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界遊記  作者: かえで
新たなる世界

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蒼龍再臨

スマホからの初投稿です。ルビを振るのに一括で振れないのが難点ですね。今回『(マナ)』とかの単語が出てこないので助かりましたが……。

 サムアラは丸腰だった。

 先程まで使用していた小機鎧から奪った銃は捨てた。眼前で部下であるエンゴモが銃に喰われ、小機鎧へと変貌したからだ。今まで小機鎧から奪った銃を連射していた際は、何故小機鎧へと変異させられなかったのだろうか。少なくとも、彼女にとって、今まで安全だと思っていた武器が実は感染の恐れがあるという事実は衝撃だった。それはまるで近しい人間に生死の境で裏切られた時の絶望感にも似ている。

 サムアラ自身の認識では、小機鎧の銃に接していた時間はエンゴモより長かったはずだった。だが、冷静に思い返すと、銃との接触トータル時間はエンゴモと変わらなかったかもしれないが、銃一丁毎の時間はエンゴモよりは短かったかもしれないと、今となっては思える。そのわずかな違いが、彼女の状況をエンゴモと決定的に分かつものだったのだと、サムアラは思い至った。

 そう考えた時、彼女の置かれている状況は、エンゴモとは少し状況が異なっていることに気づく。。

 不幸中の幸いだったのは、彼女は銃をすべて撃ち終えたらすぐに次の銃へと変えていたということだった。

 そして、ビルの非常階段を上がってくる小機鎧たちから奪った銃を、エンゴモが次から次へと上階のサムアラに投げ渡していた。彼女は、銃がすぐに補充される事に安心し、一瞬で弾丸を撃ち終え、次の銃に交換していた。

 その銃の交換の回転率の速さが、小機鎧の銃が彼女の身体を浸蝕する前に、結果的に手放していたことになる。それ故、小機鎧化のきっかけになるライブメタルの餌食にならずに済んだのだ。

 エンゴモは、眼前の小機鎧の群れが突然溶けだし、階下に流れ落ちていったため、銃を撃つ必要がなくなった。その結果、ライブメタルが肉体を侵蝕する時間を、彼はずっと所持し続けてしまったということなのだ。

 それこそが、エンゴモがライブメタルの侵蝕に対する反応が遅れた理由だ。

 首相官邸からの脱出時では、サムアラもエンゴモも奪取した銃を撃ち、弾切れになるとすぐに奪った銃に持ち替えた。本来であれば、あの瞬間から、かの銃たちからもライブメタルの侵蝕が始まる可能性はあったに違いない。しかし、意図せぬこととはいえ、ぎりぎりのタイミングで弾丸を撃ち尽くした銃を手放していたため、結果的にライブメタル銃の侵蝕を回避していたのだろう。

 そして現状。

 階下からは小機鎧の群れが迫り、遠くビルディングの向こうには銀色の巨人が聳え立つ。そして、何よりも厄介なのは中空に静かに佇む小機鎧だ。

 唯一の救いは、あの最強の小機鎧がまだ動きを再開していない事だ。

 だが、それも時間の問題だろう。

 銃からの侵蝕の可能性も大いにありえるということもわかってしまったサムアラにとって、この状況での戦闘の継続は困難といわざるを得ない。

 登ってくる小機鎧の群れに対して一体一体対峙し、その都度眉間のLEDを攻撃する事で行動停止させ、銃を奪って撃ち尽くした後、すぐ別の銃に持ち替えて別の小機鎧を攻撃し続ける。

 その行動は余りに感染の危険が高すぎるのだ。

 まだ、階段を上がってくる小機鎧たちは、小機鎧化後間もない個体なのだろう。

 LEDが緑色に輝いているところを見ると、感染被害者の身体の持つエネルギーを吸い尽くされておらず、まだ人の形状を保っていた。

 それに対して、ビルディングの向こうに聳え立つライブメタルの巨人の眉間のLEDは深紅に染め上げられており、ライブメタルそのものが空腹状態になっているのだとわかる。

 サムアラはひたすら階段を登り続けた。

 自身を階上へと引き上げる太ももの筋肉は張り、いつ足が痙攣を起こしてもおかしくない。銃を撃ち続けた両腕も鉛のように重くなり、既に上がらなくなっている。幾ら特殊なトレーニングを積んでいるサムアラと言えども、二十階も三十階もある高層ビルの非常階段を走って登り続けることは難しく、彼女の大幅に鍛え上げられた心肺能力も、さすがに限界に近かった。

