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界遊記  作者: かえで
新たなる世界

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200/257

新しい界元へ

祝200章。

書いてみるとがないですね。遅筆だからですかね。

 青年ファルガが見た映像は、身の毛もよだつものだった。

 もともと、同じ種族でありながらも『妖』と『魔』という括りでは別物であった生命体。

 互いに憎みあった同種族内での殺し合いは、後を絶たなかった。しかも、ただ命を奪うだけではない。そこまで危害を加える必要があるのか、という程に痛めつける。

 命が失われてなお激しく攻撃を続け、ミキサーで全てを破砕攪拌したかのような赤いゼリー状の物体になるまで危害を加え続けるとなると、もはや排除の域を大きく逸脱している。

 両親が『妖』であっても、子に『魔』が生まれてくることもあるらしい。その逆もまた然り。

 これは、全ての動植物、果ては生物とは呼べぬウイルスにも同じ現象が発生し得た。そして、群れのマジョリティが、身体的な特徴に全く差のないはずのマイノリティの存在を鋭敏に嗅ぎ分け、集中攻撃し、嬲り殺しの憂き目にあわせた。

 何の法則性も見いだせないまま、『妖』が大多数の世界において『魔』は、群れて隠れて生活するようになる。同様に、『魔』が大多数の世界の『妖』も集落を作り隠れ住んだ。

 時代や場所によっては『サイコパス』の同義語ともなりうる、『反心魂』に対しての異様なほどの敵愾心が、また要らぬ憶測からの悲劇を呼び、結局一つの家族、一つの村、一つの国、一つの星が崩壊していくケースも少なくなかった。

 そして。

 神々はある一つの法則に気づく。

 『精霊神大戦争』では、確かに『妖』と『魔』が争い続けている。

 だが、悲劇的な結末を迎えているのは、『妖』が『魔』を完全に滅ぼした界元であり、同じく『魔』が『妖』を完全に滅ぼした界元だった。

 物質が枯渇し、生物が枯渇し、最後の生命体が飢えによって朽ちていくという悲劇。

 界元の総エネルギー不足が招く事態だ。

 嫌いあい、憎みあい、相手の存在が許せぬほどに怒りが肥大し、互いに激しく傷つけあう方が、より互いに消耗し、どちらも消滅してしまう印象がある。

 だが。

 現実は逆のようだった。

 何故そんなことが起きるのか。

 『妖』と『魔』が戦い、相手を傷つけ罵る過程で、エネルギーが発生する。

 悲劇の上に成り立つそのエネルギーは、最初は負の感情を帯びているものなのかもしれない。だが、時間が経つにつれて、そのエネルギーが様々な物質に姿を変え、それこそが他の生命体を生かす糧になり、土壌になっていく。

 つまり、『氣』と『(マナ)』で構成される生命エネルギーと物質エネルギーに変異するということだ。

 ……それならば、互いが互いを滅ぼさずに共存することで、存在エネルギーの問題は解決するのではないのか?

 『妖』と『魔』の神皇たちはそう考えた。


「……そして、その忌むべき闘争での被害を最小限に留め、最大効率でエネルギーを得ることに成功したのが、そなた達が『精霊神大戦争』と呼んでいる戦闘形態だ。そして、関係が逆転した魔の神勇者、『神闘者』と神皇の戦いでもある。

 何故『妖』の代表一人と、『魔』の代表一人が戦うのに『大戦争』などという仰々しい名前がつけられたのか。

 それは、かつては『妖』と『魔』が代表を決めずに、憎しみと嫌悪感とに突き動かされ、ルールもなく総力で戦ったためだ。結果、どちらも滅び、生命のいなくなってしまった界元も無数に存在する。

