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界遊記  作者: かえで
巨悪との確執

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巨悪の全力

 眼前に広がる巨大な火球。

 しかし、燃え盛っているのは炎ではない。

 眼前に浮かぶ球体は、文字通り太陽なのだ。

 物質が酸化する際に熱と光を発する燃焼という現象とは似て非なるものだ。グアリザムの掲げる両手の先にある火球に見えるそれは、内部で核融合を起こしている物質の状態を示しているに過ぎない。炎のように見えるのは、まぎれもなくプロミネンスだ。表面のガスは一万度に達しようというところだが、この疑似空間では、その温度は伝わらない。ただ、直接触れたらあっという間に溶けてしまうのだろうか。この術を彼らの星で使っていたなら、あっという間に地上の生物は息絶えてしまっただろう。そして、グアリザム自身も危うかったかもしれない。

 巨大な恒星を作り出したグアリザムは、心なしかやつれているように見える。だが、その口元に浮かぶ薄ら笑いが、その火球もどきの威力を物語っていた。

 ≪恒星創造≫。

 神皇や魔神皇が、界元内の宇宙にて恒星を創造する星雲を作り出す時の大元になる。『精霊神大戦争』にて、大量の『真』(マナ)と『氣』を作り出した後、勝者側がそれらを使って星雲を構成する際、使う術式だ。六道で強いて分類するならば『マナ術』になるが、それはおよそ人間をはじめとする現次の存在が扱える代物ではない。

 本来であれば、術の発動自体が何万年、何十万年もかかるものであり、高次の存在でなければ発動させることそのものが寿命的に不可能。ましてや、その術の発動が完了し、効果が確定するのも数万年、数十万年。場合によっては数千万年、数億年もかかる。

 そして、時間の単位も、全ての生命が誕生してから全ての生命が滅びるまでのサイクル以上の規格外のものだが、サイズも規格外の物も多い。

 少年たちの住む星は愚か、そこにエネルギーを恵む太陽という巨大な天体の何千倍という質量、或いは直径を持つ天体の元でさえも、大量の『真』(マナ)を操り作り出しているのだから、もはや理解できようはずもない。

 恐るべきは、高次の存在がそれだけの時間と手間を掛けて創る天体を、規模が何千万分の一とはいえ、十数分で作り出してしまう『巨悪』グアリザムの力。そして、『真』(マナ)をコントロールし、原子の核が融合しやすいような状態で物質を作り出し、恒星の核融合を自立させる技術。

 どれほど精巧に恒星を作り出しても、絶対的な質量が足りない以上、融合反応は長くは続かないが、神勇者と神賢者を屠るエネルギーとしては過剰と言ってもよい物を作り出せるグアリザムは、やはり異端の力の主か。

「貴様ら人間ではどうにもなるまい。相手は太陽なのだ。せいぜい無駄な抵抗をし、無力さを噛みしめた上で、もがき苦しみながら消えてゆけ!」

 ファルガはグアリザムを睨みつけると、背に剣を戻し、掌底を合わせて前方に突き出した。≪八大竜神王≫の構えだ。

 氣功術唯一にして最大の攻撃術である≪八大竜神王≫。

 確かに、理論上では威力は無限に高まるだろう。そういう意味では、グアリザムの作り出した恒星を破壊しうる威力を持つかもしれないという点で、現状の打開策の一つではある。

 かつて、魔の神勇者と呼ばれた神闘者の集団を相手の戦闘中に、ザムマーグの経験転送術を受けたファルガは、鍛錬なしで≪八大竜神王≫を放ち、勝敗を決したことはある。そして、神皇ゾウガの鍛錬の最後の、歴代の神勇者と戦うシミュレーションにおいても、より洗練された≪八大竜神王≫を放っている。

 その術は、体内で作り出した『氣』のエネルギーを掌底に溜めつつ、その一部の『氣』を用いて丹田を刺激することで更に『氣』を作り出し、そのエネルギーを貯めている掌底のエネルギーにプラスする。その作り出したエネルギーの一部を使って更に『氣』を作り出し、掌底に溜めたエネルギーを増加させる。

