。
金属塊の体に全弾命中したはずのハンドガンの弾丸は、表層部にすら傷一つつけることが出来ず、地面にばら撒かれた。キャノン砲の砲撃は、爆炎と共に表面のへこみをつけることは辛うじてできたようだったが、そのへこみなどはライブメタルにしてみれば、修復などという大げさなものを施さずとも、なかったことにできるレベルの損傷だった。
集結したドメラガ軍の目的として、最もプライオリティが高いものは殲滅による排除だ。
だが、殲滅できないとなれば、少なくともこれ以上メガンワーダの被害が大きくならないようにする為の作戦を立案せざるを得ない。
具体的には、金属塊に対して何らかのアクションを起こして、移動方向と速度をコントロールし、メガンワーダの町並みから遠ざけ、これ以上の都市機能の破壊を食い止めるという手法になるはずだ。
だが、メガンワーダから金属塊を遠ざけることが、今のドメラガの機鎧部隊や攻撃ヘリの部隊の装備では実行できないのだ。
ハンドガンもキャノン砲も金属塊には効果がない。接近戦用のアックスも、斬りつけて金属塊の表面をへこませるまではよいのだが、肉芽のようにアックスの打撃でへこんだ部分の脇が盛り上がり、機鎧をアックスごと取り込もうとしてしまうだろう。
恐らく機鎧の最大の攻撃方法となると思われる、肩のスパイクによるチャージも、金属塊にめり込むだけになる可能性は高い。そうなれば、その先の結果は推して知るべしだ。
そして、軍側からすれば気に入らないのが、どのような攻撃を仕掛けても、金属塊は自分達に注意を向けようとしないという状態だ。
それは、彼らの攻撃が、全く効果が上がっていないことを暗に示していた。
業を煮やした一人の機鎧が、大きく跳躍し、そのまま蹴りを見舞う。
重々しい衝突音が響き、機鎧の左足が金属塊の中腹にめり込む。
だが、めり込んだその足は抜くことが出来なかった。金属塊の表面が、機鎧の足に食いついて離さないのだ。
足の裏からくるぶし部まで食い込んでいる状態の機鎧の左足。その傍に二カ所金属の突起が出来上がった。そして、その突起はするすると成長を続けると、機鎧の足の部分を這うように登り始めた。そして、ある程度の長さになると、膝に巻き付く金属のロープに姿を変え、機鎧の左足をがっちりと抑え込んだ。
次の瞬間、機鎧の左足は膝から下を切断されることになる。
巻き付いた金属のロープの表層をブレード状に変化させ、そのまま擦るようにするりと引き抜いたのだ。その様は、糸鋸のブレード部分が金属を切断するかのようだった。
機鎧の足はまるで鋭利な刃物で切られたかのように、美しい切断面を残す。
ロープに見えたものは、触手だった。
いつの間にか、金属塊は己の表層部のライブメタルを用い、触手を自在に操れるようになっていた。しかも、触手といっても元来あったものではなく、表層部のライブメタルの細かいプレートを自ら加工して作り出しているため、理論上は無限に発生してくる。何らかの方法で切断しても、すぐに触手を作り出してくるということだ。
膝下を失った機鎧はそのまま大地に墜落するが、それとほぼ同時に、金属塊から伸びた何本もの触手が、まるで生きた蛇のようにくねりながら、大地で横たわる機鎧の頭部、胸部、腕部、左右の大腿部に突き刺さる。
先端を針のように変形させた触手によって大地に縫い付けられる様は、まるで昆虫標本。
針に貫かれた機鎧は、一瞬の間の後、大爆発を起こして四散した。
ビルディングの向こう側にて発生した突然の機鎧の爆発。
状況を一刻も早く知るために機鎧対金属塊の戦闘が見たくて、ファルガとギューは再びビルの屋上に上がった。
ディーはそんな二人を恨めしそうに目で追いながらも、ネスクを連れていくことは忘れなかった。
肩を貸すディー。
ネスクは辿々しいながらも、彼女をビルディングの屋上まで運んでくれるディーに礼をいうのだった。
ファルガと三人の戦士たちは、『蹂躙』という表現を、身を以て体験することになる。
実際には、戦闘などと呼べるものではない。一方的な虐殺だった。
機鎧の戦闘というものは、ファルガもギューも目の当たりにしている。だが、それはあくまで相手が機鎧であったり戦車、ヘリと呼ばれる飛行物体であったりと、人間が作ったいわゆる通常兵器と呼ばれるものが対象だった。そして、その戦闘はどれも象徴的であり一瞬で終わってしまうものがほとんどだ。その内容はといえば、ほぼ間違いなく機鎧側の完全勝利となる。
