鋼鉄の天才
突如として三人の眼前に現れた女性型の小機鎧。
女性型小機鎧そのものは、ライブメタルの集合体である以上『生きて』はいるのだろう。だが生命体としての大前提が異なるゆえ、女性らしき『それ』の生命維持活動が、青年神勇者達と同じかという根本的な疑問は解決されていない。それがファルガ達を戸惑わせ、更に不安にさせた。
自信に満ち溢れ、挑発的に見えた髪をかき上げる仕草も、単に乱れた髪を落ち着かせるだけの意図しかないのかもしれない。あるいは、彼らの存在を根本から覆す意味の行動なのかもしれないし、全く意味などないのかもしれない。
ただ、その後の『彼女』と表現してよいかについても判然としないその存在は、酷く不安げな仕草を見せていた。
不安げに見えるだけで、その仕草が全く違う意味かもしれないという可能性も捨てきれないが、あまりに不安げに見えるので、ファルガもサムアラも、そうとしか感じ取れなくなっていた。
だが、その思い込みが危険であることも二人は重々理解している。そう思い込ませるためのトラップなら、まだ悪意があるだけにかわいげがある。そもそもそんな意味合いすらないなら、もはや絶対的に意思の疎通は不可能だろう。意思の疎通というものは、触れあう存在同士が共通の項目を探し出し、そこから進めていくものだからだ。それゆえ、向き合うファルガはもちろんの事、サムアラにもこの女性型小機鎧の意図が読みきれないでいた。
一つ言えるのは、今までの小機鎧群とは一線を画する存在であるのは間違いなさそうだ。
サムアラの記憶が正しければ、ヘッジホが件の『銃』を入手したのは、雑居ビルの狭間にて、柱に布を屋根として据え付けてあるだけの、古めかしいテントにも似たボロ小屋と呼ぶのもおこがましいような露店だった。店主と思われる怪しげな老婆から、ヘッジホは嬉々としてそれを購入したと聞いている。
本来、一国の首相がそんな場所に立ち入るのは、公務外だとしてもあり得ぬ話だ。しかし、黒服のシークレットサービスも同伴するならば、という条件で、その場の勢いと、常軌を逸するほどのヘッジホの催促により、なしくずしにその裏路地の店への訪問が許可されたようだ。一説では、地面に寝転がって駄々を捏ねたとさえいわれている。恐らく、報告書には世論調査、とでも体のいい言葉を並び連ねて記載されているはずだ。
無論、サムアラ達黒いスーツの集団のリーダーは、ヘッジホをそんな所に行かせる時点で落第だと、付き添った部下を叱責した。だが、その時は特に異常も問題も顕在化する事はなかったので、その後のお咎めはなかった。
また、リーダーは内々では、よくヘッジホをそこからうまく連れ出せた、というあるまじき誉の言葉をその部下に伝えたかもしれない。ヘッジホの我儘に、シークレットサービスの人間が相当に苦しめられていたということなのだろう。
このライブメタルを扱う銃を作った人間は、当然不明だ。
恐らくその老婆でもあるまい。
だが、ヘッジホがそのおどろおどろしい形状の銃に惹かれたのは、必然だったのだろうとサムアラは思う。
歯に衣着せずに言えば、サムアラにとってヘッジホはいけ好かぬ男だった。
このヘッジホという男が首相という地位に就任していなければ、そして自身がシークレットサービスなどという滅私奉公の職業についてさえいなければ、誰が進んで関わるものか。
そうサムアラはいつも考えていた。
口を閉じた後に一瞬歯を剥くあの仕草は、歯並びの悪かったヘッジホからしてみれば、乾いた歯茎に唇が張り付いたのを剥がすための、仕方ない癖なのかもしれない。だが、その仕草がとにかく気味悪く思えた。
何か行動を起こす前に一度大きく目を見開いて、周囲を睥睨するような仕草をするのを見る度、彼女は寒気のあまり目を逸らしたかった。
だが、それはあくまでも所作の話であり、ヘッジホをそこまで嫌悪する理由にはなりはしない。同じような行動を取る人間は他にいたかもしれないが、本来であればさして問題にはならない話だろう。
『所作』が問題なのではなく、『ヘッジホが』振舞うから問題なのだ。サムアラにとっては。
