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界遊記  作者: かえで
新たなる世界

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戻れぬ者

 カインシーザは界元神皇に話を聞くため、界元神皇の城……というよりは一本の塔と表現するのが妥当な建造物だが……に戻ると、界元神皇とコンタクトを取り続けていた。

 実はカインシーザも、界元神皇とは面識がない。面識があるのは自界元の神皇のみだが、その神皇の姿も幼女であったことから、実際の容姿とはかけ離れているのだろうと思っている。

 更に別の界元では、神皇の姿が犬の顔をした人間の場合もあれば、そもそも生物の姿をしていない場合もあるらしいので、定型としての神皇の姿は存在しないのだろう、とカインシーザは結論付けている。

 確率で存在するのであれば、そもそも大きさや形、重さや色を形作る要素が流動的であるのだから、容姿を求められても表現することが難しいのも無理もない話だ。神皇は、出会った者にとって一番無害で庇護すべき存在の姿を取るといわれている。同じ場でカインシーザとファルガとギューが神皇と出会った時に、三者が同じ神皇の姿を見ているとも限らない。

 界元神皇とのコンタクトは、城の一室にいる時に、界元神皇に語り掛けると、界元神皇がそれに答える、という形で情報の共有が行なわれていた。

 恐らく、界元神皇も他も神皇同様、界元内に確率で存在する状態なのだろう。そして、底も空も見えぬ空間に聳える城という名の塔も、確率で存在する界元神皇の造る、疑似仮想空間内に存在するに違いないはずだ。

「カインシーザよ、なぜ戻ってきた?」

 再三の呼びかけにやっと答えた界元神皇。その声は、実際にカインシーザの耳に届いているのか、それとも脳に直接話しかけているのか、その判断は本人では難しい。ただ、耳に心地よいイメージはある。逆に、これが界元魔神皇だとするなら、酷く不快な声にきこえるのだろうか。

「今回の『見守り』についてですが、頂いている情報があまりに少なすぎます。

 あのままただ漠然とあの界元に滞在し、神勇者候補を探しても、見つけることができないまま悪戯に時を費やすだけだと判断されたからです。時機を逸すれば、貴重な神勇者候補の命を失ってしまうかもしれません。それだけは避けたいと考えました」

「……つまり、現時点では神勇者候補に出会えていないということだな」

「出会えていない、というより、わからないのです。何人かの人物とは会いましたが、ファルガやギューが持っていたような強い『氣』の波動を感じる者はいませんでした。あの星全体を探ってみましたが、そのような『氣』の持ち主が存在しません」

 界元神皇は、少し考え込んだ様子を見せた。姿は見えないが、沈黙と気配からわかる。

「……そうであったか」

 界元神皇の言葉に首を傾げるカインシーザ。もし、神勇者が見つからないのならば、もっと動揺するなり怒るなりの反応があってしかるべきだが、なぜか反応が薄い。まるで神勇者候補と出会えない事が想定されているとでもいわんばかりの落ち着き具合だ。

 通常、見守りの神勇者を送り込むのは、神勇者候補は何人か誕生しているが、その候補が特定できない状況で、その候補者達の命の危険がある場合だ。

 しかし、今回の界元では、送り込むべき神勇者候補が見当たらない。

 それなのに、なぜ界元神皇は、当該界元に送り込む判断をしたのだろうか。

「それを尋ねるか、カインシーザよ」

 界元神皇の表情は伺えないが、苦虫を噛み潰したような表情をしているのはなんとなくわかった。

「厳密に言うと、そなたが出向いていた界元・デイガでは、神勇者候補はまだ生まれていないようだ」

「生まれていない? それなのに送り込まれていたのですか? 我々は」

 苛立ちを隠さないカインシーザ。もしそれがわかっていれば、あれ程に慌てず、無理にあの界元の人間たちと接触する必要はなかったはずなのだ。

 文字通り、神勇者候補が生まれるまで待てばよかった。

「そなたも『魔近衛』と一戦交えたはずだ。

 あの界元には、何故か『魔近衛』が大量に送り込まれている。

 まだ、神勇者が誕生していないのに、だ」

 怒りに沸く彼の頭の中が一瞬にして冷却されたように感じるほど、界元神皇の声には抑揚がなかった。

「神皇様は……、デイガ界元の神皇様は大丈夫なのですか?」

 神勇者がいないことで、カインシーザが危惧する新たな可能性は、大量の『魔近衛』……ファルガたちは神闘者と呼ぶ……により、神皇が倒されてしまうこと。そうなれば、界元のバランスは崩れ、界元消滅へのカウントダウンが始まる。

 だが、界元神皇は、ここでも焦りを感じさせない。もはや、実際に焦りを覚えていないのか、はたまた焦りを覚えているが表面に現れていないだけなのか、判断に苦しむカインシーザ。

「デイガ界元の神皇は、何とか持ちこたえている。

 そなたたちが三名の『魔近衛』を退けてくれたおかげで、少し攻撃の手が緩んだようだ」

「しかし、お一人で戦っておられるなど……。今すぐに加勢すべきでは」

「それこそ、他の界元に干渉することにならないか?