 この術はこの作業の繰り返しであり、いわば高速増殖炉の理屈と同じものだ。そして、この無尽蔵に出力を増すことのできる氣功術を、道具術で再現したのが大陸砲だと言われている。

 掌底に溜められる『氣』のエネルギーの量については、術者の『氣』のコントロールの技術次第だが、理論上は『氣』のコントロールを完全に行なえる者ならば、威力は無限に高まるという事だ。

 ただ、術者が生命体である以上、限界はある。

 仮に術者が神や神皇であったとしても、高次の存在、というだけで生命体という括りは外れない以上、必ず限界は存在する。

 そしてそれは『氣功術』に限らない。『マナ術』を含む六道の他の術達にも言える事だ。

 だからこそ、魔神皇を超える力を持つグアリザムですら、瞬間的にはあの大きさの恒星を作り出すのが精一杯だ、という事なのだ。

 レーテは思わずファルガの名を叫んだ。

 具体的に何かを伝えたいわけではない。ただ、燃え盛る眼前の恒星と、それに立ち向かおうとする少年剣士を目の当たりにして、少女の口からは少年の名が零れた。

 以前に≪八大竜神王≫を放った時に比べ、ずっと『氣』のコントロールに長けたファルガ。同じ威力の術を、十分に収束して放つ事が出来るだろう。一点に照射されるエネルギー量は、神闘者の男の成れの果ての姿に放ったものとは比較にならない。

「相手は太陽、破壊してはダメよ!」

 遠くで叫ぶレーテの声が聞こえる。

 ……確かにそうだ。

 上空の球体は、燃焼という現象によってあの姿をしているわけではない。あの球体の中で恒星と同じ核融合が起きている事を考えると、あの球体を破壊した時の被害は計り知れない。それだけの強い力でグアリザムに圧縮されているのだ。解放されたならその爆風だけでも甚大な被害が出ることになるだろう。人工物が何もない閉鎖疑似空間でよかった、とファルガは感じたものだ。

 だが、ファルガは額に汗を浮かべながらもニヤリと笑った。

「わかってるさ。

 だから、あの小さい太陽を≪八大竜神王≫で押し返す!

 確かにグアリザムが作り出したあの火の玉の存在エネルギーは大きい。けれど、あの太陽をこちらに向かって弾き飛ばす力そのものは、只のグアリザムの力にすぎない。

 破壊せずに押し戻して、どこか遠くに飛ばしてしまえばいい」

 幾ら≪八大竜神王≫の威力が大きくても、そして、幾らその恒星が小さくとも、人間一人の『氣』の力で星を破壊するなんて、できるわけがないだろう、とは、流石にファルガも口にすることはできなかった。

 ファルガは≪八大竜神王≫の凄まじい威力を、小さい太陽の破壊に使うつもりはなかった。そもそも、威力がいくら無限に上昇するという≪八大竜神王≫でも、太陽を破壊する程の威力を貯めるには、ほんの数分、十数分『氣』を貯めたところで全く足りないだろう。

 だが、押し返すだけならできるかもしれない。

「人間風情が、魔神皇に逆らうなど片腹痛い!」

 ついにグアリザムは、上空に作り出した小さな太陽を、ファルガ達に向けて投げつけた。

 だが、投げつけたグアリザム自体も、その天体が地上に衝突した際、どのような結果になるか、想像できていたかは疑わしい。

 矮小天体が大地に衝突した時に、大地が破壊されるのか、その天体が崩れるのか。天体が崩壊すれば、大量の宇宙線が照射される。グアリザムが二重螺旋構造を持つ高次生命体かは不明だが、大量の宇宙線に被爆しても問題ないのならば、移動を彗星城にて行う必要はなかっただろう。そう考えると、やはり宇宙空間での活動には流石の魔神皇も制限が掛かるという事なのだろうか。

 そして、大地とはいえ、神皇ゾウガが創造した閉鎖疑似空間。その物理法則は完全にゾウガの意識の通りに働く。大地に天体がぶつかる事で、大地が破壊されるかはゾウガのイメージに因る。もし仮にそこまでのイメージを持たずに閉鎖疑似空間を作り出していたなら、それは実世界の法則に準拠する。それが創造主の常識であり無意識のイメージとなってしまうからだ。そして、閉鎖疑似空間の中で矮小天体が崩壊した際に放出されるエネルギーが空間に与える影響は、もはや誰も予想はできない。