やはり、彼を受け入れられぬ何かがあるのだ。彼から感じる正体不明の嫌悪感を『おぞましさ』と表現してもよいかもしれない。
そんな男が好んだ銃だ。何か『曰く』があるに違いない。そう思わずにはいられなかった。
「あれは、この界元の超神剣の装備なのかもしれない」
ファルガは呟く。
放った弾丸に触れた者は、全て小機鎧になる。それは、ファルガの見る限り例外はなかった。
小機鎧、という表現をしてこそいるが、平たく言えば金属兵士であり、ファミス国やドメラガ国で開発された人型兵器の機鎧とは名こそ似るが、その実は全くの別物だ。
機鎧の大本の開発コンセプトであったパワードスーツの開発イメージに見た目が近かったため、小機鎧と呼ばれたのが名前の由来にすぎない。
だが、銃から放たれた弾丸に接触した人間が全て金属人になって徘徊を始める、となれば、これはもはやホラーだとしかファルガには思えなかった。
『小機鎧化銃』と仮称するこの道具は、ファルガ達のいたドイム界元であれば、『マナ術』の効果を道具で実現する『道具術』と呼ばれる術で再現できたかもしれない。
だが、全ての現象がいわゆる『科学』により説明できるとされるこの界元では、そもそも『真』の存在を知覚できず、それを用いた現象も解明できていない。
それどころか、万物の現象は理論的に説明しきれている、とこの界元の人間たちは思っているのだから疑問など挟む余地もなかった。
この星の人間からすれば、『氣』も『真』もオカルトの一言で済まされてしまう。
そんな風潮だからこそ、人間を全て金属人に変えてしまう銃を作ることができる存在は、もはや人間ではない、とファルガは結論せざるを得なかった。この界元のまともな人間ならば、わざわざそんな物を作ろうなどとは思わないからだ。
製作者は神か神皇か。『氣』と『真』を知覚できる者でなければやろうとはしないだろう。
「ただ、あの感覚は『魔』の超神剣の装備なんだよな……」
怯えを隠さないまま立ち尽くす女性型の小機鎧。
剣を構えてはいるものの、攻撃を開始するタイミングを逸してしまい、動き出せなくなった神勇者。
不思議なこともあるものだ。
首相官邸に潜入する直前に対峙した全ての小機鎧からは、ある種のおぞましさを感じた。それはまさに、小機鎧イコール『魔』の存在であるという図式が成り立っていたという事実を裏付けるものだ。そして、その法則には例外はなかった。
それは、ライブメタルに飲み込まれたエンゴモにも同様の事がいえたからだ。飲み込まれる前のエンゴモからは感じなかった『魔』特有のおぞましさ。それが小機鎧になってからのエンゴモからは、文字通り体中から『魔』の匂いが沸き立っていた。
しかし、正対する彼女からはそのおぞましさを感じない。
『氣』の雰囲気というものは、隠したり偽ったりできる性質のものではない以上、おぞましさが感じられないのは、その感覚が示すとおり、眼前の女性型小機鎧は『魔』ではないということなのだ。勿論、だからといって即座に味方であると判断するのも早急に過ぎるというものだが。『魔』ではなくとも、敵である可能性は十二分にある。
突然周囲に響き渡る轟音。そちらに目をやると、砂煙が遠くに立ち昇っていくのが見えた。
剣を構えたファルガも、怯えた様子を隠さない女性型小機鎧も、そちらの方に目を奪われる。
砂煙の中から立ち上がり、姿を見せたのは、先程ファルガが一刀両断したのと同じ容姿の巨人だった。
巨人の姿を確認したファルガは、面倒くさそうな表情を一瞬浮かべた。
確かに、ファルガは先だって、あの巨人と同様の巨人を一刀両断している。開放した竜王剣による斬撃で。
だが、現在は背後に守らねばならぬサムアラとエンゴモがいる。
更に、眼前には女性型小機鎧もおり、彼女の動向も掴めない。
不用意に動けば、守れるものも守れなくなる。
「サムアラァァァァッ!」
まるで拡声器を使っているのかと錯覚するほどに周囲にこだまするおぞましいガラガラ声。酒焼けを思わせる声の主は、あの巨人に間違いなかった。
この感覚は、首相官邸でサムアラを慰み者にしようとしたあの男。