 当然そんな界元には神皇も魔神皇も存在しない。物質も崩壊し続け、ただ、ひもじい空虚な空間が存在するだけだ。

 その結果を避けるために、幾億年もの時を経て、存在エネルギーと生命エネルギーの源を最小限のダメージで最大限に発生させるための戦いの構図を確立させた。

 最高次である彼らにどれ程のダメージを与えようとも、弱るだけで神皇も魔神皇も死にはしない。死という概念がないからだ。代わりに完全に活動停止にまで追い込まれる。

 完全に消滅させられれば話は別だが……」

 ファルガはゆっくり眼を開けた。ちょうど同じタイミングで対面席に座るカインシーザという男も目を開く。

 暫く落ちる沈黙。

 その後、どちらともなく口を開いた。

「界元神皇様は、互いを滅ぼさずに共存する方法が『精霊神大戦争』だと言っていた。

 だったらなおさら、それを俺たちがどうにかしていい話ではないだろう。神勇者は自分の界元以外の戦闘に干渉してはいけないらしいし」

「そうだな。そういう意味では、今回の界元神皇様の言葉は抽象的すぎて、わからないことも多い。

 だが、それは同時に、現状を変えることのできる可能性もまた無限にあるということだ。

 神皇様、および界元神皇様は、何かを俺にお命じになった。

 それが俺には、少年を見守り、傷ついたり驚いたりした時には、保護する対象に気づかれないように援助してやるように、という風に解釈できた。

 とある界元において、『妖』または『魔』のどちらかがもう一方を滅ぼし、勝者が僅かの瞬間ではあるが隆盛を極めた後に、一つの界元が物質の欠乏による悲惨な形で消滅する。

 そんな状態よりは、どちらかが完全に制圧しないように干渉し、界元そのものの存続期間を延ばす方がよい、ということなのだろうな。

 君の界元で一度だけ干渉したように」


 ファルガはなんとなく思い出していた。

 まだ少年時代、レーテとレベセスと共にカタラット国の大瀑布の裏に、聖剣『光龍剣』を求め進入した際、誤って地下水脈に飲まれてしまった。

 ひたすら長い距離を流され続けた少年ファルガは、地上に打ち上げられた。

 その時、瀕死であったファルガは、本来誰かに発見されるような場所に打ち上げられてはいなかった。そのままならば、少年の衰弱死は確実だった。だが、そんなファルガを抱え上げて、テマ老人の元に連れて行った人間がいる。

 あの時の人物……命の恩人は、テマの証言からもガガロとばかり思っていたファルガ。

 だが、それは青い髪と鋭い視線を持つ戦士という情報のみ。それ故ガイガロス人のガガロを思い浮かべていたが、言われてみればガガロとは髪の色が若干違う。

 同じ青でも、ガイガロス人のガガロ=ドンの髪は藍色に近いブルーだったが、記憶の髪の色は、南国の砂浜に打ち寄せる波のような、鮮やかな青。


「俺のいた界元は、『妖』が優勢だった。だから魔神皇対神勇者・神賢者の戦いになっていたってことか。

 でも、俺が聖剣を使っていた頃は、既に魔神皇ゼガは、妖の神だったグアリザムに倒されていた。界元神皇様の掲げている理想の状態から見たら、ドイム界元は手遅れの界元だったはず。

 その、理想の状態を台無しにしたグアリザムを倒せと言われるのはまだわかるが、手遅れの界元の神勇者と仮の魔神皇との戦いに、界元神皇様は何を求めていたんだ?」

 ファルガの疑問はもっともだった。

 神勇者と魔神皇の対戦は、『精霊神大戦争』の組み合わせであり、『魔』の氣を持つ最大最強の存在であったグアリザムは自称魔神皇ではあったが、魔神皇になり切れていない状態だった。

 どうやら最も強い『魔』の存在が、魔神皇となるのではないようだ。

 カインシーザは自身が干渉したと言った。神勇者になる可能性のあるファルガが命を落とさないように。

 それは、恐らく神勇者候補を失うことで、『魔』が勢力を盛り返せば、ドイム界元が代表戦でないかつての『精霊神大戦争』状態に陥り、界元に深刻なダメージを与えかねないと判断したのだろう。