肩から放たれたキャノン砲の弾丸が、敵戦車に直撃すれば、対象は容易に爆発四散する。ハンドガンが火を噴き、空中を滑るように移動する攻撃ヘリのテールローター部分にでも命中すれば、ヘリは姿勢を崩しながら墜落、爆発炎上する。
逆に、どれほど慎重に戦おうが、機鎧相手に善戦できるヘリや戦車はほぼいないといっていい。やはり火力と機動力が違いすぎるのだ。
『蹂躙』という言葉は、ドメラガ国の機鎧が『提供』する破壊行為の状態を指すのにふさわしいものだといえた。その対象には、歩兵は無論のこと、戦車やヘリ、一部の船舶、果てはファミスの機鎧のような他の戦闘体が含まれるはずだ。
だが。
今回の戦闘では、その『蹂躙』を施すのは金属塊であり、機鎧は施される側となった。
手始めに、上空を舞うヘリの一機が、触手の餌食となった。
何気ない悲劇の始まりだった。
だが、それでは面白くなかったらしい。
いや、誰かが金属塊からその感想を聞いたわけではない。ただ、そこで見ていた者たちが、そう感じただけだ。そして、その意見は満場一致だった。誰しもがそう見えたのだ。
あの怪物は、『悲劇』という名の快楽を欲している、と。
一本の触手が別のヘリを狙う。だが、この触手はヘリを捉えるのが下手だった。ヘリは、ギリギリのところで触手を躱す。触手は後一歩のところでヘリを捉えることができない。
その攻撃は、幾度となく続く。それでも、ヘリのパイロットは幾度となくその攻撃を躱す。そしてその都度、搭載された対戦車ミサイルを金属塊に命中させた。もちろん、金属塊にダメージは通っていないのだが。
ヘリのパイロットは疑問を持った。
自分はヘリを操作するのに、何回か失敗をしている。だが、その失敗にもかかわらず撃墜されていない。ボディに針が当たり、火花が散るも、ギリギリ墜落しない程度の衝撃だった。
幸運だった?
違う。
自分のヘリは、金属塊に遊ばれているのだ。まるで、部屋に紛れ込んだ蝶を棒で叩き落とそうとする幼児のように。縁日でポイを片手に、どうやってもその水槽からは逃げられない金魚を、悪意なく楽しそうに追い回す浴衣を着たカップルのように。
その事に気付いたパイロットは、悲鳴を上げながら、今まで発射を押さえていたミサイルを全弾発射した。ミサイルはあり得ないほどの大きさの火球を一瞬作り上げ、その後には焦げ臭い火薬の匂いと、ミサイルの推進材としての燃料の匂いがパイロットの鼻を突いた。
やはり、というべきだろう。
金属塊には傷一つついていない。
傷をつけたのは、パイロットの理性に、だった。
パニックを起こしたパイロットは、先ほどより大きな悲鳴を上げながらヘリを転回させ、その場から逃げ去ろうとする。操縦桿を限界まで前に倒し、飛び去ろうとした。
だが、ヘリは思うように動かない。別のところから延びた触手が、攻撃ヘリのテールに巻き付いて固定したのだ。それにより、攻撃ヘリは自身が回転をしようとする動きを始め、中のパイロットでは完全に制御できなくなった。
パイロットは、空中であるにもかかわらず、コクピットを開放しようとしたが、体が操縦桿にふれたのか、触手をぐるりと回るように飛ぶと、地面に向かって飛びはじめ、大地を数回抉ったプロペラだけが外れて中を舞い、別の機鎧に接触した。ヘリそのものは火花が漏れ始めた燃料に引火したのだろう。数回地面でバウンドした後、一瞬の間があってから爆発炎上した。
残された攻撃ヘリたちは、金属塊から発生した触手に警戒し、距離と高度を取ろうとする。何機かのヘリはある程度の距離を取ることはできたが、半数以上のヘリは槍の穂先状に形状を変えた触手に引っ掛けられ、撃墜される。
ある機体は触手にそのまま貫かれ、またある機体は回避こそ出来たと思いきや、触手が機体の一部に引っ掛かり、バランスを崩して墜落したものもあった。
金属塊は、自分の触手の射程から離れた標的に対して、一度攻撃の手を止めたように見えたが、数瞬後逃げきれたと油断していたヘリ部隊は全機同時に爆発した。これにより、ヘリ部隊は文字通り全滅した。
ヘリたちの爆発と同タイミングで、何かの衝撃音が重なり、周囲にこだまする。
「何をしたんだ、あいつは……」
思わずファルガは体を乗り出す。だが、問われたギューにも見えなかったようで、彼は首を振るだけだった。