 だが、その逃走劇も終わりを迎えた。。

 ついに、サムアラはビルディングの最上階である屋上に到達したのだ。

 サムアラは最後の力を振り絞って、屋上へと上がる通路を封鎖する柵を乗り越えると、屋上のフロアの対角線上の角、即ち非常階段から最も遠い所に身を寄せ、フェンスに背を預けた。

 文字通り背水の陣だ。これ以上は逃げることも隠れることも出来ない。一方向から来る敵と、ひたすら戦い続けるだけとなる。この状況下で生き残るには、メガンワーダにいる全ての小機鎧を倒すしかなかった。

 フェンスの向こう側には銀色の巨人が見える。心なしか、銀色の巨人の双眸は、空虚ながらもサムアラを見ている気がしてならなかった。

 三十秒ほど経った頃、サムアラが閉めた非常階段の柵に無数の小機鎧が取りつき始めた。

 恐らく、先頭の小機鎧はエンゴモに違いない。なんとなくサムアラにはそう思えた。

 これ以上醜態を晒させるわけにはいかない。せめて、エンゴモの小機鎧だけでも真っ先に倒し、苦しみから解放してやるしかない。

 エンゴモを始めとする小機鎧に喰われ続けている人間は、徐々に体を融かされているようなものだ。蝕まれる苦痛を感じているとしたら、それは想像を絶する痛みだろう。

 サムアラは、黒いスーツを身に纏っている時に必ず携行していた暗器の準備に入る。

 暗器といっても、刃物ではない。

 彼女が最も得意としている組み立て式のトンファーだった。

「二度と使うまいと思っていたがな……」

 彼女の扱う最強の武器。

 しかしそれは、サムアラに何度か悲しい思いをさせている。

 彼女が生き残るのと引き換えに、愛した男や愛せるかもしれなかった男がそのトンファーによって命を落としている。彼女は、呪われたトンファー使い。

 自他ともにそう呼称するが、彼女の心はそれを笑い飛ばせるほどに回復していた。だが、それでも傷は傷だ。その古傷を、また抉る事になるのか。

 対角線上にある非常階段の柵が破壊された瞬間、サムアラはその呪いのトンファーを構えた。それは同時に、彼女自身も死を覚悟した瞬間でもあった。

 その時。

 銀色の巨人の背後が鮮やかに光った気がした。

 日の出でもなければ日の入りでもない。ただ、不思議な光がすこし見えた気がした。

 そして、サムアラは見た。

 中空に浮かんだ小機鎧の眉間を細く眩い閃光が直撃したところを。

 輝きは一瞬だった。

 だが、その閃光は空中の小機鎧の後頭部に貫通することはなかった。

 暗くて確認は難しかったが、小機鎧の後頭部が風船のように一気に膨らみ、その膨らみが波打つように全身に広がっていくように見えた。そして一瞬ではあるが、膨らんだ小さいライブメタルのプレートの裏からその光がにじみ出ているように見え、小機鎧そのものも小さな金属片で構成されているのがわかった。

 次の瞬間、サムアラは目を疑った。

 中空の小機鎧の形状がそのまま徐々に球体へと変化していったからだ。ヒト型だったそれが、サムアラから見ても完全な真円を描いている。

 小機鎧であった球体から、再度光が漏れ始めた。だが、これは先程の光とは種類が違うのが直感的に理解できた。発する光の『主』が違うのが何となくわかったのだ。

 サムアラに向かって近づいてくる小機鎧達も、何故か歩みを止めた。

 そのときはサムアラもわからなかったが、生命エネルギーを求めて迫る小機鎧達がサムアラを追いかけ追い詰めるのは、ある意味必然だった。それが止まったということは、いくつか可能性はあったが、今回は明らかだった。