首相官邸の地下独房に駆けつけたファルガに人盾にされて突進に付き合わされた上、そのまま瓦礫の下に埋められてしまったあの人物だ。
しかし、巨人から感じる気配はそれだけではない。何人かの雰囲気が混じっているところを見ると、首相官邸で瓦礫に埋もれた何人かを吸収した小機鎧が中心となって合体、巨大化した可能性が高い。
吸収された人間の思いが強ければ強い程、小機鎧になった時の行動パターンがその者の思考の影響を受けているように、ファルガには感じられた。
ファルガは眼前の情報を整理し、状況を把握する事で、対応策を練ろうとする。
いずれにせよ、背後にサムアラとエンゴモを匿った状態での戦闘は、悪手に他ならない。一度撤退すべきと判断したファルガは、剣を納めて大きく背後に跳躍すると、サムアラとエンゴモを両脇にガッチリと抱え込んで固定する。
「二人とも、俺にしっかりと掴まってください。一度退きます。正体の分からない敵を二人相手にするのは戦いづらい」
そう二人に告げると、戦線離脱を行動に移そうとするファルガ。
だが、それを女性型小機鎧は許さなかった。
いつの間にか距離を詰めた彼女は、右手に持つ剣をファルガ目掛けて振りかぶる。
ファルガは動揺する。
いつの間にこの距離を詰めたのだろうか、そして、あのような剣を持っていただろうか、と。
しかも、彼女の持つ剣のデザインは心なしか竜王剣に似ている。竜王剣の粗悪品とでもいうべきだろうか。剣の性能までは真似られないだろうが、彼女はどうやらファルガの剣を構えた姿を見て、剣という存在とその意味、そして剣の使い方を習得したようだった。
だが、女性型小機鎧の動きは、敵との距離を詰めるまでは鮮やかだったが、剣を振りかぶる動作は剣技のそれではなく、ただ棒切れを手にした子供が、威嚇のために振り上げただけの印象だ。恐らく振り下ろされてもダメージは受けないだろうとさえ思える動きだった。
だが、相手はライブメタルの疑似生命体だ。女性型小機鎧との直接接触が如何に危険であるかは、ファルガにも想像がつく。
彼女の攻撃に対し、蒼龍鎧の左腕部を展開し、シールドで受け止めることも考えたが、接触そのものを回避したかったファルガは、無理な姿勢にはなるが、二人を脇に抱えた状態で体を捻じる事で、女性型小機鎧の斬撃を回避した。
その時にファルガは目撃する。
彼女が剣を持っているように見えるが、手と剣の柄が一体化している。
ということは、やはり彼女は目で見たものを、身体である程度再現できるということなのだ。
何本ものビルディングの向こう側で立ち上がったライブメタルの巨人は、まるで己の存在を誇示するかのように、ゆっくりと前進を始める。
進路を塞ぐビルディングを両手で掻き分けるようにしながら、進んでくる様は恐怖の対象でしかない。
ファルガに抱えられたサムアラも、文字通り震え上がってしまっている。もはや口から言葉は漏れ出すことはなく、ただただ震えているだけだった。
この状態では、例え退避を促しても竦んでしまって動くことはできないだろう。そして、あの巨人はサムアラが目当てのようだ。
裏切り者のトラコーンの意志が色濃く出ている以上、エンゴモも当然ターゲットになりうる。
やはり、この女性型小機鎧を倒すしかない。あの巨人は別途相手をしなければならないだろうが、順番を考えると、女性型の小機鎧を倒してから巨人に手を付けないと、双方から攻撃を受けるシチュエーションを作ることになってしまう。
ファルガは覚悟を決めた。
幸い、ファルガを救った謎の閃光が、ファルガの体力もライブメタルに喰われた右腕も修復してくれたようで、剣の扱いに支障はない。
「サムアラさん、俺はこいつを先に倒します。そのまま少し待っていてください!」
ファルガは二人を抱えていた手を放す。同時に剣を抜こうとするが、右腕で抱えているはずのエンゴモが離れようとしない。
驚いて右腕の方を見ると、ファルガの顔の少し下で、虚ろな表情のエンゴモが見上げていた。
この男は、まだライブメタルの制御下から逃れていないのか!?