 カインシーザよ。私以上に他の界元への干渉を嫌うそなたにあるまじき言葉だな。それを責め立てる気は毛頭ないが。

 残酷なようだが、弱い神皇や神勇者は、やはり倒される運命にある。卵の殻を破る力を持たぬ雛は、破れぬ卵の中で死を迎えるしかない。その卵を無理に割って助け出しても、生き抜く力がなければいずれ死んでしまう。

 戦いの土俵に上がれないことは困るが、いざその場面になれば、基本的には神皇の加護が効果を現す。しかし、それでもうまくいかぬ時がある。そのための『見守りの神勇者』なのだ。そなたは手助けするケースの界元をよく担当することが多いが、本来は全くそういう事態は起こらないはずなのだ。界元の神皇の力が衰えていない限りは」

「私が派遣された界元は、神皇様の力が弱まっている、と……?」

「全てにおいてそういうケースが該当するではないが、概ねそうだ。

 ドイムでは、神皇の力は弱まっていないが、魔神皇になりかわろうとした存在がいた。 だから、そなたが派遣された。

 ギラオでは、神皇・魔神皇共に既に倒され、界元消滅の直前だった。神勇者と神賢者を救うための派遣だった……。

 やはり、イレギュラーであるという事実は変わらない。」

 カインシーザは何かを口にしようとして、押し黙った。

 結局、神というのは自分達には考えの及ばない存在なのだ。

「神は等しく救済しない」

 界元神皇との交流後に、カインシーザが虚しく呻いた言葉だ。

「……では、私はデイガに戻り、神勇者候補はまだ誕生していないが、生まれてくるはずなので、その存在を見つけ保護するように、と神勇者たちに伝えます」

 カインシーザは、自身が出てきた≪洞≫のゲートに近づき、またファルガたちの元に戻ろうとする。ゲートは開いているので、ファルガやギューの目の前にすぐにいけるかはわからないが、同じ星には戻れるはずだ。『氣』を頼りに移動し、合流すればよい。

 突然、眼前のゲートが消滅した。

「消えた……! ≪洞≫のゲートが……」

 驚愕するカインシーザに、界元神皇は告げる。

「そなたをデイガ界元に戻すわけにはいかん」

「なんのおつもりですか!?」

 今まで、様々な矛盾や理不尽な現状を突き付けられてきたカインシーザ。だが、それでも今までは己を律するなり殺すなりして、怒りや悲しみといった感情をやり過ごしてきた。

 だが。

 今回の仕打ちは余りに酷すぎる。

 カインシーザが初めて共に行動をする神勇者の仲間たち。彼らに何としてもその情報を伝えたかった。だが、それを界元神皇は是としない。

「なぜですか? なぜ私はデイガ界元に戻れないのですか? 私が得た知識を彼らに共有すれば、彼らはもっと効率よく……」

 途中まで気持ちを吐露したところで、界元神皇に制された。

「過渡期なのだ。

 今、彼らにその情報を伝えたなら、文字通り神勇者は誕生しなくなるだろう。『魔』がそれを阻止するのか、はたまたそれ以外の理由なのかはわからんが。

 私は、そなたが戻った未来と戻らない未来の並行世界を見ることができる。厳密には仮想演算で把握できる。

 そして、そなたが戻った界元に未来はない。

 そなたが戻った際の様々な分岐を見た場合、どの先を見ても、残されているのは界元の消滅のみ。

 ファルガとギューを失わぬためにも、カインシーザを失わぬためにも。

 知識も何も持たぬまま、残った二人と何億もの人間たちが試行錯誤して、様々なものを発見し、技術として昇華していくしかないのだ。

 そして、その先に未来が見える」

「……わかりました。事態は彼らに預けます。私がかの界元の状況を知る方法は?」

 わかるものかよ。

 本当はそう言い放ちたかった。だが、それをしたところで無駄なのもわかっていた。

 カインシーザは、≪洞≫のゲートの存在していた跡地に、恨めしそうな視線を送るのだった。

「カインシーザよ。そなたには、また別の界元に行ってもらう。一日休み、体調を整えた上で、今の部屋から三階上がったところのグオン界元に通じる≪洞≫のゲートを潜るのだ」

 カインシーザは、暫くの沈黙の後、了承した。

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