 そして、それは界元神皇の指示であるに違いなかった。

 『精霊神大戦争』に限りなく近い規模の戦闘とはいえ、厳密には『精霊神大戦争』ではないこの戦闘を実施させるために、何故界元神皇は、カインシーザに見守りの神勇者を命じたということなのか。

 二人の間で沈黙が落ちようとした。だが、そこに割って入ったのは、他でもない界元神皇本人だった。

「……それは今回の新しい試みでした。

 空席となった魔神皇の地位に、強い『魔』の存在を充てた時、魔神皇として機能するかという試み。成功すれば、再びその界元は延命できる。私はそう考えました。

 ……ですが、それは失敗に終わりました」

 界元神皇が、再び二人の精神に直接語り掛けてきた。

 なるほど、ドイム界元での戦いは、『妖』と『魔』のどちらかの神皇を失なったことで崩壊を待つだけになってしまった界元を、再興させることができるかどうかの実験だったということなのか。

 しかも、失敗とは……。

 高次の存在であるグアリザムが、もし魔神皇になっていたならば、神勇者であるファルガのありとあらゆる攻撃を受け、戦闘不能に陥ったとしても、消滅はしなかっただろう。

 しかし、ドラゴン化したファルガの黄金の一撃を受け、グアリザムは消滅した。黄金竜『ゴールデン=ゴールド』の一撃は、グアリザムが魔神皇でない証明となった。

「……『妖』と『魔』の力の衝突でしか、物質を作り出すエネルギーは生まれない。かといって、憎みあう『妖』と『魔』同士が本気の総力戦で戦ったら、どちらかが絶滅するまで戦いは終わらない。

 そこで、『妖』と『魔』の代表同士、基本的に死という概念の存在しない魔神皇や神皇に神勇者、神闘者がダメージを与えることで、他の現次の存在に影響を及ぼすことなく、界元の創造用のエネルギー充填を行うシステムが、『精霊神大戦争』ということか……。

 神皇同士が戦わないのは、まかり間違ってどちらかの神皇が倒れては本末転倒だ、ということなのだろう。

 だが、神皇も魔神皇も苦痛は感じたくない。苦痛を与えられた上、封印されちまう訳だからな。

 だから、神皇は神勇者を鍛え、魔神皇は神闘者を鍛え、双方を戦わせて勝ち残った方が嬲る側になるということなのか。

 酷い話だ。

 そりゃ確かに、俺たちからすれば、『魔』が傍にいるだけで不快どころの騒ぎじゃないけれども、だからといって感情に任せてのサンドバックにするのもなあ……」

「基本的に、神勇者は魔神皇にダメージを与え、限りなく弱らせることはできるが、消滅させることはできないとされる。活動の力を奪うだけの存在だ。その活動のエネルギーこそが、界元を構成する『氣』と『(マナ)』に変換される訳だ。

 それに、魔神皇とてサンドバッグにされるのは御免だから、確実に神勇者を殺しに来る。だからこそ、強い魔の戦士・神闘者が必要なのだろう」

 『精霊神大戦争』とはいえ、神勇者が魔神皇を完全に追い詰めることは勿論、『神闘者』が『妖』神皇を追いつめるケースもあるが、神勇者・神闘者側が力尽きて終わることも多い。それでも、エネルギーだけは補填される。

 それだけ、神皇の力は強いということだ。そして、それは同時に魔神皇を吸収したとされるグアリザムの『魔』としての強さの異常性をも物語る。

 ファルガは、唸るように呟いた。

「少し休ませてください。

 内容があまりに突飛すぎて、整理が追い付かない。

 自分がどう行動していいのかわからない」

 ファルガは立ち上がり、客間から出ようとする。だが、入ってきた場所に戻ろうとするが、出口が存在しない。さすがに、この扱いに憤慨するファルガだが、相手にその怒りが届かないのではどうにもならない。