ギューには、衝突音と同時に、一瞬ではあるが金属塊の方に吸い込まれる錯覚が感じられた。ギューはそれを口にする。
「なんか、一瞬ですけどあいつに吸い込まれる気がしましたよ……。何だったんだろう」
笑みを失ったギューの表情には、何か超常現象を目の当たりにしたような、ほんの微かな恐怖が浮かんでいた。
「……スリングショットだ」
ファルガとギューは聞きなれない言葉に目を丸くする。
「スリングショット?」
「鞭などの長い紐状の物の先端に投げたいものをくくりつけ、投げる原住民の技術だな。
普通の投擲とは比較にならん速度と威力が出る。威力が出せれば大きな獲物も狩れる。速度と威力が出せれば遠くからでも狙える。いってみれば狩りの知恵だ。
あの化け物は、もともと知っていたのか、それとも考え付いたのか。
正直なところはあの化け物に聞いてみなければわからんが、この地メガンワーダでは、つい最近までサーカスが行われていたという記録がある。
そのサーカスの曲芸師たちをライブメタルが吸収していれば、そのスキルを手に入れていてもおかしくはないな」
炎上するヘリの集団から目を離さず、ギューに説明をするディー。ファルガは驚いて尋ねる。
「あんた、あれが見えたのか?」
「見えるわけないだろう。
だが、このヘルメットにはファミスの技術の粋を集めた最高級のコンピューターの数千倍の処理速度を持つマシンが積んである。その分析結果がこのシールドに表示されるのさ」
何気ないディーの一言だが、その言葉尻や雰囲気に、ファルガは一瞬懐かしいものを感じた。
表現はできない。しかし、一つになっていったパクマンとドォンキの何かをファルガは感じ取ったに違いなかった。
あの時、彼は『氣』は感じていた。
まだライブメタルに全身を覆われ、自我を保つのに必死だった時。遠くから近づいてくるギューと共に、慣れ親しんだ彼らのそれは、間違いなく『希望』だった。だが、その姿を見た時、明らかに別人だと感じた。
それでも、所々で染み出る安心感は、やはりあの男たちのものだった。
ヘリ部隊は全滅した。
残された機鎧たちも、ゆっくりと後退し始める。
まだ背は向けられない。だが、射程から逃れさえすれば、一気に逃走に転じるつもりだった。
その矢先だ。あのスリングショットを見せられたのは。
ヘリが爆発する直前の衝撃音。あれは、瓦礫を巻き付けた触手がスリングショットを放つ直前に、先端が音速を超えた瞬間の空気の圧縮音だった。
あれほどの巨大な固形物が音速を超えるのだ。大量の空気が圧縮されるため、発生する衝撃波も凄まじく、大気の流れにも影響は当然あるだろう。
想定より、ずっと金属塊の射程は長い。そのため、機鎧は背を見せずに後退しているのだろう。対峙しているのが野生の熊と異なるゆえ、その行為がどれほど意味のあるものかは不明だが。
「ファルガさん、助けましょう!」
ギューは朱神鎧の背部に格納されている巨神斧を展開させると、それを右手内に納め、ギューの体よりも大きい斧を軽々と扱った。
ファルガがゴーを出せば、すぐにでもギューは金属塊に躍りかかっていただろう。
だが、ファルガは即座に首肯できなかった。あの時の後悔の念がまた甦ってきたのだ。
ファルガは両方の拳を強く握ると、俯き加減になり、弱々しく首を左右に振った。きつく閉じられた両の目は、ファルガの中の葛藤が、並々ならぬ圧力でファルガを糾弾しているのを痛い程に伝えてくる。
ファルガの余りに頑な態度に、ギューも二の句が継げなくなってしまっていた。
そんな中ディーは、ファルガとギューの間に垂れ込める、何ともいえぬどんよりとした空気を弾き飛ばすように、からっと笑い飛ばした。
「わかるぞ、ファルガ! 君の判断は間違っていない! だから俺とこいつがなんとかしなきゃいけないのさ。
ギューよ。今はそういう訳だから、おとなしく見ててくれな。必要になったら呼ぶからな」
そういうと、ディーはネスクに目配せをする。ネスクも力強く頷いた。
ネスクは両腕を銃化すると、触手が持つ先端の瓦礫を全て撃墜した。
それを合図にディーは大きく跳躍、金属塊に向かって飛び掛かっていった。
ファルガには何故か、金属塊に向かって行ったディーが、戦いに行くのではなく、近所の悪童どもを諭しに行く老人のように見えたのだった。
ディーが金属塊に到達する直前、何機かの機鎧が背を向けて逃げ出し始めた。