ファルガは思わずエンゴモを払い除け、離れたサムアラに注意喚起をする。
「サムアラさん、まだ彼は金属体の支配下にあるかもしれない! 気を付けて!」
竜王剣の抜刀は何とか間に合った。
女性型小機鎧の剣を受け、そのまま弾き飛ばすが、本来であれば剣だけを弾き飛ばすような力の加え方をしたはずだった。しかし、彼女の飛ばされ方は、腕ごと弾かれたようであり、きりもみ状態で地面に墜落した。
ファルガの見立て通り、剣と掌底が一体化していたのだろう。
うつ伏せに倒れる女性型小機鎧。だが、床との重々しい衝突音に比べ、彼女がダメージを受けた様子はない。
むしろ、心理的ダメージという意味では、ファルガの方が大きかったかもしれない。
ファルガの行動の結果が、何一つ彼のイメージ通りになっていないのだ。
床に墜落した時点で、手にした剣は失われていた。弾き飛ばした手応えはなかったので、彼女は剣を体内に戻したと考えた方がよさそうだ。そして、両腕で上半身を起こし、片膝をついた後に立ち上がる仕草は、まさに人間と同じ。
これもファルガの想定外だった。
彼のイメージでは、うつ伏せになった瞬間に液体化し、瞬間的に金属の水溜りに姿を変え、そこから液体が持ち上がり人の形を成していく、というものだった。
確かにその方が行動に無駄がない。恐らく顔面から壁に叩きつけられても、体の前後が容易に入れ替われば、敵に対し隙を与えることはないだろう。戦闘に特化すればその方がよいし、ファルガは当然のようにそのような動きをするものと思っていた。
だが、彼は勘違いをしていた。
ライブメタルは、疑似生命体といっていい程に生命体に近い金属群を指す。定義する者によっては、生命体そのものであるとさえいわれている。
エネルギーを他者から摂取し、単性生殖の繁殖行為のように寄生した相手の生命エネルギーを使って、ライブメタルは自分の分身を次々と創り出す。だが、ライブメタルの最小単位はミリ単位の金属片であるようだ。それゆえ、極小の金属板がミリ単位の金属片では、流体金属のような動きは難しいだろう。
階段から流れ落ちていく様から、小機鎧の身体を構成するのは、液体金属に近いものと誤解していたが、彼女を始めとする小機鎧は液体ではない。だからこそ、謎の光がファルガを捉えたあの瞬間、後頭部が一瞬膨らみ、結合が剥がれた部分から光が漏れだしたように見えたのだろう。そして、その後すぐに球体の姿になったのだ。
それは、ライブメタルの集合体が小さな金属片群であり、液体金属ではないことを如実に示していた。そして、最小単位である金属片を破壊すれば、そのライブメタルは復活しないということでもある。
「……それで、竜王剣で斬ったあの巨人が復活しなかったのか」
竜王剣の斬擊に接触した金属片は、最小単位の形状を破壊されて活動を停止した。だが、それ以外の部分は無傷であり、依然として稼働できるはずだ。
こちらに近づくにつれて更に巨大化していくように感じられるトラコーンとおぼしきライブメタルの巨人は、歩きながら周囲の小機鎧を吸収しているからだと、ファルガには察しがついた。
ということは、倒し方は必然的に二択。結合の指令を出すコアと思われる部分を破壊するか、すべてのライブメタルを最小単位の金属片の形状を維持できないように破壊するかになるだろう。
では、エンゴモはどうする?