 いずれにせよ、そこまでの事後の現象に思いを馳せる間もなく術を放ったのだから、ドイム界元の現魔神皇が、どれだけ頭に血が上っていたかを想像するのに難くない。

 魔神皇グアリザムの両手が振り下ろされた瞬間、大地で迎撃準備をしていたファルガの重ねられた掌底から、光の帯が伸びていく。

 放たれた恒星と、迎え撃つ命の奔流。

 その次の瞬間には、小さな太陽と光の帯が衝突した。だが、小さな太陽のエネルギーも≪八大竜神王≫の氣の威力も弾け飛ぶことなく、競り合う構図が維持され続ける。

 双方のエネルギーが余りに強力であるための拮抗状態が出来上がったのだ。

 だが。

 進行する力は、小さい太陽の方が僅かに強かったようだ。

 ゆっくりと少年神勇者の放つ光の帯を押し込み始める。

 掌底より放射され続ける光の帯の距離が徐々に短くなり始めた。

「ファルガ、右手を貸して!」

 いつの間にかファルガの左横に立つ神賢者レーテ。

 神賢者の錫杖『黄道の軌跡』を背負い、八大竜神王を放つファルガの掌底に、自らの手を絡めた。

 ちょうど、合わせた掌底同士の、右側の掌底がファルガ、左側の掌底がレーテという状態になった。

 次の瞬間、神賢者レーテの掌底からも、≪八大竜神王≫が放たれた。

 その威力はファルガより若干劣るせいか、青白い光の帯が左に曲がり、恒星を押し戻せなくなる。

「ぶっつけ本番で出来る程、≪八大竜神王≫は簡単じゃないぞ! 離れろ!」

 必死の形相を浮かべたファルガの叫び声には、レーテは答えない。

 自分の≪八大竜神王≫が、ファルガの物より劣るなら、自分の出力を上げればいい。

 単純な理屈だ、と、少女は後ほど簡単に言って見せた。全身脂汗を浮かべ、表情には疲弊が色濃く出ていたが。

 少女の左手の掌底から放たれる光の帯の輝きが増し、二人で放たれた二本の≪八大竜神王≫の威力が拮抗する。その瞬間、光の帯が一本の螺旋を描き、小さな太陽を押し返し始めた。

 仮面の割れた兜から覗くグアリザムの表情が驚愕に歪む。

 『≪双頭八大竜神王≫』。

 後の歴史において、この戦闘を知る者の間では、古今類を見なかった二人の術者により放たれたこの術の名称がそのように伝わったとされる。

 その威力は、単純に二人の術者が同時に放った≪八大竜神王≫の威力と同じではなかったようだ。恐らく、威力としては数倍以上に跳ね上がったはずだ。

 だが、光の帯の躍進もそこまでだった。

 更に力を込めたグアリザムによって、より大きさを増した小さな太陽は、再度神勇者と神賢者の方に向き、前進を開始した。

「く……くそっ! 止められない!」

 ≪双頭八大竜神王≫を放つ術者である少年神勇者と神賢者の少女の表情が、明らかに曇った。

 流石に、ファルガもレーテも、これ以上≪八大竜神王≫の威力を上げることはできなかった。そもそも氣功術を攻撃手段として使う事も、ナンセンスだと言えばナンセンスだ。その術を、同じ威力で放つ二人の術者の『氣』のコントロール技術は卓越したものがある。

 だが、どれほど術者の技術が高かろうが、威力には限界はある。

 今回の術の競り合いにおいて、グアリザムの造った太陽相手では、押し込む威力が足りな過ぎた。

 轟音と高熱を周囲にまき散らしながら、青白い光の帯は確実に人造恒星を捉えている。だが、魔神皇の放った小さな太陽は、既に自身の力で核融合を始め、燃え盛っていた。それはつまり、追加でエネルギーを補充する必要もなくなっていたことを意味する。恒星の活動自体は、もう完全にグアリザムの手を離れていた。『巨悪』グアリザムは、おのれの力を恒星の移動のみに力を集中すればよくなっていたという事だ。