 眼前に強大な生命エネルギーが現れたからだ。

 金属の球体は膨張した次の瞬間、轟音と共に光の爆発が起き、細かい金属片を撒き散らして消滅した。

 真昼以上の輝きが周囲に飛び散ったその瞬間、サムアラはその光の中心に一人の人影を認めた。

 サムアラに久方ぶりに笑みが浮かぶ。その笑みは、先程までの絶望に抗うための気付けのものではなく、真に安堵が得られたときの笑みだった。


 右腕を喰われてから、ライブメタルが全身に伝播するまでに時間はかからなかった。

 その侵蝕のあまりの速さに、ファルガは物理的な防御を諦め、ライブメタルの侵蝕に対するバリアを張るしかなかった。

 とはいえ、そんな便利な術があるわけではない。吸収しようとして来る無数のライブメタルに対し、物理的な弾力を持たせることで肉体に侵蝕させないように『氣』の膜を張り、直接接触を避けるしかなかった。

 もちろん、ライブメタルは生命エネルギーである『氣』を食料とし、巨大化、分裂などの活動を繰り返す。弾力のある『氣』の膜で直接接触を避けていたとしても、目の前にエサのある状態のライブメタルがその眼前のご馳走を摂取しないわけがなかった。

 つまり、ここでもファルガと無数のライブメタルとの期限のない鬩ぎ合いになる。

 いくらファルガといえども、『氣』と用いなければただの人間と変わらない。もちろん『氣』が無尽蔵に扱えるわけもない。身体が作っている『氣』の量しか扱えないのだ。

 やはり、『氣』を扱うためには、丹田を刺激してファルガの身体自身で『氣』を大量に作らねばならない。そこで、ファルガは『氣』の膜を維持し続けるというアクションをしながら、≪八大竜神王≫を放つのと同様の『高速増殖法』を用いて、ライブメタルが喰いきれない程の『氣』を作らなければならなかった。

 そうしなければ、とうにファルガはライブメタルに喰われ、小機鎧そのものになってしまっていただろう。

 だから、彼は待った。

 現時点では何の光明もなく、誰も知り得ないようなライブメタルに対抗する為の処置を施して。

 何かの拍子にライブメタルの吸収行動が一瞬途切れ、ファルガが自由に『氣』が扱える瞬間が訪れるまで、彼はひたすらに待ち続けるしかなかった。

 そして、その好機が訪れた。彼自身全く予期せぬ形で。

 遠くから近づいてくる者がいる。

 一人はよく知る者。

 青年神勇者のかつての宿敵にして同志、ガガロ=ドンの息子。齢五歳にして魔神皇を倒した天才戦士。

 その彼が緑髪をなびかせ、こちらに向かっているはずだ。

 もう一人は誰だろうか。

 知っているはずなのだが、断定できない。断定しようとするとおかしなことに、二人になってしまうのだ。そして、更に知らぬ者まで混ぜ合わさっている。三種類の『氣』を合わせて放つ何者か。だが、最後の一人も、既知の二人に似ていなくもない。

 誰なのか確信の持てぬまま、接近を待つファルガ。

 正直、誰でもよかった。

 彼をこの状態から解き放ってくれるのならば。

 ……いや、解き放たなくてもいい。

 数億数兆、あるいはそれ以上の膨大な数のこのライブメタルの微細な存在が、ファルガからほんの一瞬でよいので吸収を止めてさえくれれば……。

 遥か遠くで、その何者かが『氣』を練り始める。

 『高速増殖法』を使うのか。ということは、≪八大竜神王≫を放つつもりなのか。

 ギューもその者も、戦っている感じではない。それでも放つというのか。

 その位置から? このタイミングで? 何を目的に? 何処に向かって?