この男の症状は、精神を病んだ人間のそれに似ている。吸収されかけたエンゴモは、主体を破壊されたが故の呆け状態になっているとすれば、現段階で施せることはない。
心が完全に破壊されていなければ、戻ってくることも可能かもしれないが。それは少なくともファルガにできることではない。
彼の腕を掴み、虚ろな眼差しで見上げていたエンゴモ。最初は、彼の心の中に未だ小機鎧化の影響が残っていると思っていたが、あの拘束は明確な意思に基づいて成されたものではなかった。どちらかというと不安を全面に押し出して、なんとかすがろうとした幼児の行動にも思えてくる。彼は不安なのだ。
そもそも他の小機鎧が明確な意思で動いていないのに、エンゴモが仮に完全に小機鎧に侵蝕されていたとしても、何か目的をもって行動していたとは考えにくい。
見張りをしていた小機鎧の行動パターンは、怪しいものがいたら排除せよ、というかなり大雑把な指令だったと推察されるが、指令者であったヘッジホが、もっときちんとした悪党であり、機転が利くタイプだったなら、この小機鎧群は恐ろしく戦いにくい相手になっただろう。
そういう意味では、ヘッジホがマスターでよかったのかもしれない、とファルガは胸を撫で下ろす。
ファルガは再度剣を構えた。
だが、徐々に巨大化していく巨人の接近速度が増しているのに気づくのが遅れたのは、ファルガの落ち度というのはあまりに酷かもしれない。ここにいる全ての者が、その巨大化という変化に対し、そこまで重要視はしていなかったからだ。実際、巨人の姿を形作るライブメタルたちは、当の本人たちですら巨大化していることに気づいていなかった。
「剣で斬っても埒が明かない。≪八大竜神王≫で一気に消し去るしかないのか」
ファルガは露骨に嫌そうな表情を浮かべた。
≪八大竜神王≫は、その術の性質上、体力精神力ともにかなり消費する。『高速増殖法』が綿密な『氣』のコントロールを必要とするのに加え、今回はそれを戦闘中に激しく動きながら行わねばならない。神勇者がこの術を速射できない原因は、術そのものの高い難易度が関係する。
ファルガが今まで≪八大竜神王≫を放った時は、全て敵に対して正面を向いた状態で術を発動させる準備をする時間があった。
だが、今回はライブメタルの巨人と女性型小機鎧の二人が相手だ。
片方は発狂しつつあるトラコーンなので、そこまでリスクは高くないが、もう一方は戦闘中にどんどん力をつけていくタイプ。特に女性型に対しては、あまり手数をかけずに勝負を決めたい。技や動きや、戦闘に関連するヒントを見せると、あっという間に自分のものにしかねないタイプだ。
ファルガは竜王剣を横薙ぎの構えで保持する。
一撃必殺は無理でも、閃光斬で首と足を飛ばせば、進行は遅らせられる。その間に一気に女性型小機鎧と決着をつけるしかない。
ねじれの位置にある生命エネルギーは、通常では普通の人間は関知できない。いわゆる物の怪やあの世の存在といわれる輩だ。だが、そういう奴らを排除しなければならない時に、それを可能にするのが『閃光斬』だ。もちろんねじれの位置にない生命エネルギ-の相手にも斬擊は斬擊として機能する。
ファルガが狙うのは両大腿部と、首。はたしてライブメタルの巨人が極小生命体の集合体として活動しているのか、はたまた一つの巨大生命体として活動しているのか。
ファルガは今までのライブメタルの動きから、後者と推測していた。各々がバラバラに動いているならば、一つの生命体が動くような統制の取れた動きは不可能だからだ。
ならば、命令系統と思われる頭部の切断と、歩行機能を失わせることにより、巨人の進行は止められる。再生をするのは想定内だが、時間を稼げればよい。
竜王剣の刃が一際強く輝く。
右薙ぎ、左薙ぎ、右薙ぎの三連擊は青白い光の刃となり、空中を滑るように飛んでいくと、外れることなく頸部と大腿部二ヵ所に命中、ファルガの意図通りに歩行機能の破壊と命令系統の遮断に成功した。
崩れ落ちていく巨人に一瞬気を取られていたファルガは、サムアラの叫び声に反応し、思わず横に飛び回避する。
ファルガの頭のすぐ上を、見覚えのある斬擊が通過していく。ただ、色が異なっていた。この界元の『氣』の色なのだろうか。限りなく赤に近いオレンジ。
この斬擊の持つエネルギー反応は間違いなく『閃光斬』。ねじれの位置にある存在を切り裂く一撃。ただの斬擊飛ばしとは訳が違う。神勇者以外では、聖剣の勇者『聖勇者』のみが体得できるとされた閃光斬を放った者がいる。
斬擊が飛来したその方向には、件の彼女しかいない。
まさかとは思ったが、当たって欲しくないファルガの予想は、ものの見事に当たっていた。
竜王剣に酷似する、自ら作り出した剣を振り抜いた姿勢のまま、彼女は立っていた。
なんという学習能力だ。
なんという化物をヘッジホは作り出したのだ。
才気煥発な存在は何人も見てきた。
直近ではガガロの息子、ギュー。
彼はまごう事なき天才戦士だ。だが、そんなに悠長なことを言っていられるのは味方だからであり、そんな存在が敵であったなら、恐るべき脅威になるのは明らかだ。
ファルガは、背筋に冷たいものが流れるのを感じた。
 