 グアリザムの制御下から完全に離れ、前進を開始する小さな太陽。

 その膨大な質量に加え、グアリザムの念動力に因る移動は、もはや神勇者と神賢者の渾身の術でも止めようがなかった。

「どうするの……! このままじゃいずれは……!」

 ≪八大竜神王≫を放ちながら、神賢者レーテはファルガに尋ねる。

 どんな時も土壇場で相手を上回る何かを発揮し、敵の攻撃を退けてきた少年ファルガ=ノン。それは、神勇者になる前の、聖剣の勇者・聖勇者の時からだった。

 聖勇者の時は、危機の度に、当時の使用限界であった聖剣の段階を上げ、敵の攻撃を退けた。ラン=サイディール国王城『薔薇城』の鐘楼堂でのガガロとの戦いでは、第二段階に覚醒し、ガガロの戦意を奪った。そして、神勇者としての候補から洩れた後でも、再襲撃をする神闘者ハンゾとの戦いの中で、女神ザムマーグから氣功術≪八大竜神王≫の使用経験を転送してもらい、神闘者を排除した。そして、後から出現した何人もの神闘者との戦いでは、女神フィアマーグとガガロが解こうとしていた神皇ゾウガの聖剣の封印を遠隔地から弾き飛ばし、超神剣の装備である竜王剣、蒼龍鎧、光龍兜を身に着け、残りの神闘者達を屠った。

 そのファルガなら、この絶体絶命の状況で、何かを起こしてくれる。

 共に戦うレーテは、毎度の奇跡を期待したわけではなかったが、この絶望的な状況において、彼女が心理的に頼れる存在は、もはやファルガしかいなかった。

 ファルガ自身も、この絶望的な状況ではあったが、まだ諦めるつもりはなかった。

 唯一の救いは、ファルガたちの戦場が、仮想疑似空間であること。

 この空間がファルガたちの星のどこかに作られたものであるのか、はたまた神皇ゾウガの城のある空間と同じ場所に作られたものであるのか、それとも全く別の場所なのか。それは今のファルガ達にはわからない。

 だが、ゾウガは確かにこう言った。

「貴方達の星は護られた」

 と。

 少なくとも、ファルガたちの星のどこかにこの閉鎖空間が作られたわけではなさそうだ。

 そこに、解決策があるような気がする。

 ファルガはそう感じた。

 全力で放ち続ける≪八大竜神王≫。その『氣』のコントロールを行いながら、ファルガは観察していた。

 太陽を放ったグアリザムは、文字通り、全ての力を使い果たしているようだ。

 幾ら宇宙の創世者であっても、一つの恒星を作るのには莫大なエネルギーと膨大な時間が必要となる。それを、このサイズとはいえあの短時間で作り出したグアリザムの力は確かに凄まじいが、同時にこの宇宙全てのエネルギーというのはとてつもなく甚大だ。

 ファルガは、グアリザムが太陽の裏に隠れた事に気づいた。≪索≫を放って周囲を確認する余裕などないが、あの速度で動けば、あと十数秒後には、ちょうど≪八大竜神王≫の光の奔流との一直線上に入る。

 このまま≪八大竜神王≫を放ち続けていても、太陽の推進力を抑えきることはできない。

 だが、小さな太陽がグアリザムの力で進行している以上、グアリザムを倒せば、太陽の進行は止まるはず。そうなれば、そのまま押し戻すことも可能になるはず。

 脂汗を浮かべ、凄まじいエネルギーの奔流に耐えながら、ファルガの圧倒的な『氣』の力に合わせるだけの力を絞り出し続けるレーテ。

 やはり、神賢者は『氣功術』よりは『マナ術』に長けているという事なのか。恐らくこれが『マナ術』であったなら、同じ形相で神賢者の術に食らいついていたのはファルガの方であったかもしれない。