 ドイムの神勇者は、苛立ちを抑えきれないものの、先程自分が腰かけていたソファに横たわると、テーブルを挟んで座るカインシーザに背を向け、ふて寝を始めた。

 その姿を見て、蒼い髪の戦士は苦笑する。

「黙って受け入れろ、というには余りに突飛な内容だからな。仕方あるまい。

 見守りをした俺でも、このシステムに納得はしていない。

 無論、俺たちではどうすることもできないのだが」




 超神剣の装備を身に纏った二人の神勇者は、大森林の中にぽっかりと空間の空いた集落が見渡せる大木の枝の上にいた。

 眼下には街並みが広がる。

 町の賑わいは感じられるが、どうにも見たことのない都市構造だ。それ故、集落の規模は想像がつかない。村なのか、街なのか、都市なのか。

 地面から伸びる太い柱はある程度の高度で、樹木でいうところの枝部が放射状に広がり、その先一つ一つに球体がつるされている。球体には窓があり、そこで人々が生活しているように見える。

 球体間の移動は放射状に広がる、所謂茎部分で行なわれるようだ。ということは内部が空洞であり、そこを通路として使用しているということなのだろうか。

 ちょうど、葡萄の房を上下逆にして地面から生やしたような状態に見える。

 一見すると、それほどの大規模な都市には見えない。

 しかし、その球体の正確な大きさがわからないため、一体何人の人間が生活しているかは不明だ。なんとなく、ファルガたちの界元でいうところの三階建ての集合住宅と同規模、という意識でファルガはそれを見つめる。

 だが、人のサイズが違えば、その球体の住宅としての規模も全く異なる。人間のサイズがもっと小さければ、あの球体には数百名の居住者が存在するだろうし、ファルガ達と比べて倍の身長の人間が住まうなら、正にあの球体が一戸建て住宅と同じ規模となる。すると、一つの房に住まう居住者の人数を推した結果、眼前の集落の規模が変わってくる。

 カインシーザは、眼下の集落から目を離さず、ファルガに告げる。

「俺たちは、見守りの立場だ。

 俺が君の界元で、存在を気づかれないようにしていたように、この界元の住人、特に神勇者候補に気づかれてはならない。

 神勇者に成長しきっていない者が、『魔』の攻撃で命を落とさぬよう、見守ってやる必要がある。勿論、それ以外の原因での死も、極力回避させたい。やはり根源的には『妖』が『魔』を攻める形にしたいからな。

 十分注意してく……」

 タント界元の神勇者、カインシーザの言葉が終わらぬうちに突然ファルガの乗っていた枝が折れ、ファルガは房の集落のど真ん中に墜落してしまった。

 枝が折れた瞬間、カインシーザは跳躍し、上の枝に掴まったが、ファルガはそうはいかなかった。飛行術≪天空翔≫を使い、なんとか墜落を免れようとしたが、ドイム界元とは勝手が違ったようで、地面まで落ちてしまった。

 幸い、蒼龍鎧のおかげで何処も怪我をしていないようだ。

 急いで立ち上がると、直ぐに木の上に戻ろうとしたファルガ。

 だが、突然背後から声を掛けられる。

「あの……、大丈夫ですか?」

 驚いたファルガは慌てて振り返る。そこには、ファルガの首辺りまでの背丈の少年が薪を両脇に抱えて立っていた。

「あいつ、新界元に来て、ものの数秒でバレやがった……」

 タント界元の神勇者・カインシーザは樹上で思わず頭を抱えたのだった。

まだ抽象的な表現が目立ちますが、おいおい、彼らには実体験してもらうつもりでいます。


修正も加えるかも……。


2025/9/20修正。

文章がダブっているところがあったので、修正しました。AI恐るべし。

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