 さすがのファルガも、氣功術唯一にして最大の攻撃術をまさか銃から放つとは思ってもいなかったに違いない。

 ましてや、自分自身の眉間部にあるLEDを照準とした射撃を想定しているとは夢にも思わなかっただろう。

 だが。

 術は放たれた。

 彼が知り得る限り、最も収束された状態で。

 放たれたと思った瞬間には、自身の首に凄まじい負荷が掛かるのが分かった。

 額にあるLEDを撃ち抜いたのだ。その衝撃で首が仰け反るのは仕方のない事だろう。

 だが、LEDから光と熱と音と、そして懐かしい感覚が流れ込んでくる。

 圧倒的な『氣』の量だった。

 ファルガ自身も≪八大竜神王≫は初めて受けた。

 音や光、熱といった全てのエネルギーを持つ、偉大なる生命エネルギー。

 生きとし生ける者を、生きるものとして活動させるためのエネルギー。

 一瞬ファルガの首の骨が折れた。それほどの強烈な圧力だった。だが、≪八大竜神王≫の恐るべき生命エネルギーの奔流は、折れたファルガの首の骨を瞬時に治癒し、更に今まで消耗していたファルガの他の力についても、あっという間に補い回復させた。

 チャンスだった。

 ファルガは全身からエネルギーが流出していないことを確認した次の瞬間、丹田を全開で活動させ、『氣』を大量に作った。そして、そのコンマ何秒の隙を使い、自身の丹田で創り出した『氣』を、全身から噴き出すように放出したのだ。つまり、≪八大竜神王≫を放つための『氣』を掌底ではなく全身に膜として生成し、それを全方位に向け放ったのだった。

 初めての試みだった。だが、彼はそれを容易に実行に移して見せた。

 ファルガの気合いの絶叫と共に、銀色の小さな無数の金属の板が霧散する。

 そして、青白い輝きの中で、ファルガは自身の超神剣装備を呼んだ。

 四本の光の矢が界元を超えて出現し、全身を蒼い鎧が包む。

 光龍兜。

 蒼龍鎧。

 そして、竜王剣。

 ドイム界元の超神剣の装備が、神勇者の身体を包んだ時、もはやライブメタルの巨人は敵ではなかった。

 青白い炎のようなオーラ=メイルに包まれた神勇者は、サムアラの立つビルの屋上に手を掛けようとしていたライブメタルの巨人を、頭から一刀両断した。

 竜王剣の刃部分は、ファルガの『氣』で満たされている。竜王剣の最大攻撃力時の輝きだ。斬れぬものは何もない。

 ドイム界元の神皇ゾウガが模擬戦をも拒否した神勇者の一撃は、ライブメタルの結合を見事に断ち切ったのだった。

 その斬撃を繰り出し終わった後、ファルガはサムアラのいる建造物の屋上に降り立った。

 蒼龍鎧の動きを追従するように、軽やかに舞う赤いマントがふわりとファルガの背を覆った。

「ファルガさん……。よかった……」

 感極まって零れる言葉は、サムアラの意図を全く介さない、ただサムアラの願望のみが成就して零れ落ちた、優しい欲望だった。

「すまない、サムアラさん。

 まさかあの弾丸に触れるだけで感染するとは思ってもいなかった……。

 たぶん官邸の人間は皆助からなかったんでしょうけど、あの彼は?」

 サムアラは首を横に振った。

「先程まで、彼も一緒に戦っていたのですが、つい先程銃に飲まれました……。接触は銃でもダメだったようです……」

「サムアラさんはどうして無事だったんですか?」

「私は、撃ち終わった銃をすぐに破棄していたから……」

 ファルガはサムアラに背を向け、歩み来る小機鎧を一瞥する。

「先頭のが彼ですか?」

「恐らく」

「まだ間もないですよね、ああなってから」

 サムアラは自信なさげに頷いた。歴戦の戦士サムアラも、自分より遥かに強い戦士の前では、もはやか弱い乙女にすぎなかった。いつもは剣を握り銃を握っていた手が、いつのまにか胸の前で握り合わされていた。