「レーテ……!」

 集中している神賢者の少女はファルガの呼びかけに気づかない。

 何度かの呼びかけで、やっと気づくレーテ。だが、正直会話している余裕などない。常時全力疾走をしている状態で会話ができる人間などいるはずがない。

「そのまま聞いてくれ。これからある方法を試す。俺のする通りにしてほしい」

 目をきつく瞑っているレーテが思わず目を開けた。だが、一瞬≪八大竜神王≫の奔流に乱れが出たレーテは、慌てて眼前の太陽に向かって力を吐き出し続けることに集中する。

 ファルガは掌底同士を合わせていたレーテの手を握った。そして、そのまま人差し指のみを突き出す。

 ファルガの意図はわからなかったが、レーテも同様に指を突き出す。二人の指先が重ねられ、ちょうど二人で指鉄砲を打つような姿勢になった。

「収束!」

 ファルガは、全身の『氣』を掌底に集めて放っていた≪八大竜神王≫の術のエネルギーを、重ねた指先に集中した。

 限界まで力を絞り出していたレーテには、些か負荷が過ぎたようだ。少女の『氣』が指先に集中し、光の奔流から閃光の糸に変わった瞬間、レーテは気を失った。

 だが、その一瞬で十分だった。

 気を失ったレーテは、もはや≪八大竜神王≫を放つことはできなくなったが、もはやその必要もなくなった。

 ファルガは確信した。二人の放った術が、太陽の裏側に無気力に漂い続けるグアリザムを直撃し、貫いたであろうことを。そして、その一撃がグアリザムを瀕死の状態にしたであろうことを。その証拠に、先程まで押し込まれていた太陽の動きが止まった。

 二人の収束した≪八大竜神王≫のエネルギーは、限りなく照射面積がゼロに近づけられ、途轍もなく大きい質量エネルギーとなって二人に迫る太陽球の中心を貫通し、グアリザムをも打ち抜いたのだ。

 ファルガも限界まで『氣』を放出していた。そこに術の収束を行なったため、彼自身も集中力は切れかけていた。本当は大地に寝転がりたかったが、足元を見て愕然とした。

 ファルガとレーテの二人は、無意識のうちに浮遊していた。だが、それが幸いした。

 足元の大地は、迫る小さな太陽の熱で溶け、ファルガたちの足元には溶岩と化した海が広がっていた。文字通り、先程まで大地だった場所が、溶解し赤黒い光る液体となり、ファルガたちの足元で渦を巻いていた。

「出来るだけそこから離れるのだ!」

 音声としては届かなかった何者かのメッセージ。

 それは、巨悪と少年たちをこの閉鎖空間に押し込めた、神皇ゾウガの物だった。

 離れる?

 ゾウガの言葉の意味は瞬時には分からなかったが、足元にはマグマ、上空には接近している太陽となれば、良い状況の訳がない。

 ファルガもレーテも、超神剣の装備を身につけ、その加護を受けていなければ、とうに燃え尽き、骨すらも残っていなかっただろう。周囲はそれほどの高温になっていた。

 ファルガは気を失いそうなほどの疲労感の中、レーテを担いだまま出来るだけ速いスピードで、その場所から移動を開始する。

 どうせこの場所にいたところで、下がマグマでは休むこともできない。ファルガは移動し、まだ小さい太陽の熱が影響を及ぼしていない大地を探しながら飛行した。

 そんな中、背後が突然まばゆい光に包まれる。

 『巨悪』グアリザムが作り出した小さな太陽が、膨張を始めたのだ。

 まさか、グアリザムが更に力を籠め、あの太陽を更に巨大にし、こちらに向かって飛ばしなおしたのではないか。

 ファルガの想像は、常識外れながらも、恐ろしいものだった。

 だが、実際には更に絶望的な状態だった。

 巨大化しはじめた太陽は、徐々に白く輝き始め、その熱をどんどん上げていく。

 爆発する……。

 小さな太陽は、異様なほどに白く輝き、本物の太陽よりも小規模ながらもずっと強いエネルギーを持ち続けた。そしてついに、周囲を青白い閃光に包んだ後、跡形もなく消えていった。

 太陽から逃げるように必死に飛行し続けるファルガと、気を失ったレーテ、そして、後世に伝えられる≪双頭八大竜神王・針≫という術によって貫かれ、生死不明となったであろう『巨悪』グアリザムをも飲みこんで。

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