金属塊の足元から砂煙が立ち始める。歩行形態が以前とは少し異なり始めたのか。
以前は、明確な脚部を持たず、接地面を波打たせて動く蠕動運動だったが、この砂埃の立ち方は、なにかしら足に該当するものを作り出し、それにより移動を試みているようだった。
実際、移動速度が目に見えて速くなっている。攻撃ヘリの俊敏さを上回る触手の動きと比較すると、まだ愚鈍ではあるが、以前の動きとは雲泥の差だ。
背を見せて逃げだすのが遅れた一機の機鎧がいた。他の機体が逃走しきるための時間稼ぎをしているようにも見えたが、爆走を始めた金属塊にとっては、時間稼ぎにすらなっていないと悟ったのか、金属塊の進行方向から外れる為に、斜め後方にジャンプする。
小型軽量化がなされている為か、ドメラガ国の機鎧はジャンプの速度も距離も、ファミス国のものに比べて大幅に向上していた。
必死に逃げる機鎧軍は、直前の殿を勤めた機鎧のように、速度を増す金属塊の軌道から逃れる為に、左右にジャンプして避け始めた。ちょうど草むらを歩くと、進行方向上の無数のバッタが左右に逃げる様に似ているかもしれない。
その中で、単純に金属塊の進行方向の先にジャンプして逃げた機鎧が何機かいた。
それは、金属塊にとってちょうどいい獲物だった。
金属塊の頭部と思われるもっとも身長の高い部分から十数本の触手が天に向かって伸びた。それは何かのアンテナのように見えた。だが、それはアンテナなどではなかった。
正面を逃走する機鎧に、全てが同時に倒れ込む細い針のような刃は、その対象を線切りにする。右端から左端までを十数等分された機鎧は、隙間から向こう側の景色を一瞬見せた後、爆散した。
瓦礫の上、或いはビルディングの上に避難した機鎧のハンドガンの斉射にも、金属塊にはダメージがないのは従前の通り。それでも彼らには武器がそれしかないのだから、その攻撃をするしかないのだ。
金属塊は両手を斜めにあげて、万歳をするような状態で太めの触手を作り出す。そして、今度は器用に上半身だけを高速で回転させ始めた。ちょうど芝刈機のような要領で、金属塊の進行方向から左右に散って逃げた機鎧を、ビルディングや瓦礫ごとずたずたに引き裂いたのだ。
機鎧軍も、最初に進行方向から横に回避した以外の機体は、全て撃墜されたことになる。
金属塊は、何か生命体の形状を取るわけではないが、一つ一つが固有の生命体の挙動を真似ているように、ファルガたちには見えた。便利な機能だけを採用しているようだが、その機能を導入するがゆえ、金属塊の様々なバランスが徐々に崩れてきているのか。
金属塊が通りすぎた際に出来上がった瓦礫すら弾き飛ばした通路に降り立った最後の機鎧は、そこに立ち尽くす。
ファミスを技術的に引き離し、実質トップとなったドメラガ国の機鎧開発技術。パワードスーツを目標に開発され、一度は挙動とパワーが見合わずに巨大化しすぎたものをコンパクトにした画期的な機体。いわゆる第四世代の機鎧といわれるこの機鎧が、ここまで歯が立たないとは、誰が予測できただろうか。
金属塊は、反転して最後の一機の機鎧に狙いを付けたようだった。何かが明確に変わったわけではないが、端から見ているファルガたちの目にも、狙われた機鎧のパイロットの目からも明らかにそう映ったのだった。
再び動き出す金属塊。ゆっくりと動き出す様は、最後の機鎧を屠る瞬間を全身で楽しんでいるかのようにも思える。
機鎧は身動きが取れなかった。
手にしたハンドガンや、肩のキャノン砲には金属塊にダメージを与える力はない。背後に跳躍しても、触手に追いつかれ裁断される。左右に飛んでも、草刈り機のブレードのようにも触手を変形させ、撃墜できる敵に対し、一体何が出来るだろうか。
突然、機鎧の前に二人の人影が立つ。
その会話は、ほんの十数分前まで死闘を繰り広げた者同士のものとはとても思えなかった。
「突然動き出しやがって。盛大に空振っちまったじゃねぇか。折角でかいブレードでぶったぎってやろうと思ったのによぉ」
「だから、まだ早いといったじゃないの。変形は攻撃を仕掛ける直前でないと、効果が下がるのよ。相手に攻撃の方法を教えることになってしまうから」
「ちっ、わかってるよ。
ネスク、こいつを懲らしめるぞ! 悪餓鬼どもは、ちょっとおいたが過ぎたからな」
「了解よ、ディー!」
 