 ファルガは、小機鎧の群れの前に躍り出ると、竜王剣の切っ先を先頭の小機鎧の眉間のLEDに軽く刺し、そこに自身の『氣』を流し込んだ。

 ボンッという音ともに身体の周囲に埋め尽くすようにへばりついていたライブメタルが飛び散る。

 中にはボロボロのスーツを纏っていたエンゴモが、ファルガに向かって倒れ込んでくる。

 ファルガは剣を背に戻すと、崩れ落ちるエンゴモを床に倒れ込む前に抱き止め、一度小機鎧の群れから距離を取った。

 エンゴモを受け取ったサムアラは、涙を隠さずファルガに何度も感謝の意を伝える。

 今まで押し殺していた感情が溢れ出たのだろうか。

「後の奴らはもう、手遅れなんだろうな……」

 エンゴモの頭を抱き締めるようにうずくまるサムアラと、未だ歩みを止めぬ小機鎧の軍勢の間に立つと、ファルガは剣を構えた。

 彼らにも出来るだけ苦痛なく。

 その方法をファルガは模索するが、それは無意味に終わった。

 なぜなら、先頭を歩いていた小機鎧のLEDが、紺碧から深紅に変わったからだ。そして、大津波の予兆で海岸線の海水が一気に引いていくように、細かい金属板達は形を無くし、ビルの隙間から流れ落ちていった。残された金属板も、小魚のようにピチピチと跳ね、屋上の縁までいくと、自ら飛び下りていくのだった。

 数瞬の静寂。

 三人の留まるビルの屋上に、巨大な手が掛けられた。銀色の手は、間違いなく先程溶けて流れ落ちていくように見えたあの金属の集団。大きさだけでもファルガ達を片手で掴めてしまうくらいはある。

 ショックの連続。いくら百戦錬磨のサムアラでも、理解が追い付かないことが多すぎた。瓦解した緊張感を、もう一度持ち直すことは難しい。

「サムアラさん、彼を連れて下がって」

 ファルガはそう言うと、再度竜王剣に力を込めた。

 クリスタルのような刀身。そこに光が点っていく。先程の金属の巨人を簡単に両断したファルガを以てすれば、決着は大した話ではない。

 そのはずだった。

 だが、手を掛けて立ち上がった銀色の巨人は、先程ファルガの倒した金属片の集合体の巨人とは少し違う様だった。

 どう違うのか。

 先に出現した銀色の巨人はどこか隙間があった。表面が金属の鱗のようにも感じられたが、あくまで『細かい金属片が人型を取った存在』であるに過ぎなかった。

 だが、今回ファルガの眼前に立ち上がった巨人は、それぞれの金属片の結合が強くなっているような気がする。金属のものを稼働させようとすると必ず分割線が存在するが、この巨人には分割線が存在しない。

 人間や他の動物の身体に関節はあるものの、そこに分割線が見られないのと同様に。

 眼前に立ち上がった巨人の身体に分割線が見られないせいか、酷く丸みを帯びているようにファルガには思えた。

 そして、その金属の巨人が跳躍して、ファルガたちのいるビルディングの屋上に着地した時には、ファルガよりわずかに背の高い人型サイズになっていた。

 どうやって小型化したのか。あれだけの巨人が小型化したなら、密度はどうなのか。重量は?

 一瞬で様々な疑問は浮かぶが、まずは、現れた人型が眼前に降り立ったのは事実だった。性の象徴たる細かな造作は見て取れないが、身体の丸み具合から女性をイメージさせる。

 女性に限りなく近く造形された小機鎧、とでも言えばいいのだろうか。

 肩まである毛髪一本一本まで金属なのか。

 その存在を彼女、と表現する事をはばからなければ、彼女は左手で自身の髪を掻き上げた。その所作は、風に乱された髪型を軽く手で触れて直した、と表現するのがふさわしかった。

 先程まで小機鎧たちをものともしなかったファルガが、初めて動きを止めた。

 額に一筋の汗が流れ落ちる。

 ファルガは、エンゴモを抱くサムアラにチラリと目配せをした。

 背後から見ていたサムアラは、ファルガのそのような様子を初めて見た。

 ようやく意識を取り戻したエンゴモは、まだ立ち上がれなかったが、ゆっくりと彼に肩を貸すとファルガの元から離れたのだった。

2025/10/04 「」を半角から全角に一部修正。スマホで作ったものをそこに張り付けると、鍵カッコが半角になるとは知りませんでした。今の原稿は直していますが……

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